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第4話 月を編む

5 群青の空の金の月

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 西の空に太陽がしずんで、まだ空が群青色ぐんじょういろをしている時刻じこく
 北のとうの屋上へ、るりなみとゆいりは石の階段をのぼっていった。

 るりなみは冷え冷えとした屋上の真ん中に立つと、月笛をかまえる。
 風が、やんだ。
 るりなみは静かに、曲を吹きはじめる。

 り重ねられた音楽が、風を鳴らすような月笛の音色で、群青色の空にけていく。

 るりなみは目を閉じて演奏に集中していた。
 だが、見守っていたゆいりは、思わず「あっ」と声をあげて塔の向こうの空に目をこらした。

 金のこなを一面にまいたようなかがやきが、ただようようにしながら、こちらへ流れてくる。

 それは、金色のちょうれだった。

 蝶たちは、月笛の音楽にあわせて、おどるようにるりなみのまわりに集まってきた。

 るりなみは、あたりが急に明るくなったような気がして薄目うすめをあけ、蝶たちに気づいてびっくりしたが、演奏はやめなかった。

 蝶たちの動きは、るりなみが吹いていく音符に乗って遊ぶように軽やかで、るりなみが蝶たちを指揮しきしているかのようでもあった。

 やがて蝶たちは、るりなみから少し離れたところにつどうと、動きをゆっくりにした。

 そして、糸をき、さなぎのようなものを編みあげはじめた。

 蝶が糸を編む姿すがたに、るりなみは目をみはった。
 そしてなにより、その細くまばゆい糸で作られていくものが、とても神秘的しんぴてきに見えた。それは、細い細い、新月のあとの二日月ふつかづきのような……。

 るりなみも、ゆいりも、「月」が編みあげられる様子をじっと見ていた。

 曲が終わりにさしかかると、蝶たちは「月」を包みこむように隊列たいれつを組み、やってきたときのように音楽に揺られながら、西の空へ去っていった。

 蝶たちが見えなくなった頃、演奏が終わり、るりなみは「ふう」と息をついた。

 少しだけ群青色の残る西の空を、ゆいりが指差した。

「るりなみ様、見てください、あそこ!」

 そこには、指でなぞりたくなるような二日月が輝いていた。


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