殺戮キ

コージィ・タドコロ

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閉幕

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「なんでだよっ! 零慈れいじ!」

 雨の降り荒ぶ中、両手に二対の武器を持った少年が立ちすくむ。
 側にある首のない女性の遺体を、零慈と呼ばれた少年は震えながら抱きしめていた。

「お前、今その怪物に殺されかかってたところじゃないか! 何で、なんでそんな奴を庇うんだよ!」
白川しらかわ

 遺体を抱きしめたまま、零慈は言葉を発した。非常に冷徹で感情の機微は一切感じ取れない。白川、そう呼ばれた少年は目の前にいるのが同じ人間とは思えなかった。
 零慈はそのまま言葉を繋いだ。

「お前は、死にたいって思ったことあったか? これまで生きてて、何も出来ない自分が憎くて、何も選ぶ権利のない自分が嫌で」
「だから…お前は何を言ってんだ!?」
「俺はこの人に殺してもらう筈だったんだ。それで初めて幸せになれたんだ。なのに、お前が壊した」

 零慈が顔を挙げた。
 瞳は赤く、燃え上がるように爛々と。頭髪は白く染まり、雨に濡れてなお高潔な印象を白川に与えた。

「お前…零慈、その姿…」
「そうだよ、怪物だ。お前らが殺すべき存在だ」

 白川は唖然とした。悲哀ひあい激昂げっこう、そんなありふれた感情は湧き出て来なかった。
 怪物になっていた事はおろか、10年近い付き合いのある親友が自殺願望を持っていた事すら微塵も知らなかった。

「殺してみろ、白川勝也しらかわ かつや 」
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