グリムの輪舞曲(ロンド)

ふるは ゆう

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第四話 ねむり姫

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 石川は陣内からの報告を受け、上に出す報告書を書いている。このところ働き詰めだった陣内を帰らせ、今は一人デスクでパソコンに向かっていた。
(白河菜々美は自力で松崎美里の移送先を調べていなかった。誰かが教えたんだ……その誰かが、知られたくなくて口を封じた……)
  
  窓の外を見る。街灯の中、車のライトが流れていく。そんな時、ふと思い当たる事があった。
(そうだ、前の心中事件。田中一也も確か復讐相手を探してたんだったな……あれも、そう簡単には見つからないはずだったんだが……)  
  
 どす黒い想像が積みあがって、揺れながら目の前にそびえ立つ。そのてっぺんに誰がいるのか? 石川には想像も出来なかった。

 ☆ ☆  ☆
  
 翌日、石川は陣内と別れて駅前の喫茶店に向かう。そこには以前、白河菜々美の婚約者であった米沢悠斗が働いていた。
  すぐにわかった悠斗は石川を店の裏の空きスペースに案内した。
「どうしたんですか? 俺はもう関係ないと思いますけど……」そう言って壁にもたれかかった。だいぶやつれた感じはするが声だけはハッキリとしていた。
「ああ、心配するな。ちょっと寄っただけだ。なにせ急な自殺だからな。気になったんだよ」
「俺ですか? まあ、菜々美の後を追ってすぐにでも死にたかったですけどね。妹を残してなんて逝けないでしょう……」そう悠斗は自虐気味に笑った。
 石川は煙草に火をつけてからゆっくりと尋ねた。
「白河菜々美についてもう少し知りたいんだ。いいか……」
 悠斗は迷惑そうな顔をしたが断りはしなかった。
  
 石川は二人の馴れ初めを聞く。それと叔母である古川響子との事だ。
「俺が菜々美と出会ったのは、もう三年以上前だったかな、彼女の通っていた製菓学校に俺がバリスタの研修で行った時だったな……」懐かしそうに悠斗は話し出した。

「それから話すようになって、お店を出したいって話になって……あの頃は楽しかったよ」
「叔母さんの古川響子の話はいつ頃からだ」
「お店を出したいって話を響子さんに話して相談に乗ってもらったのは去年だったかな。それからとんとん拍子に話が進んだんだ」穏やかな顔で悠斗は話した。
「その前は白河菜々美と古川響子は面識が無かったんだな!」
「……そうだね、響子さんに彼女を紹介したのは去年のその時が初めてだったと思う」
「その時の二人の反応は?」
「え、特に普通だったよ。すぐに打ち解けてくれたから、俺も嬉しかったのを覚えているよ」その悠斗の答えに石川は困惑した。
 
  白河菜々美が古川響子と米沢悠斗の関係を知っていて近付いたのではなかったのか? そして去年の時点でも気付いてなかったとしたら……。
「じゃあ、いったい、いつ知ったんだよ」一人ぼやいた石川だった。

 ☆ ☆ ☆
  
 陣内は石川と離れ近郊のファミレスで待ち合わせをしていた。しばらくすると女が三人連れだって入って来る。福岡ヒナタとその友人の大分千夏、その後ろに米沢悠斗の妹である、米沢芽衣であった。
「すいません、遅くなりました」と千夏が真っ先に謝った。
 ヒナタは(大丈夫、連れて来れたよ)そう言っているように軽くうなずいた。
「ゴメンね、わざわざ呼び出してしまって。少し聞きたいことがったんだ」陣内は緊張気味に席に着いた芽衣に笑顔を向けた。
 正面に芽衣、その横に千夏が座り、ヒナタは当然とばかり陣内のとなりを陣取る。
 今回の目的は兄妹二人から同じ事情を聞いて事実かどうかを確かめることがメインだ。  
 二人の馴れ初め、それと叔母である古川響子との接点があった時期。すでに石川が兄の悠斗から聞いていたものであり、陣内に話す芽衣の話も兄の悠斗とほぼ同じであった。
「以前は菜々美さん、不眠症でクリニックに通ってたなんて言ってたけど……兄貴とお店を出すなんて話しに夢中になって、それどころじゃあなくなったって笑ってましたからね」その頃を懐かしむように芽衣は話した。
「新型ウイルスの時期もみんなで頑張ってお店続けたのにね……これで、もうお店も出来ないんだと思うと……」
 芽衣にとって菜々美は叔母の響子を殺した犯人と言うよりも、兄と一緒にお店を立ち上げて頑張った義理の姉と言う思いの方が強いようであった。
 泣き出した芽衣にヒナタと千夏が寄り添う。引き時とばかり、陣内はレシートを持ち席を立った。
  
「あ、陣内さん」
 陣内を追いかけて声を掛けたのは千夏だった。レジ前で立ち話になる。
「ヒナタ、何だか元気ないんです。陣内さんには迷惑かけるからって……無理しちゃって、気にかけてあげて下さい」そう言って戻っていった。
 ヒナタは良い友人を持ったみたいだ。陣内は夜にでも連絡して話を聞こうと思った。
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