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第9話 星菓子の花
8 銀と緑の戦い
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たくさんのお菓子をつくりあげたるりなみとゆめづきは、まずは国王あめかみの執務室を訪ねよう、と決めた。
側近であるゆいりも、そこにいるかもしれない。
二人はよくできたお菓子を選んで、お盆にのせ、王宮の低い階にある厨房を出た。
厨房から何階分かをのぼって、屋上庭園のある階にまでいったさらに上に、東西南北の塔と中央のガラスの塔が立っている。
そのガラスの塔の最上階に近いるりなみの部屋の上が、国王の執務室だった。
普段の料理を運ぶときには、宮廷魔術師たちの力で、ものを浮かせたり、ひとりでに台車を動かしたりする魔法が使われているはずだった。
お菓子を運ぶるりなみたちに、その魔法はない……るりなみとゆめづきは、お盆を支える腕や階段をのぼる足が痛くなるのをこらえて、らせん階段をひたすらのぼった。
その階段がそろそろ、るりなみの部屋の階につくかと思われた頃──。
「わあっ、なんですかこれ……!」
数段上をのぼっていたゆめづきが、悲鳴のような声をあげた。
急いで追いついたるりなみも、あっけにとられた。
るりなみの部屋のある階から、植物のつるや葉がぐいぐいと伸びて、階段をおおっている。
その植物には、二人が今、お菓子に仕立てた蜜を宿した星の花が、たわわに咲いていた。
あのるりなみの部屋の小さな鉢から、成長し続けたのだろうか……二人が顔を見合わせるあいだにも、つるの先にぽんぽんと新芽が弾けて、新たな花も咲き、植物は伸び続ける。
下の段へ、下の階へ、侵略をしていく兵士の軍団のように……。
「どうしよう、上の階の父上の部屋にも伸びているのかな」
おろおろとするるりなみの横で、ゆめづきが「そうだ!」と声をあげた。
「時計のねじを逆さまにまいたら、もとに戻るかもしれません!」
ゆめづきのひらめきに、るりなみは大きくうなずいた。ゆめづきの持っていたお盆も受け取り、片手ずつになんとか載せる。
ゆめづきは、懐中時計を取り出して、ねじを反対向きにまこうとしたが……。
「あっ」
「どうしたの?」
「ねじが、取れてしまいました……」
取れたねじを手にしたゆめづきが、泣きそうな顔を向けてくる。
そのうしろで、しかし──ねじが取れるまでに少しだけ時計がまかれたことに反応したのか、わっと植物が勢いをまして、踊るように二人におそいかかってきた。
るりなみは生まれてはじめて、植物の動きに、その伸び方やあふれるような力に、心の底からぞっとした。
「ゆめづき、逃げなきゃ!」
二つのお盆をとっさに床に置き、それでもいくつかのお菓子の胸に抱くと、るりなみはゆめづきの手を取って、階段を下へ駆けおりはじめた。
二人は必死に、夢中で、駆けおりた。
伸びてきたつるの先を避けようと、一段飛ばしや二段飛ばしで階段を飛びおりても、なんとか着地して、走って走って──。
るりなみとゆめづきは、雪の屋上庭園へと転がり出た。
ここを通れば、別の塔へ逃げることもできる。
だが二人が行き先に迷ってきょろきょろとしたとき、追ってきたつるがむちのようにしなって、るりなみに振り下ろされた。
「兄様、危ない!」
ゆめづきに肩をぐいと引っ張られて、るりなみは雪の上に倒れこんだ。
持っていたお菓子が遠くまで投げ出されて散らばった。
振り向くと、転んで体を起こしたゆめづきの上につるがせまっていた。
ゆめづきはもう逃げる余裕もなく、真っ向からつるに向き合うようにして、両手で顔をかばう──。
「ゆめづき!」
るりなみが叫んだそのとき。
ひゅん、と銀の矢が飛んできて、ゆめづきの上のつるを射抜き、そのもとの太い茎へと刺しとめた。
矢が刺さったところから、みるまに植物が凍りついていく。
つるの先が凍り、周りの葉が凍り、花が凍り、植物は銀色に凍てついていく。
小さな氷の精霊が植物の上を走り抜けていくかのようだった。
その氷の舞いは植物の根もとへと、階段をたどって、上の階の見えなくなるところまで、すべてを凍らせていった。
「るりなみ様、ゆめづき様、おけがはありませんか」
庭園沿いの渡り廊下の向こうからやってきたのは、銀の弓を持ったゆいりだった。
「ゆいり……!」
るりなみは思わず声をあげる。
側近であるゆいりも、そこにいるかもしれない。
二人はよくできたお菓子を選んで、お盆にのせ、王宮の低い階にある厨房を出た。
厨房から何階分かをのぼって、屋上庭園のある階にまでいったさらに上に、東西南北の塔と中央のガラスの塔が立っている。
そのガラスの塔の最上階に近いるりなみの部屋の上が、国王の執務室だった。
普段の料理を運ぶときには、宮廷魔術師たちの力で、ものを浮かせたり、ひとりでに台車を動かしたりする魔法が使われているはずだった。
お菓子を運ぶるりなみたちに、その魔法はない……るりなみとゆめづきは、お盆を支える腕や階段をのぼる足が痛くなるのをこらえて、らせん階段をひたすらのぼった。
その階段がそろそろ、るりなみの部屋の階につくかと思われた頃──。
「わあっ、なんですかこれ……!」
数段上をのぼっていたゆめづきが、悲鳴のような声をあげた。
急いで追いついたるりなみも、あっけにとられた。
るりなみの部屋のある階から、植物のつるや葉がぐいぐいと伸びて、階段をおおっている。
その植物には、二人が今、お菓子に仕立てた蜜を宿した星の花が、たわわに咲いていた。
あのるりなみの部屋の小さな鉢から、成長し続けたのだろうか……二人が顔を見合わせるあいだにも、つるの先にぽんぽんと新芽が弾けて、新たな花も咲き、植物は伸び続ける。
下の段へ、下の階へ、侵略をしていく兵士の軍団のように……。
「どうしよう、上の階の父上の部屋にも伸びているのかな」
おろおろとするるりなみの横で、ゆめづきが「そうだ!」と声をあげた。
「時計のねじを逆さまにまいたら、もとに戻るかもしれません!」
ゆめづきのひらめきに、るりなみは大きくうなずいた。ゆめづきの持っていたお盆も受け取り、片手ずつになんとか載せる。
ゆめづきは、懐中時計を取り出して、ねじを反対向きにまこうとしたが……。
「あっ」
「どうしたの?」
「ねじが、取れてしまいました……」
取れたねじを手にしたゆめづきが、泣きそうな顔を向けてくる。
そのうしろで、しかし──ねじが取れるまでに少しだけ時計がまかれたことに反応したのか、わっと植物が勢いをまして、踊るように二人におそいかかってきた。
るりなみは生まれてはじめて、植物の動きに、その伸び方やあふれるような力に、心の底からぞっとした。
「ゆめづき、逃げなきゃ!」
二つのお盆をとっさに床に置き、それでもいくつかのお菓子の胸に抱くと、るりなみはゆめづきの手を取って、階段を下へ駆けおりはじめた。
二人は必死に、夢中で、駆けおりた。
伸びてきたつるの先を避けようと、一段飛ばしや二段飛ばしで階段を飛びおりても、なんとか着地して、走って走って──。
るりなみとゆめづきは、雪の屋上庭園へと転がり出た。
ここを通れば、別の塔へ逃げることもできる。
だが二人が行き先に迷ってきょろきょろとしたとき、追ってきたつるがむちのようにしなって、るりなみに振り下ろされた。
「兄様、危ない!」
ゆめづきに肩をぐいと引っ張られて、るりなみは雪の上に倒れこんだ。
持っていたお菓子が遠くまで投げ出されて散らばった。
振り向くと、転んで体を起こしたゆめづきの上につるがせまっていた。
ゆめづきはもう逃げる余裕もなく、真っ向からつるに向き合うようにして、両手で顔をかばう──。
「ゆめづき!」
るりなみが叫んだそのとき。
ひゅん、と銀の矢が飛んできて、ゆめづきの上のつるを射抜き、そのもとの太い茎へと刺しとめた。
矢が刺さったところから、みるまに植物が凍りついていく。
つるの先が凍り、周りの葉が凍り、花が凍り、植物は銀色に凍てついていく。
小さな氷の精霊が植物の上を走り抜けていくかのようだった。
その氷の舞いは植物の根もとへと、階段をたどって、上の階の見えなくなるところまで、すべてを凍らせていった。
「るりなみ様、ゆめづき様、おけがはありませんか」
庭園沿いの渡り廊下の向こうからやってきたのは、銀の弓を持ったゆいりだった。
「ゆいり……!」
るりなみは思わず声をあげる。
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