沈黙の代償

くねひと

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#2 須藤に握られている秘密

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 三浦周一……、四十歳の身体はまだみずみずしい張りを見せているが、その艶やかな上半身には黒いカラーロープがきりきりと喰い込んでいた。
 背中に回された両手首にはがっちりと十文字に縄がかかり……、胸には別の縄が幾重にも回り、二の腕と胴の間にもしっかりと結び目が作られている。

 そして後ろ手縛りの縄尻は引き絞られ背中を巡る横縄に連結されていた。
 シンプルではあるが見事な縄の掛かりで、三浦が少々もがこうとも縄目はびくともしない感じであった………。

「須藤、頼む。これからプレイをするなら甘んじて受けよう。でも今日は最終便で帰らせてくれないか?」
 三浦がそう哀訴した瞬間、……須藤は革靴の裏で思い切り三浦の横面を張り上げた。
「痛っ……」
 もんどり打って三浦は床に転がる。

「そんな口のききかたがあるか!」
 須藤の怒声がツインルーム一杯に響き渡った。両手を後ろ手に縛り上げられている為に三浦は仰向けに倒れたまま、起き上がることすらもままならない。

「ほら、いつまで寝っ転がっているんだ」
 須藤に靴で脇腹を小突かれ、三浦はやっとの思いで起き上がるとカーペットの床に再び正座するのであった。
「おい、お詫びの言葉はどうした?」

 三浦の顔が屈辱に歪む。須藤は入社して未だ五年ばかりの二十八歳である。
 自分よりは一回りも年下でありしかも仕事の上では直属の部下なのだ。そんな須藤に今こうして三浦は隷従させられているのだ。

 ご主人様に生意気な口のききかたをして、お詫びもしないのか。
 須藤は更に三浦の屈辱感を煽るかのように靴先を俯く三浦の顎に差し入れると、顔を無理やり引き起こした。その須藤の余りに横暴な振る舞いに、三浦はきっと須藤を睨みつける。

「お、何だ、その目は。俺に楯突く積もりか?」
 須藤は一瞬おじけづいたが、すぐに相手は後ろ手に拘束されており、自分が暴力をふるわれる心配は全くないのだと気を落ち着かせる。そればかりか、
「あの秘密をばらされてもいいのか?」
と三浦の決定的な弱みを突いてくるのだ。
 
 秘密………。その言葉を聞いた途端、三浦の須藤に対する反抗心はすうっと抜け落ちていった。須藤に握られている秘密……。そう、須藤が沈黙を守っていてくれるからこそ、今、三浦はまがりなりにも平和な家庭生活を送ることができるのだ。
 もし、須藤が秘密を明かしたならば、………降格どころか会社をくびになるかもしれないのだった。

「な、……生意気な口をきいて申し訳……ございませんでした…」
 苦い薬を飲み干すような気持ちで、三浦は須藤に対しお詫びの言葉を口にする。
「そうだ。いつも自分の立場を肝に銘じておけよ、シュウ」
 シュウとは三浦の名前周一からとった奴隷としての呼び名である。そして三浦は須藤をご主人様と崇めなければならない立場だった。
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