牢獄の王族

夜瑠

文字の大きさ
126 / 136
会遇編

46.

しおりを挟む




あんな生活が羨ましいならいくらでも変わってやったのに。


「お前は母様が俺の薬のために身体を売ったのとは訳が違う!!そもそも男が男に身体を売るなんて卑しい行為をしておいてよくのうのうと生きていられるな!!」

母様──?

興奮しているのか唐突に性行為の話となったがこいつは何が何でも俺を乏しめたいらしい。

反撃してくれているクミネとヒルハの声なんてもう俺の耳には入ってこなかった。ただビルドの俺を貶す声だけを拾っていた。

「お前はいつも守られて幸せそうにして!!俺を、俺たちを見下してんだろ!!」

守られて幸せそうに……?

どうしてこの男は意味のわからないことを言い続けるのか。いつ、俺がこいつの前で幸せそうにしていたのか。

「……………お前こそ幸せじゃないか」

「はぁ!?おま、ふざけ──」

「親からの、家族からの無償の愛を与えられていたくせに俺の幸せを羨むのか?」

「っ~~~!?」

冷ややかな声が自然と出る。今まで激情のまま怒り狂っていたが、今は腹の奥底から湧き上がる怒りが静かに主張していた。

ビクリ、と肩を揺らし途端に勢いを無くしたビルドにもう一度問う。

「親には地下牢に押し込まれ、気が向いた時にきては鞭で打たれ罵倒され、妹には命乞いの瞬間にしか縋られることなく、助けてくれた人達に裏で化け物だと言われ、信じていた人には娼館に売り払われ、体の良い実験動物として毎日身体を切り裂かれ、指を千切られ、セックス依存性になるような人生がお前は羨ましいのか?」

これまでのことを淡々と語ると横で2人が息を呑んだのが分かった。きっと俺の代わりに悲しんでくれているのだろう。

それとは対照的に未だビルドは何かを言い募ろうとして青ざめた顔で口をはくはくと動かしていた。




ずっとずっと家族というものが羨ましかった。街にでて手を繋いで家に帰る親子を見る度心苦しかった。親と手なんて繋いだことない。会話すらしたことが無い。蔑みの瞳で、生ゴミに集るハエを見るかのような瞳で見られた記憶しかない。

こいつは俺を羨むけれど、薬のために己の身を削ってでも子供のことを助けようとする、それほど愛してくれる母親がいてそれ以上の幸せがあろうか。

それでもこいつは口をとめない。


「…だって……だってお前は……!!王族の血が流れててロイ様もずっと探してて光の御子で……!!特別な存在じゃねぇか!恵まれたお前に掃き溜めに暮らす俺らの惨めさが分かんのかよ!」


あまりにも拙い反論に怒りが収まる。こいつはただ俺の存在を否定したいだけらしい。
駄々をこねる子供のように脈絡のないことばかり言っている。こんな奴に同じように怒っているだけ時間の無駄だ。

ため息混じりに大きく息を吐く。


「こっちだって掃き溜め育ちだよ。鎖付きのな。…お前が何かと理由を付けて俺を否定したいのは分かった。ただ話を聞いて納得する気がないのなら俺のいない場所で勝手にやってくれ。邪魔だ。どうせ今後会うことは無いんだからな。」


そう言って、拳を握りしめるビルドから目を離し歩みを進める。1拍置いて2人が着いてくる。アレクシスもそろそろ魔力の流し方も分かった頃だろう。

さっさとこの意味のわからない男から離れるのが一番だ。すぐにでも転移ゲートを使おう。




 
墓に手を当て話している2人に大きく手を振る。2人も振り返しながら手を離しこちらに歩いてきた。

「魔力流せるようになったか?」

「多分な。子爵に補助して貰えばなんとかなりそうだ。」

「まぁ補助と言っても微々たるものだ。そのゲートが正式に動くものなら成功するだろうな」


2人からの色良い返事に思わず笑みがこぼれる。この短時間で修得するのは流石としか言えないだろう。

もう一度景色を眺めて大きく深呼吸する。

処刑場を見つめてなんとなく手を振った。もうそこには誰もいないのに。


気持ちを切り替えるようにパンっ、と手を叩く。ヒリヒリと痛む手のひらすら今はなんだか心地よかった。


やっとこの国から皆ででることができる。

「よし!ならさっさと──」

行こう、という言葉はつづけることができなかった。


「シルヴィア!」


恨めしいほど聞き覚えのある声が嫌な名前を呼ん んだから。










しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...