2 / 21
#2 須藤に握られている秘密
しおりを挟む
三浦周一……、四十歳の身体はまだみずみずしい張りを見せているが、その艶やかな上半身には黒いカラーロープがきりきりと喰い込んでいた。
背中に回された両手首にはがっちりと十文字に縄がかかり……、胸には別の縄が幾重にも回り、二の腕と胴の間にもしっかりと結び目が作られている。
そして後ろ手縛りの縄尻は引き絞られ背中を巡る横縄に連結されていた。
シンプルではあるが見事な縄の掛かりで、三浦が少々もがこうとも縄目はびくともしない感じであった………。
「須藤、頼む。これからプレイをするなら甘んじて受けよう。でも今日は最終便で帰らせてくれないか?」
三浦がそう哀訴した瞬間、……須藤は革靴の裏で思い切り三浦の横面を張り上げた。
「痛っ……」
もんどり打って三浦は床に転がる。
「そんな口のききかたがあるか!」
須藤の怒声がツインルーム一杯に響き渡った。両手を後ろ手に縛り上げられている為に三浦は仰向けに倒れたまま、起き上がることすらもままならない。
「ほら、いつまで寝っ転がっているんだ」
須藤に靴で脇腹を小突かれ、三浦はやっとの思いで起き上がるとカーペットの床に再び正座するのであった。
「おい、お詫びの言葉はどうした?」
三浦の顔が屈辱に歪む。須藤は入社して未だ五年ばかりの二十八歳である。
自分よりは一回りも年下でありしかも仕事の上では直属の部下なのだ。そんな須藤に今こうして三浦は隷従させられているのだ。
ご主人様に生意気な口のききかたをして、お詫びもしないのか。
須藤は更に三浦の屈辱感を煽るかのように靴先を俯く三浦の顎に差し入れると、顔を無理やり引き起こした。その須藤の余りに横暴な振る舞いに、三浦はきっと須藤を睨みつける。
「お、何だ、その目は。俺に楯突く積もりか?」
須藤は一瞬おじけづいたが、すぐに相手は後ろ手に拘束されており、自分が暴力をふるわれる心配は全くないのだと気を落ち着かせる。そればかりか、
「あの秘密をばらされてもいいのか?」
と三浦の決定的な弱みを突いてくるのだ。
秘密………。その言葉を聞いた途端、三浦の須藤に対する反抗心はすうっと抜け落ちていった。須藤に握られている秘密……。そう、須藤が沈黙を守っていてくれるからこそ、今、三浦はまがりなりにも平和な家庭生活を送ることができるのだ。
もし、須藤が秘密を明かしたならば、………降格どころか会社を馘になるかもしれないのだった。
「な、……生意気な口をきいて申し訳……ございませんでした…」
苦い薬を飲み干すような気持ちで、三浦は須藤に対しお詫びの言葉を口にする。
「そうだ。いつも自分の立場を肝に銘じておけよ、シュウ」
シュウとは三浦の名前周一からとった奴隷としての呼び名である。そして三浦は須藤をご主人様と崇めなければならない立場だった。
背中に回された両手首にはがっちりと十文字に縄がかかり……、胸には別の縄が幾重にも回り、二の腕と胴の間にもしっかりと結び目が作られている。
そして後ろ手縛りの縄尻は引き絞られ背中を巡る横縄に連結されていた。
シンプルではあるが見事な縄の掛かりで、三浦が少々もがこうとも縄目はびくともしない感じであった………。
「須藤、頼む。これからプレイをするなら甘んじて受けよう。でも今日は最終便で帰らせてくれないか?」
三浦がそう哀訴した瞬間、……須藤は革靴の裏で思い切り三浦の横面を張り上げた。
「痛っ……」
もんどり打って三浦は床に転がる。
「そんな口のききかたがあるか!」
須藤の怒声がツインルーム一杯に響き渡った。両手を後ろ手に縛り上げられている為に三浦は仰向けに倒れたまま、起き上がることすらもままならない。
「ほら、いつまで寝っ転がっているんだ」
須藤に靴で脇腹を小突かれ、三浦はやっとの思いで起き上がるとカーペットの床に再び正座するのであった。
「おい、お詫びの言葉はどうした?」
三浦の顔が屈辱に歪む。須藤は入社して未だ五年ばかりの二十八歳である。
自分よりは一回りも年下でありしかも仕事の上では直属の部下なのだ。そんな須藤に今こうして三浦は隷従させられているのだ。
ご主人様に生意気な口のききかたをして、お詫びもしないのか。
須藤は更に三浦の屈辱感を煽るかのように靴先を俯く三浦の顎に差し入れると、顔を無理やり引き起こした。その須藤の余りに横暴な振る舞いに、三浦はきっと須藤を睨みつける。
「お、何だ、その目は。俺に楯突く積もりか?」
須藤は一瞬おじけづいたが、すぐに相手は後ろ手に拘束されており、自分が暴力をふるわれる心配は全くないのだと気を落ち着かせる。そればかりか、
「あの秘密をばらされてもいいのか?」
と三浦の決定的な弱みを突いてくるのだ。
秘密………。その言葉を聞いた途端、三浦の須藤に対する反抗心はすうっと抜け落ちていった。須藤に握られている秘密……。そう、須藤が沈黙を守っていてくれるからこそ、今、三浦はまがりなりにも平和な家庭生活を送ることができるのだ。
もし、須藤が秘密を明かしたならば、………降格どころか会社を馘になるかもしれないのだった。
「な、……生意気な口をきいて申し訳……ございませんでした…」
苦い薬を飲み干すような気持ちで、三浦は須藤に対しお詫びの言葉を口にする。
「そうだ。いつも自分の立場を肝に銘じておけよ、シュウ」
シュウとは三浦の名前周一からとった奴隷としての呼び名である。そして三浦は須藤をご主人様と崇めなければならない立場だった。
23
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる