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第2章 時の使者
28話 再訪した先で見たもの
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「あ、トーマおかえり…。結構騒がしかったけど無事に終わったみたいだね」
「ただいま。無理やり命令口調とかしたからまだちょっと変な感じがするけど終わったよ」
男たちから情報を引き出したあと、急いで近くの部屋に入ると椅子に座り決して明るい表情ではないすずがそっと迎えていた。すずの前方に立ち待機していた仁悟は息を切らす冬馬の様子になにか気づいたようでいつもに増して凛々しい目つきをしながら口を開く。
「それで、武器の情報に関して何か得ることはできましたか?」
「そのことなんだけどね、ちょっと捜索を中断しなくちゃならないことになったんだ」
「中断?もしかして武器はないと言うことですか?」
「実際のところどうだかわからないけどおそらくその可能性が高いだろうね。相手側の持ってる情報も大まかなものばかりだったしあればいいかなくらいの意気込みで探しに来ていたみたい」
「なるほど…。それではなぜそこまでお急ぎで?」
「ああ、そうそう。どうやら我々の敵が動き出していたみたい。これからこの止まった世界を動かそうとしはじめるみたい」
その言葉を聞くなり一番に驚いたのはすずであった。目を見開き座っていた椅子から勢いよく立ち上がる。仁悟もまた眉をピクリと動かすが大げさな行動は起こさない。
「じ、じゃあこれからそれを邪魔しに行こうっての!?」
「うん。このままだと僕たちに敵対する軍勢が増えるしどんどん不利になっていくことになる」
「いくらなんでも無茶じゃ…」
「とにかく今は話し合ってる場合じゃない。一刻を争う事態なんだ、今実行される可能性だって大いにある。肝心の場所だけど奴ら曰く高いところで実行するらしいんだ」
「東京タワー…」
「僕もそうだと思う。おそらく登る労力が少なくて高いところといえばあそこしかないんだと思う。みんな、この距離だけどふっとばしていくよ!」
相当まがいうと一同は外へと走り出す。駐車場中心辺りに先程同様コンテナのような物体を生成し、入口となる穴を開ける。コンテナめがけて飛び入る三人を確認した氣琵は一足先に東京タワーの方向へと飛び立つ。
「じゃあいくよ!ちょっと荒くなるけど舌噛まないようにね!」
「もうやだぁぁぁ!!!!」
そのすずの叫び声を残してコンテナもまた勢いよく飛び立つ。
「死ぬ死ぬ死ぬ!!!!これやばいって!!!!」
「ごめんすず!不時着に近い形になる!しっかり掴まっててね」
飛び立ち数秒、意識がいつ飛んでもおかしくないほどのGを喰らうなかそう冬馬が言うとすずをお姫様抱っこし始める。もう着くのかという考えよりも先にこのまま死ぬのではないかと本気で感じてしまう。
「氣琵!!」
「はいはぁい!」
氣琵の方を見ながら叫ぶ冬馬に氣琵もまた呼応するようにクッションを生成する。しかしそのクッションですら音速のコンテナの勢いを完全に吸収することはできず、軽く地面とぶつかる。
「っ!!!!」
その衝撃から吹っ飛びコンテナ内の壁にぶつかりそうになったタイミングでコンテナを消失させる。そうすることで無事無傷で東京タワー前の地面に着地することを成功させる。
「つ、着いた…ちょっと休憩…」
「今はもう悠長なことは行ってられない!急いでエレベーターに乗ろう」
一同は大慌てで先程生成した紫黒色のエレベーターのような物体に乗り込む。冬馬が焦っているからか、エレベーターは不安定に揺れ、速度もかなり早く感じた。
「もうすぐだよ。みんな気を張って」
冬馬の言葉に一同は無言で体中に力を入れはじめる。静かながらに開かれた扉の先で待っていたのは一同の想像していたものとは違っていた。
「…誰もいない…?」
その空間にいたのは先程召喚していた使者たちのみであった。先程よりも数は多めに見えたものの動いている人間が混じっていることはなく依然と止まったままの人間で溢れていた。
なぜ、どうしてここにいないのか。先程の男たちの話は自らを守るための嘘だというのか。
「周囲の人間を見るにその作戦が実行された後とは思えないね」
「ではその作戦を実行するという情報も嘘と…?」
「いや、なにか見落としてる気がする…。思い出せ、ここまでの間になにか違和感があったはずだ…」
これまでにあった違和感を一つ一つ確認していく。男たちの会話から行動まで一部始終を振り返る。もう一つの可能性を見出そうと頭をフルに回転させる。その時、一つの可能性が冬馬の頭をよぎる。
「…そうか!スカイツリーだ!なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ」
「スカイツリー?」
「日本で一番高い場所といえばそっちだったんだ。エレベーターが使えないなんて勘違いして最初から選択肢に入れていなかった…バイクが使えるようになってるってことはエレベーターも使えるようにできるってことじゃないか!」
完全にぬかっていたと自身の拳を強く握りしめる。万夏と初めて出会ったあの日、まだ能力の持っていなかったことから登るのを断念していたのが印象に残りすぎて深層心理の中で勝手にスカイツリーの可能性を否定してしまっていた。国会議事堂での違和感の正体である男たちが来る際に聞こえた聞こえるはずのないバイクのエンジン音が万夏の能力は人だけでなく時の止まった物も再生までさせてしまうということを示唆していたのだと気づく。
「奴らはスカイツリーにいる可能性が高い!今すぐにでも向かおう!」
「と、トーマ!見て、スカイツリーの方向…」
すずが震えた声でスカイツリーの方向を指差すのを見過ごすこともできず言われた通りそちらの方向に目を向ける。その時冬馬の目の前に広がる光景に自然と力が抜けていく。心臓がドクンと一度大きく鼓動し今以上に汗が吹き出ているのがわかる。
「あの光は…やっぱりそっちだったんだ…。もう始まっちゃった…」
目の前に広がる光景、それはスカイツリー上部に広がる金色の光が空一面に広がり神々しく輝いていたのだ。まるで神の訪れと錯覚してしまうほどの光景を前に震える唇を噛み締め棒立ちする一方であった。
「け、結構ヤバそうだねぇ…」
「冬馬様、急ぎましょう。見たところまだ光は効力を持っておらずためている状態です。今向かえばギリギリでも間に合う可能性が」
「そ、そうはいったってもうだめじゃないか。その場所に間に合ったところであの力が発動するほうが先になってしまう…」
「諦めちゃうの?一ミリでもある可能性に賭けなきゃ。トウマはそういう人間でしょぉ?」
諦めかけ完全に戦意喪失してしまっていた冬馬の目に氣琵と仁悟の言葉によりまた光が戻っていく。このまま終わらす訳にはいかない。終わらせてしまってはいけないという気持ちが最後の気力となる。
「よし、いこう。僕たちの勝利目指して悪あがきといこう!」
たちまち仁悟と氣琵の表情がゆるみ柔らかくなっていく。こうして不可能に近いこのピンチを打開させるべく一同の士気がもう一度再燃するのであった。
「いやいやいや。ちょっと待ってよ。まさかこっちにいるとは思わんでしょ」
突如聞こえた男の声は冬馬のものでなかった。コツコツとゆっくりこちらに向かってくる男はニヤニヤと笑いながらそう語るのだった。
「ただいま。無理やり命令口調とかしたからまだちょっと変な感じがするけど終わったよ」
男たちから情報を引き出したあと、急いで近くの部屋に入ると椅子に座り決して明るい表情ではないすずがそっと迎えていた。すずの前方に立ち待機していた仁悟は息を切らす冬馬の様子になにか気づいたようでいつもに増して凛々しい目つきをしながら口を開く。
「それで、武器の情報に関して何か得ることはできましたか?」
「そのことなんだけどね、ちょっと捜索を中断しなくちゃならないことになったんだ」
「中断?もしかして武器はないと言うことですか?」
「実際のところどうだかわからないけどおそらくその可能性が高いだろうね。相手側の持ってる情報も大まかなものばかりだったしあればいいかなくらいの意気込みで探しに来ていたみたい」
「なるほど…。それではなぜそこまでお急ぎで?」
「ああ、そうそう。どうやら我々の敵が動き出していたみたい。これからこの止まった世界を動かそうとしはじめるみたい」
その言葉を聞くなり一番に驚いたのはすずであった。目を見開き座っていた椅子から勢いよく立ち上がる。仁悟もまた眉をピクリと動かすが大げさな行動は起こさない。
「じ、じゃあこれからそれを邪魔しに行こうっての!?」
「うん。このままだと僕たちに敵対する軍勢が増えるしどんどん不利になっていくことになる」
「いくらなんでも無茶じゃ…」
「とにかく今は話し合ってる場合じゃない。一刻を争う事態なんだ、今実行される可能性だって大いにある。肝心の場所だけど奴ら曰く高いところで実行するらしいんだ」
「東京タワー…」
「僕もそうだと思う。おそらく登る労力が少なくて高いところといえばあそこしかないんだと思う。みんな、この距離だけどふっとばしていくよ!」
相当まがいうと一同は外へと走り出す。駐車場中心辺りに先程同様コンテナのような物体を生成し、入口となる穴を開ける。コンテナめがけて飛び入る三人を確認した氣琵は一足先に東京タワーの方向へと飛び立つ。
「じゃあいくよ!ちょっと荒くなるけど舌噛まないようにね!」
「もうやだぁぁぁ!!!!」
そのすずの叫び声を残してコンテナもまた勢いよく飛び立つ。
「死ぬ死ぬ死ぬ!!!!これやばいって!!!!」
「ごめんすず!不時着に近い形になる!しっかり掴まっててね」
飛び立ち数秒、意識がいつ飛んでもおかしくないほどのGを喰らうなかそう冬馬が言うとすずをお姫様抱っこし始める。もう着くのかという考えよりも先にこのまま死ぬのではないかと本気で感じてしまう。
「氣琵!!」
「はいはぁい!」
氣琵の方を見ながら叫ぶ冬馬に氣琵もまた呼応するようにクッションを生成する。しかしそのクッションですら音速のコンテナの勢いを完全に吸収することはできず、軽く地面とぶつかる。
「っ!!!!」
その衝撃から吹っ飛びコンテナ内の壁にぶつかりそうになったタイミングでコンテナを消失させる。そうすることで無事無傷で東京タワー前の地面に着地することを成功させる。
「つ、着いた…ちょっと休憩…」
「今はもう悠長なことは行ってられない!急いでエレベーターに乗ろう」
一同は大慌てで先程生成した紫黒色のエレベーターのような物体に乗り込む。冬馬が焦っているからか、エレベーターは不安定に揺れ、速度もかなり早く感じた。
「もうすぐだよ。みんな気を張って」
冬馬の言葉に一同は無言で体中に力を入れはじめる。静かながらに開かれた扉の先で待っていたのは一同の想像していたものとは違っていた。
「…誰もいない…?」
その空間にいたのは先程召喚していた使者たちのみであった。先程よりも数は多めに見えたものの動いている人間が混じっていることはなく依然と止まったままの人間で溢れていた。
なぜ、どうしてここにいないのか。先程の男たちの話は自らを守るための嘘だというのか。
「周囲の人間を見るにその作戦が実行された後とは思えないね」
「ではその作戦を実行するという情報も嘘と…?」
「いや、なにか見落としてる気がする…。思い出せ、ここまでの間になにか違和感があったはずだ…」
これまでにあった違和感を一つ一つ確認していく。男たちの会話から行動まで一部始終を振り返る。もう一つの可能性を見出そうと頭をフルに回転させる。その時、一つの可能性が冬馬の頭をよぎる。
「…そうか!スカイツリーだ!なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ」
「スカイツリー?」
「日本で一番高い場所といえばそっちだったんだ。エレベーターが使えないなんて勘違いして最初から選択肢に入れていなかった…バイクが使えるようになってるってことはエレベーターも使えるようにできるってことじゃないか!」
完全にぬかっていたと自身の拳を強く握りしめる。万夏と初めて出会ったあの日、まだ能力の持っていなかったことから登るのを断念していたのが印象に残りすぎて深層心理の中で勝手にスカイツリーの可能性を否定してしまっていた。国会議事堂での違和感の正体である男たちが来る際に聞こえた聞こえるはずのないバイクのエンジン音が万夏の能力は人だけでなく時の止まった物も再生までさせてしまうということを示唆していたのだと気づく。
「奴らはスカイツリーにいる可能性が高い!今すぐにでも向かおう!」
「と、トーマ!見て、スカイツリーの方向…」
すずが震えた声でスカイツリーの方向を指差すのを見過ごすこともできず言われた通りそちらの方向に目を向ける。その時冬馬の目の前に広がる光景に自然と力が抜けていく。心臓がドクンと一度大きく鼓動し今以上に汗が吹き出ているのがわかる。
「あの光は…やっぱりそっちだったんだ…。もう始まっちゃった…」
目の前に広がる光景、それはスカイツリー上部に広がる金色の光が空一面に広がり神々しく輝いていたのだ。まるで神の訪れと錯覚してしまうほどの光景を前に震える唇を噛み締め棒立ちする一方であった。
「け、結構ヤバそうだねぇ…」
「冬馬様、急ぎましょう。見たところまだ光は効力を持っておらずためている状態です。今向かえばギリギリでも間に合う可能性が」
「そ、そうはいったってもうだめじゃないか。その場所に間に合ったところであの力が発動するほうが先になってしまう…」
「諦めちゃうの?一ミリでもある可能性に賭けなきゃ。トウマはそういう人間でしょぉ?」
諦めかけ完全に戦意喪失してしまっていた冬馬の目に氣琵と仁悟の言葉によりまた光が戻っていく。このまま終わらす訳にはいかない。終わらせてしまってはいけないという気持ちが最後の気力となる。
「よし、いこう。僕たちの勝利目指して悪あがきといこう!」
たちまち仁悟と氣琵の表情がゆるみ柔らかくなっていく。こうして不可能に近いこのピンチを打開させるべく一同の士気がもう一度再燃するのであった。
「いやいやいや。ちょっと待ってよ。まさかこっちにいるとは思わんでしょ」
突如聞こえた男の声は冬馬のものでなかった。コツコツとゆっくりこちらに向かってくる男はニヤニヤと笑いながらそう語るのだった。
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