春休みの過ち

くねひと

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#7 これを全部飲み干したら、部屋に戻るよ

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 リビングに入ると、ジュンは勝手に冷蔵庫を開け、中から缶コーラを取り出した。プルトップの栓を開け、うまそうに一口飲み込む。それまで緊張していたからか、僕の喉も乾いていた。思わずゴクリと喉が鳴った。

「飲む?」
 ジュンが僕にコーラの缶を差し出した。

「いや、いいよ…」
 僕は何よりも早く部屋に戻りたかった。確かに両親は仕事に出ていて夜まで戻って来ない。姉は家を出ている。でも………、でも、もし何かの事情で………、例えば両親のどちらかが会社で具合が悪くなって早退してくるとか、ひょんなことで姉が家に戻ってくるとか、………それに高校の友達がひょっこり遊びにくるだとか、それらが絶対に起こらないと誰が保証してくれるのだろう?

 そう思うと、僕は居ても立っても居られず、旨そうにコーラを飲むジュンを横目に、じりじりとしたあせりさえ感じるのだった。

「コウイチ、お前も飲めよ」
 ジュンは食器棚から小ぶりの器を取り出すと床に置き、コーラをそこに注ぎ込んだ。

「い、いいよ。いらないよ。それより早く部屋に戻ろうよ…」

「これを全部飲み干したら、部屋に戻るよ」

 そう言うと、ジュンはソファにどっかりと腰を下ろした。その前の床にコーラを入れた器が置いてある。
 その器とジュンに、交互に視線を移しながら、僕は当惑した。両手を縛られていては、器を手に取ることはできない。ジュンは僕がペットのように器に口をつけてコーラを飲むことを期待しているのだ。……いや、期待なんかじゃない。強制しているのだ。

 しかしコーラを飲み干さなければ部屋に戻らないとジュンが言う以上、僕にはそうする以外の選択肢はなかった。
 僕は静かに床の上に両ひざをつき、上体を前に傾けた。そうすると胸に回されたベルトが更に身体を締め付け、少し呼吸が苦しくなる。両手が使えないとバランスを崩して、下手すると器に顔をぶつけてしまいそうだ。

 これが犬や猫ならば、前足を使って難なく顔を寄せることができるのに………。ならば、両手を後ろ手に縛られている今の僕は犬や猫以下ではないか。
 僕は自分がとてもみじめに思えてきて哀しくなった………。
 
 それでも何とか、器に顔を寄せることができた。そっと舌先をコーラに浸す。こんな姿勢で味わってもコーラはやっぱりコーラの味がして、それも何だか哀しかった。僕はさらに顔を寄せ、唇をすぼめ、そしてコーラをすするように飲み始めた。ズルズルッと音が出る。
 ジュンが何か揶揄の言葉を僕に投げかけたような気もした。でも僕はかまわず器を空にすることに専念した………。
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