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第二話 赤ずきん
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警視庁捜査一課の課長室に呼び出された石川は、分厚い資料を渡され県警への応援を言い渡された。
「了解しました。課長、もう一人連れて行くことは可能でしょうか?」
石川の意図を察した課長は即座に了承した。
「構わん、新人には良い勉強になるだろう。許可する!」
「ありがとうございます。では、陣内を連れて行きます」
石川が課長室から退出した時点で、新人の陣内の同行は決定事項になっていた。
瞳が捜査一課をのぞくと陣内はいなかった。
「どうした? 陣内か? アイツなら急きょ東北行きだ!」班長の原田が奥の席から言う。
「聞いてなかったか? まあ、アイツも頑張ってるから。応援してやれよ」
「はあ、わかりました。ありがとうございます……」
一課の中でわたしはどう見られているのか、気になる所だったが、留守なら仕方ないと瞳は交通総務課へ戻っていった。
「ぽっと出の女か……」
そんな事を一人つぶやきながら……。
その頃、石川に急遽呼び出された陣内は、急行列車に揺られながら今回の捜査資料を真剣に読み込んでいた。
「都内在住の十八歳、延岡美咲(のべおかみさき)高校三年生。十月初め旅行中に行方不明。失恋の痛手での自殺と思われていたんですね」
遅い昼飯で駅弁をつつきながら、陣内は資料に目を通していた。
「だが数日前に発見された遺体には、明らかな絞殺の後があった。自殺ではなく、他殺だ!」
となりで食べ終わった石川は缶コーヒーを開けながら説明をする。
「首を閉められ殺されてから、湖に沈められたんですね……」
そう言って、次のページをめくろうとする陣内を、石川は止めようとしたが遅かった。
次のページの写真を見た陣内は、思わず口を押さえた。
「うっ!」
そこには、引き上げられた水死体の写真がはっきりと印刷されていた。
「どざえもんはな、長時間水に浸かっていたため白く膨れるんだ。それから腐ってガスが出て浮いてくる……」
石川の丁寧な解説に余計食欲を失くした陣内だった。
北へ向かう列車は大雪のため遅れて、途中で大幅な時間調整を余儀なくされていた。
あらかた手持ちの資料を読み終わった陣内は、ほとんど乗客の乗っていないこの列車に、高校生らしい少女が一人乗っていることに気が付いた。
「石川さん、女子高生の一人旅でしょうか?」
陣内が後方の席を見て言った。石川は向かい合わせの席なので気が付かず、振り返って初めて気付く。
「そうだな、気になるならお前、職質かけて来い。何事も経験だ!」
「了解です!」
石川にそう言われて、陣内は車両後方へと歩いていった。
☆ ☆ ☆
車両の後方奥に、その少女は座っていた。イヤホンをつけて夢中になってスマホをいじっている。
声をかけても聞こえなさそうなので、陣内は仕方なく目の前で手を振った。
「わっ!」
赤いニット帽のその少女は驚いて声を上げる。
「ちょっと良いかい?」
なるべく普通の会話のように陣内は少女に話しかけた。
「な、何ですかお兄さんは! ナンパなら間に合っていますよ」
引き気味にヒナタは答えた。明らかに警戒している。
「ゴメン、ゴメン。驚かせちゃったね。悪い!」
そう言って陣内はなるべく驚かせない様に警察手帳を見せた。
「警察の者だが、チョット話を聞かせてくれないか?」
そこには、目を丸くした福岡ヒナタの驚いた顔があった。
「キターー、リアル刑事!」
小声でそう言ったヒナタにとって、驚きや不安以上に刑事に職務質問されることは初めての経験であり、好奇心が全ての感情よりも優先されてしまっているようだった。
「もっと見せて下さいよ! 警察手帳。お兄さん警視庁の捜査一課なんですか……。凄いじゃあないですか!」
あまりの食いつきの良さに陣内はたじろいでしまった。
「とにかく、隣りに座って良いかな? 話を聞かせて欲しいんだけど……」
そう言って陣内はどうにかヒナタの隣りに座って職務質問をすることになる。
「生徒手帳ありがとう」
ヒナタに確認した生徒手帳を返し、陣内はもう一度確認のため聞き返した。
「じゃあ、キミは忙しいご両親の代わりに入院中のお祖母さんのお見舞いに行く所なんだね?」
「はい! 北の森病院って言って、駅から送迎バスがあると聞いています」
そうはっきりと答えたヒナタは、陣内の顔を覗き込むようにして聞いてきた。
「もしかして刑事さん、わたしが家出とかだと思ったの?」
少しからかうように微笑んで言う、罰の悪そうに陣内はそれに対し真面目な顔で答えた。
「仕方ないだろう。こんな人気の少ない列車に女の子一人は心配になるだろう!」
その答えにヒナタは少し横を見ながら呟いた。
「うん、ありがとうね。刑事さん……」
あまりに小さい声なので陣内には聞こえなかったかも知れない。
結局、職務質問をした時間よりも、はるかに長時間の質問攻めにあった陣内は、ラインでの友達追加をすることで、ようやく女子高生の好奇心から解放されたのだった。
「ふう、やっと解放されました……」
がっくりと肩を落とした陣内が石川の隣りの席に戻って来る。
「ご苦労。どうだ、職質は難しいだろう」
「はい、まさか逆に質問攻めに会うとは思いもしませんでした……」
「まあ、何事も経験だ! 数こなせば上手くなってくるもんだ」
実地訓練と言う感じだろうか。石川なりの思いやりであったのだろう。
しばらくして列車は動き出し、二人は目的の東北中央署のある駅に着く。
降車時にチラリとヒナタの手を振る姿が窓越しに見える。陣内も軽く手を上げて走りだす列車を見送った。
改札では駐在所の天草が待っており、二人は早速、四駆のパトカーに乗り込んだ。
「ご苦労様です。今日は今年一番の寒さでして、今日だけでかなり積もってしまいました」
そんな天草の話を聞きながら、石川は恨めしそうに窓の外を見て呟いた。
「これは難航しそうだな……」
☆ ☆ ☆
「ブ、ブッ」
移動中の陣内のスマホに着信がある。すぐに陣内は確認し、軽いため息をこぼした。
「どうした?」
気になって石川が聞く。
「いいえ、さっきの女子高生です」
「ブ、ブッ」
「……」
「矢継ぎ早ですね……」
陣内はお手上げのポーズで苦笑いをするしかなかった。
「まあ、何事も経験だな……」
石川はいい加減な返事をして、タバコに火を付けた。
「了解しました。課長、もう一人連れて行くことは可能でしょうか?」
石川の意図を察した課長は即座に了承した。
「構わん、新人には良い勉強になるだろう。許可する!」
「ありがとうございます。では、陣内を連れて行きます」
石川が課長室から退出した時点で、新人の陣内の同行は決定事項になっていた。
瞳が捜査一課をのぞくと陣内はいなかった。
「どうした? 陣内か? アイツなら急きょ東北行きだ!」班長の原田が奥の席から言う。
「聞いてなかったか? まあ、アイツも頑張ってるから。応援してやれよ」
「はあ、わかりました。ありがとうございます……」
一課の中でわたしはどう見られているのか、気になる所だったが、留守なら仕方ないと瞳は交通総務課へ戻っていった。
「ぽっと出の女か……」
そんな事を一人つぶやきながら……。
その頃、石川に急遽呼び出された陣内は、急行列車に揺られながら今回の捜査資料を真剣に読み込んでいた。
「都内在住の十八歳、延岡美咲(のべおかみさき)高校三年生。十月初め旅行中に行方不明。失恋の痛手での自殺と思われていたんですね」
遅い昼飯で駅弁をつつきながら、陣内は資料に目を通していた。
「だが数日前に発見された遺体には、明らかな絞殺の後があった。自殺ではなく、他殺だ!」
となりで食べ終わった石川は缶コーヒーを開けながら説明をする。
「首を閉められ殺されてから、湖に沈められたんですね……」
そう言って、次のページをめくろうとする陣内を、石川は止めようとしたが遅かった。
次のページの写真を見た陣内は、思わず口を押さえた。
「うっ!」
そこには、引き上げられた水死体の写真がはっきりと印刷されていた。
「どざえもんはな、長時間水に浸かっていたため白く膨れるんだ。それから腐ってガスが出て浮いてくる……」
石川の丁寧な解説に余計食欲を失くした陣内だった。
北へ向かう列車は大雪のため遅れて、途中で大幅な時間調整を余儀なくされていた。
あらかた手持ちの資料を読み終わった陣内は、ほとんど乗客の乗っていないこの列車に、高校生らしい少女が一人乗っていることに気が付いた。
「石川さん、女子高生の一人旅でしょうか?」
陣内が後方の席を見て言った。石川は向かい合わせの席なので気が付かず、振り返って初めて気付く。
「そうだな、気になるならお前、職質かけて来い。何事も経験だ!」
「了解です!」
石川にそう言われて、陣内は車両後方へと歩いていった。
☆ ☆ ☆
車両の後方奥に、その少女は座っていた。イヤホンをつけて夢中になってスマホをいじっている。
声をかけても聞こえなさそうなので、陣内は仕方なく目の前で手を振った。
「わっ!」
赤いニット帽のその少女は驚いて声を上げる。
「ちょっと良いかい?」
なるべく普通の会話のように陣内は少女に話しかけた。
「な、何ですかお兄さんは! ナンパなら間に合っていますよ」
引き気味にヒナタは答えた。明らかに警戒している。
「ゴメン、ゴメン。驚かせちゃったね。悪い!」
そう言って陣内はなるべく驚かせない様に警察手帳を見せた。
「警察の者だが、チョット話を聞かせてくれないか?」
そこには、目を丸くした福岡ヒナタの驚いた顔があった。
「キターー、リアル刑事!」
小声でそう言ったヒナタにとって、驚きや不安以上に刑事に職務質問されることは初めての経験であり、好奇心が全ての感情よりも優先されてしまっているようだった。
「もっと見せて下さいよ! 警察手帳。お兄さん警視庁の捜査一課なんですか……。凄いじゃあないですか!」
あまりの食いつきの良さに陣内はたじろいでしまった。
「とにかく、隣りに座って良いかな? 話を聞かせて欲しいんだけど……」
そう言って陣内はどうにかヒナタの隣りに座って職務質問をすることになる。
「生徒手帳ありがとう」
ヒナタに確認した生徒手帳を返し、陣内はもう一度確認のため聞き返した。
「じゃあ、キミは忙しいご両親の代わりに入院中のお祖母さんのお見舞いに行く所なんだね?」
「はい! 北の森病院って言って、駅から送迎バスがあると聞いています」
そうはっきりと答えたヒナタは、陣内の顔を覗き込むようにして聞いてきた。
「もしかして刑事さん、わたしが家出とかだと思ったの?」
少しからかうように微笑んで言う、罰の悪そうに陣内はそれに対し真面目な顔で答えた。
「仕方ないだろう。こんな人気の少ない列車に女の子一人は心配になるだろう!」
その答えにヒナタは少し横を見ながら呟いた。
「うん、ありがとうね。刑事さん……」
あまりに小さい声なので陣内には聞こえなかったかも知れない。
結局、職務質問をした時間よりも、はるかに長時間の質問攻めにあった陣内は、ラインでの友達追加をすることで、ようやく女子高生の好奇心から解放されたのだった。
「ふう、やっと解放されました……」
がっくりと肩を落とした陣内が石川の隣りの席に戻って来る。
「ご苦労。どうだ、職質は難しいだろう」
「はい、まさか逆に質問攻めに会うとは思いもしませんでした……」
「まあ、何事も経験だ! 数こなせば上手くなってくるもんだ」
実地訓練と言う感じだろうか。石川なりの思いやりであったのだろう。
しばらくして列車は動き出し、二人は目的の東北中央署のある駅に着く。
降車時にチラリとヒナタの手を振る姿が窓越しに見える。陣内も軽く手を上げて走りだす列車を見送った。
改札では駐在所の天草が待っており、二人は早速、四駆のパトカーに乗り込んだ。
「ご苦労様です。今日は今年一番の寒さでして、今日だけでかなり積もってしまいました」
そんな天草の話を聞きながら、石川は恨めしそうに窓の外を見て呟いた。
「これは難航しそうだな……」
☆ ☆ ☆
「ブ、ブッ」
移動中の陣内のスマホに着信がある。すぐに陣内は確認し、軽いため息をこぼした。
「どうした?」
気になって石川が聞く。
「いいえ、さっきの女子高生です」
「ブ、ブッ」
「……」
「矢継ぎ早ですね……」
陣内はお手上げのポーズで苦笑いをするしかなかった。
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