止まった世界であなたと

遠藤まめ

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第2章 時の使者

23話 ひとっ飛び

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「よし、じゃあそろそろ出発しようか」

校庭にて冬馬はすず、仁悟、氣琵の三人にそう言うと巨大な直方体を出現させる。その形はさながら貨物列車のコンテナのような見た目であった。
見送りに来た木之伸と歩院の二人の顔が引きつっているのが雰囲気でよく分かる。

「主様が主様って久しぶりに体感したッス…」

「それって喜んでも良いのかな…」

畏怖と取って良いその反応に素直には喜べないが今は深く話す必要もあるまい。すぐに気を取り直しコンテナに入口サイズの穴を開ける。

「さあ、ふたりとも入って。乗ったらこの入口は閉じるから」

それを聞いたすずと仁悟は素直に乗り込むとそれに続いて冬馬も乗り込む。するとたちまち入口になっていた穴が塞がり、窓のような長方形の穴が空き、乗っているメンバーの姿が見えるようになる。

「じゃ、お留守番頼んだよ。万が一何かあったらすぐに知らせてね」

その一言を言い終えるとコンテナ型の乗り物は見た目に反する速度で目的地の方向へと飛んでいくのであった。それに続き氣琵も綿菓子のような雲には似合わない速度で追いかける。飛び立つ音が見たものから少し遅れて響く。

「…ぱ、ぱねぇなこりゃ…。行けなくてよかったかも…」

一瞬聞こえたすずの悲鳴を耳にすると先程まで悔しかったはずの感情も薄れていく木之伸なのだった。

────────────

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

異常なほどの速度で外の景色が流れていき体中に圧力がかかっていくのがよくわかる。目尻から耳の端と後ろに涙が流れていき死を悟るほどのスピードで移動するコンテナの中。仁悟と冬馬は持ち前の体力からか対して苦しそうでもなくむしろ余裕そうであった。外を見ればこれまた異常なスピードで並走する氣琵に恐怖すら覚える。

「────。」

口をパクパクさせて何かを伝えようとする冬馬だが音を置き去りにして走っている今、聞こえるはずもなくうまく伝わらない。冬馬はゆっくりすずを抱えお姫様抱っこの形で持ち上げる。その意図を聞き取るのを諦め外を見るとすずの顔面はより青さを増すのだった。

お、落ちてる!?!?

乗っているコンテナが地面に向かい傾いているのだ。それはまさに死の一文字を体現した状況。まさに絶望を生んでいた。
─が、その考えも勘違いに終わる。氣琵が巨大な雲形の物体を出現させクッションのようになったそれにぶつかる。当然乗り物が破壊されることはなく冬馬が抱えていたこともあってか中での衝撃は無に等しかった。

「はぁはぁ…殺す気!?」

「ごめんごめんあのスピードだからGも凄かったでしょ」

「凄かったでしょ。じゃないから!!!東京タワーより高いところに行きそうだったんですけど!!?」

「まあでもほら。その東京タワーについたよ」

冬馬の指が右側に向きその方向には赤く輝く塔、東京タワーがそびえ立っていたのだった。

「わあ…これが東京タワーぁ…すごいねぇ」

眠たげなが声音とは反して目を輝かせてその塔を眺める氣琵。仁悟も感嘆の声を溢す。

「なんか圧倒されるね。ケンちゃんが言ってた通り近くで見てるとほんとに首が痛くなりそう」

「まだ満足するのは早いよ。上に行ってみなくちゃ」

地上から見る因縁の目的地に先程の威勢が消え息を呑むすずに冬馬はいたずらな笑顔と同時にタワー内へ促す。

「ごめんね…!」

そう小さく謝りエレベーターを破壊し小さなブロックへと形を変え、エレベーターのあった場所に紫黒色のエレベーターのようなものを作るとその物体の扉が開かれる。

「さ、みんな乗って。外は夕日できれいになってるはず」

「なんかトーマ、日を重ねるごとに容赦がなくなってる気が…」

「ためらってばっかじゃつまんないしねぇ」

建築物をこれまでかと言わんばかりに破壊し、自身の作った物体に置き換えていく冬馬の姿に若干引くすず。その反応を横目に氣琵は淡白な回答をしながらエレベーターへと乗り込む。

「このエレベーターはゆっくりなんだね…」

「ん?早くもできるけど…」

「結構です」

先程のロケットのようなスピードで来た乗り物とは違い常識の範囲内のスピードで上がっていくエレベーターにすずも調子が狂う。頭のおかしい回答をする冬馬に食い気味に断りを入れることは忘れない。

「そろそろかな」

そういうとエレベーターの扉が開かれ、眼の前には外の景色が一望できるガラス張りの部屋が広がっていた。客だった人間が楽しそうな表情を残して動きを止めている。

「わあ~!きれい!!」

「ねぇ~」

入るなり外に小走りで向かいテンションが高めのすずをなだめるような氣琵は普段雲形の乗り物に乗っているからか反応が薄めであった。予想通りといえば予想通りの状況に思わず安堵も兼ねた笑みを浮かべる。が、一つ意外だったことが─

「仁悟?外の景色見に行かなくてもいいの?」

「…えっと…。僕は遠慮させてもらおうかと…よ、予想以上に高いんですね。ここ…」

「ん?もしかして仁悟って…高いところが…」

「い、意外ですよね…。高いところから下を見るとどうも心臓がキュってなるような感じがしてしまいまして…」

「まあ使者に心臓なんてないんだけどね…」

王子のような見た目に何でも卒なくこなす仁悟にも苦手なものがあったという事実に素直に驚き取り乱してからしくないことを言う仁悟に突っ込む冬馬。

「僕だってこんな高さじゃ落ちても死なないってわかってるのですが…どうも怖くって…僕らしくないしこんなの変ですよね」

「ん~別に変じゃないと思うけど。なんていうかイケメンの仁悟にもそんな可愛いところがあるなんてって感じである意味そのギャップがいいところになってると思うけどね」

「そ、そんな…」

「いやいや何でもできるヤツのほうが変だから。これくらいの短所はあってもいいと思うよ。どうしても治したいって言うならアドバイスするけど、高いところが苦手ってちゃんと認めてそんな自分と向き合えたときにきっと高所恐怖症を克服できるようになると思うんだ。まあ今は難しいと感じるかもだけどね」

「…」

珍しく弱気な仁悟に本心で答える。

「まあここにはお土産屋さんもあるし食事のイメージづくりに行ってみるといいよ。その間に俺もそろそろ仕事に入ろうかな」

そう言うと冬馬は建物を一周しながら目に入った周辺の建物や道路上、タワー内外に使者を召喚していく。無言で召喚された場所周辺を歩き回る使者を見ると冬馬は満足げの表情を浮かべる。

「よし。ひとまずこれでそう簡単にここに入ることは無理だろうな」

「トーマ終わったのー?」

「うん。そっちは?もう満足?」

「うん!!すっごく景色楽しめた!」

「早いけどもう次の場所に移動する?」

「そうしよっ!」

満足げなすずと氣琵に確認を済ませると次に仁悟の方を見る。コクリとうなずきその確認を取るとエレベーターの扉が開く。

「さあ、次は国会議事堂だ!」

「お、ちょっと楽しみにしていたやつだぁ!」

そう言う氣琵と一同はエレベーターへと乗り込むのだった。

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