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会遇編
47. カイルside
しおりを挟む目の前に転がる女の首が数年前、愛しいあいつの家族の首を落とした日の光景と重なって見えた。
けれど見苦しく命乞いしていた奴らと違って女はいつも通り飄々と笑っていた。最期まで彼女は笑みを貼り付けていた。
だからきっと震えていた手は俺の見間違いなのだろう。
言い残すことはないか、と聞いた時女は「このクソみたいな世界からやっと解放される。さようなら第一攻略対象様。悪役令嬢らしく断罪されることにするわ」と最期まで意味のわからないことを言っていた。
そして「攻略対象と隠しキャラが結ばれるエンドはないわ」とも。どれも意味のわからない言葉だったが彼女は最期まで気高い悪人であった。
ヴィーの元へと足早に城に戻るがそこかしこに倒れた騎士たちに嫌な予感がする。
近くにいた騎士を叩き起す。
「おい、何があった。ヴィーは無事なんだろうな。」
「う…ぁ…光の御子様たちが……逃走し……!!」
「っやはり……」
嫌な予感程よくあたる。
……けれどこれで良いのかもしれない。これ以上追いかけてヴィーに出会えたところで彼は俺と共に生きる道を選びはしないだろう。
これはあの日ヴィーを手放したことへの罰なのだ。
1度手放したものがもう一度同じ形で戻るはずがない。
俺はこの先この世で最も愛しい人に憎悪の瞳で射抜かれた記憶のまま死んでいくのだ。それが数多の人を殺してきた、愛する人を傷つけた罰なのだ、と。
彼はもう俺の事を愛するどころか憎んでいるのだから。本名すら名乗らなかった俺が彼に信頼される訳はない。
俺は大きく深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
「…おい、ビルドを呼べ。溜まった書類を片付ける。」
「は、……あ…で、すが…その……」
敬礼し俺の命をうけた騎士は視線を彷徨わせ気まづげな顔をする。
その顔にまたしても嫌な予感がする。
そして先程聞いたビルドとヴィーの過去の邂逅について思い出す。ビルドはヴィーを嫌っているようだった。
…まさかとは思いながらも問いただす。
「…ビルドはどこに行った……?いつもの執務室ではないのか?」
「…筆頭文官様は……その、あのお方達を追うと言って城を出ていきました。……例の矢を手に持って。」
「…ッ!!俺も追いかける。……帰ってきた時のために急ぎで確認しなければならない書類を机に置いておくよう文官に伝えておいてくれ。武官は以前決めた巡回ルートで街を見回ってくれ。」
「は!」
聞き込みをしながら手当り次第街を探すを 。それでも大勢の人で溢れかえった広場ではいくら特徴的な彼らでも探すことは困難だ。
何か…何か手がかりはないのか…!?
頭の中で行きそうな場所、隠れやすそうな場所を巡らせる。
そんな中、ふと先程の光景が目に浮かんだ。
その光景が何故今頭に浮かんだのかわからない。
ただ本能がこれだと訴えている。
彼女が最期に視線を向け、微笑んだのは───
「…東の……山…?」
バッと振り返り山を見る。どれだけ目を凝らそうとも木々の緑しか見えず当然人影なんて目に見えない。
それでも一縷の望みにかけて山へと走った。
必死に足を動かして人波に逆らうように進む。まさか国王がこんな街中にいるとは思わないだろう。誰も俺に見向きもしない。
豪奢な服に身を包んだ日々はとても窮屈だった。ヴィーと過ごしたあの幸せな短い日々がまるで夢物語のようだった。
もっとあの時気をつけていれば。
あの日教会になんて行かせなければ。
そんなたらればが浮かんでは消える。
どれほど走ったのだろう。
もはや誰一人いない山の麓にはたしかに誰かが通った形跡がある。
俺はまた走る。整備されていない森は足場が悪く何度も躓く。その姿がなんとも惨めだった。
中腹あたりで俯いて肩を震わせる奴がいた。
「…ビルドか……?何してる。シルヴィアはどこだ!?」
「へ、陛下!?」
驚いたように顔を上げたビルドの顔には涙の跡があった。泣いていたのだろう。だが今はその理由を聞いている暇はない。
「ここにシルヴィアがいるんだろう!?どこだ!どこにいった!」
「……………」
「おい?聞こえているのか?」
ぼーっとこちらを見つめるビルドは目に生気がなかった。その瞳はどす黒く、全てを諦めたような目だった。
「……皆してあんな化け物ばかり…!!何が同じ掃き溜め育ちだ!全然違う!!俺の周りには誰もいないのに相手の周りには……!!」
「お、い…?何を言ってる?」
激情のままに叫ぶビルドは何を言いたいのか分からなかった。
しかし次の瞬間また彼は瞳から光を消して笑みを浮かべた。
「……あっちですよ…あいつらがいるのは」
「あぁ…ありがとう……」
薄ら寒いものを感じながらも俺ははやくシルヴィアに会いたい一心でビルドの指した方向に走った。
そして見つけた。
愛しい人を。
「シルヴィア!!」
最後にもう一度話をさせて。
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