上 下
34 / 51
五章

繁華街 その3

しおりを挟む
「本当にこんな場所にプリン、いるのかよ…」
「はい! いると思います。わたしはプリンのお姉さんなので、なんとなくですが、分かります」
宗一そういちの問いかけに対して、ライムはにっこりとした表情で言い返していた。
直感的にという意味だろうか。
それにしても、まったく根拠はなさそうなのだが、彼女は自信たっぷりといった様子にもうかがえる。
繁華街に来ていた。
プリンと丸尾まるおを邪険に扱い、様々なことを考えながら下校していた矢先に、宗一そういちは自分のスマートフォンが鳴っているのに気付いた。
相手はライムからであり、プリンが飛び出してしまったので、一緒に探してくれと言われたのだ。
よくよく考えれば、少し言い過ぎたかも知れない。
一人になって、冷静になってくるにつれて、そんなことを思い始めていた。
ライムにそのことを話すと、彼女は「探しに行きましょう」とそれだけを口にした。
断れるはずもない宗一そういちはライムと合流すると、繁華街へとやってきた。
なんでも、プリンはショックなことがあると、大量に買い物をしてしまうとのことだ。
繁華街に彼女はいると、先ほど言い切ったように、なんらかの勘が働くのか、それともライム特有のいい加減さなのかは分からないが、今も宗一そういちは道行く人々の群れの中から見知ったプリンの顔がないかを確認している最中だった。
「いませんねー…」
「やっぱり繁華街じゃないんじゃないか?」
「うーん。もしかしたら、埠頭のほうで、もうすでに灯油をかぶっているかも知れません」
「真顔で物騒なこと言うなよ…」
キョロキョロと辺りを見渡しているライムに宗一そういちがぽつりと囁くように言った。
「モール街とかあっちの方かも知れないですね。無駄遣いするなら、あっちのほうが効率的ですし…」
「そうだな」
ライムに指摘され頷く。
とりあえず、二人してモール街のほうへと向かう。
そちらに行けば、服から靴から百円ショップから、はたまた可愛い小物を売る雑貨屋までありとあらゆる店舗が存在する。
ストレスから無駄遣いというならば、まさに散財には打って付けの場所であろう。
「それにしても、そんなに無駄遣いするのか、プリンのやつ」
「はい。こないだカバンにゴッキーが入っていたとき、泣き出して、家を飛び出したんですが、そのときはトラックいっぱいくらいのお荷物が…」
「いっ…!?」
「それこそ、ぬいぐるみから服から…。服なんかマネキンごとですよ」
ライムはちょっと困ったような表情でそれを言ってのける。
「マネキンって…よくそんなにお金あるな…プリンのやつ」
「ええ、わたしたち、らめックス持ってますから」
「らめっくす…?」
「クレジットカードですよ。一番下の妹の蜜柑みかんは持ってませんが、プリンとわたしと双子の姉の練音ねるねねーさんは父から持たされているんです」
そう言って、財布からカードを取り出して見せるライム。
『使いすぎちゃらめぇぇぇぇっ!』というCMがお馴染みのクレジットカード。
格付け的な話をしてしまえば、世界に無数に存在するあらゆるクレジットカードの中でも頂点に立つブランド。
まさにキングオブクレジットカードというべき存在であった。
「しかも真っ黒だし…」
カードの色を見て、半ば呆れた顔つきの宗一そういちである。
そういえば、この姉妹の生家はこの国の人であれば、誰もが知っている化学メーカーである。
たぶん、金銭感覚も庶民とは違ってぶっ飛んでいるんだろうと思うのだ。
「それにしても、妹とお姉さんがいるのか、ライムは」
「はい。四人姉妹です」
「女の子ばかりなんだな」
「あら? ワーアメーバーって女の子しかいないんですよ」
「えっ、そうなの?」
「話しませんでしたっけ?」
「聞いてない。そんなに姉妹がいるのも…初耳だと思う」
「そうでしたか…」
ほにゃっとした表情で言った後、立ち止まり、ライムは辺りをキョロキョロと見回した。
先ほどからくり返している挙動だが、またしてもプリンは見つかっていなかった。
「いないな…」
「いませんねー…」
二人して落胆の面持ちである。
「それにしても、ちょっと疲れましたね」
「ああ。そういや、さっきから走ったり歩いたりばかりだものな…」
「あっ! あそこにスターボックスがありますよ、宗一そういち君」
「ああ…」
指さされて、なんとなく返事してしまう。
「ちなみに宗一そういち君、コーヒーは飲めますか?」
「ああ、大丈夫だよ」
「じゃあ、レッツゴーで」
「ええっ!? プリンはどうするんだよ」
「プリンは諦めましょう」
「いやいや、さっきまで心配してなかったか、ライム…。焼身自殺とかなんとかって…」
「あの子に油被って、ライターで自分の身体に火を付ける、そんな度胸はありません。わたし、お姉さんだから分かります。…というわけで、行きましょう。わたしが奢りますから」
「いやいやいやいやいや…!」
「大丈夫です。らめックスが使えますから。生クリームをタップリ入れてもらいましょう!」
そう言って強引に宗一そういちの腕を取って、ライムはスターボックスへと宗一そういちを引きずり込むのだった。
しおりを挟む

処理中です...