11 / 33
11.セレスタン②
しおりを挟む
アンリエッタが買い物に出て行ったきり、帰ってきていない。母さんにそう告げられ、俺の頭の中は真っ白になった。……が、すぐに我に返り、母さんの肩を掴む。
「それはいつの話だ!?」
「一週間前よ……すぐにあなたに教えようか迷ったのだけれど、神官としての役目を果たしているあなたにこんなこと伝えられないと思って……」
確かに儀式の合間にそんなことを教えられていたら、俺は職務を放棄していただろう。
だが、アンリエッタは何故行方を晦ませた? 何故俺に何も言わずに屋敷を出て行った?
「ねぇ、セレスタン。あまりこういうことは考えたくないけれど……もしかしたら誘拐されたのかも」
「誘拐!?」
「アンリエッタはとっても可愛くて優しい子よ。だから無理矢理奪い取ろうって考える人間はいくらでもいると思うの」
「もしそうだったら、すぐに探しに行かなければ……!」
怒りと焦りに突き動かされ、屋敷から出ようとすると母さんに止められた。
「お、落ち着きなさい、セレスタン! 今は夜中よ。それに捜索隊にはとっくに要請しているわ!」
「そんな連中だけに任せられるか! 俺がアンリエッタを探し出す!」
「……お前の気持ちはよく分かる。だがせめて明日にするんだ。今は法力を消耗して疲れた体を休ませることに専念しろ」
騒ぎを聞きつけてやってきた父さんにそう諭され、俺は唇を噛み締めた。
今こうしている間もアンリエッタは苦しんでいるだろうに、俺だけが休息を取るなど……。ただこの状態で街を駆け回れる自信はない。
悔しいが、まずは体を休ませなければ。いざという時に倒れたら、アンリエッタを救えなくなる。
しかし瞼を閉じても、アンリエッタの泣き腫らした顔ばかりを思い浮かべてしまい全く眠れない。そこで母さんが常時している睡眠薬を数粒分けてもらった。
すると抗いがたい睡魔に襲われ、俺はようやく眠ることができた。
それから俺はアンリエッタの行方を探すため、毎日街を駆け回った。だが有力な手がかりを見つけることはできず、肩を落として屋敷に帰るばかりだ。
可能性は低いが、誘拐ではなくアンリエッタが自発的に姿を消したのだとしたら、彼女が行く場所は限られている。
その内の一つである花の神の神殿にも行ってみたが、来ていないの一点張り。
アンリエッタの両親がなくなっているのが悔やまれる。
もし二人とも存命だったらアンリエッタは真っ先に実家に駆け込んでいて、見つけるのも容易だったろう。両親がいなくなったことで、俺の両親との絆も深まると思っていたのだが。
「あとは……」
心当たりが一つある。俺は縋るような気持ちで『あの店』に向かった。
「アンリエッタ? 知らないよ。二週間くらい前に会ってからそれきり」
エレナは突き放すような物言いでそう答えた。
その答えに俺は唇を噛み締める。アンリエッタが以前働いていた店。彼女の親友であるエレナもいる。だからここを頼るかもしれないと期待していたのだが、無駄足に終わったようだ。
アンリエッタ……本当にどこへ行ってしまったんだ。ふらつきながら店を出る。
太陽の眩しさが目に沁みる。忌々しい光が逃れるように俯いた時だった。
「……ん?」
石畳の溝に何か光るものが挟まっている。
『それ』の正体を確かめようと目を凝らし、息を呑んだ。
どうして俺がアンリエッタに贈ったネックレスがこんなところに落ちているんだ!?
俺は激怒しながら再び店の戸を開いた。
「それはいつの話だ!?」
「一週間前よ……すぐにあなたに教えようか迷ったのだけれど、神官としての役目を果たしているあなたにこんなこと伝えられないと思って……」
確かに儀式の合間にそんなことを教えられていたら、俺は職務を放棄していただろう。
だが、アンリエッタは何故行方を晦ませた? 何故俺に何も言わずに屋敷を出て行った?
「ねぇ、セレスタン。あまりこういうことは考えたくないけれど……もしかしたら誘拐されたのかも」
「誘拐!?」
「アンリエッタはとっても可愛くて優しい子よ。だから無理矢理奪い取ろうって考える人間はいくらでもいると思うの」
「もしそうだったら、すぐに探しに行かなければ……!」
怒りと焦りに突き動かされ、屋敷から出ようとすると母さんに止められた。
「お、落ち着きなさい、セレスタン! 今は夜中よ。それに捜索隊にはとっくに要請しているわ!」
「そんな連中だけに任せられるか! 俺がアンリエッタを探し出す!」
「……お前の気持ちはよく分かる。だがせめて明日にするんだ。今は法力を消耗して疲れた体を休ませることに専念しろ」
騒ぎを聞きつけてやってきた父さんにそう諭され、俺は唇を噛み締めた。
今こうしている間もアンリエッタは苦しんでいるだろうに、俺だけが休息を取るなど……。ただこの状態で街を駆け回れる自信はない。
悔しいが、まずは体を休ませなければ。いざという時に倒れたら、アンリエッタを救えなくなる。
しかし瞼を閉じても、アンリエッタの泣き腫らした顔ばかりを思い浮かべてしまい全く眠れない。そこで母さんが常時している睡眠薬を数粒分けてもらった。
すると抗いがたい睡魔に襲われ、俺はようやく眠ることができた。
それから俺はアンリエッタの行方を探すため、毎日街を駆け回った。だが有力な手がかりを見つけることはできず、肩を落として屋敷に帰るばかりだ。
可能性は低いが、誘拐ではなくアンリエッタが自発的に姿を消したのだとしたら、彼女が行く場所は限られている。
その内の一つである花の神の神殿にも行ってみたが、来ていないの一点張り。
アンリエッタの両親がなくなっているのが悔やまれる。
もし二人とも存命だったらアンリエッタは真っ先に実家に駆け込んでいて、見つけるのも容易だったろう。両親がいなくなったことで、俺の両親との絆も深まると思っていたのだが。
「あとは……」
心当たりが一つある。俺は縋るような気持ちで『あの店』に向かった。
「アンリエッタ? 知らないよ。二週間くらい前に会ってからそれきり」
エレナは突き放すような物言いでそう答えた。
その答えに俺は唇を噛み締める。アンリエッタが以前働いていた店。彼女の親友であるエレナもいる。だからここを頼るかもしれないと期待していたのだが、無駄足に終わったようだ。
アンリエッタ……本当にどこへ行ってしまったんだ。ふらつきながら店を出る。
太陽の眩しさが目に沁みる。忌々しい光が逃れるように俯いた時だった。
「……ん?」
石畳の溝に何か光るものが挟まっている。
『それ』の正体を確かめようと目を凝らし、息を呑んだ。
どうして俺がアンリエッタに贈ったネックレスがこんなところに落ちているんだ!?
俺は激怒しながら再び店の戸を開いた。
115
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。
クロユキ
恋愛
「君には悪いけど、彼女が身籠る間の妻でいて欲しい」
平民育ちのセリーヌは母親と二人で住んでいた。
セリーヌは、毎日花売りをしていた…そんなセリーヌの前に毎日花を買う一人の貴族の男性がセリーヌに求婚した。
結婚後の初夜には夫は部屋には来なかった…屋敷内に夫はいるがセリーヌは会えないまま数日が経っていた。
夫から呼び出されたセリーヌは式を上げて久しぶりに夫の顔を見たが隣には知らない女性が一緒にいた。
セリーヌは、この時初めて夫から聞かされた。
夫には愛人がいた。
愛人が身籠ればセリーヌは離婚を言い渡される…
誤字脱字があります。更新が不定期ですが読んで貰えましたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる