RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi

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▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない

1-9 鬼に片棒隠恋慕

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sideヒロ



クルクルと天井を回るシーリングファンの影を目で追いながら、出来得る限り呼吸だけに専念した。

「…………… 」

20分……いやもうすぐ30分か。

でもなんでミレは2日後に拘るんだ?
今日でも明日でもなく2日後。
そこにズラせない何かが有るのか?

頭が回り始めた僕は立ち上がり、無言のままのミレにカレンダーの3日後や4日後を指差して確認する。
しかしミレは申し訳無いような顔で首を横に降るばかり。

「……くっ」

今は、今はマズいんだよっ

僕はなんとかミレを捕まえようとする人がいることを伝える。
けど、ミレは…

「大丈夫、ミレ、はやい」

そう言って微笑みながら逃げるジェスチャーをする。

ダメだ、この流れは覆せる気がしない。
僕には材料が何も無い。

ならどうすればいい?
どうしたら僕らは笑っていられる?
いや、そもそも僕はどうしたいんだ?

またも頭を抱えそうになる僕は辛うじてその手を止め

「……少し、出てくる。待ってて」

全てが行き詰まったこの部屋から一旦離れることにした。




スタスタスタスタスタ…
「……、……、…… 」

部屋を出た僕は三階の通路から怪しくない程度にまわりを確認しつつ階段を下り、そしてアパートの敷地から出ると近所で聞き込みをしているらしき制服姿の警察官が数人目に入った。



視線を自然に動かして更にまわりを見る。

いつもと変わらない土曜日のはずなの全てが疑わしく見えてくる。
目につく人達が近所の人なのか、それとももしかすると私服警官なのか…

そんな疑心暗鬼で不安が膨らんで、僕は知らず知らず早歩きになっていた。





「ありがとうこざいました~」
ウィーーーン

コンビニでは適当に買い物をしてすぐに出た。

僕はどうしたいって?

スタスタスタスタ…
「……………… 」

決まってる。
出来れば僕は一緒に居たい。

ゴミ捨て場の横にポツンと座ってた彼女。
少しずつ話せる様になり始めて、ただそれだけがあんなにも嬉しくて…

まだ知り合ったばかりなんだ。

込み上げる口惜しさにコンビニ袋を握り締める。

でも…今となってはそれは難しい。

そこいら中に居る警察官。
差し迫った何もかも。

だから感情ではなく現実的に何が出来るのかを考えないと。

今こうやってミレを匿っている僕はミレに捕まって欲しくない。
だってミレは被害者のはずなんだ。


『ブゥゥーーーーン』

すれ違う警察車両パトカー
チラ見すると助手席の警官と目が合った僕は、何食わぬ顔で視線を前に戻した。

だけどダメだ。
こんな状況じゃとても無理。
ミレを部屋から出せるわけがない。

下手をしたらすぐに職務質問されて…そうしたら捕まってしまう未来しか見えない。

だけどミレには数日すら待つ時間が無いと言うし…

夜なら行けるか?
けど逃げたい人間は皆んなそう考える。

どうするのがベストだ?
他にどんな手がある…


歩きながらそんなこと考え続けていると、知らぬ間に部屋の前に着いていた。

ガチャ、『バタン』



スタスタスタガチャパタン。

玄関に入った僕は携帯を取り出しトイレへ。

「…………… 」

ゴメン…

((プップップップップッ))

((プップップップップッ))


「はいはい、どうした~?」

電話の向こうから聞こえるいつもの声が無性に嬉しくて、同時に申し訳無い気持ちが更に膨らんだ。

「シロ、ちょっとまずい事になったんだけど…話しを聞いてくれる?」
「なに?またトラブル?誰かに詰められてんの?」

いつものシロに少し安心したけど

「いや、この近くであった通り魔事件って知ってる?」
「あぁまだ捕まって無いみたいね」
「あぁ、そう、その犯人が女性らしいんだけど………「そういやさ、この前行ったフレンチイマイチだったよね?どうだった?」

「めちゃ美味かったよ」

僕は慌てることなく答える。

「今は大丈夫なのね?」

このやり取りはお互いのもしもの時の符号。
シロはいつも病的な程準備をする。
本人曰く被害妄想って笑うけど、実際色々と助けられている。

「うん、今危険とかじゃなくてさ、実はその……犯人らしき女性を匿っちゃって…るんだ」

「……………… 」

「…シロ?もしもし?」

「………はぁ~~~~…んで?なに?まさかまたまたまたまた惚れた系?」

シロの心底呆れた声が耳に響く。

「いやっ、そういうのじゃなくて、…まだ会ったばっか「ふぅ~んまぁいいや。で?どういう状況?」

僕の言葉は言い訳とばかりに切られる。

「実は今日警察官が来て…~~



~~…なんだけど、どうしても出ないとマズいみたいなんだ」

僕はザッと経緯を話し、2日後に部屋から出したい事、それからおそらく警察官が付近を捜索しつつ網を張っている事を伝えた。

「…その子体型は?痩せてる?」

「身長は160cmくらいだと思うから、多分…45kgくらい?50kgは無いと思う」

僕はミレを思い出しながら言う。

「ん~分かった。んじゃとりあえずもうちょいしたらそっち行くね、後ほど~」
「えっ、あぁうん、後ほど」

そう言って電話は切られた。


「はぁ~~~っ」

またシロを巻き込んでしまった。

罪悪感が半端ないけど僕が頼れるのはシロしか居ない。
けど今までも絶対何とかしてきてくれたから……今回もゴメン。

僕はそう心の中で謝罪し、シロを待った。




30分後

『コンコンッ』



ガチャ

一応覗き穴スコープを確認しドアを開ける。
そして来てくれたシロと目を合わせた後、僕が中へと戻ろうとすると『ガシッ』

「ちょっとイイ?」

そう言ってシロは外へと頭を動かした。



シュボッ
「スゥゥーーー…フゥーーーーー~… 」

三階の手摺り壁に凭れたシロは、至極自然な流れで煙草を吸い始めた。
でも…

「煙草… 」
「あぁ、|のに丁度良いでしょ?深酒する時は偶~に吸うしね~」

はぁ…

突然呼んだってのに、ホントこう言う自然な準備が敵わないよ。

「タクシーで来たんだけどさ、途中警官にメッチャ見られたよ。とりあえず本当に無事みたいだね」

やっぱりか。

「…あぁうん、僕は大丈夫」

僕は答えつつ隣の手摺りに肘を乗せた。

「フゥーーーーー…、事が事だから予習もして来たんだけどさ、二人……ほぼ即死だってさ?知ってた?」

即死…

「……いや、そこまでは」

脳裏に浮かぶあのズッシリした短剣。

「素性も知らないんだよね?」
「………うん」

シロから投げかけられる当たり前の質問。

「フゥーー~~、それでも気は変わんない訳ね?」

その一つ一つが当たり前過ぎて、真っ直ぐ過ぎて、即座には答えられなくなる。

「……………うん」

けど、僕の気持ちは変わらない。
何回も何十回も考え抜いたから。

「そっか……オッケー」グシッ

そう言って屈んだシロは煙草の先を踏み消し、そしてすぐに立ち上がると…

「まぁ事情も事情だしね。中…入ろっか」

縮れた煙草を摘んだ手の中指でドアを指した。



ガチャ…バタン。

「ミレ、さっき言った友達…ね?」
「……っ⁉︎ 」

しかし前以て説明しておいたはずのミレは、シロを見るなり顔を強張らせた。

振り返るとシロは無表情にミレを見下ろしており、上着のポケットに入っている右手が何かを握っている。

「…ねぇヒロ君。オレ結構覚悟して来たつもりなんだけどさ……この子ホントに大丈夫?かなりヤバ目な感じすんだけど?」

シロは淡々とそう言ったけど、警戒感を露わにしたその表情にはいつもの余裕が無い。

そんなにも…?

そう言われてミレを見てみるけど、僕には彼女の方も緊張してるとしか分からない。

「…そう、なの?とっとりあえず大丈夫。保証するから、ねっミレ?これ友達のシロ、仲間」

そう言ってシロの左手と握手しながらぎこちなく笑ってみせるけど、その間もシロは全くの無表情。

いや、それ僕が超怖いんですけど…

「ヒロ君、その子に両手を広げてバンザイさせて。じゃないとオレ、動けんから」

「え?うん分かった」

何も持ってないのにバンザイ?
と一瞬疑問に思ったけど、僕はミレに近づいて両手をバンザイし、同じようにと彼女にも促した。
ミレは少し目線をキョロキョロしたあと、頷く僕を見てゆっくりとバンザイをしてくれた。

「………… 」

するとシロはミレをジっと見て、それから少しだけ表情を緩めると、ゆっくりと近づいて左手をソッと差し出した。

それを見たミレは確認するように僕の方を向いたため、僕はすぐ様頷いて返した。

「……… 」

おずおずと手を伸ばしたミレは、シロの左手に自分の右手をぎこちなく合わせた。


……



「じゃ、行くね」

1時間半程の説明を終えたシロはそう言って立ち上がった。

「シロ、ゴメン。本当にありがとう」

僕の謝罪と感謝に対し、シロは頷くだけで部屋から出て行った。


「はぁー~~~………… 」

シロが帰ったけどまだ緊張が抜け切れてないミレに対し、僕はお風呂を勧め行かせた。

1人になったリビングの床に、大の字になって目を瞑る。

これからのことを思い浮かべながら。




… …




『チャラッチャッチャッチャッチャッチャ~~ ♪』
「ぉうあっ⁉︎ 」

いつの間にか寝てしまっていた。

起き上がるとミレはソファに居た。
深呼吸を一度してから電話に出る。

「はい。……………うん分かった。……うん、……よろしくね」

明日か明後日か。
シロが段取り次第と言っていた決行日は…


明日になった。






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