Hotひと息

遠藤まめ

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1章 出会いと疲れ

【12話】拓也の答え

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「失礼ですがお客様、今すぐにここから出ていってください」
そう拓也は男に向かい言った

 拓也は緊張と恐怖で足が震えていたがそれ以上に怒りで頭に血が上っていたため気にすることはなかった。
「…は?お前あのときの店員か。なんで出ていかなきゃならねぇんだ?」
「残念ながらお客様に拒否権はありません。うちの店の店員が不快な思いをしていると感じましたのでこれ以上いさせることは不可能かと」
「ほぅ…でもよ、一つ言いたいのはお前もそう思わねぇか?こいつはなんでここで働いてると思う?」
「知りません。どうでもいいです」
「はは!聞いたか?どうでもいいとよ。お前も冷てぇやつ…」
「でも、でもここで働いてる以上俺の、いやこの店で働く店員全員の仲間であることに違いはないです」
「いいねぇ…仲間思いで優しいねぇ!」
「分かりましたらお店を出て行って…」
「でもよ、それって本当に本人のためを思ってんのか?」
「……は?」
「こいつはここで働いても楽しくねぇんだとよ。そりゃそうだよなぁ!」
「勝手に決めつけないでもらえますか?」
「でもさっき俺が聞いたときに否定の言葉はなかったぞ?」
男は嫌にニヤついた顔を見せて拓也に言った。
「楽しくねぇって思われてる場所で働かすのは仲間思いの行動なんかね?」
「……」
拓也は答えられなかった。本来なら否定するべきなのだろうがそれは結局のところ拓也のエゴでしかなくて空本人にとっての幸せについて考えられてないからだ。
「ほら、お前も否定できない。やっぱこいつはここで働くのが向いてないんだよ」
その男の言葉を聞いた瞬間、拓也の何かが切れた。
「い……」
「あ?」
男が拓也を睨むように見る。
「いい加減にしろよ!!!!」
「な、なんだ!?」
突然の事に拓也以外の店内にいる人全員が驚いた。
「あんたさっきから何様だよ!先輩の何がわかんだよ!」
「そんなの…」
「向いてない?お前だって一緒じゃねぇか!だからいつまで経っても昇格しないんじゃねぇの?」
「お、おま…」
拓也は男の言葉に耳を傾けることなく言った。
「それでその疲れやらストレスをこの店員にぶつけてんのか。はは!だっせぇなぁ!」
男は何も言わなかった。突然の拓也の変貌に圧倒されたのか、図星だったのか。
「空先輩がこの仕事向いてねぇ?どこ見ていってんだ!?この先輩は、店長の次に仕事ができるんだぞ!俺みたいな何も知らない新人と二人だけになってもまともに店を回せるレベルにだ!」
拓也は空の良さを大声で、怒りにまかせて言った。その後ろで空が泣いているのにも気づかずに。
「先輩レベルで向いてねぇんだったら俺どうなっちゃうよ?まだホールもろくにできねぇぞ!?」
「「?」」
突然の自虐に店長と男は頭にハテナを浮かべた。それが影響したのか男は
「じゃあこいつの疲れた顔を拝んだ客の気持ち考えてことあんのか?裏側がどれだけ良くても目に見えるものがなければ客は皆『だめな店員』として評価するんだよ!」
「そんなの知るか!この先輩がこの店においてどれだけ重要がわかってねぇ客なんてこっちから願い下げだ!」
それはまさに暴論だった。拓也のエゴでしかない、店のことなど関係ないと言わんばかりの発言だった。ただそれを誰も指摘することなくただ圧倒されるばかりだった。
「接客においてこの先輩は向いてないかもしれない。でもあんたはそれ以上だ!日々のストレスを関係ない店員にぶつける。社会人向いてねぇよ!」
暴言に近いそれは男の怒りを誘った。
「なんだと!?てめぇいい加減に…」
男は拓也を殴ろうと腕を振りかざすと
「お帰りください。」
そう冷静に言ったのは店長だった。
「なんだと!?こいつらに…」
「お帰りください。」
「ぐっ…」
男は無表情な店長に怯みその腕をおろした。
「店員が暴言に近いことを言ったことに関してはお詫びします。お詫びと言ってはあれですがお代はいりません。でもうちの子たちに手を出すようならただじゃおかない」
無表情の店長にはどこか圧倒される力のようなものが放たれているような感じがした。
男はそれに圧倒され無言で店を出た。
「拓也くん、お客様に暴言のような言葉を吐いてはいけません」
「す、すいません…」
冷静になった拓也は素直に謝った。
「でも、空ちゃんをかばって怒る姿、かっこよかったよ」
店長は晴れやかな笑みを浮かべ拓也を見つめながらそう言った。拓也も恥ずかしくなった。
「空先輩、勝手に色々言っちゃってすいま…」
言い終わる前に空は裏へと走ってしまった。

お、怒らせちゃった?失礼なことも言っちゃたしそりゃそうだよなぁ…

拓也は反省した。
「拓也くん、行ってあげて」
店長は笑顔で空を追うよう言った。

「先輩!」
拓也の声を聞き空はすぐに涙を拭き言った
「なに?」
泣き声に近い弱々しい声で空は聞く
「勝手に色々言っちゃってすいませんでした!」
「……いいの。あのお客さんが言ってたことは本当のことだもん。やっぱり私このお店向いてないよ」
「そんなことない!俺は先輩の仕事さばきに憧れてますよ!」
「でも私君に優しくしたことなんて…」
「そんなのどうでもいいでしょ!別に優しい先輩が向いてるとかないんだから!」
「それに…それに愛想はないし疲れてるよ?」
「愛想なんてなくても働けるでしょうが!疲れだって…」
拓也は小さく深呼吸していった。
「俺が先輩の疲れを吸収してやりますよ!体質だがなんだか知らないけど俺が全部吸収して疲れなんて忘れさせますよ!」
「……!」
空は声を上げて泣いた。今まで人の悩みを吸収するばかりでそれを知らない人たちが空をとして扱ってきた中、初めて吸収される側としてその存在を認められたことも疲れた人として扱わないことにも全てにおいて当たり前のはずのことが自分には初めてだと気づいた。
拓也は大声でなく空に焦りつつも薄い笑顔を見せていた。

 男との出来事から数日経ったある日、拓也はまた何事もなかったかのようにアルバイトをスタートしようと
「拓也くーーーん!!」
できなかった。
あの日以来空は拓也にデレデレだった。前までの冷たさから一転し元気に拓也を迎え入れた。
疲れをすべて吸収(?)出来たのか辛そうな表情はなくなっていた。店長曰く精神が小学生時代に戻った様な感じだそうだ。
「先輩、着替えるんで離れてください」
焦りながら拓也は空を引き剥がそうとする。
「ええ!?空ちゃんどうしたの?」
寧々が空に聞くと
「……別に…何もないけど…」
「温度差!!」
前のような対応をされ寧々は驚きを隠せなかった。
そう、空は『拓也にだけ』元気にデレていたのだ。

以前のような空との気まずさは消え、店長からのお願いもこなせて、自分のモヤモヤを解消することもできた。拓也からしたら嬉しいことだったがその反面迷惑な話であり、これはこれで面倒くさいなと感じるのだった。
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