悪役令嬢の腰巾着に転生したけど、物語が始まる前に追放されたから修道院デビュー目指します。

火野村志紀

文字の大きさ
67 / 96

67.祈りの時間

「初めてベルを作られたのでしょう? 失敗は誰にもあることですし……」

 アントワネットがすごく気を遣ってくれて心が痛い。
 だけど無理がありすぎる。ベルを想像したら鍵が出来るってどうなってんだ。脳から情報が正常に伝達されていないじゃないか……。
 ワンモアッ。ワンモアベル作りッと思っていると、広場にこの村の村長らしきお爺さんが現れて、

「これより祈りの時間を始めます。皆様、ベルを握り締めて平和への祈りを捧げてください」

 祈りから逃れられない……!!
 仕方ないので鍵を握って瞼を閉じることに。しかし本当にこの鍵、何用だ?
 家の鍵にしては小さいし、これはどちらかと言えば……。

「さあ、目を開けてください」

 一分間の黙祷が終わったので目を開けると、広場の中心に巨大な鼈甲の塊が置かれていた。あれは琥珀だ。多分高さは5メートルほどあるだろう。
 琥珀の中には蛇のような見た目の化け物が入っていた。その禍々しい姿に、悲鳴を上げる者もいる。
 風習なんだろうが、楽しいバザーで何ておっかない物をご披露するのだ。突然の魔物にびっくりした子供たちが泣き叫ぶ。
 が、慣れているようで村長はニコニコと笑いながら「ご安心ください」と言った。

「この琥珀は、土属性魔法で作り出された巨大かつ強力な封印石です。この封印を解くには光属性魔法で──皆様どうされました?」

 怪訝そうな顔をする私たちに向かって、村長が首を傾げる。
 村長は化石の前に立っているので分からないのだ。──琥珀に大きなヒビが入り始めていることに。
 ついでに言うなら、中の魔物が不穏な動きをしている。まるで琥珀の外へ出ようとしているような……。
 怯えて逃げ出す人も現れ始め、村長が慌てた様子で後ろを振り返ったと同時に、

 パァンッ! と音を立てて琥珀が砕け散った。

「馬鹿な……! 何故封印が解け──」

 村長の言葉は最後まで続かなかった。というより聞こえなかった。
 魔物が口を大きく開けて咆哮を上げたのだ。それが「おはようございます!」なのか、「よくも長い間閉じ込めてくれたな。絶対許さんぞ」なのかは……まあ後者だろう。ブゥンと嫌な風切り音を上げながら長い尻尾を振り回した。
 それはいくつかの民家に直撃して、屋根が吹き飛ばされたり壁に大穴が開いてしまった。

「キャアアアアッ!」

 誰かが叫んだ途端、皆一斉にパニックを起こした。その場から走り出す者。その場に留まって甲高く叫び続ける者。中には失神して倒れてしまった者もいる。

 封印……解けとるやないかい!!

 実は内心、魔物の封印が解けて大暴れされそうな予感はしていた。
 絶対大丈夫みたいな空気感を出されると、どうしてもこう何かやらかすんじゃ……と勘繰ってしまうのだ。多分エメリーア神だって「やらかすで」と神のお告げをリリースするのでは。
 猿やら猪やら狸やらとはレベルが違う。とんでもない奴が復活してしまった……と呆然としていると、魔物が私たちの店目掛けて突っ込んできた。

「みんな早く逃げて!」

 私もそう叫びながら店から離れようとした矢先、最悪なことが起こった。

「アントワネット様……!」

 メロディのすぐ側にいたアントワネットが蛇に咥えられて、連れて行かれてしまったのだ。
 幸いなのは横向きに咥えている状態なので、すぐに丸飲みはしそうにない。魔物は食べることには興味がないのか、その長すぎる尾を鞭のように振り回して民家や屋台を壊しまくっている。
 もちろん、彼らがこれを黙って見ているわけがない。

「ジュリアン様、お下がりください! 危険です!」
「僕は下がらない! 今度こそ彼女を救ってみせる!」

 護衛兵の制止を振り切って、ジュリアンが自分の周りに水球をたくさん浮かべ、そこから水鉄砲のようなものを発射する。
 全て尻尾に弾き飛ばされてしまったけれど。

「ちぃ……っ!」

 ジンも大剣を構えて尻尾を斬りつけようとするものの、やっぱり地上からだと難しい。

「ジン団長! お得意の魔法であの魔物に落雷を落としてやりましょうよ!」
「あぁ!? そんなことをしたら、あの修道女まで巻き添えを喰らうだろうが! まずはテメェに雷落とすぞコラァ!」
「し、失礼しました!」

 護衛兵がジンにマジ切れされている。私だって切れるかもしれない。
 だけど現状で一番有効な手と言えば、それしかないのかもしれない。だからアントワネットをどうにか助ける必要があるのだけれど、あんな高いところまでどうやって行くっていうのだ。空を飛ぶ魔法なんて流石にないだろうし。

「ああ、何ということだ……まさか魔物が蘇ってしまうとは……」

 村長は項垂れてブツブツ呟いていた。大丈夫かな、あの爺さん。いい加減誰か避難させてやらんかね……と思っていると、ジンが村長の肩を掴んで揺さぶった。

「おい、村長! 青玉の馬とやらを出せ!」

 



感想 429

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。