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第3章 【運営案件】レトロゲータッグマッチ選手権!
第16話 え⁉ 私が先輩と公式案件やるんですか⁉(前編)
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世間話やゲーム配信のトレンドを語り合えば気がつけば16時。
まだまだ話したりなかったが19時から配信の予定が入っていた。「名残惜しいが今日はこれくらいで」と、私はゆき先輩にお礼を言うと通話を切ることにした。
「それじゃ、全体スケジュール確認して、ゆきが候補日を送るから」
「やっぱなかったことにできません?」
「できないでしょ。ずんだもやる気だし」
最後に「新居探しの約束」を念押しされる。
いろいろ粘ってみたけれど、結局なかったことにはできなかった。
まぁすぐに話はまとまらないだろう。
いったんこの話は忘れよう。
Discordの通話を落としパソコンをスリープ状態に。
台所に向かうと、配信前の夕食の準備をはじめる。
戸棚からパックごはんを取り出してレンジで温める。
温まったごはんを半分お茶碗に。もう半分をねこ皿に。
冷蔵庫の卵ポケットに丸めてあった使いさしの鰹節パック。少し湿り気を帯びたそれを、ねこ皿のごはんの上にかけた。
電気ケトルに水を注ぎスイッチを入れる。
ねこ皿を手にサンダルを履き玄関を出た。
鍵は閉めない。
所々錆びた階段を下りて1階へ。
アパートとコンクリートブロックの塀の間にある砂場に目をやると、今日もねこが数匹遊んでいる。ぶちねこ、キジトラ、白黒。よく遊びに来るねこたちだ。
私の姿を見つけるや3匹はひょいと物陰に隠れる。
逃げるねこを追っても怖がらせるだけ。何も言わずに手に持ったねこ皿を置くと、私はさっさときびすを返した。
(……引っ越しちゃったら、この子たちとも会えなくなるのか)
暗い気分で部屋へと戻れば、電気ケトルがちょうどお湯を沸かし終えていた。
ちりめんごはんとインスタントのお味噌汁。
簡単な夕ご飯を終えて私は配信の準備に入る。
Twitterに日々投稿される自分が描かれたイラストから、作者に許可をもらったものを動画のサムネイルへと加工する。
YouTubeにサムネイルと配信概要を登録すると、すぐにそのURLを交えた告知をTwitterに投下した。
瞬く間に私のツイートがファンたちによって拡散されていく。
今日の配信はうみが数日前に実況した「Papers,Please」だ。
戦争を終えたばかりの架空の国家で入国審査審査官となり、不法入国しようとする不審者を、パスポートや入国許可書の不備を突いて逮捕する。いわゆる作業ゲーだ。
そう聞くとつまらなさそうだが、これがなかなか巧妙な偽装がされていて面白い。
うみの動画を見る限り、私でもそこそこの数字が出せそうだ。
告知をすると私は次の配信準備に。
配信に必要になりそうなもの――ウェットティッシュやメモなどを確認する。それから、髪が跳ねて余計な動きをしないよう、ヘアゴムで後ろ髪を縛った。
トイレも済ませておくのを忘れずに。
最後に発声練習。
私はヘッドセットを頭に取りつける。
「あ、あ、あ、あ。あめんぼあかいなあいうえお。かきのきくりのきかきくけこ」
ボイストレーナーさんから教えてもらった文言を朗々と読み上げる。
同時にOBSでマイク入力のボリュームもチェック。それが済んだら、アバターがちゃんとFaceRigと連動して動いているかを確認――。
「やべ、もう配信時間だ。急がなくちゃ」
などなど、あっという間に配信時刻の19時に。
サムネイルから待機用の動画へと映像を切り替え、別枠で開いたYouTubeで自分のチャンネルが配信できていることを確認する。
ようやく全てが整った。
深呼吸をして――私は「川崎ばにら」を演じはじめた。
「こんバニこんバニ! DStars3期生の川崎ばにらバニ!」
配信は今日も楽しく、賑やかに、そして少しの波乱を含んで終った。
2時間に及ぶゲーム配信からの1時間弱のスパチャ読み。
締めの挨拶を終えると、時刻は22時を回っていた。
マイクと配信を切ったのをちゃんと確認して座卓の前から立ち上がる。
台所に移動して蛇口をひねると浴びるように水を飲んだ。
コップ3杯。
手ぬぐいで口元を拭うとふらふらと外に出る。
階段を下りてアパート横の庭を覗けば、ねこまんまは綺麗になくなっていた。
ねこの毛が載ったねこ皿を持って私は部屋に戻る。
それと同時に「今日も無事に終わった」という実感が湧いてきた。
身体を拭いて今日はおやすみ。明日、行けたら朝一で銭湯に行こう。
私はジップロックに濡れたタオルを入れると電子レンジで温めた。
タオルが温まるのを待ちながら座卓横のスプリングベッドに腰掛ける。
すると――不意にスマホに着信が入った。
マネージャーからだ。
「ばにらさん、配信おつかれさまでした」
「あ、どうも。おつかれさまでした」
「それと先日の社長との面談も」
「あ、はい。急に『百合営業』だなんて言われて、びっくりしました」
「実は、今日ご連絡したのはその件についてなんですが」
どういうことだろう?
ずんだ先輩はきっぱりと「百合営業」をしないと社長に言った。
昨日「しなくていいようにする」と私に約束もしてくれた。
だから、もう「百合営業」はない方向で考えていたのに――。
タオルを入れたレンジが「チン!」と音を鳴らす。
そんな中、マネージャーから今度はメールが送られてきた。「確認してくれますか?」と言うので、すぐにスマホの画面を切り変えると――。
「DStarsゲームチーム&3期生レトロゲー合戦?」
「実は、社長が先日のおふたりの併走配信を見まして。コンセプトが面白いので『ぜひ公式番組でやろう』と言い出したんです」
まだまだ話したりなかったが19時から配信の予定が入っていた。「名残惜しいが今日はこれくらいで」と、私はゆき先輩にお礼を言うと通話を切ることにした。
「それじゃ、全体スケジュール確認して、ゆきが候補日を送るから」
「やっぱなかったことにできません?」
「できないでしょ。ずんだもやる気だし」
最後に「新居探しの約束」を念押しされる。
いろいろ粘ってみたけれど、結局なかったことにはできなかった。
まぁすぐに話はまとまらないだろう。
いったんこの話は忘れよう。
Discordの通話を落としパソコンをスリープ状態に。
台所に向かうと、配信前の夕食の準備をはじめる。
戸棚からパックごはんを取り出してレンジで温める。
温まったごはんを半分お茶碗に。もう半分をねこ皿に。
冷蔵庫の卵ポケットに丸めてあった使いさしの鰹節パック。少し湿り気を帯びたそれを、ねこ皿のごはんの上にかけた。
電気ケトルに水を注ぎスイッチを入れる。
ねこ皿を手にサンダルを履き玄関を出た。
鍵は閉めない。
所々錆びた階段を下りて1階へ。
アパートとコンクリートブロックの塀の間にある砂場に目をやると、今日もねこが数匹遊んでいる。ぶちねこ、キジトラ、白黒。よく遊びに来るねこたちだ。
私の姿を見つけるや3匹はひょいと物陰に隠れる。
逃げるねこを追っても怖がらせるだけ。何も言わずに手に持ったねこ皿を置くと、私はさっさときびすを返した。
(……引っ越しちゃったら、この子たちとも会えなくなるのか)
暗い気分で部屋へと戻れば、電気ケトルがちょうどお湯を沸かし終えていた。
ちりめんごはんとインスタントのお味噌汁。
簡単な夕ご飯を終えて私は配信の準備に入る。
Twitterに日々投稿される自分が描かれたイラストから、作者に許可をもらったものを動画のサムネイルへと加工する。
YouTubeにサムネイルと配信概要を登録すると、すぐにそのURLを交えた告知をTwitterに投下した。
瞬く間に私のツイートがファンたちによって拡散されていく。
今日の配信はうみが数日前に実況した「Papers,Please」だ。
戦争を終えたばかりの架空の国家で入国審査審査官となり、不法入国しようとする不審者を、パスポートや入国許可書の不備を突いて逮捕する。いわゆる作業ゲーだ。
そう聞くとつまらなさそうだが、これがなかなか巧妙な偽装がされていて面白い。
うみの動画を見る限り、私でもそこそこの数字が出せそうだ。
告知をすると私は次の配信準備に。
配信に必要になりそうなもの――ウェットティッシュやメモなどを確認する。それから、髪が跳ねて余計な動きをしないよう、ヘアゴムで後ろ髪を縛った。
トイレも済ませておくのを忘れずに。
最後に発声練習。
私はヘッドセットを頭に取りつける。
「あ、あ、あ、あ。あめんぼあかいなあいうえお。かきのきくりのきかきくけこ」
ボイストレーナーさんから教えてもらった文言を朗々と読み上げる。
同時にOBSでマイク入力のボリュームもチェック。それが済んだら、アバターがちゃんとFaceRigと連動して動いているかを確認――。
「やべ、もう配信時間だ。急がなくちゃ」
などなど、あっという間に配信時刻の19時に。
サムネイルから待機用の動画へと映像を切り替え、別枠で開いたYouTubeで自分のチャンネルが配信できていることを確認する。
ようやく全てが整った。
深呼吸をして――私は「川崎ばにら」を演じはじめた。
「こんバニこんバニ! DStars3期生の川崎ばにらバニ!」
配信は今日も楽しく、賑やかに、そして少しの波乱を含んで終った。
2時間に及ぶゲーム配信からの1時間弱のスパチャ読み。
締めの挨拶を終えると、時刻は22時を回っていた。
マイクと配信を切ったのをちゃんと確認して座卓の前から立ち上がる。
台所に移動して蛇口をひねると浴びるように水を飲んだ。
コップ3杯。
手ぬぐいで口元を拭うとふらふらと外に出る。
階段を下りてアパート横の庭を覗けば、ねこまんまは綺麗になくなっていた。
ねこの毛が載ったねこ皿を持って私は部屋に戻る。
それと同時に「今日も無事に終わった」という実感が湧いてきた。
身体を拭いて今日はおやすみ。明日、行けたら朝一で銭湯に行こう。
私はジップロックに濡れたタオルを入れると電子レンジで温めた。
タオルが温まるのを待ちながら座卓横のスプリングベッドに腰掛ける。
すると――不意にスマホに着信が入った。
マネージャーからだ。
「ばにらさん、配信おつかれさまでした」
「あ、どうも。おつかれさまでした」
「それと先日の社長との面談も」
「あ、はい。急に『百合営業』だなんて言われて、びっくりしました」
「実は、今日ご連絡したのはその件についてなんですが」
どういうことだろう?
ずんだ先輩はきっぱりと「百合営業」をしないと社長に言った。
昨日「しなくていいようにする」と私に約束もしてくれた。
だから、もう「百合営業」はない方向で考えていたのに――。
タオルを入れたレンジが「チン!」と音を鳴らす。
そんな中、マネージャーから今度はメールが送られてきた。「確認してくれますか?」と言うので、すぐにスマホの画面を切り変えると――。
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