7 / 12
#7 これを全部飲み干したら、部屋に戻るよ
しおりを挟む
リビングに入ると、ジュンは勝手に冷蔵庫を開け、中から缶コーラを取り出した。プルトップの栓を開け、うまそうに一口飲み込む。それまで緊張していたからか、僕の喉も乾いていた。思わずゴクリと喉が鳴った。
「飲む?」
ジュンが僕にコーラの缶を差し出した。
「いや、いいよ…」
僕は何よりも早く部屋に戻りたかった。確かに両親は仕事に出ていて夜まで戻って来ない。姉は家を出ている。でも………、でも、もし何かの事情で………、例えば両親のどちらかが会社で具合が悪くなって早退してくるとか、ひょんなことで姉が家に戻ってくるとか、………それに高校の友達がひょっこり遊びにくるだとか、それらが絶対に起こらないと誰が保証してくれるのだろう?
そう思うと、僕は居ても立っても居られず、旨そうにコーラを飲むジュンを横目に、じりじりとしたあせりさえ感じるのだった。
「コウイチ、お前も飲めよ」
ジュンは食器棚から小ぶりの器を取り出すと床に置き、コーラをそこに注ぎ込んだ。
「い、いいよ。いらないよ。それより早く部屋に戻ろうよ…」
「これを全部飲み干したら、部屋に戻るよ」
そう言うと、ジュンはソファにどっかりと腰を下ろした。その前の床にコーラを入れた器が置いてある。
その器とジュンに、交互に視線を移しながら、僕は当惑した。両手を縛られていては、器を手に取ることはできない。ジュンは僕がペットのように器に口をつけてコーラを飲むことを期待しているのだ。……いや、期待なんかじゃない。強制しているのだ。
しかしコーラを飲み干さなければ部屋に戻らないとジュンが言う以上、僕にはそうする以外の選択肢はなかった。
僕は静かに床の上に両ひざをつき、上体を前に傾けた。そうすると胸に回されたベルトが更に身体を締め付け、少し呼吸が苦しくなる。両手が使えないとバランスを崩して、下手すると器に顔をぶつけてしまいそうだ。
これが犬や猫ならば、前足を使って難なく顔を寄せることができるのに………。ならば、両手を後ろ手に縛られている今の僕は犬や猫以下ではないか。
僕は自分がとてもみじめに思えてきて哀しくなった………。
それでも何とか、器に顔を寄せることができた。そっと舌先をコーラに浸す。こんな姿勢で味わってもコーラはやっぱりコーラの味がして、それも何だか哀しかった。僕はさらに顔を寄せ、唇をすぼめ、そしてコーラをすするように飲み始めた。ズルズルッと音が出る。
ジュンが何か揶揄の言葉を僕に投げかけたような気もした。でも僕はかまわず器を空にすることに専念した………。
「飲む?」
ジュンが僕にコーラの缶を差し出した。
「いや、いいよ…」
僕は何よりも早く部屋に戻りたかった。確かに両親は仕事に出ていて夜まで戻って来ない。姉は家を出ている。でも………、でも、もし何かの事情で………、例えば両親のどちらかが会社で具合が悪くなって早退してくるとか、ひょんなことで姉が家に戻ってくるとか、………それに高校の友達がひょっこり遊びにくるだとか、それらが絶対に起こらないと誰が保証してくれるのだろう?
そう思うと、僕は居ても立っても居られず、旨そうにコーラを飲むジュンを横目に、じりじりとしたあせりさえ感じるのだった。
「コウイチ、お前も飲めよ」
ジュンは食器棚から小ぶりの器を取り出すと床に置き、コーラをそこに注ぎ込んだ。
「い、いいよ。いらないよ。それより早く部屋に戻ろうよ…」
「これを全部飲み干したら、部屋に戻るよ」
そう言うと、ジュンはソファにどっかりと腰を下ろした。その前の床にコーラを入れた器が置いてある。
その器とジュンに、交互に視線を移しながら、僕は当惑した。両手を縛られていては、器を手に取ることはできない。ジュンは僕がペットのように器に口をつけてコーラを飲むことを期待しているのだ。……いや、期待なんかじゃない。強制しているのだ。
しかしコーラを飲み干さなければ部屋に戻らないとジュンが言う以上、僕にはそうする以外の選択肢はなかった。
僕は静かに床の上に両ひざをつき、上体を前に傾けた。そうすると胸に回されたベルトが更に身体を締め付け、少し呼吸が苦しくなる。両手が使えないとバランスを崩して、下手すると器に顔をぶつけてしまいそうだ。
これが犬や猫ならば、前足を使って難なく顔を寄せることができるのに………。ならば、両手を後ろ手に縛られている今の僕は犬や猫以下ではないか。
僕は自分がとてもみじめに思えてきて哀しくなった………。
それでも何とか、器に顔を寄せることができた。そっと舌先をコーラに浸す。こんな姿勢で味わってもコーラはやっぱりコーラの味がして、それも何だか哀しかった。僕はさらに顔を寄せ、唇をすぼめ、そしてコーラをすするように飲み始めた。ズルズルッと音が出る。
ジュンが何か揶揄の言葉を僕に投げかけたような気もした。でも僕はかまわず器を空にすることに専念した………。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる