女騎士アリア~凌辱の限りを尽くされながら、女だけのパーティは魔王討伐を目指す~

タバスコ野郎

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第60話 次なる目的地

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 エレンディアは夢を見ていた。
 もう何度見たかわからぬ、それは記憶の中にある現実に起きた出来事の繰り返しだった。
 強力な闇の魔法によって背中を焼かれ、剣で一突きにされた夫の変わり果てた姿。
 苦しい息の下で愛する人が必死に絞り出した言葉を、彼女は決して忘れない。

「アルラスを……許してやってくれ……」
 夫は今際の際に及んでも、虐げられていたハーフエルフのことを案じていたのだった。

 優しい人だった。
 千年という月日も、エレンディアたちの種族にとっては暦の一巡りほどの時間でしかない。
 夫と過ごした温かな日々は、はっきりと今もなおエレンディアの胸に残っていた。

「許せない……。たとえあなたの願いでも、その高潔な魂をいとも容易く吹き消したあの悪魔の様な男だけは、決して許すことはできない」

 夢の中でエレンディアは、いつものように怒りに震え、腰の剣を引き抜いた。
 その時だった。
 意識の端で、微かな闇の息吹を感じた。

 はっとしてクリーム色の頭を上げ、それまで身体を預けていた机から起き上がる。
 慎重に耳を澄ませ、意識を集中した。
 エルフは人間よりもはるかに闇の世界の匂いに敏感である。微かな空気の肌触りで、変事を嗅ぎ取った。

「やはり、魔物か!」
 間違いない。何処からか闇の者が忍び込んでいる。それも複数。
 急いで剣を佩き、防具を身につけて部屋を飛び出す。すぐ隣の部屋から暗黒の気配が溢れだしているのが分かった。そこは、赤髪の女騎士の部屋だったはずだ。

 一気にドアを蹴破り、中へ踏み込む。
「光よ!」
 短く唱えて暗闇の支配する部屋を、呪文で煌々と照らす。
 昼間の明るさを取り戻した部屋の中には、大きな翼を持った漆黒の魔物が、裸のアリアに跨り腰を振っていた。

 荒い息で人間の女を犯しているその横顔は、一見すると人間だが、首から下は真っ黒な蝙蝠のようだった。
「おのれインキュバスか! アリア、しっかりしろ!!」

 だがアリアは完全にインキュバスに意識を食われているようで、喜んで自らの下腹部を魔物に押しつけている。
 淫らな喘ぎ声を上げながら、熱に浮かされたように男の名前を呼んでいるところを見ると、どうやらアリアにはインキュバスが恋人にでも見えているようだ。

 インキュバスは邪魔が入ったことに気づき、魅了の術の目でこちらを見つめたが、幸い自制心の強さが人間とは比較にならぬエルフには、奴の呪いは効かない。

「目を覚ませアリア、そいつは魔物だ!」
 言うなり駆けだして、エレンディアは剣を抜きはらう。腰を振り続けることに意識を向けていたインキュバスは、咄嗟のことに動きが一瞬遅れ、白刃は魔物の首を、野菜を断ち切るようにあっさりと斬り落とした。

「ディルク! ……ハッ!」
 驚いたアリアが息を飲むのが分かった。インキュバスの魔力によってアリアには恋人の首が落とされたように見えたのだろうが、魔物が息絶えれば魔力は消える。
 インキュバスの死体を見て、何が起こっていたのか悟ったらしい。

「エレンディア、私……。ありがとう……」
「礼はいい。それよりも、まだ他に魔物の気配がする。あとの二人の部屋へ急ごう」
「はい!」

 二人は手分けして仲間の部屋へ急いだ。アリアはリーザの部屋へ、エレンディアはミサキの部屋へドアを蹴破り飛び込んだ。

「リーザ! 大丈夫!?」
 アリアが部屋に踏み込んだ時、リーザはやはり真っ黒な身体のインキュバスに後ろから四つん這いで激しく突かれているところだった。
 どうやらインキュバスの魔力は周囲の人間には及ばないようで、嬉しそうに魔物に犯されているリーザの姿は異様に映った。

「アリア!? 何で!? えっ、どういうこと? 何でアンタが二人?」
「目を覚ましてリーザ、そいつは魔物よ!」
「魔物!? アリアが?」
「私じゃなくて! そいつよ!」
「待って、何でアンタが二人いるの?」

 二人の押し問答の間も、インキュバスは美貌の魔法使いの蜜壺に自らの肉杭を打ち込むことをやめようとはしない。
「んああっ♡ そ、そこダメぇぇぇぇ♡ イッちゃう、またイッちゃうからぁぁぁぁぁ!♡」
 魔物に激しく犯されながら、リーザは心底幸せそうな顔で、悦びの声を上げている。

「もう! 何やってんのよ!」
 呆れたアリアは剣を振りかざして突進し、エレンディアと同じように魔物の首を斬り落とした。
「ア、アリア……? これってまさか……」
 リーザは首を失った魔物の死体を見下ろした。

「インキュバスよ」
「インキュバス……くそっ、私としたことが! ごめんアリア。ありがとう」
「いいのよ。さ、ミサキのところへ急ぎましょう」


 アリアがリーザの部屋の扉を蹴破っていたころ。
 エルフの女戦士はもう一人の仲間の部屋に飛び込んでいた。
 勢いよく中へ入ると、黒髪の巫女は淫欲を操る魔物の腹の上で腰を前後に動かしているところだった。

 その顔には恍惚の表情が浮かび、女の悦びに満たされているのが一目でわかった。
 どうやらこの者にも想いを寄せる相手がいるらしい。
 抱かれたい相手が生きているというのは結構なことだ。
 エレンディアは微かに胸の奥が軋む音を聞いた気がした。抑えつけたはずの想いが、顔を覗かせている。

 一瞬の感傷をかなぐり捨てて、エレンディアは跳躍した。
 忘我の境地で腰を振り続けるミサキを、なかば突き飛ばすようにしてどかし、インキュバスの上に飛び上がると、胸の中央に剣を突き立てた。

「ギヤアアアアアア!!」
 魔物は甲高い悲鳴を上げて事切れた。
「エレンディアさん、これは一体……」
「淫魔だ。狙った相手の望む姿に見せかけ、性交を強いる魔物だ」
「の、望む相手ですか。淫魔に襲われるなんて、わたくしまだまだ修行が足りませんわね」
 恥ずかしそうに話すミサキに、エレンディアはシーツを掛けてやった。
「そんなことはない。他の二人も同じ目に遭っているからな」 
 
 ミサキが頬を赤らめて俯いた時、アリアたちが部屋に入ってきた。
「大丈夫だった!? ミサキ」
「ええ。エレンディアさんに助けていただきました」
 ミサキはシーツを纏って裸体を隠していたが、その無事な姿を見てホッとしたのか、リーザがからかった。

「ミサキちゃんはインキュバスが誰に見えてたのかしらねぇ。やっぱりあの兵隊さんかな?」
「やめて下さいよ、もう! それならリーザさんはどうだったんですか? 誰だったんです?」
「ふん、言わなーい。言ったらアンタびっくりして腰抜かすでしょうね」
「何ですかそれ。誰かわたくしの知っている方なんですか?」
 嫌な予感がしたのでアリアはそこで止めに入った。

「二人とも、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう? 奴らが私たちを狙ってやって来たんだとしたら、私たちの正体と居場所が魔王軍にバレたってことよ? 何とかしないと」
 エレンディアは深く頷いて同意した。
「その通りだ。まずいことになったな」

 それを聞いたリーザはじれったそうに言った。
「どうするの? もういっそ魔王の城に打って出る?」
「全く、貴女もミサキのこと言えないぐらい気が短いわね。そんなに簡単に行くわけないでしょう? ここは対策を考えるのよ」
「えっ? アリア様、わたくし気が短いですか?」

 口々に言い合う人間たち三人にしびれを切らし、エルフの女戦士は一人離れると、部屋の隅にあった鏡の前に立った。
「いかがなされました? エレンディア殿」

 だがアリアの問いには答えず、エレンディアは鏡に手を触れると、何やら口の中で唱えだした。
 しばらくすると、鏡の中には雨雲の様な煙が立ち込め、その中から朝別れたばかりの見知った顔が現れた。
 
「何事だ、エレンディア」
 首から上だけのランドリオンは、やや強張った顔で訊ねた。
「このような夜更けに恐れ入ります、ランドリオン様。 容易ならぬ事態が発生いたしましたので」
 エレンディアは今しがたの出来事を一部始終報告した。

「そうか、見つかってしまったか。恐らくザーベナルトが使い魔を放っていたのだろう。仕方ない、予定は変更だ。このまま諸国の連合軍と行動を共にしては情報が筒抜けになる恐れがある」
「はっ」
「お前たちは急ぎエルフの里に向かうのだ。あそこであれば奴らの目は決して届かぬ。ひとまず里に隠れ、策を練るのだ。我々もなるべく早くそちらに向かう」
「かしこまりました」

 エレンディアが一礼すると、霧が晴れるようにランドリオンの顔は消え去った。
 元の姿を取り戻した鏡をのぞき込みながら、リーザが納得したように頷いた。
「ははーん。エルフのおじさんが言ってた通信手段ってのはコレかぁ」
「そうだ。我々はどこにいても連絡を取り合える方法を持っている」
「エルフの秘術ね。何かの本で読んだことがあるわ。本当に使うところを見られるとはね」
 興味深そうにしげしげとまだのぞき込んでいる。

「のん気なことを言っている場合ではない。魔王軍の奴らにあなた方の正体と居場所が知れたのだ。すぐにここを出るぞ」

 四人は急いで旅支度を調え、宿屋の主人に断りを入れて旅立った。目指すはエルフの里である。
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