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第2章 時の使者
34話 掌に残された希望
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音が鮮明に聞こえない。視界もぼやけてほとんどわからない。頭が焼けているかのような激痛に襲われ記憶も曖昧になってしまっていた。何が起きたのだろうか、
「まさかまだ意識があったなんてな……バケモノ使いもしっかりバケモノということですね」
「ま、益田さん…!」
「もういいです。万夏くん、今できる限りの能力を使ってください。これ以上は待っていられません」
「で、でもそれじゃあ……」
「いいから。万夏くんももう限界なんでしょう?」
「……わかりました」
そういい、万夏の溜めていた力が開放されようと金色の輝きを強めていく。万夏を中心に周囲の人間へと光を包み込み、やがて─
「ちょっとストーップ!これ以上はさせられないよぉ」
氣琵の登場により止められてしまうのであった。金色に包まれた空間、氣琵の姿を確認したものは一人もいない。しかし確実にその声の持ち主が敵であると根拠のない確信があったのだ。一人の脱力した少女の声に体が恐怖する。
「水術、濃霧」
その瞬間、周囲に漂っていた金色の光は濃霧に書き換えられ、完全に氣琵のテリトリーへと移し替えられる─ことはなかった。金色の輝きは濁ることなく輝き続け一同を困惑させる。
「あ、あれぇ…なんでだろぉ……しょうがないっ!トウマ!いるのぉー?ジンー?」
困惑を隠せない氣琵は芯のない大声で冬馬らの名を呼ぶ。誰からの応答もなく能力も使えないため建物内で捜索もできない今、氣琵にできることは殆どなかった。しかし諦めるわけにもいかず、ただただ名前を叫び続ける。
「……」
「トウマー?ジーン?おーい」
音が聞こえる。脳に直接届いているようで頭が叩かれているかのように痛い。何を言っているのかはわからない、今はただ大人しく眠ていたいとしか思えない。この眠りを妨げる声を聞こえないようにはできないのか。
冬馬の体、筋肉は完全にやる気を失いぐったりと倒れることしかできなかった。しかし心の何処かで目覚めろと言っている気がした。ここで大人しくしているわけにはいけないと、立ち上がれと聞こえているのだ。あのとき、万夏と共闘していたときのように。
「き、き……び…?」
「トウマ!?いるの?他のみんなは!?」
「うう……頭が…」
「まだ生きてたのか!?」
その声に、確実に仕留める勢いの攻撃を受けたはずなのにまだ立ち上がってきた存在に驚きを隠せないのは益田含む周囲の人間であった。鉄パイプであそこまでやってもなお死なないとはどういった生存能力なのか。
「き、氣琵…学校に…みんなのいる場所に急いで……!ここは大丈夫だから…!」
「え…?いやでも…」
「いいから!!どうか、すずを守ってあげてほしいんだ!」
「……っ!…よくわかんないけど…わかった。死なないでよねぇ!」
「う、うん。せめて…水術、濃霧」
言い渡された指示に戸惑いを隠せない氣琵であったが冬馬の必死の声掛けが、氣琵の背筋を正しこの場を後にすることにしか意識していた。その気迫から何があるのか十分に察していたのかもしれない。効かないとわかっていても最後に役に立てばと建物を覆うように濃い霧を発生させる。変わらず金色に輝く室内を見て自嘲気味ににやけその場を離れ学校へと向かうのであった。
「その状態で助けを求めないなんて本当に死にたいようだ」
「どうかな…?僕だけでなんとかなる気がしたんでね」
「でももう終わりですよ、万夏くん!はやく!」
「はいっ!」
その声掛けを最後に一瞬の強い光を放つと建物内にあった止まっていたはずのものが、生き物が動き始めた。その一瞬、光りに包まれ何も見えないタイミングに冬馬の拳は益田の顔面に直撃していた。
すべてが恐ろしく速いスピードで済まされていたのだ。益田の顔面を殴る冬馬の姿を確認したと思った刹那、建物を囲っていた濃霧が割れた窓から侵入して何も見えなくなっていたのだ。先程まで止まっていた人間の悲鳴と機械の音だけが響くだけであった。
「い……ったいですねえ!!このタイミングで殴りますか?普通」
「悪いけど僕を殺そうと鉄パイプでぶん殴ってきたやつに容赦なんてないよ」
「これで終わりにしましょう。冬馬くん、今度こそちゃんと仕留めてみせますよ」
「上等ですよ!!」
少しずつ霧が晴れ視界が良好になる。阿鼻叫喚とした空間をものともせずお互いがお互いを睨み合う。互いに間合いを詰合い益田の手に強く握られた鉄パイプを振り回される。冬馬も慎重に避け、攻撃につなげるタイミングを図る。ゾーンとでも言うのか、残されたたった一つの策を講じるためにもこの場で戦う他にない。
振りかざされた鉄パイプを踏み、その瞬間に生じた隙をつき顔面に蹴りを入れようとする。が、それさえ避けられてしまい益田の膝が冬馬の顔面に直撃する。よろめいた冬馬の横腹に蹴りを入れられ追撃がまた冬馬の意識を朦朧とさせる。
「どうしましたー?ほら、私はまだピンピンしてますよ?」
「くっそが…!」
「どんだけ殴っても、蹴っても死なないなんてどうしよってね」
徐々に益田の殴る力や蹴る力が増していき割れた窓の方へと一歩、また一歩近づいていく。前進しようと仕掛けても押し返され、乱雑になっていく。なんとか保っていた意識もまた失いかけ立っていることすら困難を極める。そんなこともお構いなしに頭部を、腹を、足を殴り蹴られていく。鉄パイプでここまで殴られてまだ立っていられたのだ十分頑張ったと感じてすらいた。
「もう限界そうだね、じゃあね。冬馬くん」
「ああ、この時をずっと待ってたんだよ!」
「なっ!!」
高く持ち上げられた鉄パイプが冬馬の脳天めがけて振り下ろされようとしたその時、冬馬は自ら飛び降りることを選択していた。死を前に乱心したかと焦る。しかしとうに限界など越しているであろう冬馬が助かる可能性などないとしか思えなかった。だからこそ身投げした理由がわからず濃霧に飲み込まれ見えなくなった冬馬の行方を考え生唾を飲むことになる。
「もう後に引けない、一世一代の大勝負!頼んだよ、平治!!」
ものすごい速度で降下し地面との距離が近づき死を目前とする中、冬馬はポケットの中から一つの希望を掴み、地面へと叩きつける。掌にある残された紫黒色の希望を出せる最高の力で振り落とす。ガラスの球体が割れたかのような音とともに分厚い布団のようなエアクッションが一瞬にして広がり冬馬を包み込む。そしてその吸収した勢いを再度冬馬の体へと解き放ち跳ね返す。
「うわああああああ!!!」
降下していたときとは比にならない速度で上昇する。逆バンジーを死ているような浮遊感にもはやそこに死の恐怖すら感じなかった。今はただ、益田との戦闘にしか脳がなく痛みさえも忘れていた。
「し、死んだ…?」
慎重に、先程の二の舞いにならないようにそっと下を覗くも冬馬の姿はない。時間的にも死んだと見て間違いはないはずであった。勝利を確信したその瞬間、自身の目を疑うほどの自体が発生する。
「うおおおおおお!!!」
「なっ……!バケモンすぎだろッ!」
濃い霧の奥から雄叫びとともに飛び出してきた冬馬、その手にもつ紫黒色の刀が益田の脳天めがけ叩きつけられる。跳ね返った勢いが落ち、落下の勢いに乗せ叩きつけられた一撃は構えられた鉄パイプすらも捻じ曲げ益田の頭部を直撃させ、鈍い音と同時によろめかせることに成功したのだ。よろめいた益田の腹めがけ斬りかかろうと刀を構える。
「これで終わり─」
「……」
「なっ!なんでお前が…」
トドメのはずの一撃は確実に入ったはずだったのだ。しかし冬馬の目を疑うような姿となる。益田の腹に紫黒色の物体が生成され冬馬の一撃を防いでいたのだ。もちろん冬馬が作ったわけではない。となれば作った人間など益田一人しかいないのだ。
「お前、心臓持ちだったのか…!?」
「そっちこそ……そんなもん作れるなんて聞いてねえ……」
「どういう……」
「万夏くん、ここは一度身を引きましょうか。状況も状況なんでね」
「そうは…」
「冬馬くん、ここまでまともに食らったのは久しぶりでした。またどこかでお会いできることを願っています。それまで死なないでね」
まともに食らったと言う割には余裕過ぎる態度と俊敏さで冬馬の前から立ち去り壊れかけたエレベーターへと万夏とともに乗り込んでいた。その余裕さからこれ以上の戦闘は自身を振りにしかしないと察し、追うのを諦めただ閉まっていく扉を眺めているだけであった。叫び声の耐えない空間で残された万夏の仲間の男たちが睨みを効かせていたがもはや眼中にすらない。今はただ、死から逃れたことによる安心感と脱力感で座り込む事しかできなかった。
「これ以上近寄るようなら本気で殺しますよ。さっきは油断したけど今度はそうはいかないんで、いくらフラフラしててもそれくらいは余裕ですよ」
「……」
「嘘だと思ってます?」
そういうと何をするまでもなく割れた窓から時の使者が飛び込む。突然の怪物の襲来に建物内に残されたものと男たちの顔色が青くなりより盛大な悲鳴が響く。その存在が脅しだけで済むとは到底思えず男たちは一歩でも動けば殺されるという緊張感に立たされる。その圧倒的な威圧感を放つ使者に最初から彼らを参戦させるという作戦を思い出す。しかしこれに関しては戦闘中の冬馬の精神状態では周囲の人間も巻き込む可能性もあったため能力を得たばかりの未熟な冬馬には実行できないとして見送っていたのだ。一度使者を倒している万夏や益田には脅しになりにくいという点においてもいるだけ邪魔としか考えられなかったのも見送った理由の一つだが。
そんな事を考えていると徐々にアドレナリンが切れてきたのか体の節々から激痛が走る。ここで動けなくなるわけにもいかないと冬馬は立ち上がり建物から一気に飛び降りようと使者に掴まる。さすがの冬馬でも使者にお姫様抱っこされている光景は恥ずかしいもので少し急ぎで行動する。
「早くすずのもとへ行かなきゃ」
そう覇気のない声音でつぶやき小休止を済ませた冬馬は地獄となった空間を後にした。
「まさかまだ意識があったなんてな……バケモノ使いもしっかりバケモノということですね」
「ま、益田さん…!」
「もういいです。万夏くん、今できる限りの能力を使ってください。これ以上は待っていられません」
「で、でもそれじゃあ……」
「いいから。万夏くんももう限界なんでしょう?」
「……わかりました」
そういい、万夏の溜めていた力が開放されようと金色の輝きを強めていく。万夏を中心に周囲の人間へと光を包み込み、やがて─
「ちょっとストーップ!これ以上はさせられないよぉ」
氣琵の登場により止められてしまうのであった。金色に包まれた空間、氣琵の姿を確認したものは一人もいない。しかし確実にその声の持ち主が敵であると根拠のない確信があったのだ。一人の脱力した少女の声に体が恐怖する。
「水術、濃霧」
その瞬間、周囲に漂っていた金色の光は濃霧に書き換えられ、完全に氣琵のテリトリーへと移し替えられる─ことはなかった。金色の輝きは濁ることなく輝き続け一同を困惑させる。
「あ、あれぇ…なんでだろぉ……しょうがないっ!トウマ!いるのぉー?ジンー?」
困惑を隠せない氣琵は芯のない大声で冬馬らの名を呼ぶ。誰からの応答もなく能力も使えないため建物内で捜索もできない今、氣琵にできることは殆どなかった。しかし諦めるわけにもいかず、ただただ名前を叫び続ける。
「……」
「トウマー?ジーン?おーい」
音が聞こえる。脳に直接届いているようで頭が叩かれているかのように痛い。何を言っているのかはわからない、今はただ大人しく眠ていたいとしか思えない。この眠りを妨げる声を聞こえないようにはできないのか。
冬馬の体、筋肉は完全にやる気を失いぐったりと倒れることしかできなかった。しかし心の何処かで目覚めろと言っている気がした。ここで大人しくしているわけにはいけないと、立ち上がれと聞こえているのだ。あのとき、万夏と共闘していたときのように。
「き、き……び…?」
「トウマ!?いるの?他のみんなは!?」
「うう……頭が…」
「まだ生きてたのか!?」
その声に、確実に仕留める勢いの攻撃を受けたはずなのにまだ立ち上がってきた存在に驚きを隠せないのは益田含む周囲の人間であった。鉄パイプであそこまでやってもなお死なないとはどういった生存能力なのか。
「き、氣琵…学校に…みんなのいる場所に急いで……!ここは大丈夫だから…!」
「え…?いやでも…」
「いいから!!どうか、すずを守ってあげてほしいんだ!」
「……っ!…よくわかんないけど…わかった。死なないでよねぇ!」
「う、うん。せめて…水術、濃霧」
言い渡された指示に戸惑いを隠せない氣琵であったが冬馬の必死の声掛けが、氣琵の背筋を正しこの場を後にすることにしか意識していた。その気迫から何があるのか十分に察していたのかもしれない。効かないとわかっていても最後に役に立てばと建物を覆うように濃い霧を発生させる。変わらず金色に輝く室内を見て自嘲気味ににやけその場を離れ学校へと向かうのであった。
「その状態で助けを求めないなんて本当に死にたいようだ」
「どうかな…?僕だけでなんとかなる気がしたんでね」
「でももう終わりですよ、万夏くん!はやく!」
「はいっ!」
その声掛けを最後に一瞬の強い光を放つと建物内にあった止まっていたはずのものが、生き物が動き始めた。その一瞬、光りに包まれ何も見えないタイミングに冬馬の拳は益田の顔面に直撃していた。
すべてが恐ろしく速いスピードで済まされていたのだ。益田の顔面を殴る冬馬の姿を確認したと思った刹那、建物を囲っていた濃霧が割れた窓から侵入して何も見えなくなっていたのだ。先程まで止まっていた人間の悲鳴と機械の音だけが響くだけであった。
「い……ったいですねえ!!このタイミングで殴りますか?普通」
「悪いけど僕を殺そうと鉄パイプでぶん殴ってきたやつに容赦なんてないよ」
「これで終わりにしましょう。冬馬くん、今度こそちゃんと仕留めてみせますよ」
「上等ですよ!!」
少しずつ霧が晴れ視界が良好になる。阿鼻叫喚とした空間をものともせずお互いがお互いを睨み合う。互いに間合いを詰合い益田の手に強く握られた鉄パイプを振り回される。冬馬も慎重に避け、攻撃につなげるタイミングを図る。ゾーンとでも言うのか、残されたたった一つの策を講じるためにもこの場で戦う他にない。
振りかざされた鉄パイプを踏み、その瞬間に生じた隙をつき顔面に蹴りを入れようとする。が、それさえ避けられてしまい益田の膝が冬馬の顔面に直撃する。よろめいた冬馬の横腹に蹴りを入れられ追撃がまた冬馬の意識を朦朧とさせる。
「どうしましたー?ほら、私はまだピンピンしてますよ?」
「くっそが…!」
「どんだけ殴っても、蹴っても死なないなんてどうしよってね」
徐々に益田の殴る力や蹴る力が増していき割れた窓の方へと一歩、また一歩近づいていく。前進しようと仕掛けても押し返され、乱雑になっていく。なんとか保っていた意識もまた失いかけ立っていることすら困難を極める。そんなこともお構いなしに頭部を、腹を、足を殴り蹴られていく。鉄パイプでここまで殴られてまだ立っていられたのだ十分頑張ったと感じてすらいた。
「もう限界そうだね、じゃあね。冬馬くん」
「ああ、この時をずっと待ってたんだよ!」
「なっ!!」
高く持ち上げられた鉄パイプが冬馬の脳天めがけて振り下ろされようとしたその時、冬馬は自ら飛び降りることを選択していた。死を前に乱心したかと焦る。しかしとうに限界など越しているであろう冬馬が助かる可能性などないとしか思えなかった。だからこそ身投げした理由がわからず濃霧に飲み込まれ見えなくなった冬馬の行方を考え生唾を飲むことになる。
「もう後に引けない、一世一代の大勝負!頼んだよ、平治!!」
ものすごい速度で降下し地面との距離が近づき死を目前とする中、冬馬はポケットの中から一つの希望を掴み、地面へと叩きつける。掌にある残された紫黒色の希望を出せる最高の力で振り落とす。ガラスの球体が割れたかのような音とともに分厚い布団のようなエアクッションが一瞬にして広がり冬馬を包み込む。そしてその吸収した勢いを再度冬馬の体へと解き放ち跳ね返す。
「うわああああああ!!!」
降下していたときとは比にならない速度で上昇する。逆バンジーを死ているような浮遊感にもはやそこに死の恐怖すら感じなかった。今はただ、益田との戦闘にしか脳がなく痛みさえも忘れていた。
「し、死んだ…?」
慎重に、先程の二の舞いにならないようにそっと下を覗くも冬馬の姿はない。時間的にも死んだと見て間違いはないはずであった。勝利を確信したその瞬間、自身の目を疑うほどの自体が発生する。
「うおおおおおお!!!」
「なっ……!バケモンすぎだろッ!」
濃い霧の奥から雄叫びとともに飛び出してきた冬馬、その手にもつ紫黒色の刀が益田の脳天めがけ叩きつけられる。跳ね返った勢いが落ち、落下の勢いに乗せ叩きつけられた一撃は構えられた鉄パイプすらも捻じ曲げ益田の頭部を直撃させ、鈍い音と同時によろめかせることに成功したのだ。よろめいた益田の腹めがけ斬りかかろうと刀を構える。
「これで終わり─」
「……」
「なっ!なんでお前が…」
トドメのはずの一撃は確実に入ったはずだったのだ。しかし冬馬の目を疑うような姿となる。益田の腹に紫黒色の物体が生成され冬馬の一撃を防いでいたのだ。もちろん冬馬が作ったわけではない。となれば作った人間など益田一人しかいないのだ。
「お前、心臓持ちだったのか…!?」
「そっちこそ……そんなもん作れるなんて聞いてねえ……」
「どういう……」
「万夏くん、ここは一度身を引きましょうか。状況も状況なんでね」
「そうは…」
「冬馬くん、ここまでまともに食らったのは久しぶりでした。またどこかでお会いできることを願っています。それまで死なないでね」
まともに食らったと言う割には余裕過ぎる態度と俊敏さで冬馬の前から立ち去り壊れかけたエレベーターへと万夏とともに乗り込んでいた。その余裕さからこれ以上の戦闘は自身を振りにしかしないと察し、追うのを諦めただ閉まっていく扉を眺めているだけであった。叫び声の耐えない空間で残された万夏の仲間の男たちが睨みを効かせていたがもはや眼中にすらない。今はただ、死から逃れたことによる安心感と脱力感で座り込む事しかできなかった。
「これ以上近寄るようなら本気で殺しますよ。さっきは油断したけど今度はそうはいかないんで、いくらフラフラしててもそれくらいは余裕ですよ」
「……」
「嘘だと思ってます?」
そういうと何をするまでもなく割れた窓から時の使者が飛び込む。突然の怪物の襲来に建物内に残されたものと男たちの顔色が青くなりより盛大な悲鳴が響く。その存在が脅しだけで済むとは到底思えず男たちは一歩でも動けば殺されるという緊張感に立たされる。その圧倒的な威圧感を放つ使者に最初から彼らを参戦させるという作戦を思い出す。しかしこれに関しては戦闘中の冬馬の精神状態では周囲の人間も巻き込む可能性もあったため能力を得たばかりの未熟な冬馬には実行できないとして見送っていたのだ。一度使者を倒している万夏や益田には脅しになりにくいという点においてもいるだけ邪魔としか考えられなかったのも見送った理由の一つだが。
そんな事を考えていると徐々にアドレナリンが切れてきたのか体の節々から激痛が走る。ここで動けなくなるわけにもいかないと冬馬は立ち上がり建物から一気に飛び降りようと使者に掴まる。さすがの冬馬でも使者にお姫様抱っこされている光景は恥ずかしいもので少し急ぎで行動する。
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