こちら、ときわ探偵事務所~人生をやり直したいサラリーマンと、人生を取り返したい女探偵の事件ファイル~

ひろ法師

文字の大きさ
75 / 85
第3章 魔王を倒した

第75話 和解

しおりを挟む
 一方、同じ頃椿と紅葉は無事に依頼人との打ち合わせを終えると、事務所への帰路についていた。昼からはリツと合流して、今日の依頼の作戦会議が開かれる。
 その前にこの時間帯になるとおなかがすいてくるのは、人間の本能なのだろう。
 椿が運転する小型車フィートは事務所に向かっていた。

「さて、帰ったらお昼にしましょうか」
「お姉ちゃん頑張ったお弁当だよね。楽しみー」

 妹の紅葉は、なぜかにやけながらルームミラーに顔を向けていた。
 椿は思わず口元を尖らせた。

「な、何よ……私がんばったんだからね」
「だから昨日の夜、台所に電気がついてたんだ」
「そろそろ一人で作れるとこ証明しなきゃ、姉として、1人の女として失格じゃない」
「へえ……誰に食べさせるの?」
「そ、それは……」

 椿の身体がなぜか熱くなる。彼女は脳に浮かぶあいつの顔を必死で振り払った。あいつのためじゃない、あいつのためじゃない!「

「も、もちろん、紅葉のため!」
「なんでそこ強調するのかなあ……」

 首をかしげて不思議そうにする紅葉。椿は言葉に詰まってしまった。

「それは……どうでもいいじゃない! もう大人なんだから、自活できるようにしないと」
「そだねー。今は男の人も料理作る家庭的な人も多いから、気にしなくてもいいかもね」
「……」

 とにもかくにも、椿が運転する小型車フィートは、探偵事務所があるアパートへと向かうのであった。

***

 アパートの駐車場に車を停めると、椿と紅葉は車外に出た。
 しかし、外のアスファルトを踏みしめた直後、椿はその場に立ちすくんだ。紅葉は見たくないものを見たのか、すぐさま車に乗り込んだ。

「……なんで、父さんがいるのよ」

 椿はそいつを見ながら、ぼそりと言った。
 そいつは姉妹の父、神原かんばらやなぎ。姉妹二人にとって常に毒を持って接してくる最悪な親だった。

「何故かって? 仕事ぶりを見に来たのだ。親が子の仕事を見学するのは、悪いことか?」
「見学を許可した覚えはないんだけど」

 椿は顔をしかめたまま、きっぱりと父親に言い放った。

「用がないなら、帰ってくれない?」

 父親はふっと目を閉じて、まるで呆れるように笑った。

「なら、帰る義理はない。わしはお前たちに用があってきたのだ」
「探偵辞めろってこと? その要求には応じないわ。前々から何度も同じこと言わせないでよ」

 椿が言い返すが、父親は表情一つ変えなかった。それどころか、余裕な笑みを浮かべている。

「その話ならここに来る必要はないであろう。電話で十分だ。逆にわしはお前たちには期待してるのだ」
「……」

 椿は何も言わなかったが、これは相手の出方を伺うためだ。この男は頭が切れる。どんな手を使って、椿や紅葉を揺さぶってくるかわからない。
 そして、柳の口からある言葉が放たれた。

「今回の事件、無事に解決に導いたそうであるな」
「……そうね。ほとんどはリツのおかげだけど」
「テレビで言っておったな……依頼人は殺されてしまったようだが、そこは重要ではない」
「何なの?」

 椿の言葉を受けると、柳は椿の後ろの車にいる紅葉に目をやった。紅葉は反射的に顔をひっこめた。

「紅葉の姿を、元に戻してやってほしい」

 父親の意外な言葉に椿は言葉をのどに詰まらせた。

「は?」
「紅葉を助けてやってくれと言っとるのだ」
「……」

 椿は戸惑いを隠せなかったが、一呼吸置くと口を開けた。
 こいつの心理を考えると絶対裏に何かを企んでいるに違いない。

「今から雪が降るのかしらね。夏も近いのに」
「おいおい、何を言っておるのだ」
「つい最近まで紅葉にあれだけひどいことをしておいて、何の風の吹き回しなのよ。こっちこそ、聞きたいわ」

 父親はあきれて両手を上げた。

「わしが言っていることは本当だ。事件を解決した、その実績を評価して、お前たちに頼んでいるのだ。娘を救えるのは、お前たちだけだ」
「……」

 俄かには信じることはできない。この男に椿達は散々な目に遭わされてきた。本気で紅葉のことを心配しているのか……。
 だが、あいつの心理はともかく、椿たちが紅葉をもとの姿に戻すため、 “人生をやり直せる薬” の謎を追っていることに違いはない。
 だから、受け入れる余地はある。しかし、釘を刺す必要もある。

「父さんの話、全然信用できないけど、考えてることはわかるわ。父さんのお願い、受け入れてあげる」
「さすが探偵をやるだけはある。金はとるのか?」

 椿はむっとした。金をとるかって……、探偵に依頼したと考えているのだろうか。そんなのどうでもいい。

「いらないわよ。これは、私たちの問題でもあるから。でも、条件を付けます。紅葉が元の姿に戻るまで、私たちには近づかないこと。連絡も寄こさないこと。進捗は私が連絡を入れるから」
「……ほう。やはりそうか」

 父親は目を閉じてため息をつく。
 しかし、その表情はどこか安堵した様子であった。

「ここに金谷君がおればよかったのに。一言伝えたかった」
「今度はリツにケチをつける気?」

 怪訝そうな椿の発言に、柳は首を横に振った。

「むしろ、お前たちや金谷君には、申し訳ないことをしたと思っておる。わしは、確かに神原家の家としての誇りに固執しておった。今も神社の存続や名家としての誇りは持っている。だが、足元を見ていなかったのも事実だ。その事実を、金谷君は気づかせてくれた」

 リツから批判されても、柳は自分の考えを変えたわけではなかった。椿はあんな生意気な若者とつるんでいるのか、それとも椿が吹き込んだのか、といい気は持っていなかった。
 しかし、事件から二週間後、神社に来客があった。それは、梔子財閥の会長であった喜之助氏だった。喜之助氏が自ら訪問することは非常に珍しく、柳は心底驚いたという。
 喜之助氏から伝えられたのは、正式に、椿と隼人の婚約は解消してほしいという申し出であった。
 事件の顛末も喜之助氏からきいた父親は、もしかしたら自分はリツが言うように、娘たちに自分の都合を押し付けていたのではないか、とこの一カ月、四六時中考えていたという。
 椿に紅葉のことを依頼したのも、本当に娘を気遣ってからの思いからだと話していた。

「神社の事とか、家の事とか、今は拘っている状況ではないと思っている。同じ血を分けた家族の、一大事だと考えておる。改めて、謝らせてくれ。申し訳なかった」

 頭を下げている父親。なぜか、父親が小さく見える。
 紅葉ちゃんも状況がいつもと違うからか、車の外に出てきた。
 椿は半信半疑でいたものの、その表情は徐々に緩くなっていった。

「そう……わかった。すぐには信じられないけど……話は分かるようね」
「いい、のか?」
「とりあえず和解ね。根本的な解決は難しいけど、いつまでもいがみ合っていても前に進めるわけじゃないから」

 そういうと椿は父親におそらく、生まれて初めて父親に見せるであろう笑顔を見せた。
 父親もそれに呼応するように笑った。

「礼を言うぞ、椿」
 (「第3章 魔王を倒した」 END)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小説探偵

夕凪ヨウ
ミステリー
 20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。  男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。  そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。  小説探偵、と。

処理中です...