欺瞞の剣

刻夜 煌

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終わりの始まり

幼馴染が男とかつらたん

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放課後
「久々にいろいろあった……」
 澪は遅刻して、盛大に恥をかいたのであった。
 「マジであの天使許さねぇ、イケメンなんて滅びてろ」
 そう毒づいていると後ろから接近してきた生徒に手を置かれた。
 「なーにしてんの?」
 彼の名は紅谷 幸希。
 俗に言う幼馴染みというやつだ。
 女だったらなんか恋とかに発展してたかもしれないのに……。生憎男に興味はない。寧ろあったらやばい人。
 「澪ちゃん、考え事増えたよねぇー」
 そうそう、こいつのせいで女だと勘違いされやすいのだ。
 僕は中性的な顔立ちをしているのに隣で幸希が「澪ちゃん」と呼ぶから女だと思われるのだ。
 「だからいい加減、ちゃん付けすんなや。コウ。」
 ついでに言うとこいつはイケメンな上、成績優秀、品行方正、スポーツ万能と来たもんだ。
 隣で比較される人の立場にもなって欲しい。
 そう言ったらコウは「発想力があるのは澪ちゃんのほうだろ」っていうけどな。僕は歪んでるだけだよ、人として。
 「てかコウ、お前大丈夫なのか?部活。剣道部のエースさんだろ。エース様が部活サボっていいのか?」
 「だって、澪ちゃんと帰る方が先決だし。」
 即答。
 クラスカーストトップ様が部活サボったところで、次の人「何サボってんだよ(笑)」とか言われるだけでしょ。僕の時は「何サボってんだよ、もう部活くんな。」って真面目に言われるのに。
 ここが子供の王国の腐った戒律だ。
 「ということで澪ちゃん、帰ろーぜ。」
 「嫌だ。」
 「はいはい、澪ちゃんのツンデレツンデレ。」
 こういう距離の近い関係を瞬間的に築ける能力がリア充になるための能力なんだろうな。
 「そういえば最近変なことができるようになったんだよな。」
 コウは言った。
 「どうしたんだ?」
 「最近光ってる剣のようなものを拾った……というか、光ってる剣のようなものに吸い込まれたって感じかな。とにかくそんなことがあったんだ。」
 まじかこいつリア充な上に、異能にも目覚めるとか頭おかしい。
 うぜぇ。
「神、二物与えてんじゃん……」
 頭を抱えてそう言った。
 やったー異能に目覚めた!とか思ってたオレがバカみたい。
 みんな異能に目覚めたらそれ異能じゃなくね。
 何なの忠敬なの?
 地図とか作っちゃうの?
 もう諺なんて信じない。
 「何か知ってることでもあるのか?」
 絶対にあっても話してやらね。
 「知らない。」
 「嘘ついてる顔。」
 何でもお見通しかよ、リア充様恐るべき。
 「つったって、異能何か知らない僕が何を知ってるっていうんだよ。」
 「だってそういう本読んでるじゃん。この前何かちろっと見かけた。」
 ファンタジーと現実は違うの。
 「なにかわかってることは?」
 「大体のことは試した。でも、全然分からないんだ。」
 「でも、異能に目覚めたのは分かってるんだろ?」
 ああ、と頷いた。
 「だから、同じくして異能に目覚めた澪ちゃんに聞いた。」
 「ああー。ってあ!?」
何で知ってる?
 「今なんで知ってるって思ったでしょ?」
おかしいおかしいおかしい。
能力なんて使ってない、こいつの前では。
てか使えない。使いたい。やばい。
 家で特訓しようと思ってたレベル。
 「なんでか教えてあげよっか?」
 「別にいいよ、興味無いし」
 無関心こそ最大の拒絶。
 ソースは隣の女子。
 英会話の授業コミュニケーションとんなきゃいけないのに無視された時は泣きそうになった。
 「澪ちゃん、つめたーい。」
 「別にいいだろ」
 「1度能力解説とかしてみたかったんだよね!
俺の能力は詠心独嘯リーディングブックス、心を詠む剣。それは同時に冒涜となる。」
 何その名称とフレーズ、かっこいい。
 俺も欲しい。
 そして、幸希の右手に眩い光が灯ったかと思えば、すぐに剣のような形に集束した。
 喩えるなら光の剣。
 喩えるなら十字架。
 まるでそれは裁きを下すもののようだった。
 そしてコウはこういった。
 ダジャレじゃないよ!素だよ!醤油だよ!
 尋常じゃない殺気を纏いながら。
 「さあ始めようぜ、澪ちゃん。終わりの始まり。終焉と始原。相反する二つが一つとなる時、物語は動き出す。俺にとっても、澪ちゃんにとっても最初で最後の異能バトルだ。」
 「はぁ!?」


 こうして、僕は異能バトルの世界、憧憬の対象出会った虚のセカイに足を踏み入れた。
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