10 / 31
第1章:第三迷宮【アネモイ】
追放されたけど、黄金のウサギを追いかける
しおりを挟む
「……ハァッ!」
角から現れたコボルトを一閃する。
息たえたコボルトの体は魔力へと転換され、ダンジョンへ吸収されていく。足元のに転がった魔石は拾い上げると、後ろからラクスが歩いてきた。
「これがダンジョンか…迷宮が魔物を生み出して循環させるとは不思議なシステムじゃの」
ラクスはダンジョンに来たのは初めてなようで、ダンジョンの魔物を生み出して、死ぬと魔力化してダンジョンに吸収される仕組みを不思議そうに眺めていた。
「ルークさん!向こうの方はどうでしたか?」
「あちらは行き止まりだったので、やはりルート取りはこちらで問題ないようです」
ルークさんとそのパーティー【黄金の止まり木】のメンバー達がこちらに駆け寄ってきた。彼らはこのダンジョンに入る際に話が合い、協力関係を構築することになった。
「ワートさん、すごいですね…。正直これほどまでに強いとは思っていませんでしたよ」
ルークさんは僕の動きを見てか、驚いたように話す。
「正直、ギルドにいるほとんどの冒険者がワートさんには勝てないと思いますよ。ただ、このダンジョンの特性だけは忘れないでくださいね」
–––第三ダンジョン『アネモイ』。それがこのダンジョンの名前だ。
世界には七大迷宮という2000年間攻略されていないダンジョンが存在しており、攻略ランクは最高レベルSとされている。
それぞれのダンジョンが独自の属性を司っていると言われており、この第三ダンジョン『アネモイ』は【風】属性を司るとされている。
「このダンジョンの特徴は、ダンジョン自体が成長することですもんね。マッピングができないからこその、突然のエンカウントでの対応はその剣が向いているかもです」
「成長するダンジョンって聞いた時は理解できなかったですけど、いざ潜ってみれば、その怖さが理解できますね」
ルークさんのいう通りだ。
このダンジョンは日々その様相が変化する。そのためマッピングが困難であり、攻略のたびにルートを確認しながら進む必要がある。それが、このダンジョンで最も怖い点だ。
「まだこの階層は駆け出しの冒険者もいるので、危険性は低いですけど、やっぱり油断きませんから」
ルークさんの言葉にうなずき返す。
このダンジョンは膨大な階層で構成されており、地下へ降れば降るほど魔物のレベルが上がり、攻略難易度も跳ね上がる。
そのため、マップが変わるという点を除けばデビューしたての冒険者も挑みやすいダンジョンだったりする。
「今って、50層まで攻略が進んでいるんでしたっけ?」
この2000年での、このダンジョンの攻略具合を確認すると、【黄金の止まり木】の戦闘員であるリサさんが、口を開いた。
「確か…先月、51層の攻略が完了したそうだ。前回50層が攻略されたのが1年前のことなので、リードの街も噂で持ちきりだそうだ」
2000年かけて50層しか進んでいないところを、1年で1層攻略したんだ。確かに驚くべきことだ。
「以前、王都のダンジョン研究者が発表したらしいが、この【アネモイダンジョン】は100層である可能性が高いらしい。他の七大迷宮の階層から計算するとちょうど100層になるらしいぞ」
「100層かぁー攻略するには、あと2000年は必要そうですね」
僕の言葉に【黄金の止まり木】のメンバー達は笑う。
「あ、そうだ。皆さん、この噂知っていますか?僕もさっきギルドで聞いた話なんですけど」
先ほどギルドでエリナさんから伺った話を思い出す。
「なんでも、このダンジョンに黄金のウサギが現れるらしいんですよ。そのウサギは全身が黄金で、王都で莫大な金額で討伐依頼が出てるらしいです」
「…黄金のウサギ?」
どうやらルークさんも興味あり気のようだ。
「どうやらそのウサギがこの階層あたりに出るらしいんですよ、せっかくなんで一緒に探してみませんか?」
現在は10層。エリナさん曰く、この10層~15層くらいで目撃証言が相次いでいるらしい。
「面白そうですね!ただ、いるかどうか分からないウサギを探すことを目的にすると、足元すくわれそうですね」
「確かにそうだな。主目的を魔物討伐の魔石の確保。そのウサギを見かけた者がいたら、情報共有ってことでいいのではないだろうか。ワート殿、分け前はどうする?」
リサさんの言葉に頷く。
「こればっかりは運なので、見つけたパーティーの総取りでいいんじゃないですか?」
「それでは情報提供者の貴方が不利益を被るぞ?」
「いいですよ。少し興味が湧いて、ダンジョンに来ただけなので」
僕の言葉を聞くと、ルークさんは突然僕の手をとった。
「感動しました、ワートさん!ならずものばかりだと思っていた冒険者にも貴方のような方がいたなんて…総取りなんて申し訳ない!僕たちが見つけたら、半分はワートさんにお譲りします!」
感激しましたとルークさんは僕を見つめ続け、僕の返事を待っている。こういう人は言い出したら聞かないタイプだし、素直に提案を飲んだ方がいいだろう。
了解ですと返答し、僕たちは魔物狩り、もといウサギ探しを開始した。
「本当に黄金のウサギなんているのかのぉ?」
「ほら、無駄口言ってないで魔物狩って」
ラクスは退屈そうに欠伸をすると、目の前の魔物を切り裂いた。
今日一日ラクスの戦闘を見ているけど、分かったことは彼女が恐ろしく強いということ。おそらく戦闘の際にスキルを一度も使用していないはだ。この強さは魔族だからなのか、彼女個人の脳力に因るモノなのか見当がつかない。
「しかしこのダンジョン、何か違和感があるの」
「違和感?」
形が毎日変化すること以外、僕にとっては普通のダンジョンだ。
「こう、表現は難しいが…下の方から誰かが呼んでいる気がする」
「呼んでいる気か…そういえば、ラクスを見つけたダンジョンでもダインも同じことを言っていたよね?」
右手に持った黒剣、ダインに確認してみる。
『確かにあの時は感じたが今は感じねぇな。あの時、俺たちを呼んでいたのは無意識下で助けを求めていた嬢ちゃんだったと思うが、今回は何か声とか聞こえるのか?』
「いや、聞こえぬな。呼んでいるというよりは、下の階層に惹かれるという方が正しいかもしれぬ。こう…頭の奥の方で、このダンジョンを攻略しなければならないと感じておる」
「なるほど…ということは、ラクスの失った記憶とこのダンジョンは何かの関係があるかもしれないね」
2000年攻略されていないダンジョンだ。魔大陸の外れで封印されていたラクスに関係があっても違和感はない。
「ダインとラクスも何か気がついた事があったら教えてね」
『へいへい』「承知じゃ」
ラクスの記憶を取り戻すにしても、このダンジョンを攻略するのは僕の人生を全て捧げても足りないかもしれない。2000年で50層踏破。噂によると100層あるわけだから、本当に2000年必要かもしれない。
無理かもしれないけど、ラクスのために可能な限り助力しよう。
「ん?」
視界の端に光る何かが写り込んだ。慌てて振り向き、注視すると–––黄金色に輝くウサギがそこにいた。
慌ててラクスに念話を飛ばす。
『本当にウサギが出た!行こう、ラクスっ』
『了解じゃ!』
ウサギは僕たちに気がつくと、一目散に逃げ始めた。ウサギはダンジョン中を縦横無尽に駆け巡り、なんとかして僕たちを撒こうと試みる。
『あっちだ!』
『こっちに行ったぞワート!』
二人して追いかけ続けること数十分。ウサギを袋小路に追い詰めた。
気がつくと全く知らない場所にいた。
壁や地面の色は先ほどと同じだけど、ウサギ以外の魔物はおらず、他の冒険者の声も気配もない。
「ここまで来たらもう逃げられんぞ、金ぴかウサギ!」
ラクスは、ここまでの鬼ごっこでかなりのストレスが溜まったようで、なんとしてもウサギをつかめると目をギラつかせている。
「「え、?」」
僕たちがウサギを捉えようと距離を詰めた瞬間–––ウサギは壁の中に逃げ込んだ。
「今、壁の中に入っていったよね?」
「あ、あぁ…そうじゃな…この壁入れるのか…?」
ウサギが入っていった壁に手を当てると、少し抵抗の後に壁の中に手が入っていく。
「すごい…この壁入れるよ!」
「よし、ワート。ウサギは目の前じゃ、二人で壁に入るぞ!」
二人で壁に突撃する。ゆっくりしてる間にウサギに逃げられる。
「うぇ…?」
壁に入った瞬間、視界が反転する。
何も見えないというか–––。
「––––落ちてるぅぅぅうう!?」
そうして僕たちは、七大迷宮の第三迷宮『アネモイ』の下層へと落ちていった。
角から現れたコボルトを一閃する。
息たえたコボルトの体は魔力へと転換され、ダンジョンへ吸収されていく。足元のに転がった魔石は拾い上げると、後ろからラクスが歩いてきた。
「これがダンジョンか…迷宮が魔物を生み出して循環させるとは不思議なシステムじゃの」
ラクスはダンジョンに来たのは初めてなようで、ダンジョンの魔物を生み出して、死ぬと魔力化してダンジョンに吸収される仕組みを不思議そうに眺めていた。
「ルークさん!向こうの方はどうでしたか?」
「あちらは行き止まりだったので、やはりルート取りはこちらで問題ないようです」
ルークさんとそのパーティー【黄金の止まり木】のメンバー達がこちらに駆け寄ってきた。彼らはこのダンジョンに入る際に話が合い、協力関係を構築することになった。
「ワートさん、すごいですね…。正直これほどまでに強いとは思っていませんでしたよ」
ルークさんは僕の動きを見てか、驚いたように話す。
「正直、ギルドにいるほとんどの冒険者がワートさんには勝てないと思いますよ。ただ、このダンジョンの特性だけは忘れないでくださいね」
–––第三ダンジョン『アネモイ』。それがこのダンジョンの名前だ。
世界には七大迷宮という2000年間攻略されていないダンジョンが存在しており、攻略ランクは最高レベルSとされている。
それぞれのダンジョンが独自の属性を司っていると言われており、この第三ダンジョン『アネモイ』は【風】属性を司るとされている。
「このダンジョンの特徴は、ダンジョン自体が成長することですもんね。マッピングができないからこその、突然のエンカウントでの対応はその剣が向いているかもです」
「成長するダンジョンって聞いた時は理解できなかったですけど、いざ潜ってみれば、その怖さが理解できますね」
ルークさんのいう通りだ。
このダンジョンは日々その様相が変化する。そのためマッピングが困難であり、攻略のたびにルートを確認しながら進む必要がある。それが、このダンジョンで最も怖い点だ。
「まだこの階層は駆け出しの冒険者もいるので、危険性は低いですけど、やっぱり油断きませんから」
ルークさんの言葉にうなずき返す。
このダンジョンは膨大な階層で構成されており、地下へ降れば降るほど魔物のレベルが上がり、攻略難易度も跳ね上がる。
そのため、マップが変わるという点を除けばデビューしたての冒険者も挑みやすいダンジョンだったりする。
「今って、50層まで攻略が進んでいるんでしたっけ?」
この2000年での、このダンジョンの攻略具合を確認すると、【黄金の止まり木】の戦闘員であるリサさんが、口を開いた。
「確か…先月、51層の攻略が完了したそうだ。前回50層が攻略されたのが1年前のことなので、リードの街も噂で持ちきりだそうだ」
2000年かけて50層しか進んでいないところを、1年で1層攻略したんだ。確かに驚くべきことだ。
「以前、王都のダンジョン研究者が発表したらしいが、この【アネモイダンジョン】は100層である可能性が高いらしい。他の七大迷宮の階層から計算するとちょうど100層になるらしいぞ」
「100層かぁー攻略するには、あと2000年は必要そうですね」
僕の言葉に【黄金の止まり木】のメンバー達は笑う。
「あ、そうだ。皆さん、この噂知っていますか?僕もさっきギルドで聞いた話なんですけど」
先ほどギルドでエリナさんから伺った話を思い出す。
「なんでも、このダンジョンに黄金のウサギが現れるらしいんですよ。そのウサギは全身が黄金で、王都で莫大な金額で討伐依頼が出てるらしいです」
「…黄金のウサギ?」
どうやらルークさんも興味あり気のようだ。
「どうやらそのウサギがこの階層あたりに出るらしいんですよ、せっかくなんで一緒に探してみませんか?」
現在は10層。エリナさん曰く、この10層~15層くらいで目撃証言が相次いでいるらしい。
「面白そうですね!ただ、いるかどうか分からないウサギを探すことを目的にすると、足元すくわれそうですね」
「確かにそうだな。主目的を魔物討伐の魔石の確保。そのウサギを見かけた者がいたら、情報共有ってことでいいのではないだろうか。ワート殿、分け前はどうする?」
リサさんの言葉に頷く。
「こればっかりは運なので、見つけたパーティーの総取りでいいんじゃないですか?」
「それでは情報提供者の貴方が不利益を被るぞ?」
「いいですよ。少し興味が湧いて、ダンジョンに来ただけなので」
僕の言葉を聞くと、ルークさんは突然僕の手をとった。
「感動しました、ワートさん!ならずものばかりだと思っていた冒険者にも貴方のような方がいたなんて…総取りなんて申し訳ない!僕たちが見つけたら、半分はワートさんにお譲りします!」
感激しましたとルークさんは僕を見つめ続け、僕の返事を待っている。こういう人は言い出したら聞かないタイプだし、素直に提案を飲んだ方がいいだろう。
了解ですと返答し、僕たちは魔物狩り、もといウサギ探しを開始した。
「本当に黄金のウサギなんているのかのぉ?」
「ほら、無駄口言ってないで魔物狩って」
ラクスは退屈そうに欠伸をすると、目の前の魔物を切り裂いた。
今日一日ラクスの戦闘を見ているけど、分かったことは彼女が恐ろしく強いということ。おそらく戦闘の際にスキルを一度も使用していないはだ。この強さは魔族だからなのか、彼女個人の脳力に因るモノなのか見当がつかない。
「しかしこのダンジョン、何か違和感があるの」
「違和感?」
形が毎日変化すること以外、僕にとっては普通のダンジョンだ。
「こう、表現は難しいが…下の方から誰かが呼んでいる気がする」
「呼んでいる気か…そういえば、ラクスを見つけたダンジョンでもダインも同じことを言っていたよね?」
右手に持った黒剣、ダインに確認してみる。
『確かにあの時は感じたが今は感じねぇな。あの時、俺たちを呼んでいたのは無意識下で助けを求めていた嬢ちゃんだったと思うが、今回は何か声とか聞こえるのか?』
「いや、聞こえぬな。呼んでいるというよりは、下の階層に惹かれるという方が正しいかもしれぬ。こう…頭の奥の方で、このダンジョンを攻略しなければならないと感じておる」
「なるほど…ということは、ラクスの失った記憶とこのダンジョンは何かの関係があるかもしれないね」
2000年攻略されていないダンジョンだ。魔大陸の外れで封印されていたラクスに関係があっても違和感はない。
「ダインとラクスも何か気がついた事があったら教えてね」
『へいへい』「承知じゃ」
ラクスの記憶を取り戻すにしても、このダンジョンを攻略するのは僕の人生を全て捧げても足りないかもしれない。2000年で50層踏破。噂によると100層あるわけだから、本当に2000年必要かもしれない。
無理かもしれないけど、ラクスのために可能な限り助力しよう。
「ん?」
視界の端に光る何かが写り込んだ。慌てて振り向き、注視すると–––黄金色に輝くウサギがそこにいた。
慌ててラクスに念話を飛ばす。
『本当にウサギが出た!行こう、ラクスっ』
『了解じゃ!』
ウサギは僕たちに気がつくと、一目散に逃げ始めた。ウサギはダンジョン中を縦横無尽に駆け巡り、なんとかして僕たちを撒こうと試みる。
『あっちだ!』
『こっちに行ったぞワート!』
二人して追いかけ続けること数十分。ウサギを袋小路に追い詰めた。
気がつくと全く知らない場所にいた。
壁や地面の色は先ほどと同じだけど、ウサギ以外の魔物はおらず、他の冒険者の声も気配もない。
「ここまで来たらもう逃げられんぞ、金ぴかウサギ!」
ラクスは、ここまでの鬼ごっこでかなりのストレスが溜まったようで、なんとしてもウサギをつかめると目をギラつかせている。
「「え、?」」
僕たちがウサギを捉えようと距離を詰めた瞬間–––ウサギは壁の中に逃げ込んだ。
「今、壁の中に入っていったよね?」
「あ、あぁ…そうじゃな…この壁入れるのか…?」
ウサギが入っていった壁に手を当てると、少し抵抗の後に壁の中に手が入っていく。
「すごい…この壁入れるよ!」
「よし、ワート。ウサギは目の前じゃ、二人で壁に入るぞ!」
二人で壁に突撃する。ゆっくりしてる間にウサギに逃げられる。
「うぇ…?」
壁に入った瞬間、視界が反転する。
何も見えないというか–––。
「––––落ちてるぅぅぅうう!?」
そうして僕たちは、七大迷宮の第三迷宮『アネモイ』の下層へと落ちていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
31
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる