私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。

火野村志紀

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29.ソール家①

「セレスタン、神殿から手紙が届いているわよ。近頃神殿に姿を見せないけれど、このままだと他の神官に示しがつかないって……」

 息子に声をかけるのは、二日ぶりだった。
 また怒鳴られたらどうしようと身構えてしまう。使用人に押し付けようとしても、「だったら辞めます」と言われてしまえば無理強いはできなかった。

 部屋に入ると酒の匂いが充満していて、思わず咳き込んでしまう。と、セレスタンが空の酒瓶を投げつけて来た。

「咳をするなよ、母さん。うるさくてイライラするだろ?」
「そうね、ごめんなさい。それで手紙のことなんだけど」
「俺は行く気にならない。人手が足りないのであれば、父さんが行けばいいじゃないか」
「そういうわけにはいかないでしょう? いい加減にしないと、神官でいられなく──」
「酒を飲んでいないと、アンリエッタのことを想い出してしまって気が狂いそうなんだ」

 そう言うとセレスタンは、新しく酒瓶を開けて飲み始める。
 変わり果てた姿に私は言葉が出なかった。カロリーヌが出て行ってからというものの、セレスタンは毎日浴びるように酒を飲んでいる。
 アンリエッタの名前を出されると、私も強く出られない。
 可愛い息子をこんな状態に戻した・・・のは私たちなのだから。




 アンリエッタに出会う前のセレスタンは、どうしようもない子だった。
 粗暴な性格で、街で酔っ払って問題を起こすことも多かった。
 本これでは人だけじゃなくて、ソール家の名にも影響が出かねない。セレスタンがアンリエッタと結婚すると言い出したのは、そんな悩みに直面していた頃だった。

 どうして花の神の神官の娘なんて。私は絶対に結婚を阻止しようと、反対し続けた。
 だけどアンリエッタに出会ってからのセレスタンは、少しずつ穏やかになっていった。花の神には、荒れた心を鎮める力があるという。神官のアンリエッタにも、それが備わっていたのかもしれない。

 息子変化に私も夫も驚き、渋々ながら結婚を許した。
 真面目な好青年となったセレスタンは、神官の職務をしっかりと果たすようになっていたから。

 アンリエッタはソール家の恩人だった。
 けれど私は、彼女を徹底的に虐め抜いた。
 あの娘のおかげでセレスタンは変わることができた。それでも、「花の神の神官なんかに助けられた」という事実が腹立たしかったのだ。

 そしてアンリエッタが妊娠しにくい体だと判明してからは、更に強く当たるようになっていった。
 子供を産めない女なんかに息子を取られた! と怒りを込めて……。
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