身に覚えのない婚約破棄をされた私はなぜか心がズキンと痛んだのです……

ろごんね

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 夏夜の風が通り抜けていく。

 今夜は満月が明るく闇夜に光り輝くような夜だった。

 満月の光は幻想的な世界を作り出し、私はそれに魅了されて公園を歩いていた。



 突然、後ろから声がした。



「君に伝えなければならないことがある」




 私は少し驚いて足を止めた。


 知らない男の声だった。不安が心をよぎる。


 だが、それ以上に興味が湧いてきた。


 振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。


「君に言わなければならない」


 男はそう言って真剣な面持ちで私と向き合った。


「これ以上、君には会えない。婚約を破棄せざるを得ない」



 彼の言葉に私は動揺した。


 知らない男が何故婚約破棄の話をするのだろうか。


 混乱した私の心をさらに複雑にしたのは、その男の顔だった。


 彼はまるで光り輝く月のように美しかったのだ……



 「私、あなたのこと知りませんが……」



 私は言葉を探した。


 震える声で言った。


 
「私も君に苦しめられた。だけど、もう終わりにしよう」



 彼の目には悲しげな光が宿っていた。


 彼は私を見つめたまま、何も言わずに去って行った。


 それはまるで傷つけられた獣が森へ帰るような静かな様子だった。


 私はただ立ち尽くし、彼の後ろ姿を眺めていた。


 彼が遠ざかるにつれ、彼に対する恐怖や混乱は消えて、何とも言えない寂しさが心に広がっていった。



 満月の下、公園は静寂に包まれていた。私は彼が去った後、一人で立っていた。




 混乱のなかで私はどういうわけか、自分自身との対話を始めていた。



 なにがそうさせたのか、一向にわからない。


 しかし、私は彼と向き合うほうがよい気がしていた。


 そして、自分とも……


 そろそろ向き合うべきだと、無意識のうちに考えるようになっていた。



 これから私はどう生きるべきなのか。
 


 彼との出会いがもたらした混乱は、私自身の内省のきっかけとなった。


 最後に、彼の言葉が再び頭に浮かんだ。



『これ以上、君には会えない。婚約を破棄せざるを得ない』



 その言葉が胸を刺す。


 そうしてそれほどまでに心に刺さるのか。


 なにも分からない。


 分かりえない。



 でも、その痛みが自分を成長させる一歩と信じて、涙を流しながら前を見つめたのだった。


 そこにはもう、彼はいない。


 なにも、なかった……



【終わり】
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