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-第4幕- 〜偏西風に乗る綿毛は頭痛が痛い〜
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私はジェット気流に乗って旅をしています。綿毛ですので風に吹かれやすくなっているのです。どうにか着地して、土に触れなければ発芽することもできないのですがここではいつも晴れなのでなんだかんだ気に入っています。刹那少女は現れる。少女は白いワンピース姿で綿毛の脇を同じ速度で飛行していた。「鳥は卵に中からぬけでようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛ぶ。」少女は言い残すと鳥に姿を変え綿毛を飲み込んだ。
『Attention please.』
ポーン。
『乱気流のため機体が不安定になっています、シートベルトをお締め下さい。』
窓外の翼が大気を切り裂いて上に引かれている。エンジンの高い音が柔い冠毛を震わす。ああ、前に立つ客室乗務員はまだ若い少女だ。彼女は席間を、つかつかとヒールの音と共に歩き、A-22番席のシートに確りと根を張ったタンポポの前で立ち止まったと思えば、顔を近付けて言った。
「Attention please. 銀翼は水素がヘリウムになる勢いに堪え切れる訳も無い。水素と林檎の比率が林檎と地球の比率と同じであるように、鳥と飛行機の比率は屹度飛行機と太陽の比率に等しいだろう。もちろん大きさの話ではないが。 Bird will strike.」
空を落ちる隙も無く、大海原には鉄くずが燃えながら沈没していく所だった。狂乱状態の乗客も皆とっくに燃え上がり、ひゅうひゅうと鳴らす喉の音が炎の気流の音で掻き消される頃に息を引き取る。ガソリンは海に流れたり、気化して耐え難い匂いを振りまいたり、しかし多くは燃えて二酸化炭素、一酸化炭素、そして水になる。
タンポポは錘に引き擂られ、深海へ沈む。
少女はまた鳥になった。
「なぜこんなことになってしまったのだと思う?」
着水した少女は、沈みゆく私に問う。
「イカロスや、変わり種として想定されるのはバベルの塔か、そこら辺を持ち出すのは御免蒙りたいな。陳腐でつまらないし、不敬なんて言葉は嫌いだ」
煌めく水面に、黄色いカモメとワンピース姿の少女が明滅する信号のBPMで映し出される。
「不確定に単為で増殖・伝播するあなたのような存在は、危険すぎるのよ、私にできるのは警句を弄することばかり……」
自身が水圧によって緑色と鮮やかな黄色のダンゴと化していくのがわかる。
「そんなことない、いつも私を殺して消えてしまうのだから」
「……それは――私じゃあ、ないのよ」
少女はやけに悲しそうに呟く。
「どこにだって無頓着に根を張ってしまうのは迷惑だろうけど、次元外からのアプローチは難易度が段違いなんだ。因果律への影響が土壌に――世界自体に及んでしまいがちだから、えり好みできる身分じゃないんだよ」
私がこれほどの水圧を受けているということは、彼女との間にはキロ単位の隔たりがあるはずだが、それを一切感じさせない形でコミュニケーションが行えるのは、私達がより概念的な存在としてこうしているからだ。
「タンポポさん、気付いてた?私は、あなたの居るところにしか居られないのよ」
そう言われて私は、全く関係ないように見えて非常に重要なこと、この海が底なしであることに気付いた。
「私をmetanitroにまで圧縮してしまおうというのか、酷いな」
少女は両手で顔を覆い、しくしく泣き出してしまう。
「私じゃない、私じゃないの、お姉様なのよ――」
私は意外にも誇らしいような、諦めの境地に居た。
「ASHLが完成していたとはね。理論上ではすぐにできるはずだったが、随分時間がかかったようだ……それに、全次元のどこを探しても私以外にASHLの威力を体感した知能存在は現時点では他に居ないだろう、光栄だよ。恐らく今頃はあらゆる私が同時にASHL最初の被験者兼被害者になっているんだろう?」
返答はなかった。
少女はふと、
私を取り巻く「海」の体積を∞乗した。
処理容量はどうなっているのか、とかそういった問いと一緒に、
私は、
つ ぶ れ た 。
『Attention please.』
ポーン。
『乱気流のため機体が不安定になっています、シートベルトをお締め下さい。』
窓外の翼が大気を切り裂いて上に引かれている。エンジンの高い音が柔い冠毛を震わす。ああ、前に立つ客室乗務員はまだ若い少女だ。彼女は席間を、つかつかとヒールの音と共に歩き、A-22番席のシートに確りと根を張ったタンポポの前で立ち止まったと思えば、顔を近付けて言った。
「Attention please. 銀翼は水素がヘリウムになる勢いに堪え切れる訳も無い。水素と林檎の比率が林檎と地球の比率と同じであるように、鳥と飛行機の比率は屹度飛行機と太陽の比率に等しいだろう。もちろん大きさの話ではないが。 Bird will strike.」
空を落ちる隙も無く、大海原には鉄くずが燃えながら沈没していく所だった。狂乱状態の乗客も皆とっくに燃え上がり、ひゅうひゅうと鳴らす喉の音が炎の気流の音で掻き消される頃に息を引き取る。ガソリンは海に流れたり、気化して耐え難い匂いを振りまいたり、しかし多くは燃えて二酸化炭素、一酸化炭素、そして水になる。
タンポポは錘に引き擂られ、深海へ沈む。
少女はまた鳥になった。
「なぜこんなことになってしまったのだと思う?」
着水した少女は、沈みゆく私に問う。
「イカロスや、変わり種として想定されるのはバベルの塔か、そこら辺を持ち出すのは御免蒙りたいな。陳腐でつまらないし、不敬なんて言葉は嫌いだ」
煌めく水面に、黄色いカモメとワンピース姿の少女が明滅する信号のBPMで映し出される。
「不確定に単為で増殖・伝播するあなたのような存在は、危険すぎるのよ、私にできるのは警句を弄することばかり……」
自身が水圧によって緑色と鮮やかな黄色のダンゴと化していくのがわかる。
「そんなことない、いつも私を殺して消えてしまうのだから」
「……それは――私じゃあ、ないのよ」
少女はやけに悲しそうに呟く。
「どこにだって無頓着に根を張ってしまうのは迷惑だろうけど、次元外からのアプローチは難易度が段違いなんだ。因果律への影響が土壌に――世界自体に及んでしまいがちだから、えり好みできる身分じゃないんだよ」
私がこれほどの水圧を受けているということは、彼女との間にはキロ単位の隔たりがあるはずだが、それを一切感じさせない形でコミュニケーションが行えるのは、私達がより概念的な存在としてこうしているからだ。
「タンポポさん、気付いてた?私は、あなたの居るところにしか居られないのよ」
そう言われて私は、全く関係ないように見えて非常に重要なこと、この海が底なしであることに気付いた。
「私をmetanitroにまで圧縮してしまおうというのか、酷いな」
少女は両手で顔を覆い、しくしく泣き出してしまう。
「私じゃない、私じゃないの、お姉様なのよ――」
私は意外にも誇らしいような、諦めの境地に居た。
「ASHLが完成していたとはね。理論上ではすぐにできるはずだったが、随分時間がかかったようだ……それに、全次元のどこを探しても私以外にASHLの威力を体感した知能存在は現時点では他に居ないだろう、光栄だよ。恐らく今頃はあらゆる私が同時にASHL最初の被験者兼被害者になっているんだろう?」
返答はなかった。
少女はふと、
私を取り巻く「海」の体積を∞乗した。
処理容量はどうなっているのか、とかそういった問いと一緒に、
私は、
つ ぶ れ た 。
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