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第1章 止まった世界の生き方
13話 決別
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翌日、と言っても日にちの分かれ目がないため冬馬が眠りから目覚めてすぐ、荷物をまとめ、秘密基地を離れる準備をしていた。
「ぅぅん……トーマ?」
その音にすずも目を覚まし冬馬を呼ぶ。
「あぁすず、おはよ。ちょうど良かった、ここを出よう。これからは二人で過ごそう」
「は?」
その突然さと内容にすずは変な声になっていた。
「これ以上ここにいても二人きりでいられることなんてない。なら出ていこう」
「でもそんな勝手に…」
「流石に別れの挨拶くらいはするよ。やだなぁ」
冬馬は笑いながらすずに言う。その言葉にすずはどこか安堵していた。
冬馬と二人でいられる。それはすず自身も願っていたことであり、おそらく冬馬も思っているだろう。それなら─
手を繋ぎ秘密基地を出ると冬馬は当たり前のように地面から大きい波のような影を出現させる。当然すずはそれに驚くが冬馬は気にしない。
「さ、これに乗って。一応目標地点はお台場にしてみたんだ」
「乗るってどうやっ…うわぁ!」
すずの下から円盤型の影がエレベーターのようにして波のような影に乗せる。見た目に反して素材は硬く、なめらかなコンクリートのようであった。影の上は安定していて不思議と落ちる心配は微塵も感じることがなかった。これも冬馬の配慮なのだろう。
「こ、これはどういうこと!?」
そう大きな声を出して驚いていたのは他でもない万夏であった。
「なんのつもり!?」
「見ての通りだけど。僕らは僕らの道を行く、ここで万夏とはお別れだ」
冬馬の下へ駆け寄ってきた万夏を見下ろし言う。
「みんなを助けるためにも冬馬の力が必要なんだよ!」
「そんなの僕には関係ないでしょ。それに僕はあくまで日菜乃さんを救出する手助けをしただけだよ。周りの人を助けるつもりで万夏と協力したわけじゃない」
万夏は言い返せずに立ち尽くす。言い過ぎと感じたすずは冬馬の背中を叩くも気にされることはなく見下すような目をしたままである。
「万夏はこれからどうしようと構わない。…いや構うのかな?この止まった東京でどこへ行こうと咎めはしない。まぁもし時間を動かそうとしたならその時は全力で邪魔させてもらうけどね」
「そんな…!」
「ま、そういうことだから。じゃあね万夏、この力を得るきっかけになった君への感謝は忘れないよ」
冬馬はそう言いながら万夏に背を向け、乗っていた影が動き出す。波のような形とはいえ揺れることはなく、安定していた動きを見せていた。
「待ってよ!」
「無理」
万夏の叫びも虚しく冬馬は背を向けたまま進む。そのスピードは徐々に上がっていって住宅街に入っていこうとしたその時、冬馬たちの乗っていた影が一気に崩壊していった。
「待てって!」
壊した犯人である万夏は声を荒らげて飛びかかり、波型の影を殴り飛ばしていた。その手は金色の光に包まれていて、能力を使ったことが一目でわかった。
「きゃっ…!」
「すず!!」
すずは足場が消えたことにより転落する。それを確認するなり冬馬は先に着地した勢いを殺すことなく再び跳び、すずを抱え込む。幸い傷ひとつ付かず無事でいた。がしかし冬馬の心に安堵などなかった。
「……すずにかすり傷でもついたらどう責任とるつもりだったんだよ……!」
冬馬は天敵を見るような目で万夏を睨みつけ静かながらに強い怒りを表した。その目に万夏は気圧されそうになるものの後に引けない気持ちから弱々しくも負けじと睨みつけ返した。
「すず、ちょっと待ってて」
そう言うと冬馬はすずを影の檻に入れて遠くに置き、万夏の方へ歩き出す。
すぐに速度を上げ、かなりのスピードで万夏の正面に飛び込み顔面めがけて握った拳を放つ。しかし身体能力が上がったのは冬馬だけではない。万夏もそれをギリギリのところで回避する。
「チッ…」
冬馬は舌打ちをしながらも殴った拳の勢いを流して足に影をまとわせ体を捻って万夏の胴体に回し蹴りを入れる。この追撃に万夏は追いつくことができず思い切り吹っ飛び、木の幹に激突する。
「……ぐあっ!」
「万夏くん!」
吹っ飛ぶ姿に思わずすずは大声で呼んでしまう。なんとかしなくてはと思ってはいても影は思った以上に頑丈でこじ開けることはおろか、脱出する隙すらない。そのもどかしさにすずは檻を叩く。
「冬馬!」
万夏はそう叫びながら地面を蹴り冬馬の横腹めがけて拳をぶつけようとする。その手は金色の光で包まれており凄まじいスピードで迫る。
「壁を…!」
避けることを諦めた冬馬は影の壁を作り簡易的ながら防御をとる。が、万夏の勢いも止まらずその壁を破壊し横腹を殴る。
「がはっ…!」
食らった冬馬は勢いよく飛び民家にあるコンクリートの外壁にぶつかる。その衝撃に意識がトビかけるも必死に堪え、次の攻撃の手段を考える。
単純に攻撃防御しても万夏の能力で壊されてしまう。どうすればバレない?どうすれば確実に防御が取れる?僕の使える能力の幅も今はまだ限られている…。……ならっ!
冬馬は周りに影の壁を囲うように生成する。
「そんなの…!」
万夏は壁の破壊をしようと拳に金色の光に包ませ飛びかかった。
「無駄だって!」
「その行動自体がね!」
万夏が影の壁を思い切り殴り込む直前にそれを一瞬で消し去りあらわになった冬馬は殴る構えを取っていた。万夏の拳をかすりながらも手にまとわせた先程よりも大きい影を万夏の顔面に衝突させる。
さすがの万夏も避けることができず、殴り込んだ時の勢いと冬馬の勢いがマッチしとてつもない威力が出る。耐えることができなかった万夏は崩れ落ちうつ伏せになり起き上がらない。
「万夏ならそうするだろうと思ったよ。どこからでも破壊できるなら真っ直ぐ殴りに来るだろうってね。それを待ってたんだよ!」
聞こえているかなど関係なく、冬馬はそう解説する。
しかし正直のところ賭けであった。万夏が横から殴り込んできたりしたならまだそれを避け、攻撃するチャンスはあるが遠距離での破壊などができていたらそれも元も子もない、まさに詰みに近かった。
「う…ぐぁ…」
万夏はうめき声を上げ意識が戻ったことを示す。そうすぐに動けるものでもないため、冬馬はよろめきながらもすずの檻を消滅させ、再び大きな波型の影を生成する。
「じゃあね万夏。ゲニウス!もし万夏が起きても僕らが離れるまで抑え込めるようここに残ってて」
「えー。オレもお台場観光行きたい~!」
冬馬の言葉に突如現れたゲニウスは子供のように駄々をこねる。おそらく喧嘩をするとわかってから面白いものを見るつもりで来ていたのだろう。
「これ、命令ね」
「はいはーい。ったくゲニウス使いが荒いご主人だこと」
そう軽く言うも冬馬は気にせず波型の影を動かし、秘密基地の敷地を出る。
「オマエ、本気なんだな。だいぶ応用も効いてたし、なかなか面白いもんが見れたぜ。まぁ短期決戦みたいで物足りねーけどな」
「あんま長引かせたくなかったんだよ。薄暗い檻にすずを入れたくはないからね」
「そうですかい。まぁ、それがいいわな。冬馬と万夏じゃ長引くだけ不利になってくのはオマエだけだし。たまには顔出しにこいよ」
「母親みたいなこと言うな。まぁ気が乗ったら来るよ」
そう会話をすると冬馬とすずを乗せた影は自転車ほどのスピードで走り出す。
「おっそ」
そうゲニウスが呟いたのだった。
「ぅぅん……トーマ?」
その音にすずも目を覚まし冬馬を呼ぶ。
「あぁすず、おはよ。ちょうど良かった、ここを出よう。これからは二人で過ごそう」
「は?」
その突然さと内容にすずは変な声になっていた。
「これ以上ここにいても二人きりでいられることなんてない。なら出ていこう」
「でもそんな勝手に…」
「流石に別れの挨拶くらいはするよ。やだなぁ」
冬馬は笑いながらすずに言う。その言葉にすずはどこか安堵していた。
冬馬と二人でいられる。それはすず自身も願っていたことであり、おそらく冬馬も思っているだろう。それなら─
手を繋ぎ秘密基地を出ると冬馬は当たり前のように地面から大きい波のような影を出現させる。当然すずはそれに驚くが冬馬は気にしない。
「さ、これに乗って。一応目標地点はお台場にしてみたんだ」
「乗るってどうやっ…うわぁ!」
すずの下から円盤型の影がエレベーターのようにして波のような影に乗せる。見た目に反して素材は硬く、なめらかなコンクリートのようであった。影の上は安定していて不思議と落ちる心配は微塵も感じることがなかった。これも冬馬の配慮なのだろう。
「こ、これはどういうこと!?」
そう大きな声を出して驚いていたのは他でもない万夏であった。
「なんのつもり!?」
「見ての通りだけど。僕らは僕らの道を行く、ここで万夏とはお別れだ」
冬馬の下へ駆け寄ってきた万夏を見下ろし言う。
「みんなを助けるためにも冬馬の力が必要なんだよ!」
「そんなの僕には関係ないでしょ。それに僕はあくまで日菜乃さんを救出する手助けをしただけだよ。周りの人を助けるつもりで万夏と協力したわけじゃない」
万夏は言い返せずに立ち尽くす。言い過ぎと感じたすずは冬馬の背中を叩くも気にされることはなく見下すような目をしたままである。
「万夏はこれからどうしようと構わない。…いや構うのかな?この止まった東京でどこへ行こうと咎めはしない。まぁもし時間を動かそうとしたならその時は全力で邪魔させてもらうけどね」
「そんな…!」
「ま、そういうことだから。じゃあね万夏、この力を得るきっかけになった君への感謝は忘れないよ」
冬馬はそう言いながら万夏に背を向け、乗っていた影が動き出す。波のような形とはいえ揺れることはなく、安定していた動きを見せていた。
「待ってよ!」
「無理」
万夏の叫びも虚しく冬馬は背を向けたまま進む。そのスピードは徐々に上がっていって住宅街に入っていこうとしたその時、冬馬たちの乗っていた影が一気に崩壊していった。
「待てって!」
壊した犯人である万夏は声を荒らげて飛びかかり、波型の影を殴り飛ばしていた。その手は金色の光に包まれていて、能力を使ったことが一目でわかった。
「きゃっ…!」
「すず!!」
すずは足場が消えたことにより転落する。それを確認するなり冬馬は先に着地した勢いを殺すことなく再び跳び、すずを抱え込む。幸い傷ひとつ付かず無事でいた。がしかし冬馬の心に安堵などなかった。
「……すずにかすり傷でもついたらどう責任とるつもりだったんだよ……!」
冬馬は天敵を見るような目で万夏を睨みつけ静かながらに強い怒りを表した。その目に万夏は気圧されそうになるものの後に引けない気持ちから弱々しくも負けじと睨みつけ返した。
「すず、ちょっと待ってて」
そう言うと冬馬はすずを影の檻に入れて遠くに置き、万夏の方へ歩き出す。
すぐに速度を上げ、かなりのスピードで万夏の正面に飛び込み顔面めがけて握った拳を放つ。しかし身体能力が上がったのは冬馬だけではない。万夏もそれをギリギリのところで回避する。
「チッ…」
冬馬は舌打ちをしながらも殴った拳の勢いを流して足に影をまとわせ体を捻って万夏の胴体に回し蹴りを入れる。この追撃に万夏は追いつくことができず思い切り吹っ飛び、木の幹に激突する。
「……ぐあっ!」
「万夏くん!」
吹っ飛ぶ姿に思わずすずは大声で呼んでしまう。なんとかしなくてはと思ってはいても影は思った以上に頑丈でこじ開けることはおろか、脱出する隙すらない。そのもどかしさにすずは檻を叩く。
「冬馬!」
万夏はそう叫びながら地面を蹴り冬馬の横腹めがけて拳をぶつけようとする。その手は金色の光で包まれており凄まじいスピードで迫る。
「壁を…!」
避けることを諦めた冬馬は影の壁を作り簡易的ながら防御をとる。が、万夏の勢いも止まらずその壁を破壊し横腹を殴る。
「がはっ…!」
食らった冬馬は勢いよく飛び民家にあるコンクリートの外壁にぶつかる。その衝撃に意識がトビかけるも必死に堪え、次の攻撃の手段を考える。
単純に攻撃防御しても万夏の能力で壊されてしまう。どうすればバレない?どうすれば確実に防御が取れる?僕の使える能力の幅も今はまだ限られている…。……ならっ!
冬馬は周りに影の壁を囲うように生成する。
「そんなの…!」
万夏は壁の破壊をしようと拳に金色の光に包ませ飛びかかった。
「無駄だって!」
「その行動自体がね!」
万夏が影の壁を思い切り殴り込む直前にそれを一瞬で消し去りあらわになった冬馬は殴る構えを取っていた。万夏の拳をかすりながらも手にまとわせた先程よりも大きい影を万夏の顔面に衝突させる。
さすがの万夏も避けることができず、殴り込んだ時の勢いと冬馬の勢いがマッチしとてつもない威力が出る。耐えることができなかった万夏は崩れ落ちうつ伏せになり起き上がらない。
「万夏ならそうするだろうと思ったよ。どこからでも破壊できるなら真っ直ぐ殴りに来るだろうってね。それを待ってたんだよ!」
聞こえているかなど関係なく、冬馬はそう解説する。
しかし正直のところ賭けであった。万夏が横から殴り込んできたりしたならまだそれを避け、攻撃するチャンスはあるが遠距離での破壊などができていたらそれも元も子もない、まさに詰みに近かった。
「う…ぐぁ…」
万夏はうめき声を上げ意識が戻ったことを示す。そうすぐに動けるものでもないため、冬馬はよろめきながらもすずの檻を消滅させ、再び大きな波型の影を生成する。
「じゃあね万夏。ゲニウス!もし万夏が起きても僕らが離れるまで抑え込めるようここに残ってて」
「えー。オレもお台場観光行きたい~!」
冬馬の言葉に突如現れたゲニウスは子供のように駄々をこねる。おそらく喧嘩をするとわかってから面白いものを見るつもりで来ていたのだろう。
「これ、命令ね」
「はいはーい。ったくゲニウス使いが荒いご主人だこと」
そう軽く言うも冬馬は気にせず波型の影を動かし、秘密基地の敷地を出る。
「オマエ、本気なんだな。だいぶ応用も効いてたし、なかなか面白いもんが見れたぜ。まぁ短期決戦みたいで物足りねーけどな」
「あんま長引かせたくなかったんだよ。薄暗い檻にすずを入れたくはないからね」
「そうですかい。まぁ、それがいいわな。冬馬と万夏じゃ長引くだけ不利になってくのはオマエだけだし。たまには顔出しにこいよ」
「母親みたいなこと言うな。まぁ気が乗ったら来るよ」
そう会話をすると冬馬とすずを乗せた影は自転車ほどのスピードで走り出す。
「おっそ」
そうゲニウスが呟いたのだった。
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