悪役令嬢の腰巾着に転生したけど、物語が始まる前に追放されたから修道院デビュー目指します。

火野村志紀

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20.グライン公爵

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「……私の部下たちはこのことを見逃しただけではなく、修道女たちが娼館に送られようとしているのを放置していたのか。貴様らのような下賤な輩たちによって」

 レイスよりも更に背の高い壮年の男が、隠し部屋の中央に固まって項垂れているアデーレたちに向かって怒りと嫌悪を滲ませた声で言い放った。

 テオドールとレイスの父親であるグライン公爵である。
 レイスが「少し待っていてください」と忍者のように姿を消したかと思えば、一分後に父親の肩をがっしり掴んで再び現れたのだ。
 ろくに説明もなく連れて来られたのか、公爵は混乱した様子だったが、隠し部屋の惨状を目の当たりにしてすぐに表情を変えた。

「お、お許しください、公爵様。ほんの悪心だったのです。恐ろしい魔物が私どもに『堕落せよ』と囁き、正気を失っていただけで……」
「黙れ。貴様らが行ったことは神に対する背徳行為だ。改心の機会すら与えようとすら思わん」

 アデーレがどうにか許しを乞おうとするも、むしろ更に怒らせてしまい、厳しい言葉を返されるだけだった。
 そうしている間にも、隠し部屋に続々と兵士が入ってきて、アデーレたちの腕を後ろ手に縛り上げていく。彼らは公爵の指示を受けたレイスが呼んだらしい。

「父上、宝石店や男娼専門の娼館に提出してもらった請求書の写しもあります。後ほど目を通していただけますか?」
「あ、ああ」
「請求先はグライン公爵家やナヴィア修道院ではなく、個人名にするだろうと思っていましたからね。アデーレ、もしくは上級修道女の名前で調べてもらったらすぐに出てきました。修道院に行ったと証言してくれた男娼もいましたよ」
「……よくナヴィア修道院の腐敗をここまで暴いたな」

 息子を褒めながらも、その行動力に公爵は驚き、

「部下は大方、修道院の一つや二つどうでもいいと楽観的に考えていたのだろう。全く恐ろしい考えをするものだ」
「父上、それだけですか?」
「……分かっている。これは殆ど・・を奴らに任せていた私の責任でもある」

 彼は嘆息すると、隅で二人のやり取りを眺めていた私に視線を向けた。

「君が息子に協力してくれたという修道女か。私からも礼を言おう。そして君たちの居場所を奪おうとして申し訳なかった」
「い、いえ、私のような者には勿体ないお言葉でございますので」

 そんな大物に感謝されると、畏れ多くてかえって萎縮する。
 それに、礼よりも先に聞きたいことがある。

「あの、修道院はやはり取り壊しになってしまうのでしょうか?」
「いいや、その話は当然なしだ」

 よかった。最悪の事態は避けられた。
 安堵で体から力が抜けていく。

「大丈夫ですか、リグレット嬢」

 そんな私をレイスが優しく抱き止めた。爽やかな香水の香りがする。
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