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第1章
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カーテンの隙間から差し込む朝日で、俺はなんとなく目を覚ました。布団からは出ずに、ちらりと枕元の時計を見る。学校に行くにはまだ早い。ラッキー、まだ寝れる。そう思って再び目を閉じた。いや~二度寝ってサイコーだよな。
だが、トントンとまな板で何か切る音に気付いてまた目を開けた。寝ぼけた頭で考える。あれ? 母さん来てたっけ? でも来るなら父さんも一緒だよな、母さん車運転出来ないし。
そのままぼーっとしていると、眠い頭でも多少は思考が戻ってきた。昨日両親は来ていない。でも、ちらりと横を見ると、俺のベッドの横、フローリングに敷いたカーペットの上に寝た形跡の無い布団がひと組。だ、誰だ?
ひょっとしてもてない俺の為にいよいよ天使とか幼馴染とか、そんなステキ極まりないものが出現してくれたのか? まだ幾分寝ている頭で俺はパラダイスな空想(男の夢を妄想と言わないでくれ)をしながら、上半身を起こした。
その時、キッチンとリビングを仕切る木製の引き戸がすっと静かにすべった。そして、引き戸の向こうから和服に割烹着を着て三角巾を被った、一人の少女が現れた。
透き通るように白い肌と、三角巾で包んでも分かる豊かな、朝日を浴びて輝き白くも見える銀色の髪。そして薄い澄んだブルーの目。まるで、色素が抜け落ちたかのような透明感がある。
彼女は存在そのままのように、音もたてず静かに俺に近付いて来た。足元を見るとご丁寧なことに足袋まで履いている。彼女は俺の前でぴたりと止まって言った。
「コーイチ、朝食が出来ました」
軽やかに鳴る鈴の音のようなその声。うわ、声優さんみたいな声だな! いやあ、間違いなく、ついに俺にも天使が現れたらしいぞ!? まだ夢見心地のまま、俺は彼女をじっと見た。
少女はこの世の物とは思えない整った顔立ちをしている。ただしまったくの無表情だが。ただ、出来ればなんだ。お姉さん萌えな俺としては、もっと年上っぽい天使の方が良かったな~ この天使はどう見ても十歳くらいにしか見えない。しかも割烹着ってなんだ。いや、まあ、可愛いとは思うが、俺としてはありきたりだがメイドの方が良いかな~。
俺がそんなことを考えていると、少女は俺の頬をぐっとつねった。い、痛てぇ! いや、訂正する! ぐっとじゃなくてぐわっという感じでつねられたぞ!?
「目が覚めましたか?」
少女は相変わらず無表情のまま言った。綺麗な顔だけど無表情ってのもどうか? とつい俺は思った。ま、そういうキャラもアリだけど、笑えばもっと可愛いのに。
「さあ、朝食を召し上がって下さい。私はあなたのお役に立ちたいのです。存在意義が欲しいのです」
俺の思考を少女は無視してそう強く宣言すると、俺の襟首をぐいっと掴んで、俺を布団から無理やり引きずり出した。そしてそのままキッチンの方へずるずると引きずっていく。こ、この天使えらく乱暴だな!?
俺は混乱してなされるがまま、キッチンにある小さなテーブルまで引きずられて行き、椅子に放り投げるように座らされる。
テーブルを見ると、ほかほかのご飯・塩ジャケ・納豆・味噌汁に、煮物・お浸し・漬物と、立派すぎる和風の朝食が並んでいた。
「さあ、どうぞ」
少女は相変わらず無表情なまま言った。
俺は呆然としながら、整ってはいるけど、その幼さを残す顔をもう一度まじまじと見る。寝起きから混乱していた俺の頭がようやく活動を正常化させたようだ。ああ、ようやく思い出したよ。昨夜公園で出会った子だ。
俺は昨日の夜、近くのコンビニに買い物に出た。ろくに街灯もない暗い住宅街をぼんやりと歩いていたその時、ちらっと公園を見ると子供が居たんだ。何をするでもなく、ただ、ぽつんとブランコの横に佇む少女が。
背中まである銀色の髪がキラキラと月明かりにきらめき、白い見たことも無いような、宇宙的というか未来的というか、白い布がくるくると体に巻きついたような不思議な形状のドレスを着ていた。その光景があんまり綺麗だったので俺はしばらく見とれていた。
しばらくしてはっと我に返った俺は、迷子かと思って声をかけた。すると少女は、「私は帝国軍宇宙連合艦隊所属、宇宙戦艦セラスチウムの中枢体セラスです。迷子ではありません」と、無表情にのたまった。
電波か? 電波なのか? 子供なのに? こんなに美少女なのに? と俺が戸惑っていると、「・・・でも、私にはここがどこなのか分かりません。マスター代理とも逸れてしまいました・・・」
と、無表情ながらも少ししょんぼりした様子を見せたので、電波な迷子の美少女だと判断して警察に連れて行こうとしたところ、「私を所有する意志があるのですか? でしたら貴方のお役に立ちたいと思います。私は新しい存在意義が欲しいのです!」
などと意味不明なことを言って、結局家まで付いて来てしまったので、とりあえず一晩保護することにしたわけだ。あ、ちなみに交番にも寄ったぞ。不用心なことに交番に誰も居なかったので仕方なくだ。本当だぞ? 決して未成年略取じゃないぞ?
「良くこんな材料あったな」
俺は箸を取りながら、セラスに言った。ちなみに自称宇宙戦艦セラスチウムの中枢体さんは最初俺のことをオーナーとか呼ぶので、意味分からんから好一、セラスと呼び合うことに交渉の上、決めていた。セラスティウムって長いし、なんか呼びづらいだろ?
「冷蔵庫にありました」
セラスは無表情に淡々と言う。
「いつのだ?」
俺は買った記憶がまったく無かったので、不安になってつい呟く。
「腐敗した部分は除去しました。あと、細菌の類は殲滅した上で調理しましたので、摂取して問題はありません」
俺の呟きにセラスが答える。殲滅って・・・」何? どうやって? おそるおそる俺は塩ジャケを口に入れる。あ、美味い。焼き加減とか絶妙な感じ。そのままご飯やら煮物やら食べてみるが、どれも美味い。
「美味い」
俺が褒めると、セラスは、「そうですか。それは良かったです」
と淡々と答えた。
「あれ、お前の分は?」
セラスがじっと俺の食べるのを見ているだけなのに気付いて尋ねると、
「私は宇宙戦艦ですので、食事は必要ありません」
と、セラスは答える。
その設定は継続中なのか? かと言って何も食わんわけにはいかんだろう? 遠慮はいらんのだが・・・」
だが、ちょっと考えてみると、この子は昨夜連れてきてからトイレにも行ってないし、水も何も飲んでない。コンビニで買ってきた夜食やドリンクを渡したけど手を付けなかったな。少なくとも俺の見ている範囲では、ということだけど。
情報を収集すると称して、原始的な電子機器ですねとのたまいながら、何のつもりかパソコンから引き抜いたLANケーブルを握り、テレビをじっと見たまま動かないから、セラスの分の布団を敷いてやって俺は早々に寝てしまったので、その後は分からないのだが。
そういや他にも気になるな。その服はどうしたんだ? 昨夜は白いドレスを着ていたはずで、うちにそんな割烹着なんて無かったぞ?
服について尋ねるとセラスは、
「テレビで見ました。主人に奉公する女中がこんな服を着ていたのです」となぜか自慢げに答えた。
はあ、答えになっていないような・・・まったく分からん。
「他にコーイチの役に立つ服装があるのでしたらそれに変更しますが」
「うん? それならやっぱりメイド服かなぁ」
と俺が本来の質問を忘れてついつい趣味丸出しで答えると、
「それはコーイチが机の中に保管している主に性行為について描かれた冊子の登場人物の服装のことですか? それが良いのでしたらすぐに変更します」
とか言いやがったので、ちょうど啜っていた味噌汁をぐほっと噴き出してしまった。
「な、なんで俺が教科書に混ぜて隠している秘蔵同人誌のこと知ってんだよ!?」
「この家のことはもちろん、この世界の一般的なことは把握しました。私はコーイチの役に立ちたいのでいろいろ調べたのです」
「む、無理に役に立たなくてもいいぞ?」
「無理ではありません。私がそれを望んでいるのです」
「いや、それは役に立つとは関係ないから!」
「役に立つ為にはコーイチの生活全般から趣味嗜好まで把握する必要があります」
「お、俺にもプライバシーってものがあるんだよ?!」
「問題ありません。私は宇宙戦艦です。人間ではありません」
「はぁ?」
「例えば、コーイチの所有する電子機器、パソコンと言いましたか。そのデータの中の、『宿題用資料』と名称設定されたフォルダの中には女性の裸体の画像ファイルが38769個、映像ファイルが372個確認されました」
「ぐはぁ!?」
お、俺がネットで発掘した厳選秘蔵コレクションまでばれてる? 万が一にも誰にもバレないようフォルダ名を偽装して、ロックかけておいたのに!
「そのようなデータをパソコンに保存していても、パソコンに対して恥ずかしいとか、パソコンにプライバシーを侵害されているとは思わないでしょう? 私もパソコンと同じような物です。プログラムで起動する機械です」
意味は良く分からないが、とにかく、お、俺の恥部が、隠しておいたことが、こ、この美少女に全て見られてしまった・・・
「ああ、問題ありません。コーイチのような若い男性がそういった行動をするのはごく当然のことです。気にしないで下さい」
「ぐわぁ!?」
しかも慰められた?! 俺は恥ずかしさのあまり叫んでしまったぞ? もうだめだ、死にたい・・・
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
俺が悶えているその時、玄関のチャイムが何度も鳴った。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
途切れることなくチャイムを鳴らせ続ける、この迷惑なやり口は・・・
「おーい好一君、生きてる~? 大丈夫~? 叫んでたけど、なに~? 何かあった~?」
可愛い声ではあるのだが、やたらでかい音量で外から呼びかけられる。間違いない、俺のアパートの右隣に住んでる同じクラスの春花こころだ。
「どうしたの~? エッチな夢でも見てパンツ汚しちゃった? あはははっ」
ぐほっ、あのセクハラJKめ、でかい声でなんてことを! 左隣のグロースさんに聞かれたらどうすんだ! 今の俺は自主的にコントロールしてる大人なんだからそんな小中学生みたいなことはないっつーの!
「入るよ~」
こころはそう宣言すると、がつんと玄関のドアを蹴り開けた。俺が一人暮らしをしているこのアパートはぼろいので、強い力を掛けると鍵を掛けておいてもドアが開いてしまうのだ。
肩までかかる、光の加減で茶色にも見える黒髪をふわりとなびかせ、こころは我が家に侵入、いや突入して来る。
笑顔が似合う、整ってはいるが可愛い系の顔立ちに、制服のスカートから伸びるすらっとした長い足。ほんとに見た目だけは結構な容姿をお持ちだ。
「おはよ~。お、今日はちゃんと起きてるね。昨日みたいにエッチな顔しながらぐへへへって寝てたら思いっきり踏んであげようと思ってたのにぃ」
・・・もう一人いたよ、俺の所有するはずのプライバシーを完全否定するやつが。
「おおっ?」
こころは、無表情に突然の侵入者である自分を観察していたセラスに気付いて、変な声を上げた。
「うわ、なにこの娘、可愛い!」
そんなことを言ってセラスに突然抱きつく。って最初の反応がそれかよ? セラスはこころの常時ハイテンションに飲まれたのか、抱きつかれた瞬間に子猫のように一瞬びくっとしただけで、後はなすがままだ。
「うわ~ 髪の毛さらさらだ~」
そんなこと言いながら、頭に頬ずりまでしてやがる。
まあ、やましいことはまったく無いが、一人暮らしの俺の家に美少女が突然居ることについてつっこまれるよりは良いか。
それにしてもこころは肝が太いというか、ずうずうしいというか、隣に住むクラスメートとは言え、知りあって間もない俺の部屋に来れるよな・・・まあ、俺としては・・・悪くはない気分なのだけど。
先月、6月なんて中途半端な時期に、こころは俺の通う高校に突然転校して来た。すごい美少女だったので、俺も含めてクラスの男子は騒然としたのだが、なにしろこの性格と言動のせいで、男子連中の幻想とか妄想はすぐに崩壊した。まあ、そのせいかクラスにとけ込むのは早かったけどな。
「お名前は?」
セラスの髪の毛を十分堪能したのか、こころは体をセラスからようやく離して尋ねる。
「宇宙戦艦セラスチウムの中枢体セラスです」
「へぇ~ すごい! 宇宙船なのに人の形になれるんだ~」
信じるのか、その話を。普通に。
「この体は船体の中枢部分です。船体そのものは生成した別空間に停泊させています」
「ふーん、空間のコントロールができるんだ。すごいな~」
乗るな乗るな、その話に。電波が強くなったらどうするんだ。
「で、なんで好一君の所に居るの?」
「昨夜、花咲好一の所有物になったからです」
・・・なんか誤解を招きそうな言い方だな?! 横で聞いてる俺の方がどきっとしたわ!
「そうか~」
なぜかがっかりしたような顔をして、こころは再びセラスの髪に顔を埋めた。
「いいな~。私も宇宙戦艦欲しい~」
「なんでだ」
俺はつい聞いてしまった。
「だって戦うことも、どこかへ逃げることもできるじゃない。皆に迷惑かけないように」
こころはなぜか悲しそうな顔をして、そう呟くように言う。・・・? どういうことだ?
「それはそうと」
ジロリと俺を睨みながらこころは言う。
「所有物ってどういうこと? まさか、へんなことはしてないよね?」
「してねぇよ!」
やっぱりつっこまれましたね。
だが、トントンとまな板で何か切る音に気付いてまた目を開けた。寝ぼけた頭で考える。あれ? 母さん来てたっけ? でも来るなら父さんも一緒だよな、母さん車運転出来ないし。
そのままぼーっとしていると、眠い頭でも多少は思考が戻ってきた。昨日両親は来ていない。でも、ちらりと横を見ると、俺のベッドの横、フローリングに敷いたカーペットの上に寝た形跡の無い布団がひと組。だ、誰だ?
ひょっとしてもてない俺の為にいよいよ天使とか幼馴染とか、そんなステキ極まりないものが出現してくれたのか? まだ幾分寝ている頭で俺はパラダイスな空想(男の夢を妄想と言わないでくれ)をしながら、上半身を起こした。
その時、キッチンとリビングを仕切る木製の引き戸がすっと静かにすべった。そして、引き戸の向こうから和服に割烹着を着て三角巾を被った、一人の少女が現れた。
透き通るように白い肌と、三角巾で包んでも分かる豊かな、朝日を浴びて輝き白くも見える銀色の髪。そして薄い澄んだブルーの目。まるで、色素が抜け落ちたかのような透明感がある。
彼女は存在そのままのように、音もたてず静かに俺に近付いて来た。足元を見るとご丁寧なことに足袋まで履いている。彼女は俺の前でぴたりと止まって言った。
「コーイチ、朝食が出来ました」
軽やかに鳴る鈴の音のようなその声。うわ、声優さんみたいな声だな! いやあ、間違いなく、ついに俺にも天使が現れたらしいぞ!? まだ夢見心地のまま、俺は彼女をじっと見た。
少女はこの世の物とは思えない整った顔立ちをしている。ただしまったくの無表情だが。ただ、出来ればなんだ。お姉さん萌えな俺としては、もっと年上っぽい天使の方が良かったな~ この天使はどう見ても十歳くらいにしか見えない。しかも割烹着ってなんだ。いや、まあ、可愛いとは思うが、俺としてはありきたりだがメイドの方が良いかな~。
俺がそんなことを考えていると、少女は俺の頬をぐっとつねった。い、痛てぇ! いや、訂正する! ぐっとじゃなくてぐわっという感じでつねられたぞ!?
「目が覚めましたか?」
少女は相変わらず無表情のまま言った。綺麗な顔だけど無表情ってのもどうか? とつい俺は思った。ま、そういうキャラもアリだけど、笑えばもっと可愛いのに。
「さあ、朝食を召し上がって下さい。私はあなたのお役に立ちたいのです。存在意義が欲しいのです」
俺の思考を少女は無視してそう強く宣言すると、俺の襟首をぐいっと掴んで、俺を布団から無理やり引きずり出した。そしてそのままキッチンの方へずるずると引きずっていく。こ、この天使えらく乱暴だな!?
俺は混乱してなされるがまま、キッチンにある小さなテーブルまで引きずられて行き、椅子に放り投げるように座らされる。
テーブルを見ると、ほかほかのご飯・塩ジャケ・納豆・味噌汁に、煮物・お浸し・漬物と、立派すぎる和風の朝食が並んでいた。
「さあ、どうぞ」
少女は相変わらず無表情なまま言った。
俺は呆然としながら、整ってはいるけど、その幼さを残す顔をもう一度まじまじと見る。寝起きから混乱していた俺の頭がようやく活動を正常化させたようだ。ああ、ようやく思い出したよ。昨夜公園で出会った子だ。
俺は昨日の夜、近くのコンビニに買い物に出た。ろくに街灯もない暗い住宅街をぼんやりと歩いていたその時、ちらっと公園を見ると子供が居たんだ。何をするでもなく、ただ、ぽつんとブランコの横に佇む少女が。
背中まである銀色の髪がキラキラと月明かりにきらめき、白い見たことも無いような、宇宙的というか未来的というか、白い布がくるくると体に巻きついたような不思議な形状のドレスを着ていた。その光景があんまり綺麗だったので俺はしばらく見とれていた。
しばらくしてはっと我に返った俺は、迷子かと思って声をかけた。すると少女は、「私は帝国軍宇宙連合艦隊所属、宇宙戦艦セラスチウムの中枢体セラスです。迷子ではありません」と、無表情にのたまった。
電波か? 電波なのか? 子供なのに? こんなに美少女なのに? と俺が戸惑っていると、「・・・でも、私にはここがどこなのか分かりません。マスター代理とも逸れてしまいました・・・」
と、無表情ながらも少ししょんぼりした様子を見せたので、電波な迷子の美少女だと判断して警察に連れて行こうとしたところ、「私を所有する意志があるのですか? でしたら貴方のお役に立ちたいと思います。私は新しい存在意義が欲しいのです!」
などと意味不明なことを言って、結局家まで付いて来てしまったので、とりあえず一晩保護することにしたわけだ。あ、ちなみに交番にも寄ったぞ。不用心なことに交番に誰も居なかったので仕方なくだ。本当だぞ? 決して未成年略取じゃないぞ?
「良くこんな材料あったな」
俺は箸を取りながら、セラスに言った。ちなみに自称宇宙戦艦セラスチウムの中枢体さんは最初俺のことをオーナーとか呼ぶので、意味分からんから好一、セラスと呼び合うことに交渉の上、決めていた。セラスティウムって長いし、なんか呼びづらいだろ?
「冷蔵庫にありました」
セラスは無表情に淡々と言う。
「いつのだ?」
俺は買った記憶がまったく無かったので、不安になってつい呟く。
「腐敗した部分は除去しました。あと、細菌の類は殲滅した上で調理しましたので、摂取して問題はありません」
俺の呟きにセラスが答える。殲滅って・・・」何? どうやって? おそるおそる俺は塩ジャケを口に入れる。あ、美味い。焼き加減とか絶妙な感じ。そのままご飯やら煮物やら食べてみるが、どれも美味い。
「美味い」
俺が褒めると、セラスは、「そうですか。それは良かったです」
と淡々と答えた。
「あれ、お前の分は?」
セラスがじっと俺の食べるのを見ているだけなのに気付いて尋ねると、
「私は宇宙戦艦ですので、食事は必要ありません」
と、セラスは答える。
その設定は継続中なのか? かと言って何も食わんわけにはいかんだろう? 遠慮はいらんのだが・・・」
だが、ちょっと考えてみると、この子は昨夜連れてきてからトイレにも行ってないし、水も何も飲んでない。コンビニで買ってきた夜食やドリンクを渡したけど手を付けなかったな。少なくとも俺の見ている範囲では、ということだけど。
情報を収集すると称して、原始的な電子機器ですねとのたまいながら、何のつもりかパソコンから引き抜いたLANケーブルを握り、テレビをじっと見たまま動かないから、セラスの分の布団を敷いてやって俺は早々に寝てしまったので、その後は分からないのだが。
そういや他にも気になるな。その服はどうしたんだ? 昨夜は白いドレスを着ていたはずで、うちにそんな割烹着なんて無かったぞ?
服について尋ねるとセラスは、
「テレビで見ました。主人に奉公する女中がこんな服を着ていたのです」となぜか自慢げに答えた。
はあ、答えになっていないような・・・まったく分からん。
「他にコーイチの役に立つ服装があるのでしたらそれに変更しますが」
「うん? それならやっぱりメイド服かなぁ」
と俺が本来の質問を忘れてついつい趣味丸出しで答えると、
「それはコーイチが机の中に保管している主に性行為について描かれた冊子の登場人物の服装のことですか? それが良いのでしたらすぐに変更します」
とか言いやがったので、ちょうど啜っていた味噌汁をぐほっと噴き出してしまった。
「な、なんで俺が教科書に混ぜて隠している秘蔵同人誌のこと知ってんだよ!?」
「この家のことはもちろん、この世界の一般的なことは把握しました。私はコーイチの役に立ちたいのでいろいろ調べたのです」
「む、無理に役に立たなくてもいいぞ?」
「無理ではありません。私がそれを望んでいるのです」
「いや、それは役に立つとは関係ないから!」
「役に立つ為にはコーイチの生活全般から趣味嗜好まで把握する必要があります」
「お、俺にもプライバシーってものがあるんだよ?!」
「問題ありません。私は宇宙戦艦です。人間ではありません」
「はぁ?」
「例えば、コーイチの所有する電子機器、パソコンと言いましたか。そのデータの中の、『宿題用資料』と名称設定されたフォルダの中には女性の裸体の画像ファイルが38769個、映像ファイルが372個確認されました」
「ぐはぁ!?」
お、俺がネットで発掘した厳選秘蔵コレクションまでばれてる? 万が一にも誰にもバレないようフォルダ名を偽装して、ロックかけておいたのに!
「そのようなデータをパソコンに保存していても、パソコンに対して恥ずかしいとか、パソコンにプライバシーを侵害されているとは思わないでしょう? 私もパソコンと同じような物です。プログラムで起動する機械です」
意味は良く分からないが、とにかく、お、俺の恥部が、隠しておいたことが、こ、この美少女に全て見られてしまった・・・
「ああ、問題ありません。コーイチのような若い男性がそういった行動をするのはごく当然のことです。気にしないで下さい」
「ぐわぁ!?」
しかも慰められた?! 俺は恥ずかしさのあまり叫んでしまったぞ? もうだめだ、死にたい・・・
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
俺が悶えているその時、玄関のチャイムが何度も鳴った。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
途切れることなくチャイムを鳴らせ続ける、この迷惑なやり口は・・・
「おーい好一君、生きてる~? 大丈夫~? 叫んでたけど、なに~? 何かあった~?」
可愛い声ではあるのだが、やたらでかい音量で外から呼びかけられる。間違いない、俺のアパートの右隣に住んでる同じクラスの春花こころだ。
「どうしたの~? エッチな夢でも見てパンツ汚しちゃった? あはははっ」
ぐほっ、あのセクハラJKめ、でかい声でなんてことを! 左隣のグロースさんに聞かれたらどうすんだ! 今の俺は自主的にコントロールしてる大人なんだからそんな小中学生みたいなことはないっつーの!
「入るよ~」
こころはそう宣言すると、がつんと玄関のドアを蹴り開けた。俺が一人暮らしをしているこのアパートはぼろいので、強い力を掛けると鍵を掛けておいてもドアが開いてしまうのだ。
肩までかかる、光の加減で茶色にも見える黒髪をふわりとなびかせ、こころは我が家に侵入、いや突入して来る。
笑顔が似合う、整ってはいるが可愛い系の顔立ちに、制服のスカートから伸びるすらっとした長い足。ほんとに見た目だけは結構な容姿をお持ちだ。
「おはよ~。お、今日はちゃんと起きてるね。昨日みたいにエッチな顔しながらぐへへへって寝てたら思いっきり踏んであげようと思ってたのにぃ」
・・・もう一人いたよ、俺の所有するはずのプライバシーを完全否定するやつが。
「おおっ?」
こころは、無表情に突然の侵入者である自分を観察していたセラスに気付いて、変な声を上げた。
「うわ、なにこの娘、可愛い!」
そんなことを言ってセラスに突然抱きつく。って最初の反応がそれかよ? セラスはこころの常時ハイテンションに飲まれたのか、抱きつかれた瞬間に子猫のように一瞬びくっとしただけで、後はなすがままだ。
「うわ~ 髪の毛さらさらだ~」
そんなこと言いながら、頭に頬ずりまでしてやがる。
まあ、やましいことはまったく無いが、一人暮らしの俺の家に美少女が突然居ることについてつっこまれるよりは良いか。
それにしてもこころは肝が太いというか、ずうずうしいというか、隣に住むクラスメートとは言え、知りあって間もない俺の部屋に来れるよな・・・まあ、俺としては・・・悪くはない気分なのだけど。
先月、6月なんて中途半端な時期に、こころは俺の通う高校に突然転校して来た。すごい美少女だったので、俺も含めてクラスの男子は騒然としたのだが、なにしろこの性格と言動のせいで、男子連中の幻想とか妄想はすぐに崩壊した。まあ、そのせいかクラスにとけ込むのは早かったけどな。
「お名前は?」
セラスの髪の毛を十分堪能したのか、こころは体をセラスからようやく離して尋ねる。
「宇宙戦艦セラスチウムの中枢体セラスです」
「へぇ~ すごい! 宇宙船なのに人の形になれるんだ~」
信じるのか、その話を。普通に。
「この体は船体の中枢部分です。船体そのものは生成した別空間に停泊させています」
「ふーん、空間のコントロールができるんだ。すごいな~」
乗るな乗るな、その話に。電波が強くなったらどうするんだ。
「で、なんで好一君の所に居るの?」
「昨夜、花咲好一の所有物になったからです」
・・・なんか誤解を招きそうな言い方だな?! 横で聞いてる俺の方がどきっとしたわ!
「そうか~」
なぜかがっかりしたような顔をして、こころは再びセラスの髪に顔を埋めた。
「いいな~。私も宇宙戦艦欲しい~」
「なんでだ」
俺はつい聞いてしまった。
「だって戦うことも、どこかへ逃げることもできるじゃない。皆に迷惑かけないように」
こころはなぜか悲しそうな顔をして、そう呟くように言う。・・・? どういうことだ?
「それはそうと」
ジロリと俺を睨みながらこころは言う。
「所有物ってどういうこと? まさか、へんなことはしてないよね?」
「してねぇよ!」
やっぱりつっこまれましたね。
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