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第1章 ふたりの秘め事
第24話 生意気な探偵さん
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俺たちは生野への聞き取りを終え、病院を後にするところだった。
これで大まかな事件の全体像はつかめた。聞き取った情報から警察に接触して、情報提供をしようと考えていた。あいつの行方がまだわかっていないから、捜さないといけない。
しかし、ある病室の前を通り過ぎようとした時、状況が一変した。
「え、うそだろ」
俺は開いた眼が塞がらなかった。
その病室のネームプレートにあいつの名前があったから。
俺と椿は顔を見合わせる。
ーー早く目を覚ましてくれ! もう、死のうなんて思わないでくれ!
中から声がした。誰かいるのか?
俺はゆっくりと病室の戸を開けた。
知人がベッドの中にいるそいつに必死で声をかけている。
そいつは顔が青ざめ、ぐったりしている。
後から知人から聞いた話だが、そいつを追いかけたとき、あいつは自分の胸を突き刺して命を絶とうとしていたという。彼は必死でそいつを説得したのだが、すきをついて自殺を図られたのだ。
しかし、まだかすかに息は残っており、知人はすぐに救急車を呼んだ。
病院に搬送され、医師や看護師の夜通し行われた懸命な手術により何とか一命をとりとめた。まだ眠っているが、時期に意識を取り戻すという。
とりあえず一安心だが、なぜ自殺しようとしていたのか。あいつが犯人ならおそらく……。
意識を取り戻したら、次にあいつがとる行動は何だろうか。
時間は、残されていない。
***
まだ夜も明けていない時間、そいつは目を覚ました。
あたりは真っ暗で何も見えない。そして、頭がずきずきと痛んでいる。
よく見ると、点滴のチューブがあたりに着けられ、入院着に着替えさせられていた。
目的を達成できず、自ら命を絶つ決意をしたのだが、どうやら失敗したようだ。それどころか、病院に搬送されてしまった。
しかし、そいつの恋人は夢の中でもしきりに止めようとしていた。
――君に、会いに行けるのに……なんで
拳を強く握る。
そいつはゆっくりと自分の身体に付けられていた機器を外した。いいところに就職したい一心で勉強したから、これくらいお手の物だった。こんな時に役に立つなんて、皮肉なものである。
しかし、あいつと格闘したときの痛みのせいで、体が思うように動かない。あいつに蹴られて、体には痣ができているのだ。
なんとか作戦は遂行できたが、思わぬ痛手を負ってしまった。
――ただ、俺は子供時代からやり直したかっただけだ。殺す気はなかった。俺は悪くない
そう言い聞かせる。
もう、この世界にとどまる意味はない。
彼は窓を開け放った。
――今から君の所に……
――どこ行くんだよ、お前
戸が開いた。
振り向くと、そこに誰かいる。
そいつらは、高校時代の雑魚の姿であった。
***
俺と椿の前に、そいつ――真犯人はいた。
電気をつけると、その姿が顕わになっていく……。
そいつは、俺たちを見て口をぽかんと開けて驚いているようだ。
無理もないだろう。昔いじめたやつが、今度は問い詰める立場になったんだから。
俺は追及を切り出す。
「お前だろ? 古川たちを殺害したのは」
――松山信成
「お前が生野の言う<あの人>だよ」
俺がそういうと、そいつ――松山信成はニヤリと口角を上げ、不気味に笑った。
「誰かと思えばゴミか。何の用だ。深夜にいきなり出てきていきなり人殺し呼ばわりって。お前、ついに頭狂ったか」
挑発的な言動に一瞬心臓の拍動が早くなるが、俺は一呼吸置いた。
「まあ、お前らからすれば俺は馬鹿だよ。気弱だし、後先考えない。そのせいで散々お前らにいじめられてきたんだから。だが、それ以上に馬鹿なのはお前だ。松山」
「なに?」
怪訝な顔をする松山に臆せず、俺は言葉を続ける。
「お前の無意味な復讐を必死になって止めようとした人がいたのに、なんでお前はその人を裏切ったんだ?」
「……」
松山は口を閉ざしたが、その目はどす黒い何かで覆われていた。
しばらくして、奴は口を開けた。
「何言ってんだ? そもそも俺は何も知らねえぞ? 古川も室伏も死んだのか? 生憎、俺はニュースを見ない主義なんでね。世間に疎いんだ」
無関係だと涼しい顔をして、白を切るつもりだ。
だが、こいつが犯人である証拠は多く見つかっている。
俺は改めて松山を追求した。
「じゃあ、なんであそこで自殺しようとしてたんだ? お前、さっきまで大谷城山に登っていただろ? そこで何をしたのか、覚えていないのか? そして、お前は窓を開けて何をしようとしてるんだ」
「ん? 換気をしようと思ってな。例のウイルスって換気しないとダメっていうだろ?」
「違うな。この病院は換気する時間が決まってるし、今はその時間じゃない」
俺は目を閉じ、一瞬心を鎮めると、奴に向かって告げた。
「お前、本気で命を絶とうとしてたんだろ? 美幸さんのもとに行きたいから。だが、大谷城山で自殺を図ったが失敗した」
「……」
「その時もお前のことを必死で説得してくれた人がいたんだよ。わからないのか?」
その言葉を聞いて、松山の身体は微動だにしない。
目の焦点が合っておらず、上の空で泳いでいる。
図星だったようだ。
「お前は、いろんな人を裏切ってる。しかも、その人を犯人に仕立て上げようともした。殺害された二人と同じく、最低クラスの馬鹿だよ」
俺が問い詰めると、松山はかすかに震え始めた。そして――
「なら……なら、その証拠を出せよ。お前は、その“美幸”ってやつのために俺があの二人を殺したって言いたいんだろ?」
「……」
「言えよ、生意気な探偵さんよ‼︎」
奴の声に怒気が混じる。いつもの気が弱い俺なら、縮こまって動けなかっただろう。
俺はもう一度、心の中で深呼吸する。
正直、うまく告発できるか不安もあった。一応、証拠はそろってきたものの、物証はまだ出ていない。
そして、自分のトークスキルであいつを自首させられるかわからなかったからだ。
だけど、時間が残されていない以上、不十分な状況でもあいつを追求するしかなかった。
椿にも考えていることを話し、二人で作戦会議を開いてどう行動するか検討したが、彼女はかなり心配していた。
――やる時はやるからさ、俺は
そういっては見せたが、椿はため息をついていた。
――まだあいつらに絡まれたときのこと反省してないの? 全然だめだったじゃない
だから事前準備が必要なのだ。
根回しするのは大変だった。樹里や彼女の母親の証言をもとに警察に匿名で情報提供をした。
もちろん、その警察の相手は堂宮刑事である。ボイスチェンジャーを使った情報提供だったので、かなり疑われたが俺は父さんから教わった方法で何とか切り抜けた。
当然、こいつを容疑者として捜査してもらうためだが、何よりも重要な証拠にこいつの指紋が付着しているかどうかが知りたかったのだ。
その証拠品のひとつには、重要なあの薬も入っている。俺はその薬のことも話した。
堂宮刑事なら……父さんの遺志を受け継いだ刑事さんなら、何か情報を教えてくれるかもしれない。
さらに、これまでの経緯からこいつがとるであろう行動を考え、病院の人にも協力をお願いした。
俺の隣には椿がいる。彼女は不測の事態に備えるために待機している。
そして、俺は松山に焦点を合わせた。
「ああ、話してやるよ。この事件の、全貌を」
これで大まかな事件の全体像はつかめた。聞き取った情報から警察に接触して、情報提供をしようと考えていた。あいつの行方がまだわかっていないから、捜さないといけない。
しかし、ある病室の前を通り過ぎようとした時、状況が一変した。
「え、うそだろ」
俺は開いた眼が塞がらなかった。
その病室のネームプレートにあいつの名前があったから。
俺と椿は顔を見合わせる。
ーー早く目を覚ましてくれ! もう、死のうなんて思わないでくれ!
中から声がした。誰かいるのか?
俺はゆっくりと病室の戸を開けた。
知人がベッドの中にいるそいつに必死で声をかけている。
そいつは顔が青ざめ、ぐったりしている。
後から知人から聞いた話だが、そいつを追いかけたとき、あいつは自分の胸を突き刺して命を絶とうとしていたという。彼は必死でそいつを説得したのだが、すきをついて自殺を図られたのだ。
しかし、まだかすかに息は残っており、知人はすぐに救急車を呼んだ。
病院に搬送され、医師や看護師の夜通し行われた懸命な手術により何とか一命をとりとめた。まだ眠っているが、時期に意識を取り戻すという。
とりあえず一安心だが、なぜ自殺しようとしていたのか。あいつが犯人ならおそらく……。
意識を取り戻したら、次にあいつがとる行動は何だろうか。
時間は、残されていない。
***
まだ夜も明けていない時間、そいつは目を覚ました。
あたりは真っ暗で何も見えない。そして、頭がずきずきと痛んでいる。
よく見ると、点滴のチューブがあたりに着けられ、入院着に着替えさせられていた。
目的を達成できず、自ら命を絶つ決意をしたのだが、どうやら失敗したようだ。それどころか、病院に搬送されてしまった。
しかし、そいつの恋人は夢の中でもしきりに止めようとしていた。
――君に、会いに行けるのに……なんで
拳を強く握る。
そいつはゆっくりと自分の身体に付けられていた機器を外した。いいところに就職したい一心で勉強したから、これくらいお手の物だった。こんな時に役に立つなんて、皮肉なものである。
しかし、あいつと格闘したときの痛みのせいで、体が思うように動かない。あいつに蹴られて、体には痣ができているのだ。
なんとか作戦は遂行できたが、思わぬ痛手を負ってしまった。
――ただ、俺は子供時代からやり直したかっただけだ。殺す気はなかった。俺は悪くない
そう言い聞かせる。
もう、この世界にとどまる意味はない。
彼は窓を開け放った。
――今から君の所に……
――どこ行くんだよ、お前
戸が開いた。
振り向くと、そこに誰かいる。
そいつらは、高校時代の雑魚の姿であった。
***
俺と椿の前に、そいつ――真犯人はいた。
電気をつけると、その姿が顕わになっていく……。
そいつは、俺たちを見て口をぽかんと開けて驚いているようだ。
無理もないだろう。昔いじめたやつが、今度は問い詰める立場になったんだから。
俺は追及を切り出す。
「お前だろ? 古川たちを殺害したのは」
――松山信成
「お前が生野の言う<あの人>だよ」
俺がそういうと、そいつ――松山信成はニヤリと口角を上げ、不気味に笑った。
「誰かと思えばゴミか。何の用だ。深夜にいきなり出てきていきなり人殺し呼ばわりって。お前、ついに頭狂ったか」
挑発的な言動に一瞬心臓の拍動が早くなるが、俺は一呼吸置いた。
「まあ、お前らからすれば俺は馬鹿だよ。気弱だし、後先考えない。そのせいで散々お前らにいじめられてきたんだから。だが、それ以上に馬鹿なのはお前だ。松山」
「なに?」
怪訝な顔をする松山に臆せず、俺は言葉を続ける。
「お前の無意味な復讐を必死になって止めようとした人がいたのに、なんでお前はその人を裏切ったんだ?」
「……」
松山は口を閉ざしたが、その目はどす黒い何かで覆われていた。
しばらくして、奴は口を開けた。
「何言ってんだ? そもそも俺は何も知らねえぞ? 古川も室伏も死んだのか? 生憎、俺はニュースを見ない主義なんでね。世間に疎いんだ」
無関係だと涼しい顔をして、白を切るつもりだ。
だが、こいつが犯人である証拠は多く見つかっている。
俺は改めて松山を追求した。
「じゃあ、なんであそこで自殺しようとしてたんだ? お前、さっきまで大谷城山に登っていただろ? そこで何をしたのか、覚えていないのか? そして、お前は窓を開けて何をしようとしてるんだ」
「ん? 換気をしようと思ってな。例のウイルスって換気しないとダメっていうだろ?」
「違うな。この病院は換気する時間が決まってるし、今はその時間じゃない」
俺は目を閉じ、一瞬心を鎮めると、奴に向かって告げた。
「お前、本気で命を絶とうとしてたんだろ? 美幸さんのもとに行きたいから。だが、大谷城山で自殺を図ったが失敗した」
「……」
「その時もお前のことを必死で説得してくれた人がいたんだよ。わからないのか?」
その言葉を聞いて、松山の身体は微動だにしない。
目の焦点が合っておらず、上の空で泳いでいる。
図星だったようだ。
「お前は、いろんな人を裏切ってる。しかも、その人を犯人に仕立て上げようともした。殺害された二人と同じく、最低クラスの馬鹿だよ」
俺が問い詰めると、松山はかすかに震え始めた。そして――
「なら……なら、その証拠を出せよ。お前は、その“美幸”ってやつのために俺があの二人を殺したって言いたいんだろ?」
「……」
「言えよ、生意気な探偵さんよ‼︎」
奴の声に怒気が混じる。いつもの気が弱い俺なら、縮こまって動けなかっただろう。
俺はもう一度、心の中で深呼吸する。
正直、うまく告発できるか不安もあった。一応、証拠はそろってきたものの、物証はまだ出ていない。
そして、自分のトークスキルであいつを自首させられるかわからなかったからだ。
だけど、時間が残されていない以上、不十分な状況でもあいつを追求するしかなかった。
椿にも考えていることを話し、二人で作戦会議を開いてどう行動するか検討したが、彼女はかなり心配していた。
――やる時はやるからさ、俺は
そういっては見せたが、椿はため息をついていた。
――まだあいつらに絡まれたときのこと反省してないの? 全然だめだったじゃない
だから事前準備が必要なのだ。
根回しするのは大変だった。樹里や彼女の母親の証言をもとに警察に匿名で情報提供をした。
もちろん、その警察の相手は堂宮刑事である。ボイスチェンジャーを使った情報提供だったので、かなり疑われたが俺は父さんから教わった方法で何とか切り抜けた。
当然、こいつを容疑者として捜査してもらうためだが、何よりも重要な証拠にこいつの指紋が付着しているかどうかが知りたかったのだ。
その証拠品のひとつには、重要なあの薬も入っている。俺はその薬のことも話した。
堂宮刑事なら……父さんの遺志を受け継いだ刑事さんなら、何か情報を教えてくれるかもしれない。
さらに、これまでの経緯からこいつがとるであろう行動を考え、病院の人にも協力をお願いした。
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