ハルカ・カナタの宇宙戦争

morikawa

文字の大きさ
1 / 41

しおりを挟む
 今から百年ほど昔。そして地球から遠く遠く離れた惑星で。

 その男は何も身に纏うことを許されず裸のまま、四本の手と2本の足を金属の杭で打ちつけられ、冷たく輝く白い石の床に磔にされていた。

 白い床には彼の緑色の血液が流れ小さな池を作り、さらにその周囲には油を染み込ませた太い植物の茎が積まれている。

 そこはコロッセオ。未開の惑星から連れてこられた様々な生命体を見世物にし、あるいは戦わせ、あるいは殺す。そんな血なまぐさい狂喜と快楽のステージ。

 今日の舞台の主役は彼だ。反逆者である彼を衆人環視の下、極刑に処す。それが本日の演目。数十万の群衆が詰めかけ、彼が磔にされた石が振動でカタカタと揺れるほどのざわめきを発しながら幕が上がるのを待っている。

 やがて、観衆の一部から上がった歓声が、すぐに伝播しコロッセオ全体を包む。死刑執行人が姿を現したのだ。

 死刑執行人達は床石と同じ、白い布を褐色の肌に巻きつけた古式ゆかしい装束で、巨大な斧と松明を携えている。この惑星、主星リノマから一万光年先までを支配するに至ってもこの儀式は五千年前から変わらないのか、まったくご苦労なことだと彼は思った。

 そんな彼の感傷を無視して、執行人が罪状を読み上げる。言うまでもなくすでに確定していたことで、観衆向けのパフォーマンスだ。

「リノマ帝国子爵モルデウス。汝は帝国貴族そして元帝国艦隊技術総監の身にありながら、属星の原住生物に武器を含む物資を大量に与え、その破壊行動を拡大させた。それを皇国に対する反逆行為と断定する」

 なぜ、不当に自由を奪われた知的生命体の独立運動だと認められないのかと、彼は同胞達を悲しく思った。

 いや、同胞達だけではない。この広い宇宙を自由に渡る技術を持った星の生命体は、それを持たぬ生命体を軽んじる。無視する。その生命体がどんなに高度で奥深い文明や文化、そして優しい心を持っていても、だ。

 あまねく星々を破壊し全てを奪い、同レベルの技術力を持つ星間国家と出会えば終わることのない戦争を繰り広げる。そんな殺戮と戦乱が果てなく続くのがこの銀河の有り様だ。

 それが彼には納得できなかった。我慢できなかった。そして異星の友人達の涙を見過ごすこともできなかった。最後は自分がこうなることが分かっていても。

「よって爵位を剥奪し、六つ裂きの刑に処す!」

 観衆から大歓声が上がる。その声はコロッセオ全体をゴウゴウと鳴動させた。

 六つ裂きの刑。それは6本の手足を切られ、腹を裂かれ、そして生きたまま焼き殺す帝国でもっとも残忍な処刑方法。だが、彼は微笑んでいた。満足して笑っていた。

 そう、始原の波(オリジン・ウェーブ)に同期(チューン)し、未来を見る力を持つ彼は自分がこうなることが分かっていた。

 だから彼は造った。

 彼の持てる全ての技術を使ってこの銀河最高の船を。

 そして彼は知っている。彼が夢を託したその最後の娘が、この認められない世界を、宇宙の有り様を、変革させる英雄とやがて出会うことを。

「やるべきことは全てやった。さあ、友らよ。今から私もそちらへ行こう」

 彼の小さな呟きを合図にして、巨大な斧が振り下ろされる。

 何度も何度も。そして彼の体は炎に包まれる。

 だが、彼の微笑みは最後まで消えることは無かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...