女騎士アリア~凌辱の限りを尽くされながら、女だけのパーティは魔王討伐を目指す~

タバスコ野郎

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第37話 嵐の前

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 三日後の夕暮れ、リーザは百二十本の槍と五十張りの弓、それから千五百本の矢に攻撃力が上がる魔法をかけ終えて一息ついていた。このほとんどが、ラルーク公国から借りてきたものである。

 この他に二百本の剣に魔法をかける作業を昨日までに終えていた。
 結局アリアの頼みは盾だけではなく鎧にまで及び、おまけに、この際ついでだから武器に攻撃力が上がる魔法はかけてもらえないかと、ヤンコフスキーたちにお願いされたのだった。
 今日までの間に盾と鎧には魔法をかけ終え、やっと今全ての仕事を終えたのである。

「全くみんな人使いが荒いんだから。私ほどの魔法使いを捕まえて。便利屋じゃないってのよ」
 ブツブツと愚痴りながらワインを呷っている。
「こうなったら絶対今夜もアリアをイジメてやるっきゃないわ。もうヒーヒーよがっても許さないんだから」

 とは言え、アリアに頼まれた仕事をやり終えたという達成感は、確かにリーザの心に存在していた。
 この数日、毎晩のように魔法力回復のためと称してアリアと交わっている。
 最近ではお互いハッキリと恋人のように想い合っていると分かっていた。
「今晩もアリアちゃんは寝不足だわね。くっくっくっ」
 一人笑い出すリーザを、兵士たちが距離を取りながら畏怖の眼差しで見ているのだった。


 そこから二日後、最後の作戦会議が行われ、出撃の日時が明日の朝と決まった。
 リーザが全ての装備に魔法をかけ終えたことと、王都ネロスを占拠している魔物たちは、多くが夜行性で日中は脅威が落ちるため、少しでも太陽が出ている時間が長いうちに戦おうというのが理由である。
 ネロスに入るには丸一日かけて南の山を越えなければならないため、実際に王都に入るのはその翌日である。


 会議が終わった日は訓練は無く、明日の出発に備えてそれぞれが思い思いの時間を過ごしていた。
 武器の手入れに余念がない兵士たち。家族との時間を過ごす農民たち。
 そんな中、ミサキとボリスの姿が川岸にあった。

「いよいよだね。怖くないかい、ミサキ」
「ええ、怖くないとは言えないけれど、やるしかないと思っているわ。ボリス、貴方は大丈夫?」
「俺かい? もちろん怖くなんかないよ、全然平気さ。何体魔物を倒せるか仲間と賭けてるぐらいさ」
 ボリスは何故か目を合わせずに答えた。口調もやや早口である。そわそわと落ち着かない様子で、よく見るとあぐらをかくように座りこんだ両足を握る手が、固く握りしめられている。

「ボリス?」
 指が白くなるほど強く握っているその両手にそっとミサキが手を添える。
「ボリス……」
 ミサキが再び名を呼ぶと、ボリスは振り返り、しばらくミサキを見つめていたが、その両目には涙が溢れていた。

「こ、怖くなんかないって! 俺、戦うことなんか怖くないんだよ!」
 そう言うボリスは、ポロポロと涙を流し始めた。
 その泣き顔を見ていたミサキは、衝動的に目の前の兵士の唇に、自分のそれを重ねた。
「!!!!?」

 突然の口づけに、ボリスは狼狽えた。だが、同時に落ち着きを取り戻したらしい。静かにミサキの背中に手を回すと、緩く抱き締めこう言った。
「ごめん、ミサキ。俺、ホントは怖いんだ。実はこの前ネロスが魔物に襲われるまで、戦闘を経験したことがなかったんだよ。初めての戦闘で魔物に襲われ、仲間を大勢亡くして、心底怖くなったんだ」
 ミサキは静かに頷きながら、話を聞いていた。

「君はどうしてそんなに強いんだ? 何故立ち向かえるんだ? それもたった三人で」
「いずれ分かるわ。この戦いが終わったら、話せることもあると思う。だからそれまで待っていて」

 二人はつがいの小鳥のように肩を寄せ合って、小川の流れに映える陽光の煌めきを、眩し気に見つめていた。

 ヤンコフスキーがアリアの元を訪れたのは、昼食を終えて城下町の地図で進軍ルートを確認しているところだった。

「ベルヴァルト殿、少しだけお時間よろしいですか?」
 今や義勇兵部隊の指揮官となった感のある剛直な武人は、アリアたちを戦闘顧問として礼を持って扱っている。アリアでいいと何度言っても律儀に姓を呼び続けるのだった。

「ええどうぞ。どうなさいました?」
 手で向かいの席を指し示す。
「お礼を申し上げるにはまだ早いということは重々承知しておりますが、とにもかくにもここまで多大なご助力をいただき、誠に有難うございました。どうしてもそれを申し上げたかったのです」
 朴訥な口調で背筋を伸ばして頭を下げるヤンコフスキーにアリアは慌てた。

「何を申されます。助力と言うほどのことは何もしておりません。強いて言えばラルークから装備一式と食料を提供してもらったことかも知れませんが、それとて私ではなく友人のリーゼロッテの功績です」
 アリアはやんわりと否定した。

「ご無礼ながら、一つお伺いしたいのですが」
「はい、なんでしょう?」
「お願いしておいて今さらこんなことをお訊ねするのも妙な話ですが、何故我々にご助力くださったのですか? あの日、貴殿らの宿をお訪ねした時の我らは、断られて当たり前と思ってお願いに上がりました。しかし貴殿は圧倒的に不利な我らの戦力を聞きながら僅かの迷いもなく、引き受けて下さった。それがいささか不思議でして」
 どうやら余程気にかかっていたのだろう。一気に言い終えた後は胸のつかえがおりたような顔をしている。

 アリアは優しくヤンコフスキーを見つめ、穏やかに言った。
「貴殿の身に起こったことは、私の身に起こったことだからです」
「と申されますと?」
「以前にお話ししたように、我がラルディール王国も魔王軍に襲われ、国王陛下のご一家は亡くなられました。私は騎士団の副団長という職にありながら、誰一人守ることが出来なかった。その無念と呵責の思いは今も常に私の身の内にあります。そんな私にとって、貴殿の境遇はとても他人事とは思えませんでした。それが理由と言えば理由でしょうか」

 女騎士の柔和な微笑みに陽光が差している。
 ヤンコフスキーには、その温かな笑顔が幼い頃に見た教会の壁に描かれていた、聖女の姿を思い出させた。あれは確か、守護聖女とやらの伝説ではなかったか。子供の頃に聞かされた寝物語をこんな時に思い出すとは。

「ベルヴァルト殿、明日の攻撃の際は我が軍の指揮を執っていただきたいのです」
 ヤンコフスキーは顔つきをあらためて異国の女騎士に向き直った。
 決然とした表情は、それが昨日今日の思いつきではないことを物語っていた。

「私が、ですか? しかし、貴殿がおられるではありませんか。元々は貴殿の部隊が中核でしょう」
 指摘されたヤンコフスキーは気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いや、そうなのですが、私は貴殿の武人としてのご見識に深く感銘を受けました。会議の時に伺った戦術眼も、私などでは及びますまい。どうか、指揮をお執りください。兵士たちも貴殿にならついて行くでしょう」

 巨漢を折って懇願するように頭を下げるヤンコフスキーに、結局アリアは指揮権を受けることにしたのだった。


 そして翌日の夜明けを迎えた。

 兵士と農民の寄せ集めの集団は、二百名足らずの僅かな兵員でありながら魔法使いの魔力によって装備を強化し、祖国を取り戻すべく進軍を開始した。

 後世、大陸の歴史を動かした偉大なる戦いの第一歩と目される、局地戦に向かう部隊の先頭にあるのは、緋色の髪の美しい女騎士と史上最強を謳われる豪奢な金髪の魔法使い、そして遥かな東の果てからやって来た黒髪の巫女であった。

 これまで彼らの隠れ家となっていた緑滴る野営地の木々が、武運を祈ってくれている気がした。
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