止まった世界であなたと

遠藤まめ

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第1章 止まった世界の生き方

8話 再会

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「ち…から?…どっち…にどっ…ちの力が?」

冬馬は痺れるような体に鞭を打ちゲニウスに聞く。

「それは自分の目で確かめてみんのが一番じゃあねぇのか?万夏!日菜乃に触れて祈ってみろ」

「祈るって何を…?」

「んなもん自分で考えろ。救いてぇんだろ?」

ゲニウスは相変わらずの口と意地の悪さを見せた。

俺が今一番祈るべきこと………そんなの一つしかないだろ。日菜乃…!!目覚めてくれ…!

迷いのない万夏は日菜乃の額と自身の額を合わせ目をつむり願う。
そのとき、万夏の祈りが神に通じたとでも言うのか、辺り一帯が金色の輝きに包まれやがて万夏と日菜乃が見えなくなるほどに眩しくなる。温かい風が優しく吹きつけた気がした。すぐにその風もやみ、

「………んぁ?助かっ……はっ!万夏!?」

日菜乃と呼ばれていた少女が言葉を、動きを見せたのだった。腰まで伸びた長い髪を持ち、華奢な体つきをした童顔気味な白いワンピースを来たその少女は、日菜乃は倒れた万夏を見て形相を変え走り出す。

「万夏!なんでここに…」

ただでさえ死闘を終えたばかりなのにかなり体力を使ったのか万夏は脱力した状態で倒れ込んでいた。幸い息は安定しており意識もはっきりではなくともあった。

「ひ…なの?…よかった…」

万夏は薄く開いた目から涙を流しかすれた声で喜ぶ。弱々しく震えた手で日菜乃の手を握りながら。

「なんでこんなボロボロに…?服から全部血まみれじゃん…」

日菜乃もまた万夏の状態を見て心配した様子で言う。

「そんなことはどうだっていいんだ……あとで…あとで話せるんだから…。ほら、そこにいる冬馬とすずさんが日菜乃を助ける手伝いをしてくれたんだよ…初対面の俺のために命まで張ってくれてさ」

「…?その方々はどこにいるの?」

日菜乃はあたりを見渡すがそこに人間どころか生き物すらいない。
冬馬たちは気まずさと二人の時間を尊重した結果秘密基地を出ていたのだ。

「そっ…か…おかしいな…きっと近くに………っいててて…」

「万夏!動かないで、怪我してるんだから無理なんて…」

「あはは…ごめんごめん。まぁその二人がいなかったら怪我じゃすまなかったし…今度しっかりお礼しないと」

少しずつ体力を回復している様子の万夏はかすれた声ながらもつっかえることはなく日菜乃を見つめ話していく。

「俺、なんにもできなくて迷ってばっかりで冬馬の頭に頼りっきりでさ。日菜乃を救うなんて無理じゃないのかって何回も思って諦めそうになったし正直ずっと臆病だった」

日菜乃は何も言わず万夏を見つめて話を聞く。

「ここにこのUFOが落ちてきて秘密基地にしたときに言ったのにね。絶対に守るって…。次なんてないのにそれに期待して今のことに逃げてばっかり…」

「それでいいじゃん。その冬馬さん?って人がどれだけ頭が良かったとしても万夏は万夏だよ。わたしは万夏が助けてくれたのがすごく嬉しかったしここのことを覚えていてくれててすごく安心した。逃げそうになっても諦めかけても最後はちゃんと助けに来てくれたじゃん。その判断をしたのは紛れもない万夏だよ?」

日菜乃は優しい眼差しで、力強い声で万夏にそう教えた。万夏はあふれ、こぼれ落ちる涙を腕で拭いながらそれを聞く。少し息を吸うと日菜乃はとびきりの笑顔で

「万夏、わたしのことを助けてくれてありがとう!だいすき!」

万夏にそう言った。万夏もまた嗚咽混じりの情けない声で

「おれも…俺も大好きだよ。日菜乃!」

と返したのだった。
秘密基地の入り口から覗き込むように見ていた二人はどこか気恥ずかしくなりながらもその様子を眺める。青春を目の前にしてテンションの上がらない人間などいないのかもしれない。
ゲニウスも空気を読んでいるのか「キャー」やら「ヒューヒュー」と友達の告白を見守る女子のような反応を取り見ていた。


「ごめんおまたせ、改めて紹介するね。日菜乃、この二人が見ず知らずの俺の手伝いをしてくれた恩人、冬馬と、すずさん」

「はじめまして日菜乃です。この度はなんとお礼を言って良いか…」

「別にかしこまらなくてもいーよ。動く女の子に会えてよかった―!よろしくね!」

すずは勢いよく日菜乃に飛びつき友好的な意志を見せる。

「いえ、わたしとしては敬語のほうが話しやすいので…。とりあえず今は敬語で」

「まぁ敬語を使うかは日菜乃さんに任せるよ。それでさ」

万夏とすずは冬馬の不審な言葉の区切り方に続く質問を察して黙る。

「日菜乃さんはなんでここにいたの?ここで、何があったの?」

「避難してました。詳しく言うと少し長くなるかもしれないですが…」

冬馬たちは何も言わずに日菜乃の話を聞く。それこそが長くなることの了承と捉えた日菜乃は目を下に向け微笑みを崩すことなく続ける。

「まず時間が止まった時、わたしはなぜか動けていたんです。そのときは自室にいて、でも急にテレビの音が急に止まったのでおかしいなと思ってリビングに行くとお父さんもお母さんも動かなくって…」

「秘密基地に逃げたと」

「いえ、最初は万夏の家に行きました。でも万夏はいないし万夏の家の人も動いていなくて色んな所を回ったんです。でもやっぱり誰も動いてないし、何が起きたのかも分からなくて焦ったところにくねくねと動く人のような形をした化け物がいたんです」

三人はヤツのことだと瞬時に理解する。それもそのはず、少し前に死にかけながら戦ったのだから。

「でもすぐにそいつに見つかっちゃって…色んな所に逃げたけどわたしあまり体力がない方だから後のことを万夏に賭けようと思ったんです。もし万夏が助けに来れるなら、二人だけが分かる特別な場所に逃げようって。それで秘密基地に逃げて…」

「そこでオレに助けてもらったってわけだな!」

日菜乃に恐怖を与えないためにと外に出てもらっていたゲニウスがしびれを切らしたのか突然会話に参加した。驚く素振りもない日菜乃は黙ってうなずきゲニウスの言葉を肯定した。

「さすがのオレもびっくりしたわ、まさかこの現象になってもなお動く人間が、それも日菜乃がここに来たんだもんな~。そんで追っかけてきたヤツがここに来たもんだから、日菜乃の時間を止めてやったってわけ」

その一言は、いやその話全体が日菜乃を除く三人の背筋を凍らせた。

「まさか…この現象を起こしたのは…」

「おいおい勘違いはよしてくれよ。さすがのオレでもそこまでの能力はねぇって。まぁ…」

「意図的に起こされたことであるということは確かだかな」

ゲニウスはその三人の思っていた仮説を否定した。そしてそれ以上の絶対的な力を持つ存在について肯定した。

「ちょっ…ちょっとまってくれ。重要な情報が飛び交いすぎている。なんで日菜乃さんはそんなに平然と…」

「賭けてたからだよ」

冬馬が言い終わる前にゲニウスは答える。

「万夏が、助けに来てくれることに賭けて。オマエらが命を張って戦ったように日菜乃もまた命を賭けて助けを待ったんだよ」

ひょうきんな口調が消え、真面目なトーンで話す。それに四人は本気で捉える。

これはただ時間が止まっただけではない。での命がけのサバイバルなのだと。
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