悪役令嬢の腰巾着に転生したけど、物語が始まる前に追放されたから修道院デビュー目指します。

火野村志紀

文字の大きさ
75 / 96

75.アントワネットにとって(前)

 アリスにとってこの世界は美しくほの暗い世界だった。
 生まれながらにして高貴な存在であったアリスだったが、決して驕らないようにと家庭教師から常に言われていた。自らの権力や能力を過信し、溺れることは身の破滅を招き、全てを失ってしまうのだと。
 幼かった頃のアリスはその忠言の意味がよく分からなかったが、「みんなにきらわれる」ということだけは感じ取ることができた。
 なので毎日勉学に励み、他者を気遣うような言動を心掛けていた。

 苦痛に感じることはなかった。
 元々知識欲旺盛だったアリスにとって、新しい何かを知ることが出来る勉強は楽しい時間だった。
 他人に優しく接すれば、向こうもアリスに優しくしてくれる。
 魔法を使えるからと言って自慢することも、無暗に使うことしなかった。それらも家庭教師の教えによるものだ。
 おかげで、父や兄から「いい子だ」といつも褒められていた。城の使用人や文官からも「幼いのに素晴らしい姫様だ」と言葉をかけられていた。

 けれど皆がアリスを認めてくれるわけではなかった。

「どうして私に似なかったあなたが好かれるんでしょうね。不思議で仕方ないわ」

 王妃である母親はアリスと顔を合わせる度に、顔を歪めながら嫌味を言ってくる。

「妹のくせに生意気な子。普通は姉の引き立て役に徹するものでしょう?」

 第一王女である姉からも睨まれて、鋭利な言葉を浴びせられる。

 どれだけ正しく生きようとしても、アリスを毛嫌いする人間はいる。しかもよりにもよって血の繋がった実の家族に。
 嫌っている理由が『存在そのもの』だと言われてしまえば、どうしようもない。アリスは二人からの敵意を受け入れるしかなかった。
 父が「つまらない嫉妬はやめろ」と母と姉を叱責しても効果がなく、いつしか会話をする機会すらなくなった。いや正確に言えば、父が二人を離宮へ追いやって物理的にアリスから遠ざけたのだ。それはやりすぎではとアリスは意見したものの、兄は苦い表情でこう返した。

「こうするしかないんだよ。……僕も二人に会いに行って話はしてみるけれどね」



 母と姉が追放のような扱いを受け、アリスは平穏な日々を過ごせるようになった。
 それに大切な人もできた。

「先程訓練場に猫の親子が迷い込んだんですよ。皆可愛くて……アリス姫にも見せてあげたかったなぁ」
「ジン様は猫がお好きなのですか?」
「はい。両親がまだ生きていた頃に飼っていたんですよ」

 エレナック村出身の若い騎士で、騎士団長との模擬戦闘で勝利する程の腕前の持ち主だった。その上、雷属性の魔法を使えるとあって、将来を嘱望されていた。
 けれどこうして話してみると素朴な青年で、彼が時折見せる素朴な笑顔がアリスは好きだった。

 この先の人生を彼とともに歩めたらどんなに幸せだろう。
 そんな想いに気づいたのか、国王はその騎士にアリスの伴侶にならないかと話を持ちかけた。その話を騎士本人から聞かされた時は、目眩を起こして倒れそうになったが彼が咄嗟に支えてくれた。
 そしてそのまま強く抱き締められ、

「私は……いえ、俺はあなたとともに生きていきたいと思っています」

 彼の熱を帯びた言葉に嬉しいはずなのに涙が零れた。
 愛した人と結ばれる。それがどれだけ幸せなことなのか、その日アリスは生まれて初めて知った。

 だが二人の未来は、血と憎悪によって踏みにじられることとなる。





感想 429

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。