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第1章 ふたりの秘め事
第9話 陰キャ男子の嫌いなもの
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「はあああああ……ヒリヒリする……」
「怖かった……ほんと終わりかと思ったわ……」
「椿、ほんとごめん」
俺は頭を下げるしかなかった。
しかし、椿は首を横に振って、
「いや、私こそごめんね。仕事仲間の安全を守るのは雇ってる側の責任だし」
「でも無茶したのは俺だよ……」
俺たちは事務所に戻っていた。
痛む背中をさすりながら、俺はソファに座る。
椿に迷惑をかけてしまったと思う。
あの場を切り抜けるには、俺が行動しなければならなかったが、さらに状況を悪化させたのだ。
理由は簡単。周りに止めてくれる人がいない中で、何も考えずにあいつらに突っ込んでいったから。
しかしながら、幸いかどうかは分からないが、古川の一味である松山の働きかけで奴らは去って行った。
俺にはどうする事もできないのだ。これはラノベや漫画のように、窮地をひっくり返せるようなものではない。
現実を見せつけられた気がして、俺は罪悪感と同時にやるせなさも覚えた。
椿は紅葉ちゃんが出してくれたお茶菓子を分けて、自分と俺の前に置いた。
「私、何も出来なかったけど、あなたがあの三人を止めようとした時、ちょっと嬉しかったの。ありがとうね」
幼なじみに言われるとなぜか顔が熱くなる。
しかし、それは事務所内にいたもう一人の従業員――所長の妹に見抜かれていた。
「あれ……リツさん……顔赤い?」
椿の妹である紅葉ちゃんが不思議そうな顔をして俺を見ていた。
「え……マジで?」
「やっぱり、お姉ちゃんのこと、好き?」
いきなりの指摘に返答に窮していると、椿が俺と紅葉ちゃんの間に割り込んだ。
「紅葉? リツはいたって正常よ? こいつ、調子乗って変なことやらかすから、気にしなくて大丈夫よ?」
「え……、そ、そうなんだね……」
どうやら紅葉ちゃんはナチュラルに俺の気持ちを観察していたようだ。
椿の言葉を聞いて、俺は色々と複雑な気分になる。
椿とはそれなりに長い付き合いだ。彼女は心優しく、物事をキッパリ言う性格で、正義感も強い。彼女に惚れる男もいないわけではないだろう。
しかし、彼女が誰かと交際しているなんて聞いたことはない。誰にも言わずに交際している可能性はあるが……。
まあ、そんなこと考えても意味はない。
今回、俺は反省すべき点が増えた。
力で勝てもしない人間に、勇気という名の蛮勇を奮って突撃した。あんなの、ただの無謀だし、自己満足だ。
とにかく、今後あんなことがあれば椿や紅葉ちゃん、依頼人を守るなんてできないだろう……。
力をつけて、いざというときに対応できないといけない。
できることはもっとあるはずだ。
少しでもいいから、彼女たちの力になれるために頑張ろうと思った。
一方で捜査の方は進展しなかった。(ただ、俺が痛みで悶絶して椿の車の中で横になっていたのは内緒)
近隣の住民に話を聞いても、有力な情報を得ることはできなかった。
ただ、一つだけ気になる情報があった。
生野樹里の姉、美幸さんが失踪した日の深夜、人通りのない山道を軽トラックが走っていったという。
その山は大谷山といい、昼間でもひと気のない場所であり、林業関係者以外で山に立ち入る人はいなかった。まして、夜に行く人は普通いないという。
その情報は警察に伝えられていた。警察も現場を捜索したらしいが、生野家に何の情報も伝えられていないことから、何も見つからなかったとみられた。
その後俺たちは夕方に生野と別れ、俺たちは帰路についた。
椿は紅葉ちゃんが淹れてくれたコーヒーを一口すすると、
「また現場近くで聞き込みしないとね。見落としてる情報があるかも」
「警察から聞きこまないのか?」
椿はそれを聞いてため息をつく。
「……推理小説みたいにうまく行くわけないでしょ? 警察関係者とつながりがあるならともかく、捜査内容の守秘義務もあるのよ? むしろこっちから情報提供してくれって言われるわ」
「現実は現実か……」
「そうそう」
コツコツと地道に真相に近づくしかないようだ。わかっていたことではあるが、探偵業は思っている以上に地味だった。
そして椿は腕時計を眺める。そういえばもう終業時間か。
「そろそろ時間ね……。今日はここまでにしましょうか。お疲れさまでした」
「はーい。お疲れさまでした」
荷物をまとめて帰ろうとした時、椿に呼び止められた。
「そうそう、リツのところにも届いたと思うけど、明日、リモートで同窓会があるの知ってる?」
「え、マジで?」
同窓会という言葉に俺はギクッとする。大人になると行きたくないイベントナンバーワン(当社比)の「同窓会」。
「それって、どこの同窓会だ? 主催元は?」
「高校だったと思う。幹事さんからSENNにメッセージが来てると思うんだけど……」
「……」
うわあ……行きたくない……。
高校とか、絶対あいつらも来るじゃん……。
なんか、因縁付けられそうでマジで怖い。
「いや……メッセージ来てても行きたくないんだけど……」
「まあ、あいつらも参加してそうだしね……」
いじめグループ三人組、絶対会いたくない。
だが、椿は話を続けた。
「幹事さんの中に及川君もいるのよ。オンライン開催みたいだし直接会うわけじゃないから、いいでしょ?」
及川、と聞いて俺ははっとした。
及川貢。俺の高校時代の数少ない友人で、腹を割って話せる間柄だった。俺のいじめの相談も受けてくれて、彼が俺へのいじめの抑止力の一つになっていた。
卒業後、地元の大学に進学したという。今は生野と同じ大学院で研究生として日々を送っているらしい。
「……なら、いいかな……」
「ふふ。やっぱりあなたも単純ね。でも気分転換にはなるでしょ?」
「……」
なんか複雑……。
とりあえず、椿に送信された時間を聞いて、メッセージを確認してみる。
しかし、該当するメッセージは俺のところに送られていなかった。
「……なんで?」
スマホの画面を椿に見せると、
「あれ? 同級生にはみんな送ったって聞いたんだけど……」
「まさか俺、仲間外れ?」
冗談だとは思うが……元いじめを受けた身である。自分だけハブられてんのか……?
椿は考え込みながらスマホをいじっていた。
「さすがにそれはないでしょ。聞いてみるね」
「ああ……頼む」
その後、同窓会の運営側から椿に連絡が入り、運営が俺に日程や開催通知を送信するのを忘れていたとのこと。一応、高校時代にSENNを登録してたんだがなあ……。
俺にメッセージが来たのは翌日の夜だった。
翌日、何の変哲もない平和な一日が続いた。しかし、生野美幸さん捜索は進展しないままだった。
……しかし、事件は裏で動いていたのだ。
「怖かった……ほんと終わりかと思ったわ……」
「椿、ほんとごめん」
俺は頭を下げるしかなかった。
しかし、椿は首を横に振って、
「いや、私こそごめんね。仕事仲間の安全を守るのは雇ってる側の責任だし」
「でも無茶したのは俺だよ……」
俺たちは事務所に戻っていた。
痛む背中をさすりながら、俺はソファに座る。
椿に迷惑をかけてしまったと思う。
あの場を切り抜けるには、俺が行動しなければならなかったが、さらに状況を悪化させたのだ。
理由は簡単。周りに止めてくれる人がいない中で、何も考えずにあいつらに突っ込んでいったから。
しかしながら、幸いかどうかは分からないが、古川の一味である松山の働きかけで奴らは去って行った。
俺にはどうする事もできないのだ。これはラノベや漫画のように、窮地をひっくり返せるようなものではない。
現実を見せつけられた気がして、俺は罪悪感と同時にやるせなさも覚えた。
椿は紅葉ちゃんが出してくれたお茶菓子を分けて、自分と俺の前に置いた。
「私、何も出来なかったけど、あなたがあの三人を止めようとした時、ちょっと嬉しかったの。ありがとうね」
幼なじみに言われるとなぜか顔が熱くなる。
しかし、それは事務所内にいたもう一人の従業員――所長の妹に見抜かれていた。
「あれ……リツさん……顔赤い?」
椿の妹である紅葉ちゃんが不思議そうな顔をして俺を見ていた。
「え……マジで?」
「やっぱり、お姉ちゃんのこと、好き?」
いきなりの指摘に返答に窮していると、椿が俺と紅葉ちゃんの間に割り込んだ。
「紅葉? リツはいたって正常よ? こいつ、調子乗って変なことやらかすから、気にしなくて大丈夫よ?」
「え……、そ、そうなんだね……」
どうやら紅葉ちゃんはナチュラルに俺の気持ちを観察していたようだ。
椿の言葉を聞いて、俺は色々と複雑な気分になる。
椿とはそれなりに長い付き合いだ。彼女は心優しく、物事をキッパリ言う性格で、正義感も強い。彼女に惚れる男もいないわけではないだろう。
しかし、彼女が誰かと交際しているなんて聞いたことはない。誰にも言わずに交際している可能性はあるが……。
まあ、そんなこと考えても意味はない。
今回、俺は反省すべき点が増えた。
力で勝てもしない人間に、勇気という名の蛮勇を奮って突撃した。あんなの、ただの無謀だし、自己満足だ。
とにかく、今後あんなことがあれば椿や紅葉ちゃん、依頼人を守るなんてできないだろう……。
力をつけて、いざというときに対応できないといけない。
できることはもっとあるはずだ。
少しでもいいから、彼女たちの力になれるために頑張ろうと思った。
一方で捜査の方は進展しなかった。(ただ、俺が痛みで悶絶して椿の車の中で横になっていたのは内緒)
近隣の住民に話を聞いても、有力な情報を得ることはできなかった。
ただ、一つだけ気になる情報があった。
生野樹里の姉、美幸さんが失踪した日の深夜、人通りのない山道を軽トラックが走っていったという。
その山は大谷山といい、昼間でもひと気のない場所であり、林業関係者以外で山に立ち入る人はいなかった。まして、夜に行く人は普通いないという。
その情報は警察に伝えられていた。警察も現場を捜索したらしいが、生野家に何の情報も伝えられていないことから、何も見つからなかったとみられた。
その後俺たちは夕方に生野と別れ、俺たちは帰路についた。
椿は紅葉ちゃんが淹れてくれたコーヒーを一口すすると、
「また現場近くで聞き込みしないとね。見落としてる情報があるかも」
「警察から聞きこまないのか?」
椿はそれを聞いてため息をつく。
「……推理小説みたいにうまく行くわけないでしょ? 警察関係者とつながりがあるならともかく、捜査内容の守秘義務もあるのよ? むしろこっちから情報提供してくれって言われるわ」
「現実は現実か……」
「そうそう」
コツコツと地道に真相に近づくしかないようだ。わかっていたことではあるが、探偵業は思っている以上に地味だった。
そして椿は腕時計を眺める。そういえばもう終業時間か。
「そろそろ時間ね……。今日はここまでにしましょうか。お疲れさまでした」
「はーい。お疲れさまでした」
荷物をまとめて帰ろうとした時、椿に呼び止められた。
「そうそう、リツのところにも届いたと思うけど、明日、リモートで同窓会があるの知ってる?」
「え、マジで?」
同窓会という言葉に俺はギクッとする。大人になると行きたくないイベントナンバーワン(当社比)の「同窓会」。
「それって、どこの同窓会だ? 主催元は?」
「高校だったと思う。幹事さんからSENNにメッセージが来てると思うんだけど……」
「……」
うわあ……行きたくない……。
高校とか、絶対あいつらも来るじゃん……。
なんか、因縁付けられそうでマジで怖い。
「いや……メッセージ来てても行きたくないんだけど……」
「まあ、あいつらも参加してそうだしね……」
いじめグループ三人組、絶対会いたくない。
だが、椿は話を続けた。
「幹事さんの中に及川君もいるのよ。オンライン開催みたいだし直接会うわけじゃないから、いいでしょ?」
及川、と聞いて俺ははっとした。
及川貢。俺の高校時代の数少ない友人で、腹を割って話せる間柄だった。俺のいじめの相談も受けてくれて、彼が俺へのいじめの抑止力の一つになっていた。
卒業後、地元の大学に進学したという。今は生野と同じ大学院で研究生として日々を送っているらしい。
「……なら、いいかな……」
「ふふ。やっぱりあなたも単純ね。でも気分転換にはなるでしょ?」
「……」
なんか複雑……。
とりあえず、椿に送信された時間を聞いて、メッセージを確認してみる。
しかし、該当するメッセージは俺のところに送られていなかった。
「……なんで?」
スマホの画面を椿に見せると、
「あれ? 同級生にはみんな送ったって聞いたんだけど……」
「まさか俺、仲間外れ?」
冗談だとは思うが……元いじめを受けた身である。自分だけハブられてんのか……?
椿は考え込みながらスマホをいじっていた。
「さすがにそれはないでしょ。聞いてみるね」
「ああ……頼む」
その後、同窓会の運営側から椿に連絡が入り、運営が俺に日程や開催通知を送信するのを忘れていたとのこと。一応、高校時代にSENNを登録してたんだがなあ……。
俺にメッセージが来たのは翌日の夜だった。
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