私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。

火野村志紀

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26.カロリーヌ⑤

「ラウルに……あの子に何かあったのですか!?」
「そんなの私が聞きたいわよ!」

 お義母様の肩を揺さぶりながら尋ねると、煩わしげに振り払われてそう吐き捨てられる。

「私のベッドにラウルちゃんを寝かせていたはずなのに、少し目を離した隙にいなくなっていたのよ! だからあんたが勝手にあの子を連れ出したのかと思って……」
「違います……私はずっと部屋にいました……」

 嫌な予感に指先が冷たくなって、小刻みに震え出す。心臓が脈打つ音が激しくなる。
 私の反応を見て、お義母様の顔からも血の気が引いていく。私もお義母様も知らない。使用人たちが勝手に連れ出すはずもない。
 だったらラウルはどこに行ったの?

「ラ……ラウルちゃんっ!」

 事態の深刻さに気づいたお義母様が、足を縺れさせながら部屋を飛び出す。私はショックのあまり、その場に座り込んでしまった。



 屋敷中を探したけれど、ラウルは見つからなかった。誘拐、という最悪の言葉が脳裏をよぎる。
 ガタガタと体を震わせていると、セレスタン様に強く抱き締められた。

「落ち着くんだ。ラウルならきっと大丈夫だ。きっと見つかる……」
「はい……」

 こんな時だからか、近頃不仲だったセレスタン様の優しさを素直に受け入れることができた。
 お義父様が要請してくれた捜索隊がラウルを見つけてくれる。そう信じて、ひたすら時間が流れるのを待っていると、捜索隊の隊長が屋敷にやって来た。
 もしかしてラウルが見つかった!? と淡い期待を抱いて玄関に向かうも、そこにあの子の姿はなかった。
 しかも、心なしか隊長の表情が暗く見える。

「た、隊長さん! ラウルちゃんがどこに行ったかまだ分からないんですか!?」

 お義母様が悲痛な声を上げながら隊長に詰め寄る。すると彼は、躊躇いがちに口を開いた。

「いえ、まだ……ですが、一つ確認させていただきたいことがあるんです」
「ラウルちゃんを見つけるためなら、何でも聞いてください!」
「ではすみませんが、セレスタン様にお会いすることはできますか?」
「あの子なら広間にいますが……」

 隊長がお義母様に案内されて広間へ向かうと、セレスタン様は苛立ちを隠せない様子で貧乏ゆすりを繰り返していた。けれど隊長の姿を見ると、はっとした表情で居住まいを正す。

「隊長殿、ラウルは?」
「現在捜索中です……それとセレスタン様、ご質問させていただきたいのですが」
「何だ?」
「あなたと思われる人物が橋の下で何かを川に流しているところを見た……という目撃証言がいくつも挙がっています。それについてお話願えますか?」

 途端、セレスタン様は目を大きく見開いたけれど、それを誤魔化すように笑顔を取り繕った。

「な、何のことか分からないな」
「同時刻、布で包んだ荷物を抱えたあなたを目撃したと証言する者もいます。そしてその荷物はちょうど赤子くらいの……」
「だから俺は知らない! 単なる人違いだろう。その時俺は神殿にいたんだ」

 セレスタン様はむっとした顔で反論した。

「それを確認するために今、神殿に捜索隊が向かっております」
「う……」

 語気を強めながら隊長が告げると、セレスタン様は顔色を失った。
 それを間近で見てしまい、私は気が遠くなるようだった。お義母様も「……セレスタン?」と信じられないものを見るような表情で息子の名前を呼ぶ。お義父様は言葉を発することすらできずにいた。

 違う。違う。そんなはずない。そんなことをする理由が見当たらない。
 何度もそう思い込もうとするけれど……微笑むラウルの顔を思い出したと同時に、体が勝手に動いた。

「あなたが……あなたがラウルをっ!」

 私は激情に任せ、セレスタン様に掴みかかった。「ちょっとあんた!」と止めようとするお義母様を無視して、気まずげに目を伏せる夫に声を荒らげる。

「どうしてこんなことをしたの!? 自分の子を殺すなんて……!」
「ち、違う! 俺はラウルを殺してなんていない! ただ橋の下に置いて来ただけ、で……」

 しまった。セレスタン様がそんな表情をしながら、手で自分の口を覆う。
 その光景を見た隊長は、厳しい面持ちで口を開いた。

「ええ。セレスタン様は流したわけではありません。ただ橋の下に何かを置いた、というだけです。ですが捜索隊が向かうと、中身を包んでいた布しか発見されませんでした」
「お前……俺を罠に嵌めたのか!? 神官相手にこんなことをしてどうなるか……」
「……いやああぁぁぁっ!!」

 叫ばずにいられなかった。そうしないと、今すぐにセレスタン様の首を絞めてしまいそうだったから。
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