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第1話 ストレイ・ガール
#3
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2階に上がると、左右に廊下が広がり、ドアがいくつも並んでいた。
「君の部屋はここね」
そう言われ、右手の一番奥に案内される。
部屋は想像していたよりも広かった。ベッドと机、本棚に、先に運び込まれていた引っ越し業者のロゴが入った段ボールがいくつか積み上がっていたが、それでも余裕がある。
「リビングとかは好きに使っていいから。今日は早めにお店閉めるから、晩ご飯は一緒に食べよう。それまで少し待っててね!」
そう言い置いて、陽介は店に戻っていった。
一人になると、静寂が落ちてきた。
自分だけの部屋。自分のために用意されたベッドや机。本当に、これらは自分のものなのだろうか?
何となく夢を見ているような気持ちで、晶はベッドに転がった。
枕に顔を埋めると、下ろしたての匂いがした。
しまい込まれていたカビ臭い客用の布団しか与えられないこともあったのに。
ぼんやりしている場合ではない。荷物を整理しないと。
そう思って身体を起こすと、どこから入ってきたのか、先程見かけた猫がベッドに飛び乗ってきた。いつの間に入り込んだのだろう。
「お前、ここの猫なの?」
鼻先にそっと手を近づけるが、猫はふいっと顔を背けてベッドから飛び降りてしまった。そのまま猫の行方を目で追っていると、閉まっていたはずのドアがすっと少し開いて、外に出て行った。
(え?)
閉め方が甘かったのだろうか。不思議に思ってドアに近寄り、そっと外に顔を出すと、廊下の先に猫がいた。目が合うと、まるで晶が来るのを待っていたかのように、しっぽを振って階段を下りていく。
それを追って階下に下りていくと、猫は裏庭に出るドアの前で、やはり振り返ってこちらを見ている。猫は晶がついて来ているのを確認したように、今度はそのドアが猫を通すように開いて、猫は軽やかな足取りで裏庭へ出て行った。晶も導かれるようにその後を追う。
猫はとことこ歩いて、晶を桜の木の根元まで連れて行き、その陰にさっと飛び込んだ。
晶が桜の陰を覗き込むと、そこには晶をここまで先導してきた猫はいなかった。代わりに、同じ柄だが、大分汚れて痩せた子猫がうずくまっていた。
猫は晶を見上げて、みゃあ、とか細く鳴いた。
猫に手を伸ばそうとして、晶は途中で動きを止めた。
蘇るのは、昔に出会った同じ柄の猫の記憶だ。
幼い頃、子猫を拾った。冷たい雨が降る夕暮れ時だった。あの時は母と暮らしていたが、母は留守がちで、その日も晶は一人だった。
同じく一匹で弱々しく泣いていた子猫を放っておけなくて、家に連れ帰った。痩せて汚れた身体をタオルで拭いてやり、小遣いで買ったキャットフードを与えたが、あまり食べなかった。
元々弱っていた子猫は、時間が経つにつれて動かなくなっていった。晶はどうしたらいいかわからず、泣きそうになりながら、一晩中、子猫を抱いて撫でていた。
けれど、いつの間にか眠ってしまって、朝になった時、子猫は冷たく動かなくなっていた。
あの時の子猫と、目の前の子猫が重なる。
見なかったことにすればいい。きっとそれが一番楽だろう。でも。
宙に浮いた手に、子猫が頭を擦り付けてきた。ずいぶん人懐こいみたいだ。
それを見ると、心臓がぎゅっと痛んだ。
誰にも頼れない。頼らない。
晶は部屋に戻ると、財布を持って再び外に出た。ここに来る途中に、スーパーもコンビニもあった。キャットフードくらい売っているだろう。
「君の部屋はここね」
そう言われ、右手の一番奥に案内される。
部屋は想像していたよりも広かった。ベッドと机、本棚に、先に運び込まれていた引っ越し業者のロゴが入った段ボールがいくつか積み上がっていたが、それでも余裕がある。
「リビングとかは好きに使っていいから。今日は早めにお店閉めるから、晩ご飯は一緒に食べよう。それまで少し待っててね!」
そう言い置いて、陽介は店に戻っていった。
一人になると、静寂が落ちてきた。
自分だけの部屋。自分のために用意されたベッドや机。本当に、これらは自分のものなのだろうか?
何となく夢を見ているような気持ちで、晶はベッドに転がった。
枕に顔を埋めると、下ろしたての匂いがした。
しまい込まれていたカビ臭い客用の布団しか与えられないこともあったのに。
ぼんやりしている場合ではない。荷物を整理しないと。
そう思って身体を起こすと、どこから入ってきたのか、先程見かけた猫がベッドに飛び乗ってきた。いつの間に入り込んだのだろう。
「お前、ここの猫なの?」
鼻先にそっと手を近づけるが、猫はふいっと顔を背けてベッドから飛び降りてしまった。そのまま猫の行方を目で追っていると、閉まっていたはずのドアがすっと少し開いて、外に出て行った。
(え?)
閉め方が甘かったのだろうか。不思議に思ってドアに近寄り、そっと外に顔を出すと、廊下の先に猫がいた。目が合うと、まるで晶が来るのを待っていたかのように、しっぽを振って階段を下りていく。
それを追って階下に下りていくと、猫は裏庭に出るドアの前で、やはり振り返ってこちらを見ている。猫は晶がついて来ているのを確認したように、今度はそのドアが猫を通すように開いて、猫は軽やかな足取りで裏庭へ出て行った。晶も導かれるようにその後を追う。
猫はとことこ歩いて、晶を桜の木の根元まで連れて行き、その陰にさっと飛び込んだ。
晶が桜の陰を覗き込むと、そこには晶をここまで先導してきた猫はいなかった。代わりに、同じ柄だが、大分汚れて痩せた子猫がうずくまっていた。
猫は晶を見上げて、みゃあ、とか細く鳴いた。
猫に手を伸ばそうとして、晶は途中で動きを止めた。
蘇るのは、昔に出会った同じ柄の猫の記憶だ。
幼い頃、子猫を拾った。冷たい雨が降る夕暮れ時だった。あの時は母と暮らしていたが、母は留守がちで、その日も晶は一人だった。
同じく一匹で弱々しく泣いていた子猫を放っておけなくて、家に連れ帰った。痩せて汚れた身体をタオルで拭いてやり、小遣いで買ったキャットフードを与えたが、あまり食べなかった。
元々弱っていた子猫は、時間が経つにつれて動かなくなっていった。晶はどうしたらいいかわからず、泣きそうになりながら、一晩中、子猫を抱いて撫でていた。
けれど、いつの間にか眠ってしまって、朝になった時、子猫は冷たく動かなくなっていた。
あの時の子猫と、目の前の子猫が重なる。
見なかったことにすればいい。きっとそれが一番楽だろう。でも。
宙に浮いた手に、子猫が頭を擦り付けてきた。ずいぶん人懐こいみたいだ。
それを見ると、心臓がぎゅっと痛んだ。
誰にも頼れない。頼らない。
晶は部屋に戻ると、財布を持って再び外に出た。ここに来る途中に、スーパーもコンビニもあった。キャットフードくらい売っているだろう。
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