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10.セレスタン①
二週間続いた儀式も本日ようやく終わりを迎え、俺は直ぐ様神殿を出た。先程日付が変わったばかりで、街は酔っ払いどもの巣窟と化している。
仲間からは今夜はもう寝て、明日の朝すぐに帰ればいいじゃないかと言われたが無視した。アンリエッタが待っているからだ。
今年もアンリエッタを儀式に参加させることはできなかった。愛する人と一緒なら、こちらの活力も湧くのに花の神の神官というだけで……。
アンリエッタには母さんと父さんがついているから寂しくなかっただろうが、俺は憂鬱な毎日を過ごしていた。
一日に数回与えられる休憩時間。その時にアンリエッタがいてくれたらと何度思ったことか。俺が既婚者だと知っていながら群がって来る女どもをあしらうのにも神経をすり減らした。
それに今年は、封印が解けかかるという事態にも見舞われた。
引退した神官たちの助力も得て、どうにか鎮めることができたが、父さんの手を借りる形になってしまった。俺たちの力不足だと謝りたかったが、そんな余裕すらなかった。
だがそんな日々からもようやく解放された。
アンリエッタと再会したら、まずは彼女を朝まで抱きたい。少し無理をさせてしまうかもしれないが、優しい彼女なら慈愛の笑みを浮かべて受け入れてくれるだろう。
そう考えると、鉛のように重かった足取りも軽快なものとなる。
「……ん?」
正門の鍵を開けて屋敷に帰って来ると、広間の明かりがついていることに気づいた。
母さんたちがまだ起きているのだろうか。だがまあ、起こしてしまうかもしれないと心配する必要もなくなった。
……と思いながら広間に向かうと、両親の会話が耳に入って来た。
「しかし困ったな。遅くても明日の昼には、セレスタンが帰って来る」
「もう。あなたがあそこでさっさと縛っておけば、逃がすこともなかったのに」
「私のせいにするな。もう少し早く薬を飲ませておかなかったお前にも責任があるんだぞ」
「まあ! 妻に責任を押し付けるなんて!」
「いや、元はと言えばお前があんなことをしようと言い出したのが……」
「あなただってあんなに楽しそうだったくせに! どうせ触るだけじゃ済ませなかったでしょう?」
「そんなの当たり前じゃないか。どれだけ貧相な体をしていても……お、おい」
父さんが広間の前で立っていた俺に気づいて、言葉を止める。母さんもハッとした表情で俺を見ている。
今の会話を俺に聞かれたらまずかったのだろうか。不穏な内容だったが……。
「ただいま、二人とも。何の話をしていたんだ?」
「お……おかえりなさい、セレスタン。あのね、あなたがいない間、庭園に野犬が迷い込んじゃって大変だったのよ。何とか捕まえようとしたんだけど、結局逃がしちゃって」
「大変って……楽しそうとか言ってなかったか?」
「やだわ。言ってないわよ、そんなこと! 疲れていて、聞き間違えたんじゃないの?」
それはそうかもしれない。アンリエッタに会いたい一心で、疲弊した体に鞭を打って帰ってきたのだから。
だが野犬か……。
「アンリエッタは噛まれなかったか?」
「えっ、ええ。あの子なら心配ないわよ。ねえ、あなた?」
「か、母さんの言う通りだ。はは……」
ぎこちなく笑う両親を不思議に思いながら、俺は自分たちの寝室に向かった。
目を覚ましたアンリエッタは俺の姿を見たら何と思うだろうか。寝惚けて夢の中で俺が会いに来てくれたと可愛い勘違いをするかもしれない。
甘い幸福感に包まれながら、俺は部屋のドアを開けた。
「……アンリエッタ?」
薄暗い室内を進んでベッドに近づくと、大きな膨らみがなく平らな状態になっていることに気づいた。
明かりを点けてクローゼットを開けたり、ベッドの下を覗き込んだりしたが、アンリエッタの姿がどこにも見当たらない。
ドクン、ドクン……と心臓が鼓動を速める。
部屋の真ん中で呆然と立ち尽くしていると、
「セレスタン、あなたに言わなくちゃいけないことがあるの……」
今にも泣きそうな顔をした母さんが部屋の前に立っていた。
仲間からは今夜はもう寝て、明日の朝すぐに帰ればいいじゃないかと言われたが無視した。アンリエッタが待っているからだ。
今年もアンリエッタを儀式に参加させることはできなかった。愛する人と一緒なら、こちらの活力も湧くのに花の神の神官というだけで……。
アンリエッタには母さんと父さんがついているから寂しくなかっただろうが、俺は憂鬱な毎日を過ごしていた。
一日に数回与えられる休憩時間。その時にアンリエッタがいてくれたらと何度思ったことか。俺が既婚者だと知っていながら群がって来る女どもをあしらうのにも神経をすり減らした。
それに今年は、封印が解けかかるという事態にも見舞われた。
引退した神官たちの助力も得て、どうにか鎮めることができたが、父さんの手を借りる形になってしまった。俺たちの力不足だと謝りたかったが、そんな余裕すらなかった。
だがそんな日々からもようやく解放された。
アンリエッタと再会したら、まずは彼女を朝まで抱きたい。少し無理をさせてしまうかもしれないが、優しい彼女なら慈愛の笑みを浮かべて受け入れてくれるだろう。
そう考えると、鉛のように重かった足取りも軽快なものとなる。
「……ん?」
正門の鍵を開けて屋敷に帰って来ると、広間の明かりがついていることに気づいた。
母さんたちがまだ起きているのだろうか。だがまあ、起こしてしまうかもしれないと心配する必要もなくなった。
……と思いながら広間に向かうと、両親の会話が耳に入って来た。
「しかし困ったな。遅くても明日の昼には、セレスタンが帰って来る」
「もう。あなたがあそこでさっさと縛っておけば、逃がすこともなかったのに」
「私のせいにするな。もう少し早く薬を飲ませておかなかったお前にも責任があるんだぞ」
「まあ! 妻に責任を押し付けるなんて!」
「いや、元はと言えばお前があんなことをしようと言い出したのが……」
「あなただってあんなに楽しそうだったくせに! どうせ触るだけじゃ済ませなかったでしょう?」
「そんなの当たり前じゃないか。どれだけ貧相な体をしていても……お、おい」
父さんが広間の前で立っていた俺に気づいて、言葉を止める。母さんもハッとした表情で俺を見ている。
今の会話を俺に聞かれたらまずかったのだろうか。不穏な内容だったが……。
「ただいま、二人とも。何の話をしていたんだ?」
「お……おかえりなさい、セレスタン。あのね、あなたがいない間、庭園に野犬が迷い込んじゃって大変だったのよ。何とか捕まえようとしたんだけど、結局逃がしちゃって」
「大変って……楽しそうとか言ってなかったか?」
「やだわ。言ってないわよ、そんなこと! 疲れていて、聞き間違えたんじゃないの?」
それはそうかもしれない。アンリエッタに会いたい一心で、疲弊した体に鞭を打って帰ってきたのだから。
だが野犬か……。
「アンリエッタは噛まれなかったか?」
「えっ、ええ。あの子なら心配ないわよ。ねえ、あなた?」
「か、母さんの言う通りだ。はは……」
ぎこちなく笑う両親を不思議に思いながら、俺は自分たちの寝室に向かった。
目を覚ましたアンリエッタは俺の姿を見たら何と思うだろうか。寝惚けて夢の中で俺が会いに来てくれたと可愛い勘違いをするかもしれない。
甘い幸福感に包まれながら、俺は部屋のドアを開けた。
「……アンリエッタ?」
薄暗い室内を進んでベッドに近づくと、大きな膨らみがなく平らな状態になっていることに気づいた。
明かりを点けてクローゼットを開けたり、ベッドの下を覗き込んだりしたが、アンリエッタの姿がどこにも見当たらない。
ドクン、ドクン……と心臓が鼓動を速める。
部屋の真ん中で呆然と立ち尽くしていると、
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今にも泣きそうな顔をした母さんが部屋の前に立っていた。
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