蒼天の風 祈りの剣

月代零

文字の大きさ
54 / 74
第九章 少女は王宮の夢を見るか

#3

しおりを挟む
「肝が冷えましたよ、エディリーン様」

 外に出ると、日はまだ高かった。一日の勤めを終えると、夕食までは少し時間が空く。夜は星の運航を記録する星見の塔の当番や各自の課題がなければ自由時間だ。
 エディリーンたちは同じように勤めを終えたユーディトと合流し、本館の裏手に出た。そして寮までの道すがら、先程の顛末を話していたのだった。

「余計なことだったなら、もうしないけど」

 別に正義感からの行動ではない。単にああいった手合いが気に入らないだけだが、彼女たちには彼女たちなりの世渡りの仕方があるのなら、口を出すことではないと思う。

「いいえ、助かりました。ありがとうございます」

 クラリッサは神妙に頭を下げる。
 しかし、なるべく目立たないようにおとなしくしているつもりだったのに、うっかり本性を晒してしまった。それでも彼女たちの態度が変わらなかったことに、少し安堵している自分がいるのだった。

「あなたも言いなりになってしまうからよくないのよ。上手く躱さないと」

 ユーディトが口を挟むと、クラリッサは「わたしはユーディみたいに器用じゃないもん」と唇を尖らせる。

「最初は急ぎの用事があるって言うから、引き受けてあげてたのよ。それが段々、当たり前みたいにやらせようとするから……」

 女性同士だとこうして気兼ねなく話せるが、男性相手だと強く出られないらしい。まあ、それが普通と言えばそうなのだが。
 ユーディトはそんな妹を見て嘆息するが、エディリーンに向き直って頭を下げる。

「けれど、エディリーン様のお陰で、心無いことをする方が減りました。ありがとうございます」

 その言葉から、ユーディトの方にもそういう接し方をしてくる男がいたということが察せられた。学問の前では身分も性別も関係ないという建前を掲げてはいるが、なかなか実態は追いついていないのが現状だった。無論、そんな男ばかりではないのだが。
 ちなみにエディリーンの方は、ユリウス王子と繋がりがあり、宮廷魔術師候補と囁かれていることもあって、変に絡まれることはなく、どちらかというと遠巻きにされていた。仮に無礼を働こうとしても、その眼光に射すくめられて平気でいられる人間は、なかなかいないのだった。
 敷地の中央にある高い塔――星見の塔の側を通る時、ふとその頂を見上げる。ここでは数か月前に痛ましい事件が起きたが、だんだんとその記憶も過去のものになってきている。

「それにしても、エディリーン様がユリウス殿下のお気に入りだなんて話があるのですか?」

 ユーディトがあまり触れてほしくない話に触れた。

「……そうみたいだな」

 エディリーンは顔をしかめる。
 王族など気軽に会える相手ではない。事実、エディリーンは以前の戦以来、ユリウスには会っていないのに、一体どこからそんな噂が出るのやら。――否、どうせ彼らが手を回しているのだろう。迷惑な話だが。

「それはそれですごいことだと思いますけれど。でも、エディリーン様には、想い人がいますものね?」

 クラリッサは夢見る乙女のような熱っぽい眼差しを向けるが、エディリーンはじっとりした視線を彼女に返す。

「……だから、違うって」
「クラリッサ。こういうことは、外野が面白おかしく言うものではありませんよ」

 ユーディトが妹をたしなめるが、エディリーンが修正してほしい方向とは違う。
 どうして人は、誰が誰をお気に入りだとか、惚れているとかいう話が好きなのだろう。彼女たちの態度からやっかみが感じられないのが救いだが、エディリーンはげっそりと肩を落とした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...