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第8章 IDから愛をこめて

第53話 DStarsマイクラサーバー稼働開始!(前編)

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 りんご先輩にはめられた私たちは、釈明に奔走することになった。

 まずはお互いのリスナー。
 配信で浮上した「なぜ、青葉ずんだの配信環境に、川崎ばにらのFaceRigのデータが入っているのか?」については、「近々オフコラボを予定しており、その準備のためにセッティングしてあった」ということにした。

 別に「オフコラボを美月さんの家で行っていた」と、ばらしてもよかった。
 ただ、芋ずる式に「配信を忘れ、彼女の家で急遽収録した」などの、やらかしエピソードも暴露しそうで――私は嘘を重ねることにした。
 あと、百合営業の火種を増やしたくなかった。

 こうしてVTuberは、嘘でがんじがらめになっていくんだな。(白目)

 続いてうみとりんご先輩。

 もう隠しても仕方ない。
 私と美月さんは、ここ最近の配信外でのつきあいを洗いざらい白状した。

 実は配信外でも頻繁にやりとりしていること。
 週一(多い時の回数は伏せた)で宅呑みしていること。
 お風呂に入ったことがあるのはもちろん、お泊まりしたこともあること。
 最近は美月さんの家に実家のような安心感を抱いていること。

「やっぱりねぇ! ずんさんのPCを覗いた時に、ばにらちゃんのFaceRigのデータ見つけて、そうなんじゃないかなぁ~って思ってたんだ!」

「やっぱり確信犯だったんじゃないですか、りんご先輩!」

 りんご先輩はたいして驚いた様子もなく、私たちの告白を受け入れた。
 ここまで大がかりな悪戯をしかけたのだ、自分のいない間に美月さんと仲良くなった私に、嫉妬をぶつけてくるかと思ったが――不気味なくらい大人しかった。

 私たちの間を引っかき回せただけで満足なのかもしれない。
 ほんと性格の悪い先輩――!

「ばにら! 営業って言ってたやないか! せやのに――ずんだ先輩と寝たんか!」

「言い方ァ! 普通にお泊まりさせていただいただけバニ!」

「ベッドは一つ! 布団も一つ! 枕は二つなんやろ!」

「ちゃんと床で寝てるバニ! 一緒のベッドで寝たりなんかしないバニよ!」

「え、じゃあ――お風呂で?」

「バカタレ! エロ雑談モードに入るんじゃねえ! 普通にお酒飲んで、お部屋で寝させてもらっているだけ! そういうことは何もしておりません! ばにーらとずんだ先輩はいたって健全な呑み友達です!」

「けど、黙ってたんでしょ? 絶対……えっちな秘密がまだある奴じゃん!」

「ねぇから!」

「女同士、ほろよい、深夜。何も起きないはずがなく……(ハァハァハァ)」

「やめろやめろこるぁッ!!!!(ブチギレ)」

 逆に、うみを納得させるほうが厄介だった。
 恋愛脳というか乙女脳というか、いい歳して頭がまっピンクのうみ。
 彼女は私たちの関係に「何か」を見出したらしく――興奮していた。

 どれだけ私たちが言葉を砕いて説明しても、「実は○○なんでしょ!」「はい嘘松! 委員長は騙されませんから!」「もっと素直になれよ、ばにらァ……」「こんなにも、委員長はばにらのことを想っているのに……裏切ったな! 委員長の気持ちを裏切ったな!」と迷言を連発し、最終的に美月さんがブチギレることになった。


「それでもうみは信じません!!!! ずんばにてぇてぇ!!!!」

「もう好きにしてくれ……」


 とまぁ、そんな波乱を呼んだ『初代スマブラ対決コラボ』から数日後。
 気まずさをひきずりながらも、私とうみは再びコラボをすることになった。

「DStarsマインクラフト! 三期生建築コラボだぁ!」

「「「「わぁ~~~~!!!!」」」」

 長らく運営が調整していたDStars公式マイクラサーバー。
 それがついに稼働したのだ。

 マイクラはいわゆるサンドボックスゲー。
 自動生成で広がる世界で、ダンジョンを攻略したり、釣りや農業をしたり、村人と取引をしたり、お宝を探したりする非常に自由度の高いゲームだ。また、正方形のブロックを積み上げることで様々な建築が行える。

 ようは「やろうと思えばなんでもできる」が売りのゲーム。
 さらに多人数でプレイすることができるので配信にうってつけ。
 特に私たちのようにグループでサーバーを共同開拓していくのは、YouTubeでは人気のコンテンツだ。

 これに伴い、多くのDStarsメンバーがマイクラ配信を開始。
 空前のマイクラブームが事務所に巻き起こった。

 そんな中、三期生は――マイクラ初配信に『同期コラボ』で挑むことにした。

 音頭を取ったのはしのぎとえるふ。
 特にしのぎが「マイクラコラボやろう太郎!」とみんなに働きかけた。
 企画自体も「三期生合同ハウスを作ろう!」という悪くないもの。
 マイクラ内での活動拠点が欲しかった私としても、願ったり叶ったりだった。

 かくして、20時。
 私たちはそれぞれに枠をとって配信を開始した。

「今日はなにをするんですか――しのしの(えるふが使うしのぎの愛称)!」

「あい! 今日はマイクラ内で三期生が使う活動拠点――『三期生ハウス』を作っていこうと思います!」

「合同ハウス! ここで委員長たち、一緒に暮らすんだね……ハァハァ♥」

「おい、一人ヤベー奴がいるバニ! 隔離した方がいいんじゃねえ!」

「うみのために犬小屋作ろっか!」

「それはそれで! うさぎちゃん、委員長はきみが求めるならイヌにだって……!」

「時間帯を考えろバニ! よい子もまだ起きてるぞ!」

 軽妙な雑談と共にはじまったマイクラ配信は、事前にえるふがしっかり段取りをしてくれたおかげで、まずまず順調に進んだ。

 えるふが仮押さえした丘を整地し。
 手分けして建築に必要な材料を収集し。
 設計図を元に『合同ハウス』を建築し。
 ついでに鉄装備一式を揃える。

 演者としてもやり甲斐があり、視聴者としても見応えのあるコラボ配信は延長に延長を重ね――日付をまたいだ辺りでお開きとなった。

「それじゃ、今日の配信はここまで! みんなおつサムライ!」

「えるふのおかげでもう『合同ハウス』ができちゃった! それじゃ皆さん、これからの委員長のマイクラライフに期待しててくださいね! 今日はそろそろ遅いので、夢の世界に向かってぇ~~~~出航ぉ~~~~!!!!」

「今日はうさぎのチャンネル見てくれてありがとう! 高評価、チャンネル登録待ってるよ! それじゃおつうさ~!」

 しのぎ、うみ、うさぎが配信の枠を閉じる。
 そんな中、私とえるふの二人だけ「もう少し作業したい」とサーバーに残った。
 資材をいろいろ収集したはいいが、無造作に集めすぎて、チェスト(アイテムの収納ボックス)がぐちゃぐちゃだったのだ。

 A型激怒というほどではないが、今後を考えると整理するべきだろう。
 ということで地味で映えないチェスト整理配信。裏でやった方がいいだろうなと思いつつ配信は止めなかった。

 マイクラができるのが嬉しかったからだ。

 ずっとずっとやりたかった。
 ようやくこれで配信できる。

 えるふも同じ気持ちだったらしく、チェスト整理が終わると――。

「ばにらさぁ、今度よかったらネザー探検にいかない?」

「いいバニね! けど、鉄装備じゃキツくないバニ?」

「じゃあ、まず先にブランチマイニング配信するか。すずちゃんが昨日やってた、直下堀ダイヤRTAにチャレンジしてみる?」

「なにそれwww」

 などと、珍しくコラボを打診してきた。

 そうそう。
 こういう配信がしたかったんですよ。

 マイクラサーバーで鉢合わせたメンバーと突発コラボしたり。
 急に「あれやってみようよ!」と思いもよらない流れになったり。
 そういうハプニングを私はマイクラに求めているのだ。

 もちろん、今日みたいにやることを決めての配信もいい。
 けれど、その日その時その場に居合わせたメンバーでなにかすること以上に、視聴者がワクワクすることはないと思う。

 これぞ配信の醍醐味。
 そして、マイクラの強みだ。

 その日の配信は本当に充実したものだった。
 りんご先輩の悪戯で荒んだ心が、癒やされるほどに楽しい時間だった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 一悶着はあったけれど、なんとかうまく周りを納得させたばにら。
 とはいえ、うみの中に渦巻く疑念はまだ大きく、そして、ばにらの中の「美月とりんごの関係」への決着もついていない。全て棚上げしたまま、マイクラブームがはじまってしまったが――本当にこのままでいいのか?

 いいや「よくない! けしからん! もっと百合百合しろ!」という方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m
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