VTuberなんだけど百合営業することになった。

kattern@GCN文庫5/20新刊

文字の大きさ
53 / 79
第7章 だっだっだ うぉおぉ 大乱闘! スマッシュDスターズ

第52話 曝かれたのは……?(後編)

しおりを挟む
「ところで、気になっていたんだけれど? この紅茶、ちょっと味が違わない?」

「……へ?」

 私たちがやらかした『無自覚イチャコラ』を、うみと一緒に糾弾していたりんご先輩が、ふと脈絡のないことを言い出す。

 これは助け船だろうか。
 気まずい空気をリセットするためのアシストだろうか。
 よく分からないけれどここは乗っておこう。

「この紅茶はばにーらが淹れましたから。昼間の紅茶はずんだ先輩が淹れましたし。やっぱり腕の違いが……」

「いやいや、アッサムとアールグレイくらいに味が違うよぉ~?」

 そんなバカな。
 何をどうしたら茶葉レベルで味が変わるんだ。

 いや、変わるわ。
 淹れるお茶を変えたら、味が変わるのは当たり前だわ。

 昼間飲んだのは美月さんとっておきの、英国王室御用達「アッサムティー」。
 そして私が淹れたのは、いつも私たちが飲む「TWININGS」の「アールグレイ」だ。柑橘の爽やかな香りがするコスパ最強お紅茶だ。

 しくじったァ。
 いつもの癖でこっちの紅茶を淹れちゃったァ。

 うみがすかさず紅茶を口につける。「本当だ。昼間に飲んだのと味が違う。ほのかにレモンみたいな匂いがする」と、もっともらしいことを言う。
 お前、さっきまで気づいてなかったやんけ。

 そして確信する。
 これは決して助け船じゃない。
 むしろ、私たちが乗る泥船を沈める、追撃だ。

「ねぇ、ずんさんこれ違うよねぇ? どうして昼間の紅茶と違うの?」

「えっと、それはその……今日はうみが来たから、いいのを出したっていうか」

 美月さんいけない。
 それはりんご先輩の巧妙な罠。
 気づいても、美月さんが答えてしまったら後の祭り――。

「なるほど~、うみちゃんのために奮発したんだぁ~! ずんさんえら~い!」

「まぁ、後輩が来るわけだしね。そこはもてなさないと」

「けどさぁ~? なんでばにらちゃんは、いつも飲んでる方の紅茶を淹れたの~?」

「ぐ、偶然よ。どっちが高級な茶葉か、分からなかったのよ――ねぇ、ばにら?」

 苦しい言い訳である。

 普段から飲んでいる紅茶を意識せずに淹れた。
 それがことの真相だ。

 けど、「分からなくて間違えた」とゴリ押せないわけでは――。

「けどぉ、ばにらちゃん迷いのない感じで淹れてたよぉ? もしかしてだけどぉ~? いつも飲んでる紅茶を淹れちゃったってことじゃないのぉ~?」

「えっ、ちょっとばにら? アンタ、まさか……?」

 はい、詰みました。
 まさかキッチンに一緒に立った時点から手のひらの上だったとは。
 おみそれしやした。(白目)

 うみが顔を真っ赤にしてわなわなと肩をふるわせる。口元を手で隠して、今にも「きゃー!」とか「わぁー!」とか叫び出しそうな感じだ。

 マジでそれはやめて。
 ご近所迷惑だから。

「そういえばさぁ~? ばにらちゃんお土産に、何を持って来てたっけぇ~?」

「……するめとチータラとカルパスです」

「なんでそんなおつまみを持って来たのぉ~? もしかしてぇ~、この配信が終ったらぁ~、ずんさんと晩酌でもするつもりだったぁ~?」

「ばにら……やっぱりお前!!!!」

「チガウンデス! コレハ! オツマミ健康法トイウノガアッテ……!」

「なんでカタコトなのぉ~?」

「ばにらァ!!!! 嘘だよなァ!!!! お前、まさか、ずんだ先輩と!!!!」

 もはやケーキなどそっちのけで恋バナモードに入ったうみ。
 うみがこの手の話に食いつきがいいのは知っている。
 まさか、彼女をコラボ相手にしたのまで、りんご先輩の計算の内――。

 私が淹れた紅茶を優雅にすするりんご先輩。
 さながらそれは、犯人を追い詰める名探偵の決めポーズのよう。
 泥棒なのに。

 チーズケーキのカスをぺろりと舐めると、彼女は口の端をつり上げる。

 まんまとしてやられた。
 これこそが彼女の今日のコラボの狙い。

 私と美月さんの関係をうみにばらすのが目的だったのだ――。

「わ、私が買って来てって言ったの! ほら、ばにらの家の近くに、おつまみの安いスーパーがあるから!」

 答えに窮する私を見かねて美月さんがフォローする。
 だが、これも悪手。

「なんでずんさんが、ばにらちゃんの家の近くのスーパーなんて知ってるの?」

「……そ、それは」

「嘘でしょ、ずんだ先輩!!!! まさかばにらを庇おうとして!!!!」

 いや、買って来てって頼まれてるのは本当なんですけどね。

 けど、ここで暴露する話じゃないですよね。
 りんご先輩が追求した通り、「なんでそんなこと知ってるの?」って、普通はなりますよね。さらに「もしかして家に行ったことあるの?」とかなりますよね。

 私は頭を抱えた。
 もうこれ無理だ。
 誤魔化せない。

 喋れば喋るほど、余計に私たちの関係性を匂わせるだけ。
 というか、口で目の前の泥棒猫に勝てる気がしない。

 泥棒猫というか詐欺師。
 天才犯罪者。
 黒幕。

 すごいよりんご先輩。
 その知謀をせめて違うことに使って――。

 素直に私たちのことを話そう。
 私は追い詰められた犯人のように諦めた。

 なに、たいしたことじゃない。
 ただの「週一(多い時は週三)で晩酌している仲の良い先輩・後輩」だ。
 なんらいっさいガチ百合ではない。

 そう思って覚悟を決めたその時、テーブルに置いた私のスマホが鳴動した。

 かけて来たのはなぜかBちゃん。
 こんな時間に連絡なんて珍しい。
 緊急だろうかとすぐに通話に出ると――。

「ばにらさん! ちょっと、どういうことですか! Twitterが大騒ぎになっているんですけれど! しっかり情報コントロールしてくださいよ!」

「……ふぇ?」

「前にずんださんと『お泊まり晩酌配信』したのって、『ばにらさんの家』でしたよね? なのに――なんでずんださんの家での配信で、『ばにらさんのアバターが動いてるんだ?』って、ファンたちが騒ぎはじめてます!」

 すぐに私は配信に使ったパソコンを確認した。
 配信室に置かれているまったく同じ構成の二台のパソコン。
 見分けるために、その側面に美月さんはステッカーを貼っている。
 ウィンクする青葉ずんだが貼られたそれは――以前、私が「配信に間に合わないから!」と借りたパソコンだ。

 ぜんぜん違った。

 復帰配信を豪華に行うためじゃない。
 私と美月さんの関係をうみに暴露するためでもない。
 津軽りんごが狙っていたのはこれだったんだ。

「今日、ずんださんの家に来るのがはじめてなら、うみさんと同じでばにらさんも立ち絵になるはずですよね! なんでFaceRigのデータを使ったんです!」

「す、すみません! 迂闊でした!」

「あと、そもそもりんごさんが冒頭で『うみさんだけFaceRigのデータがなくて立ち絵』って、詳しく説明しちゃったのも問題で……」

 スマホを頬にあてながらりんご先輩を私は睨んだ。
 優雅に紅茶を飲んでいたDStarsの泥棒猫は、「完全犯罪大成功!」と言わんばかりに不敵に微笑むと、ホーローのカップをテーブルの上に置いた。
 頬杖を突いて彼女は私たちに尋ねる。

「さぁ、リスナーのみんなに、なんて説明しよっか? ずんさんの家に来たことがないはずなのに、『FaceRigのデータがパソコンの中に入っていた謎』を、どういいわけするのかなぁ~?」

「……りんご先輩、ひとつ聞いていいですか?」

「なぁ~にぃ?」

「なんでこんなことしたんです? なんのメリットも貴方にはないですよね?」

 黒幕は心底愉快そうな笑顔で答えた。


「だって、面白そうだったから!!!!」


 どうやら、私はとんでもない先輩に目をつけられてしまったようだ。
 美月さんの交友関係について「友達は選べ」と後輩ながら言いたくなる夜だった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 真の犯罪者は犯罪自体を楽しむ。DStarsのジェームズ・モリアーティー。
 津軽りんごは「百合」とか「親友」とか関係なく、場をひっかき回すことにこそ喜びを覚えるタイプの、ろくでなし配信者なのでした。

 見事に踊らされたばにらたち。はたして彼女たちは、自分たちの関係性を、どう周囲に説明するのか。それはそれとして、手を変え品を変え繰り出すりんごの手際に痺れたという方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...