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第9章 エンドラ討伐隊

第68話 燃えよエンダードラゴン(後編)

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「それじゃエンドラ討伐の前の最終確認! あひるちゃん、ニーナちゃんにも伝わるように同時翻訳をお願いします!」

『(英語)了解! ニーナ、エンドラ討伐前の最終確認をするよ!』

『(英語)はい! よろしくお願いします!』

 すず先輩の音頭で最終確認をする。

「まず『エンドポータル』で移動したらすぐにエンドラ戦がはじまります。といっても、ワープの初期位置は地下なので、いきなり攻撃はされません……」

 流石は『エンドラ討伐RTA』走者だけあって、すず先輩の説明は的確だった。

 まず、地下を整備して避難地帯を用意すること。
 地上には塔が10本建っており、頂上に『エンドクリスタル』があること。
 この『エンドクリスタル』があると、『エンダードラゴン』が定期的に回復するので――先に弓矢か直接攻撃で破壊すること。 

 全ての『エンドクリスタル』を破壊したら『エンダードラゴン』に攻撃開始。
 弓での攻撃がメインだが、中央の止まり木に降りることがあり、その時には近接攻撃が可能なこと。ただし、ブレス攻撃(毒効果あり)に注意すること。

 以上を説明すると、最後にすずちゃんがアイテムを差し出した。

「エンドに向かう前にこれを渡しておこう。塔に登る時に飲むがいい(イケボ)」

 それは『低速落下のポーション』。
 飲むと一定時間落下速度がゆっくりになり、落下ダメージがゼロになるものだ。

 というのも『エンドクリスタル』が置かれた塔を登る際、『エンダードラゴン』から攻撃され、落下死してしまう可能性が高いからだ。

 エンドラ討伐に必須のバフアイテム。
 フォローの手厚さと後輩への思いやりに、渾身のネタ台詞(北斗の拳のトキネタ)を言った後にも関わらず、感動して泣きそうになった。
 こういうさりげないサポートができる先輩に、私もなりたい。

 実年齢は私の方が上なんだけどね。(白目)

「それと『エンドクリスタル』は破壊すると爆発するから、直接殴る時は塔から5マス以上離れること。爆発に巻き込まれると吹っ飛ぶから。以上、分かったかな?」

「分かったバニ!」

「分からん! 分からんが分かった!」

『(英語)大丈夫です! 行きましょう、すず先輩、あひる先輩、ばにら社長!』

 最後に『エンドポータル』横に置いたベッドにタッチしておく。
 さらに階段の前に集まり、私たちは円陣を組んで気合いを入れた。

「「「「DStarsファイトォオオオオ!!!!」」」」

 集めた『エンダーアイ』を『エンドポータル』にはめる。
 ラスボス『エンダードラゴン』が待つ、『エンド(虚空に浮かぶ小さな島)』と呼ばれるワールドに繋がる、ワープゲートが起動する。
 床に正方形に空いた穴へ、私たちは次々に飛び込んだ。

 出たのは説明にあった通り地下。
 クリーム色をした土に覆われたそこを、まずは拡張して避難スペースを作る。
 作業台を置き、ラージチェストの中に弓矢などの共有資材を入れると、私たちはいよいよ地上へと出る。

 真っ暗な空を漆黒のドラゴンが飛び回っている。
 黒曜石でできた塔の中を、旋回するように飛ぶドラゴンは、さっそく私たちに気が付くと、火の球を吐き出して攻撃してきた。

「みんな散って! 手はず通り『エンドクリスタル』を破壊するよ!」

「すずちゃん! あひるが『エンダードラゴン』の囮になるよ!」

「ダメだ! あひるちゃんじゃ囮にもならない!」

「ちょっとひどくない!!!!」

「いいからとっとと『エンドクリスタル』を破壊するバニよ!」

『(英語)私が弓で「エンダードランゴン」を牽制します! すず先輩! あひる先輩! ばにら社長! 「エンドクリスタル」の破壊をお願いできますか!』

「ばにら! ニーナちゃんが『エンダードラゴン』ひきつけるって! あひるたちで『エンドクリスタル』をぶっ壊すぞ!」

「了解バニよ!」

「生駒も下に残るよ! ニーナちゃんだけじゃフォローしきれないかもだからね! あと、弓で『エンドクリスタル』も狙えるし! 二人は生駒の弓じゃ届かない、高い所にある『エンドクリスタル』を破壊して!」

 すず先輩の指示に従い、私とあひる先輩は塔を登る。
 大量に持って来た土ブロックを積み上げて、最短距離で頂上へと。
 ニーナちゃんのアシストが適切なのだろう、『エンダードラゴン』がこちらを攻撃してくる気配はない。

 一気に塔を登りきると、私はすず先輩に注意された通り「5マス」離れた場所から、『エンドクリスタル』にトライデントを投げつけた――。

「あ、ダメだよばにらちゃん! 『エンドクリスタル』から5マスじゃなくて、『塔』から5マスだよ! そこだと爆発に巻き込まれちゃう!」

「う、うぇえええ⁉」

 盛大な『エンドクリスタル』の爆発にアバターが宙を舞う。
 さらに、予想外のことは続く――。

「やばい! 島の端から落っこちそうバニ!」

「な、なんだってぇっ⁉」

 ここ『エンド』は『虚空に浮かんだ島』という異質な世界。
 島の端から落下すれば、果てのない奈落の底へと落ちて行き――全ロスして死亡するという鬼畜仕様になっている。

 しまった、やらかした。

 すず先輩の『低速落下のポーション』を飲んだことで危機感が薄れていた。

 気をつけるのは塔から落ちる方じゃない。
 島から落ちる方だった――。

「あひる先輩! すず先輩! とりあえず、ばにらの装備をありったけ投げるバニ! 悪いけれど回収をお願いします!」

「わかったよ、ばにらちゃん!」

「ばにら! お前!」

「ばにらシャチョー!」

 インベントリ(持っているアイテム一覧画面)を開くと、私はえるふからもらった装備を投げ捨てた。

 彼女が私のために作ってくれた大切な装備だ。
 こんな凡ミスでなくしてしまってなるものか。

「頼む、島の端でいいから届いてくれ……!」

 はたして――私の願いは届いた。
 なんとかギリギリ、島の端に装備はすべて引っかかった。

 しかし、私のアバターは島の外に向かって飛んでいく。
 塔を登るために飲んだ『低速落下のポーション』のせいで緩やかに。
 そして、どうすることもできずに。

 島の陰に『エンダードラゴン』と戦う仲間たちの姿が隠れた時、私のアバターを強烈なスリップダメージが襲った。

『vaniraは奈落の底へ落ちた』

 ゲームオーバーのメッセージが表示される。
 急いで私は「リスポーン」のボタンを押して復活した。『エンドポータル』手前に置かれたベッドの上で、私のアバターが起き上がる。

「ばにらちゃん、大丈夫か⁉」

「ばにらシャチョー! アーユーオーケイ⁉」

「大丈夫バニ! すぐにそっちに戻るから待ってて――」

「いやいやいや! ばにら、裸装備でここまで来られるのかよ!」

 あひる先輩の言う通りだ。
 エンドに戻ったとして、裸装備で何ができる。
 地下に置いたチェストの中にも、予備の装備なんて入っていない。

 戦線復帰は現実的ではない――。

「あひるが装備を集めてるから! それまで待ってろ!」

「そうだよばにらちゃん! 無理は禁物! 『低速落下のポーション』も使っちゃったんだから、なおさら無茶なんてしちゃダメ!」

『(英語)ばにら社長! ここは我慢してください! 私たちもなんとか持ちこたえてみせますから!』

 こんな大事な所で、一番大切な局面で、大失態を犯すなんて。

 社長から直々にニーナちゃんの応援を頼まれ。
 えるふから装備を提供してもらい。
 すず先輩やあひる先輩にも助けてもらい。
 美月さんとの宅呑みの約束さえ破ったのに。


 私はなんて間抜けなんだ――!


 金盾凸待ちの時から何も変わっていない。
 私はいつも、肝心な所でやらかしてしまう。

「やっぱり、ばにーらはダメダメVTuberだバニ……!」

 マイクに声が拾われないように小声で呟く。
 己の無力さに思わずテーブルを叩こうと手を振り上げた――まさにその時だった。

 ぼこりと私のアバターの横の壁が壊され、そこから『絶妙に見覚えがあるマイクラスキンをしたアバター』が出て来たのは。

 茶色い髪にくりっとした瞳。
 緑色をした着物姿。
 手には鉄のピッケル。

「…………ず、ずんだ先輩⁉」

 見たことないけど間違いない。
 そのアバターは私の大切な先輩――『青葉ずんだ』こと美月さんのものだった。

『ばにらちゃん⁉ どうしてばにらちゃんがこんな所にぃ⁉』

 どうしてだろう、美月さんの驚く声が聞こえた気がした。
 スマホはちゃんとミュートにしたはずなのに――。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 ブランチマイニングしていたら百合営業相手とばったり遭遇した件について。
 まさかのここでずんさんが合流。いくらなんでも話ができすぎだ――と思ったそこの貴方、この一連のコラボにとある黒幕が潜んでいるのをお忘れではないですか?
 
 次章から、今回の部の核心に迫る話へと物語は怒濤の勢いで進んで参ります! 楽しんでいただければと思いますが――もう既に満足という方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m
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