悪役令嬢の腰巾着に転生したけど、物語が始まる前に追放されたから修道院デビュー目指します。

火野村志紀

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93.残されたもの

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「リグレット様、いきますよ」

 レイスが転移魔法を発動させる。
 ぐにゃりと歪む視界。奇妙な浮遊感。
 私たちが外へ脱出すると、修道女たちが一斉に駆け寄って来た。

「リグレット様、レイス様。よくぞご無事で……」
「この通りピンピンしていますよ。ね、レイス様……レイス様?」

 レイスの様子がおかしい。
 呆然とした表情で、自分の右手を見下ろしているのだ。
 な、なんだ? 強大な力に目覚めたとか?
 心配になって声をかけようとするけれど、レイスがハッとした様子で我に返るほうが先だった。
 そして、私へ視線を向けると、

「はい。皆様が無事でよかった。……本当に」

 そう安堵の笑みを浮かべるのだった。




 さて、その後。火事は駆けつけた兵士たちによって無事鎮火。
 ただし懸命な捜索にも拘わらず、焼け跡からブランシェと院長を発見することはできなかった。
 今も二人は行方不明のまま。……というより院長に関しては、妙な話が出ている。
 院長が元々いた修道院に連絡すると、

「うちの者がそちらの院長に? 何のことでしょうか……?」

 とまあナヴィア修道院に修道女を送った覚えはないと、首を傾げられてしまったのだ。
 これには、グライン公爵もびっくりである。
 院長の手配は書面上で行われたはずなのに、その手紙が双方ともに何故か消失していた。

 院長の行方だけではなく、素性さえ分からないという事態に騒然とする私たち。
 一方向こうの修道院でも、暫く前に大事件が発生していた。
 祈りの間に置かれているエメリーア神の石像(2メートル越え)が、突如盗難に遭ったのだとか。
 そしてナヴィア修道院が燃えた日の夜に、何事もなかったかのように戻っていたらしい。




 キューギスト侯爵は可愛い娘が行方不明となり、大層心を痛めて……はいなかった。
 むしろ顔を真っ赤にして激おこである。

「あの馬鹿娘をとっとと捜し出せ。あれのせいでキューギスト家の面目は丸潰れだ。その責任を取らせなければ、私の気が済まん……!」

 キューギスト家はブランシェのせいで、結構大変なことになっていた。
 私としても色々話を聞きたいので、ブランシェにはカムバックして欲しい気持ちがある。



「リグレット様、あなたにもこれを読む権利があるかと思います」

 レイスが一冊のノートを私に貸してくれたのは、火事から約三週間後。
 他の修道女と一緒に、グライン邸でお世話になっている時のことだった。

「これは……?」
「ブランシェ嬢の日記です。彼女の部屋から発見されました」

 えっ、マジで?
 早速中を開くと、1ページからゲームの世界に転生して大はしゃぎな内容だった。
 私なんてヤンデレワールドの住人になって絶望していたんだけどな。ポジティブが過ぎる。

 その後も逆ハー実現の野望に向けて、ノリノリであれこれやっていたようだけれど、ある出来事がきっかけで計画に狂いが生じ始める。
 ナヴィア修道院閉院の撤回。
 イレネーがリーゼと恋に落ちる鍵となるのは、元婚約者への罪悪感と喪失感。なのにそれが大分和らいでしまった。

 リーゼを悲しみに暮れるテオドールに接近させるため、レイスの毒殺を目論んだけれど、これも大失敗。
 しかもレイモンドは他国へGO。

 そしてトドメの魔物暴走事件。
 逆ハーエンド達成どころか、ヒロインがブタ箱行きになってしまった。
 追い込まれたブランシェはリセット・・・・するついでに、私をぶち殺すと決めたらしい。人をそんなノリで殺そうとすんな。

「……ノート、ありがとうございました」

 読みきるのに1000カロリーくらい消費した気がする。
 げんなりしつつノートをレイスに返すと、彼は物言いたげな顔で私を見ていた。

「私に何か?」
「あなたはブランシェ嬢と同じ……いえ、なんでもありません」

 何かを言いかけて、首を横に振る。
 レイスは私とブランシェの会話を聞いている。
 だから質問したいことが山ほどあるだろうに……

 それに一瞬、寂しそうな表情を見せたのも気になった。
 
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