私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。

火野村志紀

文字の大きさ
9 / 33

9.シャーラ

 私とエレナが固まっていると、女性は人差し指を立てて自らの正体を明かした。

「私の名前はシャーラ。……ラナン家のシャーラって聞けば、神官のあなたなら分かると思うけれど?」
「え……っ!?」

 驚愕する私を見て、エレナが不思議そうに首を傾げる。

「この美人さんって有名人なの? 今日初めてうちに来たお客様なんだけど……」
「有名人も何も……火の神の神官長だよ!」

 ただでさえ火の神の神官は、この国で一、二を争うほどの権力を誇っている。
 その中でもトップの存在に当たるのが、代々神官長を輩出し続けてきたラナン家。
 私は慌ててその場にひざまずこうとしたけれど、

「ああ、私そういう過剰な対応をされるのが苦手なの。何だか気まずくなっちゃうというか」

 と苦笑交じりのシャーラ様に止められてしまった。

「そんなことより、さっきの話をしましょうか。実はうちってたくさん別荘を持っていて、私は今その一つでのんびり過ごしているの。よかったら、そこで一緒に暮らさない?」
「い、一緒に暮らす……? 私がですか?」
「正確には住み込みで働いてもらう、かしら。ちょうど私の世話をしてくれていたメイドが結婚して辞めてしまって、新しい人を募集していたの。もちろん、無給とは言わないわ。給金も出してあげる」

 住み込みで働かせてもらえるだけじゃなくて、お金まで貰える。それに火の神の神官長相手なら、お義母様たちも強く出ることはできない。
 今の私の悩みを全て解決できる夢のような話に、すぐにでも飛びつきたくなってしまった。
 だけど、あまりにも私に都合がよすぎる。

「えっと……何故シャーラ様は私のために、そこまでしてくださるのですか?」
「嫌がらせよ」
「え?」
「私、嵐の神の神官が大嫌いなのよ。どいつもこいつも野蛮で傲慢。神格の低い神を見下して、『自分たちが嵐の神を封じているおかげで、この国は安泰なんだ』って思い込んでいる。だから、そいつらの嫌がることをしてやりたい。ただそれだけ」

 セレスタンもそこに含まれているのだろうか。彼は花の神を『美しいものを与えてくれる神』と言ってくれたのだけれど。
 でも、今は自分のことだけを考える。そう決めて私はシャーラ様に頭を下げた。

「シャーラ様、私一生懸命頑張りますのでよろしくお願い致します!」
「こちらこそよろしく。ええと……」
「私はアンリエッタと申します」
「そう。いい名前ね、アンリエッタ」

 シャーラ様は穏やかに微笑みながら、そう褒めてくれた。
 私も顔を上げて微笑み返していると、いつの間にか店内の様子を見に行っていたらしいエレナがうんざりした様子で戻って来た。

「やっぱあんたを店の奥に引っ込めておいて正解だったわ」
「エレナ、何かあったの?」
「セレスタンの家の奴らが、あんたを探しに来てたんだって。店長も客も知らない振りをしたみたいだけど」
「…………」

 やっぱりお義母様は私を連れ戻すつもりなんだ。
 だけど、どうして? 私を心の底から嫌っていたお義母様にとっては、私なんてそのままいなくなってしまったほうが都合がいいはずなのに……。
 私がボロボロになるまで虐めたいから? それとも他に理由が……?



 
感想 182

あなたにおすすめの小説

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…

藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。 契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。 そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。 設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全9話で完結になります。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。