RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi

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▽ 一章 ▽ いつだって思いと歩幅は吊り合わない

1-10 Accomplice Compliance

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sideヒロ

日曜の朝。

仕事とほぼ同じ時間に起きる。

ジャーーーーー
「ガラガラガラガラガラ…バシャっ」

でも気分は仕事の朝とは比べられないほどに昂ぶっていて、顔を洗って歯を磨くいつものルーティンにすら力がこもる。
一発勝負のトーナメント戦や格闘技の試合に臨む選手はこんな気持ちなんだろうか?

ゴシゴシゴシゴシ…
「…っし」

鏡と向かい合いながら濡れた口まわりを拭く。

でも怖さよりも "何としても" …って気持ちがまさっている今の状態は、きっと悪くないと思う。

そんな心持ちで最後の1日は始まった。




タン、タン、タン、タン、タンストっ…



階段を下り切ったところでふと、地面を這い歩くカナブンに気が付いた。

「………… 」

こんな所にいると踏まれるのに…

僕はそいつを指でつまみ上げ、近くの植木の枝に乗せた。

少しでも飛んで行き易いように。
行くべき先が見つかるように。


スタスタスタスタスタスタ…

「………、……… 」

そしてコンビニに行きがてら周りを確認すると、日曜だけど?だから?朝からそれなりに人がいる。

今日は今のところ警察官らしき人は見当たらない。

色々と取越し苦労だったのかな。

…だと良いな。





「ありがとうございました~」
ウィーーン

そんな事思いつつ朝飯を買ってコンビニを出ると

『ブゥゥーー~~ン』

パトカーが道を横切るのが見えた。

「はぁーっ」

そりゃ厳戒体制そうだよな。
僕は知ってるからこんなに平気だけど、皆んなからしたら凶悪な殺人犯が野放しのまま。

"二人……ほぼ即死だってさ"

昨日シロに聞かされるまで、ミレを中心にしか考えていない事に気付いた。

ダメだな、もっとフラットで居ないと。




『ガチャ、…バタン』

ガサっカサっカサ…
袋からカップ麺を出し並べていく。

「…どれにする?」
「……、……、う~ん…… 」

パッケージと睨み合うように真剣に悩むミレ。

こんな楽しさも、この顔を見るのも、今日のこの食事が最後になる。

「ー~っ」

一瞬目の奥から込み上げたそれを、眼球を上にしてやり過ごす。


「ズズっズズズズ~~~~っ」

勢いよく麺を啜る音すらも物悲しく聞こえる。

「「………… 」」

口を動かしながら時折目が合う。
けれどお互いに言葉は出てこない。


「ご馳走さま」「ごちそぉさま」

約束の時間は正午過ぎ。
まだ数時間ある。
あるけれど…限られた時間の迫る今はか細くて、脆くて、今にも倒れてしまいそうで触れられない。

だから僕は

「ミレ、一緒に写メを撮ろう?」

無くなってしまう今を少しでも残すことにした。

「ほら、こっち来て」
「…うん」

それはお別れ記念みたいで嫌だったけど、でも何も無い毎日はもっと辛い。
だから僕は、君がここに居た証を

笑わない君と…

支えたい僕を。

静かな寝息と…

眠れない僕を。

2人で刻んだこの空気を…

巻き戻せないこの瞬間を残しておきたいんだ。



『パシャっ』



……






あと数十分。

さっきから時計ばかりを見てしまう…

ミレが居なくなること。
ミレを無事逃がすこと。
そしてこれから先のこと。

迫る時間と色々な不安。
それだけじゃ言い表せない、言葉にしようのない感情が渦巻いて、身体の感覚を不安定にする。

待っているってのは昔から苦手だ。


「ぁ⁉︎ 」『バッ』

突然抱きついて来たミレ。
同じシャンプーなのにとても良い匂いがする。

「ヒロ、ありがとう、ありがとぅ」

「…うん……うん」

ミレが必死に告げてくれた感謝の言葉。
僕にはそれがサヨウナラにしか聞こえなくて、ただ頷きを返すことしか出来なかった。



『ピーンポーーン』

「マルト運輸でーす。集荷にお伺いに参りました~」

「あ、はーいお願いしまーす」

そう言って僕は廊下を歩きドアから外を確認する。
その人は顔がよく見えるようにドアから少し離れていてくれた。

『ガチャ、キィィ… 』

「これです、よろしくお願いします」

ドアを開けた僕はそう言って荷物を指す。

「じゃ伝票切りますねー」
ジーカチカチカチカチカチ…

集荷の人はそう言ってレシートを出した。
それを受け取ると

「それじゃお預かりしまーす。よっと」

そう言って荷物を肩に担いで出て行った。

『パタン』


スタスタスタスタスタ…

僕はリビングに戻る。


「……………… 」

一人ぼっちのリビングに。





←←
昨日
←←


シロから説明された手順は単純だった。

シロはウチに来た時に、折り畳んだ丈夫なナイロンのボストンバッグを3つ持って来た。

「ヒロ君、蓮ちゃん分かるよね?」
「勿論分かるよ。一回会ったら忘れないよ」

蓮ちゃんとはシロの2つ下の友達で、オトナのデリバリーを経営してる人。
忘れない理由はその身体と能力。
身長は183cmほどで手足が長いせいかそんなにマッチョって感じないスタイルなんだけど、ベンチプレスは170kg、背筋300kg超、握力110kg、走れば50m5.6秒に垂直飛びは82cmと、ベンチ以外は全て高校時代の記録でしかも、全て鍛えた訳ではないと言うナチュラルフィジカルモンスター。

「その蓮ちゃんが運輸会社の知り合いと集荷に来る。ただこの部屋には配送屋の服を着た蓮ちゃんが1人で来るから安心して。で、蓮ちゃんなら50kgちょっとの荷物なら重くなさそうに運べるからさ、それでここから…ね」

そう言ってシロは両眉を上げた。

「シロ、僕のせいでゴメン。蓮ちゃん巻き込んじゃって大丈夫?」

「………ハッ、大丈夫な訳ないじゃん。なら何?なんでオレに連絡して来たワケ?オレ一人なら後ろめたさと責任の範疇とでも言うの?」
「…っ、ううん、そそんなつもりじゃ」

シロの目付きが豹変する。

「ヒロ君の目指してる目的地はさ、相当マズイ橋のその向こう側だって解ってる?」
「………… 」
「解ってないんならすぐにでも手を引かせてもらうよ?そもそもこっちには何1つメリットなんて無いし、その上今後の面倒まで丸ごと押し付けて来られちゃやってらんないってのクソ阿呆らしい」

シロの言葉が加速度的に荒く早くなる。

「ご、ごめんシロっ、分かってて巻き込んだのに、中途半端なこと言って…… 」



ビクっ

睨むシロから反射的に目を伏せてしまう。

そしていつもこうだ。
その時心が感じてるそれを考え無しに放っては、周囲の信用を一気に失ってしまう。

"行動が伴わない身勝手な吐露は止めろ" って、過去何度もシロに怒られて来たってのに…

「……はぁ。まぁ殺したのは行き過ぎかもだけどさ、強姦魔がこの世から2人減ったのはオレ的にも結果オーライだからね。やれるだけは協力するよ」
「いや、確かにミレは襲われはしたけど、そこまでされてないから分かんないよ」

僕がそう言うとシロはすかさず

「あぁ、死んだ2人ちょっと調べたんだけどさ、かなりヤラれた子達いるみたいなのよ。今だに家から出れない子とか失語症になった子とかね。だから死蜂バチが当たったんだよ」

と口角を上げたが目は笑ってなかった。

てゆーか、裏取ってる事が怖い。

「日曜の昼、人通りもある中で配送屋が荷物を運んで行く。普通でしょ?運転席には本物も居るから職質も問題なし。まぁもちろん直前に周囲を見回って、安全なルートはこっちで確認するけどね」

「何から何まですみません」

「いえいえ。んでその子はその後蓮ちゃんの車で待機。ヒロ君はオレが後から迎えに来るから、その後合流って感じで。オーケー?」

そう言ったシロは漸く笑ってくれた。




→→→→→→→
本日2時間後
→→→→→→→


『チャラッチャッチャッチャッチャッチャ~~ ♪』
「はい、………うん、分かった。ありがとう」



スタスタスタスタ…

ガチャ、『パタン』





「………… 」







『カチャン』

部屋の鍵を掛け終わった僕は逃亡者の様な不安な気持ちを抑えながら、玄関のドアを背に迎えに来てくれたシロの車を見る。



スタスタスタスタ…
『ガチャ、バタンっ』

『ブオォォォォーーー』

エンジンが掛かったままの車は直ぐに動き出し、僕のアパートを背中にして遠ざかっていく。

「………… 」

仕事から帰るといつも安心出来た自分だけのホームなのに、今は距離が離れれば離れるほど安心した。


たった数日間の出来事が、こんなにも僕の世界を塗り変えてしまっていた。






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