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エピローグ
第38話 私たちの百合は「ビジネス」です(前編)
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私と先輩の「百合営業」を巡る物語はこうして幕を閉じた。
金盾失敗からはじまった怒濤の日々を終えて、私たちは日常へと戻った。
ほんのちょっぴりお互いについての理解を深めて。
そして、少しだけVTuberとして成長して――。
と、かっこよく締められればよかったのだけれど。
世の中そんなに甘くないんすわ。
私らVTuberだけど雇われなんですわ。
「ずんださん、ばにらさん! 商品の販促コラボの話がきております!」
「「またぁ⁉」」
事務所に顔を出した私たちにBちゃんが嬉々として案件の話を振ってくる。
今度来たのは誰でも知ってる有名お菓子メーカーのキャンペーン案件。
期間限定パッケージで、私と先輩を起用したいんだとか。
デザインは全部で3種類。
それぞれ単独のパッケージと、ふたりが手を繋いでいる百合パッケージ。
もう一人、誰かメンバーを加えて3種類のパッケージとはならんのか。
ならんのやろうなぁ……。(あきらめ)
「ずんばに人気は止まりませんね! おふたりのチャンネル登録者数もうなぎ登り! 次はずんださんの金盾配信でコラボですか! 公式企画でもやりましょうか!」
完全にうかれきってる事務員VTuberのBちゃん。
そしておそらく、彼女以上に現状を喜んでいるであろう社長。
会社からの思惑で「百合営業」を強いられる日々はまだまだ続く。
まぁ、お泊まり晩酌配信したらね。
そういう仲だと思われても仕方ありません。
仲良くなかったらお互いの家に泊まりに行ったりしませんって。
実質的な「百合営業」をしちゃったのは私たちだ。
徹底してお互いを避けていれば、会社もリスナーも納得するだろうけれど――これだけ濃密なコラボと逸話を作ってしまっては逃げられない。
自分たちがまいた種と割り切って、私たちは現状を受け入れることにした。
まぁ、度がすぎた案件には流石に、「いいかげんにしろ、社長!」と先輩が社長室に怒鳴り込むのだが。
とまぁ、そんな逃れようのない運命と会社への鬱憤をはらすため、今日もまた私と先輩は晩酌を共にする――。
「やってられるかぁっ! この世の男は皆クソだぁ! ○ね、○んじまえ!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ!」
「だいたいね、百合営業なんていうビジネスモデルがどうかしてるのよ! 女の子の関係性で売る? だったらもっと多人数でやりなさいよ! 一対一の一点張りで、外したらどうするのよ! もっと大きなグループで売った方が安パイでしょうが!」
「あぁ、分かります。私たちも3期生ってくくりで人気が出てますし」
「そう! それが言いたいの! うちもゲームチームからすずOUTであひるINした、ZAPAとかが人気が出てるし! そういうグループを何個持てるかがこれからのVTuberには大事なんじゃないの?」
「まぁ、うみみたいに、個人コラボと人脈でやってくタイプもいますけど」
「そう! うみ! うみはずるいのよ! アイツのコミュ力なんなの! 化け物かよ! 気がついたら一大派閥ができあがってんじゃねーか!」
大荒れに大荒れの先輩。
さっきからハイボールを飲む手が止まらない。
結構な年数の山崎が雑に炭酸水で割られて彼女の胃に収まっていく。
そんな姿も絵になるんだから、ほんと美人って卑怯よね。
ここまで荒んでいるのには理由がある。
前々から話していたYouTubeと地上波のダブル配信企画、レトロゲー紹介番組の詳細が決定したからだ。そして、なんとその初期メンバーに――。
「なんであひるとうみと今度入る予定の4期生なのよ! おかしいでしょ! 私らふたりで話が進んでるって話は、いったいどうなったの!」
「なんだったんでしょうね、あの社長のお話って」
私たちと関係ないメンバーが選ばれたのだ。
本日、事務所に呼び出された私たちは、「すみません。君たちふたりでって話だったんですが、先方の都合で変わってしまいまして。あひるくんと、うみくん、今度入る予定の4期生でやることになりました。申し訳ない」と、いきなり言われたのだ。
まったくもって意味不明の謎人事。
そもそも、私たちのレトロゲー企画がきっかけではじまった話ではなかったのか。
企業所属のVTuberはこれだから怖いよ。
そして、流石に「百合営業」が嫌な私たちもその変節ぶりにカチンときたわけだ。
先輩の家で飲んでいるのはそういう理由です。
飲まずにやってられるかこんなの。
VTuberはつらいよ。
「あーもう、やってられるかーっ!」
空になった中ジョッキをテーブルに叩きつける先輩。
「どうどうどう、落ち着いてください、美月さん」
「もうやだーっ! こんな理不尽なら企業勢VTuber辞めるー!」
「個人勢に戻ったら、今のメンバーとコラボしづらくなりますよ?」
「それもいやぁ! りんごやすずやぽめらたちと、コラボできなくなるのやだぁ! 花楓! 私、どうしたらいいの!」
荒んだ先輩の背中に回り込み私は背中をさする。
見上げた瞳には大粒の涙。ぼろぼろと頬からこぼれ落ちていく。
実は先輩ってば泣き上戸。激しく酔うと泣き虫になるというのを知ったのはあの晩酌配信の夜のことだ。
なんだかんだ言いつつレトロゲー番組やりたかったんだな。
私は先輩の背中を「よしよし」と撫でた。
「なんでアンタはこんな不義理されて平然としてられるのよ! うみに番組とられてくやしくないの花楓!」
「まぁ、社会人ですから」
「なによう! 大人ぶっちゃって! まるで私が子供みたいじゃない!」
「実際、拗ねてる美月さんはかわいいですよ?」
「こらーっ! 先輩をからかうな!」
青葉ずんだ――もとい湯崎美月は、今日も私に甘えるように怒る。
そんな先輩を、川崎ばにら――もとい小嶋花楓は半笑いでなだめた。
私にからかわれたのがよっぽどくやしいのだろう。
ぐすんと鼻を啜ると空になったハイボールを美月さんが揺らす。
手酌しようとする彼女から中ジョッキを取り上げ「ほら、今日はこの辺にしておきましょうよ」と、私は晩酌を切り上げようとした。
ぷぅと美月さんが頬を膨らませる。
そんな顔をされても困る。
「なによう、花楓ったら。いいじゃない、金曜の夜くらいパーッと飲んだって」
「ダーメーです。明日も配信あるでしょ。美月さんも私も、お昼に枠を取ってたじゃないですか。起きられなくて穴開けちゃったら大変ですよ」
「むぅ、この配信の鬼め」
「鬼です。私は、配信をするためならなんだってしますよ。そう、たとえば――尊敬する先輩を強制的に眠りの世界に誘うことだって」
「ちょっ! ジョッキ握りしめながら変なこと言うな! 怖いよ!」
「ふふふっ、冗談です!」
参ったとテーブルに突っ伏す美月さん。
彼女をその場に残すとグラスと酒瓶を手にキッチンに向かう。
もうすっかり勝手知ったる第二の我が家。
酒瓶をシルバーラックの定位置に戻し、シンクで中ジョッキとワイングラスをスポンジで洗う。水切り台の上に洗ったそれを置くと、ダイニングから響くゾンビのようなうめき声を聞きながら、レモンを三角コーナーに捨てた。
ずいぶん飲んだな。
そんなに社長の話がショックだったのだろうか。
(……私も、ちょっと残念だな)
小さくため息を吐く。
すると、顔をテーブルに突っ伏したまま、美月さんが私に手を振った。
「……ごめん、水持ってきて。できればミネラルウォーター」
「もー、本当に世話の焼ける先輩なんですから」
冷蔵庫の前へと移動して扉を開く。
大きさの割にカクテル用のドリンクしか入っていない冷蔵庫。
もっと効率よく使えばいいのに――なんて、思いながらミネラルウォーターを探すと、一番上の棚に見慣れないものがあった。
紙製の白い化粧箱。
銀色のシールには有名菓子店の名前。
水色の油性マーカーで書かれた「Happy Birthday Kaede」。
おかしいな――。
「美月さん。私、誕生日って教えてましたっけ?」
「さぁ、どうだったかしら。酔った勢いで聞いたような。誰かから聞いたような」
「うみだな。アイツ、ペラペラと個人情報を勝手に」
「あら? 私の前世を嗅ぎ回ってた兎さんが、よくそんなことが言えるわね?」
それを言われると私はもうなにも言えない。
酔ったフリをやめた美月さんが顔を上げる。
その艶やかな髪を振りまいた彼女は、テーブルに肘をのせ頬杖をつくと、匂い立つような甘い声を私に向かって放った。
「ふたりだけで、お誕生日配信しよっか、花楓?」
「メンバー限定配信より豪華な配信ですね」
私は美月さんとケーキを食べて、それからまたふたりで飲み直した。
今度はもう起き上がれなくなるまで徹底的に飲んだ。
交換したソルティドッグは、やっぱり私には大人の味だった。
美月さんが舐めたミモザの方が、しっくりと私の舌に馴染んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
先行連載しているカクヨムにて本日最終話更新しております。
もし続きが今すぐ気になる……という方は、よろしくお願いします。m(__)m
https://kakuyomu.jp/works/16817330649719403871
金盾失敗からはじまった怒濤の日々を終えて、私たちは日常へと戻った。
ほんのちょっぴりお互いについての理解を深めて。
そして、少しだけVTuberとして成長して――。
と、かっこよく締められればよかったのだけれど。
世の中そんなに甘くないんすわ。
私らVTuberだけど雇われなんですわ。
「ずんださん、ばにらさん! 商品の販促コラボの話がきております!」
「「またぁ⁉」」
事務所に顔を出した私たちにBちゃんが嬉々として案件の話を振ってくる。
今度来たのは誰でも知ってる有名お菓子メーカーのキャンペーン案件。
期間限定パッケージで、私と先輩を起用したいんだとか。
デザインは全部で3種類。
それぞれ単独のパッケージと、ふたりが手を繋いでいる百合パッケージ。
もう一人、誰かメンバーを加えて3種類のパッケージとはならんのか。
ならんのやろうなぁ……。(あきらめ)
「ずんばに人気は止まりませんね! おふたりのチャンネル登録者数もうなぎ登り! 次はずんださんの金盾配信でコラボですか! 公式企画でもやりましょうか!」
完全にうかれきってる事務員VTuberのBちゃん。
そしておそらく、彼女以上に現状を喜んでいるであろう社長。
会社からの思惑で「百合営業」を強いられる日々はまだまだ続く。
まぁ、お泊まり晩酌配信したらね。
そういう仲だと思われても仕方ありません。
仲良くなかったらお互いの家に泊まりに行ったりしませんって。
実質的な「百合営業」をしちゃったのは私たちだ。
徹底してお互いを避けていれば、会社もリスナーも納得するだろうけれど――これだけ濃密なコラボと逸話を作ってしまっては逃げられない。
自分たちがまいた種と割り切って、私たちは現状を受け入れることにした。
まぁ、度がすぎた案件には流石に、「いいかげんにしろ、社長!」と先輩が社長室に怒鳴り込むのだが。
とまぁ、そんな逃れようのない運命と会社への鬱憤をはらすため、今日もまた私と先輩は晩酌を共にする――。
「やってられるかぁっ! この世の男は皆クソだぁ! ○ね、○んじまえ!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ!」
「だいたいね、百合営業なんていうビジネスモデルがどうかしてるのよ! 女の子の関係性で売る? だったらもっと多人数でやりなさいよ! 一対一の一点張りで、外したらどうするのよ! もっと大きなグループで売った方が安パイでしょうが!」
「あぁ、分かります。私たちも3期生ってくくりで人気が出てますし」
「そう! それが言いたいの! うちもゲームチームからすずOUTであひるINした、ZAPAとかが人気が出てるし! そういうグループを何個持てるかがこれからのVTuberには大事なんじゃないの?」
「まぁ、うみみたいに、個人コラボと人脈でやってくタイプもいますけど」
「そう! うみ! うみはずるいのよ! アイツのコミュ力なんなの! 化け物かよ! 気がついたら一大派閥ができあがってんじゃねーか!」
大荒れに大荒れの先輩。
さっきからハイボールを飲む手が止まらない。
結構な年数の山崎が雑に炭酸水で割られて彼女の胃に収まっていく。
そんな姿も絵になるんだから、ほんと美人って卑怯よね。
ここまで荒んでいるのには理由がある。
前々から話していたYouTubeと地上波のダブル配信企画、レトロゲー紹介番組の詳細が決定したからだ。そして、なんとその初期メンバーに――。
「なんであひるとうみと今度入る予定の4期生なのよ! おかしいでしょ! 私らふたりで話が進んでるって話は、いったいどうなったの!」
「なんだったんでしょうね、あの社長のお話って」
私たちと関係ないメンバーが選ばれたのだ。
本日、事務所に呼び出された私たちは、「すみません。君たちふたりでって話だったんですが、先方の都合で変わってしまいまして。あひるくんと、うみくん、今度入る予定の4期生でやることになりました。申し訳ない」と、いきなり言われたのだ。
まったくもって意味不明の謎人事。
そもそも、私たちのレトロゲー企画がきっかけではじまった話ではなかったのか。
企業所属のVTuberはこれだから怖いよ。
そして、流石に「百合営業」が嫌な私たちもその変節ぶりにカチンときたわけだ。
先輩の家で飲んでいるのはそういう理由です。
飲まずにやってられるかこんなの。
VTuberはつらいよ。
「あーもう、やってられるかーっ!」
空になった中ジョッキをテーブルに叩きつける先輩。
「どうどうどう、落ち着いてください、美月さん」
「もうやだーっ! こんな理不尽なら企業勢VTuber辞めるー!」
「個人勢に戻ったら、今のメンバーとコラボしづらくなりますよ?」
「それもいやぁ! りんごやすずやぽめらたちと、コラボできなくなるのやだぁ! 花楓! 私、どうしたらいいの!」
荒んだ先輩の背中に回り込み私は背中をさする。
見上げた瞳には大粒の涙。ぼろぼろと頬からこぼれ落ちていく。
実は先輩ってば泣き上戸。激しく酔うと泣き虫になるというのを知ったのはあの晩酌配信の夜のことだ。
なんだかんだ言いつつレトロゲー番組やりたかったんだな。
私は先輩の背中を「よしよし」と撫でた。
「なんでアンタはこんな不義理されて平然としてられるのよ! うみに番組とられてくやしくないの花楓!」
「まぁ、社会人ですから」
「なによう! 大人ぶっちゃって! まるで私が子供みたいじゃない!」
「実際、拗ねてる美月さんはかわいいですよ?」
「こらーっ! 先輩をからかうな!」
青葉ずんだ――もとい湯崎美月は、今日も私に甘えるように怒る。
そんな先輩を、川崎ばにら――もとい小嶋花楓は半笑いでなだめた。
私にからかわれたのがよっぽどくやしいのだろう。
ぐすんと鼻を啜ると空になったハイボールを美月さんが揺らす。
手酌しようとする彼女から中ジョッキを取り上げ「ほら、今日はこの辺にしておきましょうよ」と、私は晩酌を切り上げようとした。
ぷぅと美月さんが頬を膨らませる。
そんな顔をされても困る。
「なによう、花楓ったら。いいじゃない、金曜の夜くらいパーッと飲んだって」
「ダーメーです。明日も配信あるでしょ。美月さんも私も、お昼に枠を取ってたじゃないですか。起きられなくて穴開けちゃったら大変ですよ」
「むぅ、この配信の鬼め」
「鬼です。私は、配信をするためならなんだってしますよ。そう、たとえば――尊敬する先輩を強制的に眠りの世界に誘うことだって」
「ちょっ! ジョッキ握りしめながら変なこと言うな! 怖いよ!」
「ふふふっ、冗談です!」
参ったとテーブルに突っ伏す美月さん。
彼女をその場に残すとグラスと酒瓶を手にキッチンに向かう。
もうすっかり勝手知ったる第二の我が家。
酒瓶をシルバーラックの定位置に戻し、シンクで中ジョッキとワイングラスをスポンジで洗う。水切り台の上に洗ったそれを置くと、ダイニングから響くゾンビのようなうめき声を聞きながら、レモンを三角コーナーに捨てた。
ずいぶん飲んだな。
そんなに社長の話がショックだったのだろうか。
(……私も、ちょっと残念だな)
小さくため息を吐く。
すると、顔をテーブルに突っ伏したまま、美月さんが私に手を振った。
「……ごめん、水持ってきて。できればミネラルウォーター」
「もー、本当に世話の焼ける先輩なんですから」
冷蔵庫の前へと移動して扉を開く。
大きさの割にカクテル用のドリンクしか入っていない冷蔵庫。
もっと効率よく使えばいいのに――なんて、思いながらミネラルウォーターを探すと、一番上の棚に見慣れないものがあった。
紙製の白い化粧箱。
銀色のシールには有名菓子店の名前。
水色の油性マーカーで書かれた「Happy Birthday Kaede」。
おかしいな――。
「美月さん。私、誕生日って教えてましたっけ?」
「さぁ、どうだったかしら。酔った勢いで聞いたような。誰かから聞いたような」
「うみだな。アイツ、ペラペラと個人情報を勝手に」
「あら? 私の前世を嗅ぎ回ってた兎さんが、よくそんなことが言えるわね?」
それを言われると私はもうなにも言えない。
酔ったフリをやめた美月さんが顔を上げる。
その艶やかな髪を振りまいた彼女は、テーブルに肘をのせ頬杖をつくと、匂い立つような甘い声を私に向かって放った。
「ふたりだけで、お誕生日配信しよっか、花楓?」
「メンバー限定配信より豪華な配信ですね」
私は美月さんとケーキを食べて、それからまたふたりで飲み直した。
今度はもう起き上がれなくなるまで徹底的に飲んだ。
交換したソルティドッグは、やっぱり私には大人の味だった。
美月さんが舐めたミモザの方が、しっくりと私の舌に馴染んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
先行連載しているカクヨムにて本日最終話更新しております。
もし続きが今すぐ気になる……という方は、よろしくお願いします。m(__)m
https://kakuyomu.jp/works/16817330649719403871
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