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第3章 【運営案件】レトロゲータッグマッチ選手権!
第19話 第一回DStarsレトロゲータッグマッチ選手権(後編)
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一試合目の「ドンキーコング」は、結局ずんだ先輩に譲った。
というのも「仮にもレトロゲーマーのずんだ先輩にまかせて、ハイスコアを目指した方がいいのでは?」という結論に至ったからだ。
結果は――奮闘虚しく3位。
「樽をかわしてジャンプ! 樽をかわしてジャンプ! はい、ハンマー取った! オラオラどけどけーっ! ジャック・ハンマーのお通りじゃーい!」
「ジャック・ハンマーそんなこと言ってねえ!」
1位は赤チームのうみ。
持ち前のゲームセンスをフルに発揮し、彼女は見事に最終ステージをクリアした。
他の選手が誰も最終ステージのドンキーを倒せない中の大金星だった。
2位は青チームのすず先輩。
「これ、どうやってドンキー倒すの? ハンマーなんか?」
「すずちゃん! 炎が迫ってるよ!」
「おわっ! ホンマやんけ! お前、くんな炎! さては貴方、ストーカーね!」
「小ボケはいいから! 集中してもろて!」
私たちと同じ作戦ですず先輩を先に出した青チーム。
ただ、ゲームの手番が最初なのがよくなかった。
最終面に到達したはいいが、ドンキーコングの倒し方が分からず、いろいろ試行錯誤しているうちに詰んでしまった。
うみがプレイしたあとだったら、結果は変わっていたかもしれない。
3位のずんだ先輩はといえば――。
「え、ちょっと待って? 落下死あるん? スペランカーじゃん?」
「スペランカーとか言うな。ドンキーコングやこれは」
床が上下する二面でうっかり落下死。
ゲームオーバーとなってしまった。
さて。
さっきからちょいちょいツッコミを入れている人物。
なにを隠そうこの人こそ、ドンキーコングで4位に収まった人。
緑チームのあひる先輩。
「ひゃあっ! ひゃぁあっ! ひゃああああっ!」
「あひる先輩! 落ち着いて!」
「樽が、樽を飛ぶだけで、何もできない! 一歩も初期位置から進めない!」
「あひる先輩、上から炎が!」
「炎を避ける、樽をジャンプして避ける、階段を上る――ダメだ! こんな複雑なマルチタスク、あひるにはできない! 脳が壊れる!」
「あひるセンパーイ!!!!」
しのぎの熱烈な応援も虚しく、あひる先輩は一歩もスタート地点から移動できずにゲームオーバーになった。
運動神経がいいからアクションゲームとか強そう。
そんな風に思っていた時期が、私たちにもありました。
はじまってみれば、VTuberになるまで一度もゲームに触ったことがない快活少女は、なんの見せ場もなくあっさり退場した。
むしろ逆においしかった。
「誰バニか、こんな適性のない人材を代役に選んだ奴は」
「ばにら! あひる泣いちゃうぞ!」
「あひるちゃん、ナイスジャンプだでな」
「ナイスジャンプじゃないんじゃ! ジャンプしかしてないんじゃ!」
かくして1回戦「ドンキーコング」は幕を閉じた。
1位3点、2位2点、3位と4位が1点ずつポイントを加算し次のゲームへ。
「次のゲームは『つっぱり大相撲』です! 各チーム総当たりで勝ち星で順位を決めます! さきほど『ドンキーコング』をプレイした選手と入れ替わってください!」
2回戦は出場選手を選ぶことなく強制エントリー。
ぽめら先輩、しのぎ、えるふ、私で「つっぱり大相撲」をすることになった。
アクションゲームの「ドンキーコング」と違い「つっぱり大相撲」は格闘ゲーム。
ただし、使えるコマンドは少なく、さらにコマンドを覚えている時間もないため、ほぼレバガチャという運がものをいう勝負となった。
となると――。
「はぁ~い! 拙者の勝ち~い!」
「しのぎ! お前、これやったことあるバニだろ! レバガチャしてねーんだよ!」
「どうしたのかなばにらっちょ? 負け兎も遠吠えするのかな?」
3戦3勝。
圧倒的な強さで緑チームのしのぎが「つっぱり大相撲」で優勝した。
「優勝太郎!」
誇るようにそのたわわな胸を叩くしのぎ。
3期生で一番のダイナマイトボディ。
女がうらやむ恵体は相撲も強かった。
さて、2位につけたのは――。
「よっしゃーっ! 現役ファミコン世代を舐めるなぁ!」
脅威の連打で押し出しを仕掛けた赤チームのぽめら先輩だった。
現役ファミコン世代ということでコントローラーの扱い方が勝敗を分けた。
しっかりとコントローラーを机に固定しAボタンを連打。脅威の高速つっぱりで私たちを土俵から突き出した。
年の功。いや、経験の勝利だった。
というわけで。
必然的に私とえるふのどちらかが4位なのだが――。
「やったー! すずちゃん、私、勝ったよ! ばにらには勝った!」
「よく頑張ったよ、えるふちゃん! 生駒は感動したよ!」
3位を勝ち取ったのはえるふ。
勝因は「一人だけしっかり説明書を読み込んでいた」こと。
どうせレバガチャ勢いで戦うしかない。
そう思っていた私は、彼女の掴み技に為す術もなく破れた。
まさか最後の最後でそんなの使うとは思わないですやん。
というか、一人だけスマホで説明書を読んでいたとか卑怯だ。
そんな文句をえるふにぶつけたい所だったけれど、すず先輩と「きゃっきゃうふふ」と楽しそうに勝利を祝う姿に私は口を噤んだ。
敗者が何を言っても虚しいだけ――。
「ばにらちゃん。何を負けてんだでな」
「いや、その(スゥ……)」
なによりもその時の私は、目の前の対戦相手より、後方腕組みレトロゲー指示厨先輩の視線の方が怖くて仕方なかった。
「なにストレートで負けとんのよ。1個も良い所なかったじゃない」
「……す、すみません、バニ」
「こんなゲーム、ぽめぽめみたいに連打してたら勝てるやろ! 気合いが足りひんのよ気合いが! そんなんでゲームに勝てると思ってんの!」
「けどこれは、相性が悪かったというか。最後のはえるふが卑怯というか」
「……あん?」
「すみませんバニ、気合い入れてやりますバニ。ほんとすみません」
不甲斐ない試合を見せた私に静かにブチ切れるずんだ先輩。
本当はやさしい先輩なんだばにらは知っているんだ――なんて思いが粉みじんに爆発して吹っ飛ぶブチギレを、生配信でかまされたのだった。
これで、少しくらいは「百合営業」を望む声が減ったんじゃないかな。
ここまでバチギスったら人気も落ちるでしょ。
と、ここでずんだ先輩がマイクをミュートにする。
後方腕組みの姿勢を崩した彼女は、肩を落としてため息を吐き出す。「しょうがないわね」という感じのやさしい苦笑いに、私の心はようやく救われた。
私もイヤホンセットのマイクを切る。
「まぁ、やっちゃったのは仕方ない。次のゲームで取り返しましょう」
「はい! 次は絶対負けません!」
「気負いすぎ。もっと肩の力を抜きなさい」
背中に回って私の肩にそっと手を置くずんだ先輩。
その細い指先で彼女は私の強ばった肩をもみほぐした。
不甲斐ないながらも、最後まで健闘した私を慰めるように。
もっとも、彼女が試合中にかけた「圧」のせいで肩に力が入ったのだが――。
「ずんだ先輩、そんなマイク切ってばにらとてぇてぇしないでくださいよ。そういうのは配信に乗せてやってください」
謎のツッコミを入れてくるうみ。
「ばにらっちょってば、すっかりずんだ先輩に甘えちゃって。もう私たちには甘えてくれないんだね?」
なぜかくやしそうな顔をするしのぎ。
「あれ? ばにらってば、いつの間にずんだ先輩と仲良くなったの?」
一人だけ普通の質問を投げかけるえるふ。
同期たちの言葉に、私はずんだ先輩を見上げる。
ぱちくりとした彼女の瞳と目が合うと、ぼっと頬に熱が籠もった。
そして私たちは――。
「「ち、違うのよ! これはたまたま! たまたまなの!」」
声を揃えて同じ言いわけをするのだった。
まったく、説得力などなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ここに四組の百合が生まれましたね。(にっこり)
他のチームの「百合」も気になるという方は、どうか評価お願いいたします。m(__)m
カクヨムにて先行公開中です。
https://kakuyomu.jp/works/16817330649719403871
というのも「仮にもレトロゲーマーのずんだ先輩にまかせて、ハイスコアを目指した方がいいのでは?」という結論に至ったからだ。
結果は――奮闘虚しく3位。
「樽をかわしてジャンプ! 樽をかわしてジャンプ! はい、ハンマー取った! オラオラどけどけーっ! ジャック・ハンマーのお通りじゃーい!」
「ジャック・ハンマーそんなこと言ってねえ!」
1位は赤チームのうみ。
持ち前のゲームセンスをフルに発揮し、彼女は見事に最終ステージをクリアした。
他の選手が誰も最終ステージのドンキーを倒せない中の大金星だった。
2位は青チームのすず先輩。
「これ、どうやってドンキー倒すの? ハンマーなんか?」
「すずちゃん! 炎が迫ってるよ!」
「おわっ! ホンマやんけ! お前、くんな炎! さては貴方、ストーカーね!」
「小ボケはいいから! 集中してもろて!」
私たちと同じ作戦ですず先輩を先に出した青チーム。
ただ、ゲームの手番が最初なのがよくなかった。
最終面に到達したはいいが、ドンキーコングの倒し方が分からず、いろいろ試行錯誤しているうちに詰んでしまった。
うみがプレイしたあとだったら、結果は変わっていたかもしれない。
3位のずんだ先輩はといえば――。
「え、ちょっと待って? 落下死あるん? スペランカーじゃん?」
「スペランカーとか言うな。ドンキーコングやこれは」
床が上下する二面でうっかり落下死。
ゲームオーバーとなってしまった。
さて。
さっきからちょいちょいツッコミを入れている人物。
なにを隠そうこの人こそ、ドンキーコングで4位に収まった人。
緑チームのあひる先輩。
「ひゃあっ! ひゃぁあっ! ひゃああああっ!」
「あひる先輩! 落ち着いて!」
「樽が、樽を飛ぶだけで、何もできない! 一歩も初期位置から進めない!」
「あひる先輩、上から炎が!」
「炎を避ける、樽をジャンプして避ける、階段を上る――ダメだ! こんな複雑なマルチタスク、あひるにはできない! 脳が壊れる!」
「あひるセンパーイ!!!!」
しのぎの熱烈な応援も虚しく、あひる先輩は一歩もスタート地点から移動できずにゲームオーバーになった。
運動神経がいいからアクションゲームとか強そう。
そんな風に思っていた時期が、私たちにもありました。
はじまってみれば、VTuberになるまで一度もゲームに触ったことがない快活少女は、なんの見せ場もなくあっさり退場した。
むしろ逆においしかった。
「誰バニか、こんな適性のない人材を代役に選んだ奴は」
「ばにら! あひる泣いちゃうぞ!」
「あひるちゃん、ナイスジャンプだでな」
「ナイスジャンプじゃないんじゃ! ジャンプしかしてないんじゃ!」
かくして1回戦「ドンキーコング」は幕を閉じた。
1位3点、2位2点、3位と4位が1点ずつポイントを加算し次のゲームへ。
「次のゲームは『つっぱり大相撲』です! 各チーム総当たりで勝ち星で順位を決めます! さきほど『ドンキーコング』をプレイした選手と入れ替わってください!」
2回戦は出場選手を選ぶことなく強制エントリー。
ぽめら先輩、しのぎ、えるふ、私で「つっぱり大相撲」をすることになった。
アクションゲームの「ドンキーコング」と違い「つっぱり大相撲」は格闘ゲーム。
ただし、使えるコマンドは少なく、さらにコマンドを覚えている時間もないため、ほぼレバガチャという運がものをいう勝負となった。
となると――。
「はぁ~い! 拙者の勝ち~い!」
「しのぎ! お前、これやったことあるバニだろ! レバガチャしてねーんだよ!」
「どうしたのかなばにらっちょ? 負け兎も遠吠えするのかな?」
3戦3勝。
圧倒的な強さで緑チームのしのぎが「つっぱり大相撲」で優勝した。
「優勝太郎!」
誇るようにそのたわわな胸を叩くしのぎ。
3期生で一番のダイナマイトボディ。
女がうらやむ恵体は相撲も強かった。
さて、2位につけたのは――。
「よっしゃーっ! 現役ファミコン世代を舐めるなぁ!」
脅威の連打で押し出しを仕掛けた赤チームのぽめら先輩だった。
現役ファミコン世代ということでコントローラーの扱い方が勝敗を分けた。
しっかりとコントローラーを机に固定しAボタンを連打。脅威の高速つっぱりで私たちを土俵から突き出した。
年の功。いや、経験の勝利だった。
というわけで。
必然的に私とえるふのどちらかが4位なのだが――。
「やったー! すずちゃん、私、勝ったよ! ばにらには勝った!」
「よく頑張ったよ、えるふちゃん! 生駒は感動したよ!」
3位を勝ち取ったのはえるふ。
勝因は「一人だけしっかり説明書を読み込んでいた」こと。
どうせレバガチャ勢いで戦うしかない。
そう思っていた私は、彼女の掴み技に為す術もなく破れた。
まさか最後の最後でそんなの使うとは思わないですやん。
というか、一人だけスマホで説明書を読んでいたとか卑怯だ。
そんな文句をえるふにぶつけたい所だったけれど、すず先輩と「きゃっきゃうふふ」と楽しそうに勝利を祝う姿に私は口を噤んだ。
敗者が何を言っても虚しいだけ――。
「ばにらちゃん。何を負けてんだでな」
「いや、その(スゥ……)」
なによりもその時の私は、目の前の対戦相手より、後方腕組みレトロゲー指示厨先輩の視線の方が怖くて仕方なかった。
「なにストレートで負けとんのよ。1個も良い所なかったじゃない」
「……す、すみません、バニ」
「こんなゲーム、ぽめぽめみたいに連打してたら勝てるやろ! 気合いが足りひんのよ気合いが! そんなんでゲームに勝てると思ってんの!」
「けどこれは、相性が悪かったというか。最後のはえるふが卑怯というか」
「……あん?」
「すみませんバニ、気合い入れてやりますバニ。ほんとすみません」
不甲斐ない試合を見せた私に静かにブチ切れるずんだ先輩。
本当はやさしい先輩なんだばにらは知っているんだ――なんて思いが粉みじんに爆発して吹っ飛ぶブチギレを、生配信でかまされたのだった。
これで、少しくらいは「百合営業」を望む声が減ったんじゃないかな。
ここまでバチギスったら人気も落ちるでしょ。
と、ここでずんだ先輩がマイクをミュートにする。
後方腕組みの姿勢を崩した彼女は、肩を落としてため息を吐き出す。「しょうがないわね」という感じのやさしい苦笑いに、私の心はようやく救われた。
私もイヤホンセットのマイクを切る。
「まぁ、やっちゃったのは仕方ない。次のゲームで取り返しましょう」
「はい! 次は絶対負けません!」
「気負いすぎ。もっと肩の力を抜きなさい」
背中に回って私の肩にそっと手を置くずんだ先輩。
その細い指先で彼女は私の強ばった肩をもみほぐした。
不甲斐ないながらも、最後まで健闘した私を慰めるように。
もっとも、彼女が試合中にかけた「圧」のせいで肩に力が入ったのだが――。
「ずんだ先輩、そんなマイク切ってばにらとてぇてぇしないでくださいよ。そういうのは配信に乗せてやってください」
謎のツッコミを入れてくるうみ。
「ばにらっちょってば、すっかりずんだ先輩に甘えちゃって。もう私たちには甘えてくれないんだね?」
なぜかくやしそうな顔をするしのぎ。
「あれ? ばにらってば、いつの間にずんだ先輩と仲良くなったの?」
一人だけ普通の質問を投げかけるえるふ。
同期たちの言葉に、私はずんだ先輩を見上げる。
ぱちくりとした彼女の瞳と目が合うと、ぼっと頬に熱が籠もった。
そして私たちは――。
「「ち、違うのよ! これはたまたま! たまたまなの!」」
声を揃えて同じ言いわけをするのだった。
まったく、説得力などなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ここに四組の百合が生まれましたね。(にっこり)
他のチームの「百合」も気になるという方は、どうか評価お願いいたします。m(__)m
カクヨムにて先行公開中です。
https://kakuyomu.jp/works/16817330649719403871
応援ありがとうございます!
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