【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵

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終幕

76.ドナドナ再び〈ブリトニーside〉

〈ブリトニーside〉



 王都から馬車で揺られて丸一日。

 その間一度も、私は馬車を下ろしてもらえず、この無駄に豪華な車内で過ごした。

 丸一日よ。

 私を一体なんだと思ってるのかしら?

 食事はパンとチーズ一切れのみ。

 飲み物は冷めた紅茶とお水だけ。

 しかもトイレに行きたいって言ったらどうなったと思う?



「バスルームですか? 体を清めたいのでしたら、明日までは無理です」

「体を清める!? そうじゃないわよ! ちょっと考えたら分かるでしょう?」

「はぁ……」



 もう、察しが悪いわね。

 バカなの!?

 頭にきて怒鳴ったら、お腹に力が入って余計に辛くなったじゃない!



「俺たちは雇われ御者でね。この馬車の鍵は開けちゃいけないって契約なんで。それにカギ預かってませんしね」

「はぁ? 開けられないの? そ、それじゃあ……***は、どうするのよ……」

「え? 何ですか?」

「だ、だから……」

「だから?」

「トトト、トイレよ!」



 恥ずかしくって情けなくって、涙目で叫んだわ。

 なのに……。



「あ~ぁ。便所ですか。それなら座席を持ち上げてください」

「座席? 座席って……この重そうなのを?」

「はい。多分前側のを開けるとあると思いますよ?」

「……」



 私はもう限界が近付いていて、これ以上この男に文句言ってる場合じゃなかったの。

 だから目の前の座席を急いで調べたわ。

 勢い付けて押し上げたら少し座面が持ち上がって、光が差した先に見えたのは、ヤケにリアルなアヒルのお顔。



「ア、アヒル?」



 何でこんなところに陶器製のアヒルの置き物が?

 まさか!



 嫌な予感は大体当たるって、なんでかしら?

 もっとチカラを入れて半分くらい押し上げたら、そこにあったのは……。



「何これ、オマルじゃない!」



 しかも、誰が用意したのか、お高そうで芸術性溢れた感じの仕上がり。

 私にこれで用を足せと?

 まさかの展開に呆然としていられたのは僅かのこと。

 私の生理的欲求は限界に近かった。



「ちょっと、本当にコレなの?」

「あ、ありました? それ使ってください。俺たちホント、鍵開けられないんで」

「そんなぁ……」

「あ、それともうすぐ休憩終わりです」

「休憩が終わる? それが何か……?」

「え? 走り出すと多分用足すの大変だと思いますんで、今のうち済ましたほうが良いんじゃないかと……」



 思わずギョッとして振り向けば、上品そうなアヒルと目が合った。



『乗る?』



 染料で書かれた目で、そう聞かれた気がした。



 あ、あんたに私が跨るの?

 コレしかないの?



 でも背に腹はかえられない!

 私はプライドをかなぐり捨て、ソレを使うべくあと半分を押し上げる。

 

「何で!? コレ最後が一番チカラ要るじゃない!」



 これ以上おなかにチカラを込めると大惨事になりそうで、私は必死に絶妙な均衡を保ちつつ、危機的状況を打破するため頑張る羽目になったのだった。



 * * * * *


 次は 77話 ゴールディー準男爵邸①〈ブリトニーside〉です。
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