女騎士アリア~凌辱の限りを尽くされながら、女だけのパーティは魔王討伐を目指す~

タバスコ野郎

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第11話 ローエンベルンの魔女

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 老人が鶴のように痩せた姿を見せるや否や一同は跪いたが、国王と言う同じ身分のマルヴェローナ王コルネリオⅣ世は、泰然と立ったままである。
 
 やがて老人は、銀を基調として各所に宝石を配置した煌びやかな玉座に腰をおろした。
 後ろで束ねられた銀髪、射るような眼光に尖った鉤鼻を備えた容貌は、バルコニア帝国の北方に位置して大陸の屋根とも言われる、ヴェルタンシア山脈の峻厳な頂きを思わせた。

 アリアは玉座の台につながる龍陛の下で跪きながら、玉音が下賜されるのを待っていたが、ほどなくして予想通り、「顔を上げよ」の声がかかった。

 美しい顔を上げるとそこには、大陸随一の軍事大国の皇帝にして、君主会議の盟主、バルコニア帝国第48代皇帝クレイオス・デロワ・ド・オルドリーアⅡ世の荘厳な龍顔がこちらを見据えていた。

「余がクレイオスである。伝説に語られる、天の遣わせし守護聖女が一人とは、まことにそなたのことか」
 猛禽のような鋭い眼差しで、アリアを射すくめる。
 やや緊張しながらも、アリアは皇帝の問いに答えた。
「ははっ。御意にございます。私めがラルディール王国が臣、アリア・ベルヴァルトにございます」

「エーデルシュタイン王家直属の騎士団で副団長を務めたと?」
 皇帝はなおも詮索する目を緩めずに問うた。
「は。仰せの通りでございます」
「守り切れなんだな」
 独り言のように呟かれた皇帝の冷徹な一言に、居並ぶ一同は凍りついた。

 大帝国の皇帝とは言え、アリアにしてみれば外国の君主であり、辛辣な言葉は無礼の極みと言えないこともなかったが、怒りはむしろ己自身に向けられた。
 何と言われても、近衛騎士団として仕える主を護るという、最大にして唯一の任務に失敗したのである。
 怒る資格などなかった。ただひたすら唇を噛みしめ、肩を震わせて先王夫妻とレオノーラ王女に、心の中で詫び続けた。

「何か言いたいことでもあるのか」
 皇帝は女騎士のそんな様子を見て、冷たく畳みかけた。
「……ございません」
 
 震え声で小さく答えるアリアの姿に、マルヴェローナのコルネリオⅣ世は気が気ではなかった。
 ラルディール王国の王都ローテンブルク陥落のいきさつはダールベルク大公からおおよそ聞いている。自らも王たる立場にある身として、近衛騎士団の者たちがどれほどの忠誠心と覚悟を持って任務に就いているかは知悉している。アリアの忸怩たる思いは、察するに余りあるというものだった。

「ほう。言い訳はせぬか」
「クレイオス殿……」
 思わず会話に割って入ってしまったコルネリオⅣ世だったが、皇帝クレイオスⅡ世は静かに片手を上げて制止した。

「そなたがまこと守護聖女だというならば、証拠をみせてみよ」
 明らかに挑むような目で、皇帝は外国から来た女騎士に命じた。
「御意……」
 アリアはやむを得ず、ビキニアーマーの片肌を脱いで後ろを向き、肩のアザを皇帝に見せた。

 皇帝は龍陛を降り、アリアのそばまで近寄ると、肩のアザをあらためた。
「うむ。確かに伝承の通りじゃ。竜の形をしておる」
 言いながらアリアの剣を鞘から払い、丹念に眺めた。
 そして次に傍らに置かれた、盾を取り上げた。
「ほう。ヒビか……。しかしこの盾は……」
 何やら低く呟き、やがてアリアにこう言った。

「さだめし苦労をしたのじゃろうな。騎士の為人ひととなりは、剣と盾を見ればわかる。よくぞ苦衷に耐え、今日まで生きていてくれた」
 驚いたアリアは皇帝の龍顔を正視してしまった。しかし皇帝は咎めることもなく、それどころか先ほどまでの冷酷な表情を吹き消して、慈父のような眼差しでアリアを見ている。

 訳が分からぬまま困惑するコルネリオⅣ世に、老いた皇帝は穏やかに言った。
「ラルディールのベルンハルト殿は、よい臣下を持たれたものじゃな」

 その後アリアは、盾が傷ついた時の状況を詳しく聞かせてくれという皇帝の要望に応えて、戦闘時の経緯を説明した。無論、ミノタウロスに凌辱されたことは伏せてある。

「なるほどな……。マルヴェローナの伝家の盾がよもや傷つこうとは。これはよくよくのことじゃ。かつて勇者が魔王を倒した時よりも、魔王軍の力が強大になっているのかも知れぬ。」
 玉座に戻った皇帝は、考えながら話しているようだった。

「そんな……。いかがいたしましょうか。皇帝陛下」
 アリアは心配そうに尋ねた。
「うむ。奴らが強力になったというのであればこちらも力をつけるまでじゃ。コルネリオ殿、確か貴国のあの盾は、貴国特産の王鉄鉱と我が国の冶金術で作られたものじゃったな」

「さようです。我が国でも最高品質の王鉄鉱を製錬したものであると聞き及んでおります」
 大陸に存在する各国の君主を束ねる君主会議の盟主であり、最年長の君主でもあるクレイオスⅡ世に対して、コルネリオⅣ世は丁寧な口調だった。

「ふむ。そしてアーフェンガルドの魔法で護られておるはずじゃ。ううむ。それならば……」
 老皇帝はしばし沈思している。
 そういえば、とアリアは思い出した。
 確かダールベルク大公は、この鎧を受け取る時に言っていた。ラルディールのミスリル銀とバルコニアの冶金術、そしてアーフェンガルドの魔法。

「やはり、あやつにやってもらうしかないか」
 クレイオスⅡ世が再び口を開いた。一同が身構える。
「アリアよ。アーフェンガルドへ行くのじゃ。そしてそこでこの盾にかつてより強力な魔法を施すことのできる大魔法使いを見つけ出し、ここまで連れてくるのじゃ。その間に我が国の全力を挙げて、この盾の傷を修復しておこう」

「恐れながら皇帝陛下、かの国がいかに大陸最大の魔法国家とは言え、そのような強力な魔法使いがおりますでしょうか」
 アリアの懸念はもっともだった。かつては恐るべき魔法力を武器に世界を席巻したアーフェンガルドであったが、戦乱の世が終わり平和な時代が何世紀も続いている今は、昔日の力はすでにない。
 一部には確かに優れた魔法使いが存在するものの、大半の国民はお祈りやおまじない程度の呪文や、生活に使う火や水の魔法ぐらいしか使えないと言われている。

「いる。ただし、一人だけな」
 暗い夜道に一筋の光明を見た思いで、アリアは皇帝の御前ということも忘れたかのように、勢い込んで尋ねた。
「何という名ですか、その御方は」

 大陸の盟主は厳めしい顔になぜか不敵な笑みを浮かべて答えた。
「魔女じゃよ。ローエンベルンの魔女と呼ばれておる」


 玉座の間から場所を移し、皇帝クレイオスⅡ世、コルネリオⅣ世、親衛隊長ラザロ、そしてアリアの4名は、テーブルに着いて話を続けていた。

「皆も知っての通り、アーフェンガルドには古くから続く魔法使いの名門がある。戦乱の時代には代々の当主が大軍を率いて外国と戦い、領土の拡大に貢献したという功臣中の功臣じゃ。今や国家間の戦争は過去のものとなり、彼らは一族で宮廷付の魔術師として顕職に収まっておる。」
 皇帝は一旦言葉を切り、反応を確かめるように一同を見渡した。

「しかし名門の宮廷魔術師とは言え、数百年続く平和な時代にあっては売り物の魔法力も流石に衰えてきておるようでな。最近では古文書を頼りに、かつての魔法を若い世代に伝える教師のようなことしかしておらん」

 ここでまた皇帝は、先程と同じく不敵な笑みを浮かべた。何やら楽しんでいるようですらある。

「しかしな、当代に途方もない魔力を持った娘が生まれたのじゃ。この娘は、幼い頃から師でもある両親を凌ぐほどの魔術を使った。やがて周囲の大人たちが誰も自分には歯が立たぬと悟ると、さらなる力を求めて古今東西の魔法の書物を読み漁り、そのほとんどを見事に習得したという。そしてついに闇の魔法に手を出すに至り、一族から勘当され、アーフェンガルドを飛び出したのじゃ。その後は諸国を放浪しながら修業を続け、つい最近になって故郷に戻ったと聞く。もっとも今どこにおるのかはわからぬが」

「何と……そのような者がおったとは。しかしクレイオス殿、大丈夫なのですかそやつ。闇の魔法を操るとは穏やかではありませぬぞ。もしや魔王の手先となっておるのでは」
 コルネリオⅣ世は心配そうに尋ねた。

「うむ。確かにあやつの良からぬ噂も耳にしておる。何しろ放浪の旅のさなかには、あちこちの国で魔法を使って暴れ回っていたようじゃからの」
 言葉とは裏腹に、やはりどこか楽しそうな口調である。
「しかし賭けてみるほかはあるまい。この盾に必要な魔法は極めて強力な魔法じゃ。あやつが無理なら他の何人にもできぬことじゃ」
「ううむ……。仕方ありませんな……」
 腕を組んで不承不承従うコルネリオⅣ世であった。

「アリアよ。アーフェンガルドへ行くのじゃ」
 皇帝はきっかりと緋色の髪の女騎士を見据えて言った。
の国でローエンベルンの魔女を探し出し、マルヴェローナの盾に破邪の魔法を施すように依頼するのじゃ」
「御意。ただちに出立の準備にかかります」
 アリアは立ち上がり、一礼した。
 謹厳な顔で頷いた皇帝は人を呼び、アリアの旅支度を調えるよう命じた。
 
 アリアにとって、今はまだ腰を落ち着ける場所は無いようだった。
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