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▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath
3-25 Give In〔P3〕
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side芝木
『新美ィィイィィッ‼︎ そこまでだァァっ』
「うえぇぇーーーーーーっ何で何で止めるすかぁ~~。殺っちゃえばしし、シロさんも引けなくなるのに~~」
「だからだよアホっ」
「何だよそれ~、しし祝杯出来なくしろとか言ったくせに… 」
いつも通りブツクサとグチり散らかす新美だが、何だかんだと指示には従う。
「と、結果は予想通り。格闘技やヒーローアニメじゃあるまいし、殺意を訓練した人間が本気で戦えばこんなもんだな。さて、この状況でも俺はこれ以上無駄な争いをするつもりが無い…と言ったらどうだ?」
リュウコウを人質に脅して通用するか?
「そんな選択が出来る立場じゃないだろ」
「フッ」
その割に応じるって態度じゃないがな。
一か八かで掛かって来るか?
でも分かるだろ?俺はそんな簡単じゃないと。
「っ…何なんだテメぇ来んじゃねェェっ」
八参の怒声に振り返ると、上機嫌な新美が踊るように2人に近付く。
それにしてももしこの態度が実力に裏打ちされたものだとしたら、俺と新美でやられる可能性は無いにしろ、どちらか相当な手傷を負うなんて事は有り得るか。
それでは報酬を上乗せさせても旨くない。
やはり引かせるのが一番だな。
そう思っていると唐突にスイッチの入った新美がリュウコウに追い打ちをかける。
「はぁ~…で、止めなくても良いのか?あれ」
「………… 」
これだよ。
目の前で仲間が危機に遭い、圧倒的不利になったってのにこの無表情。
それは固まってるって訳でもなく、見て取れる動揺すら微塵も無い冷ややかさ。
これは俺達と同じかそれ以上の敵を前にしたことがあるってことかもな…
となるとやはり2対1でもリスクがデカイ。
「それなら譲歩の意味、分かったよな?」
「………… 」
尚も沈黙を続けるロン毛だったが、数秒置いてからゆっくりと手の武器を腰に収納した。
フゥ、漸く応じる気になったか。
「勿論さっき提示した金額は払うから安心しろ」
そう言うとロン毛は静かに視線を落とし、直ぐにまた戻すとこちらへ歩き出した。
三歩
四歩
「「………… 」」
交差する視線で俺の警戒感に気が付いたロン毛は、両手の平をこちらへと向け鼻から息を吐く。
六歩
七歩
そして距離1.5mで静かに止まり、ゆっくりと右手を差し出した。
一瞬迷う脳裏には、掴み寄せられたあの腕力が過ぎる…が改めて見る俺達の体重差は20kg超。
ロン毛にはこうして掴み合うメリットなど無い。
そう結論付けた俺が右手を差し出し掛けた瞬間
ー『ガシ‼︎ 』ー「ガシィッ‼︎ 』
一歩踏み込んだロン毛は右手で俺の利き手手首を掴み、同時に伸ばした左手で強引に左肩を掴んだ。
この体重差で投げだ?
舐める…
ー~「ぅォッ⁉︎ 」~
凄まじい腕力により浮きかけた身体をなんとか引き戻す。
「~ッ、どう言うつもりだぁ?」
そして体幹に重心が戻ると同時に左腕を奴の首に回し、握られた右手首を外すよう内側から強引に捻り回し左腕とホールド。
『ガシッ』
瞬間奴は首と俺の腕の隙間に手を差し込んでいる。
だがもう遅い、このまま地面に倒れ込み絞め落として終…
『ググ~ッ』ークルッー
ッ⁉︎
そう来るかッ
ほんの僅か、ほんの僅かの隙間でドリルみたく回転する反応は尋常じゃなく、向きを変えた奴と額が触れそうな距離で視線がぶつかり合う。
『プゥッ‼︎ 』
「ンぉ‼︎⁈ 」
唾?いやこの匂いは酒っ
ービリビリビリッ√
「ー~ツぅッ」
だからコイツさっき返事を…いや今はそんなこと考えてる場合じゃない。
刺されないようコイツの両手をっ
視界を奪われた俺は頭突きを警戒し顎を引き、それと同時に回していた腕を即座に放しつつ、奴を離さぬよう両手を肩から肘へと滑らせつつ手首を掴む。
『『グググーー~ッ』』
「「ンッォ~~ァ」」
そして肩から胸を突き合わせての力比べ。
バカがっ、俺はお前より一回りデカい新美にも力なら負けん。
このまま捩じ伏せてやる。
ー「~~っ」ー
『ズザザっ』
っておい、おいおい…
こ、この俺が、押し負けるだと?
ー「クッぅー~… 」ー
『ズザザザァーーー』
あの蹴りが効いて…いやそれにしたってこの細身のどこにこんな力がっ
有り得んぞ、信じられんっっ
『ググっギュグゥ~』
「~クッぅ…新美ィーーーっ」
この体勢…
少しでも力を抜けば、手を放せば、初動は向こうに分がある殺られるっ
新っ美︎ぃぃ…
" ヨシャーーーー『ドカッ』"
" バカ全然別人だ謝れっ "
" え?大丈夫すよきき気絶させちゃえば "
" やめろーーーーっ "
テメぇ…
手首を握り潰す気持ちで腕に力を込めるが、それに反し徐々に仰け反っていく身体。
" タっタっタっ『ガチャバタンっ』ハヒーー~仕事完了っす~ "
"『ブゥゥーーーーーン』お疲れさん、携帯は回収したよな? "
" え?あハイ "
"『ブゥゥーーーーーン』…回収してないだろ?"
" え?エヘヘっ "
"『『キキィィーッツ‼︎ 』』"
瞼の裏に再生される振り回されて来た日々。
早く…
~ー『ブワッ』ー
突如として訪れる無重力感。
来…
ー『『ドダァァンッ‼︎ 』』
ー「ーゴブッふゥー~ッッ」
100 kg近い体が受け身をする間も無く地面を跳ねる。
その衝撃は背中から腹まで突き抜けて、肺の酸素のみならずしょうもない回想まで口から噴き出させた。
「コハっ…ぁ… 」
だが身体はその苦しさを置き反射的に腕を動かして目と胸から首をガード。
そして漸く痛みの引いてきた目で隙間から奴の動きを覗き見ると、案の定既に抜かれている短剣が頭上で振り上がっていた。
こんな苦戦はリビア…いやパキスタン以来。
だがそれでも俺は生き残っている。
潜り抜けて来た。
一瞬でひっくり返してやるぞ。
来いっ
来いよォォっ
だがこっちへと向けられた切っ先はピクリとも動かない。
「なぁ、この仕事は命よりも優先されるのか?」
「な…ゴホっ、なワケあるか。生きる為の、仕事だ」
「なら休戦だ。そんな場合じゃなくなった」
そう言うと刃は視界からあっさりと消え去り、恐る恐るガードを解いた俺は上半身を起こす。
そんな場合じゃない?
『『バッシャァンッ‼︎ 』』
「は?マジかよっ」
またも上がる激しい水音に、驚くロン毛がすぐ様駆け出す。
「シロさんっ」
「あれリュウコウ君だよなっ、……、クソォっ」
そして真夜中に開けた冷蔵庫みたいに光るどこか無機質な川縁で、八参の隣に並んだロン毛は下流へ流されていく水飛沫と俺の後ろを交互に確かめる。
ん?
後ろ?また何か来たのか?
「って、嘘だろ… 」
川の上流側に沿い、更に伸びる暗い洞穴の奥向こうがガラガラと崩れて来ている。
けどこんな大事何で今まで気付かなかったんだ?
この俺が…
「……音が、ない?振動も… 」
「リュウコウさんっ」
「リュウコウ君っ」
その声で川縁の奴らへ視線を戻すと、10mほど下流側へ追走する二人が追っていた水飛沫が無くなっていた。
新美っ
俺も慌て叫ぶ二人の方へと走る。
ザザァー…
「新美ィィーーーーっ、おい二人はっ?」
「さっき、急に消えちまった… 」
呆然とした足取りで下流へと歩む八参が答える。
川に飲まれたのか…
「……、クッ」
すると厳しい表情で振り返るロン毛に合わせ俺も再度振り返ると、すぐそこまで来ている崩落は俺達のいるこの空間にまで達し始め、そしてそれが川の光に照らされると全くの別物だと言うことに気付いた。
何だ?崩れた岩壁が粉々に粉砕されてる?
いや違う。
川が、水と地面まで消えてないか?あれ…
こちらへと渦巻くように迫る見たことの無いそれは、呑み込んだ空間全てを分解風化させている砂塵の如き何か。
破滅の行進。
なのに下流の、目の前の川は普通。
さっきまでと変わらず今現在なんの影響も受けてない。
その余りの奇妙さに背筋が凍る。
「おっおいロン毛、あれは流石にマズイぞっ」
「ウルっセェよ芝木ッ、ンならテメェはサッサと行けやっ」
「八参、荷物を回収する」
「ちょ⁉︎ シロさん」
「退避だッ」
そう言ってロン毛はキレた八参の腕を強引に掴み、置いてある荷物の方へと行った。
ザ…ザ…ザ…
確かにそうだ…
休戦したとは言えどうして俺はロン毛を気にかけた?
まるで頼るかのように…
そんな思考に引きずり込まれた俺の足は、川沿いをフラフラと進む。
ザ…ザ…ザ…
さっき手を合わせ組み改めて解ったが、おそらくアイツにはまだ余力がある。
肉体的にも精神的にも。
まさか日和ったのか?
ザ…ザ…ザ…
「ハッ」
あの新美が気に入るワケだな。
だが生きるってのは時に譲れない自分を貫くしかない。
貫くしか。
顔すら思い出せない人間たち。
様々な街の寂れた路地裏で、幾度となく繰り返してきた命の駆け引き…
ザ…ザ…ザ…
武器を持たない…けど死なない格闘家。
アンデッドリーなんて皮肉混じりに恐れ謗られて来たお前が本当に死んだのか?
こんなアッサリと。
…俺ら、引退時誤ったようだなぁ。
そしてたどり着いたここは三途の川のほとりで、あの迫り来る嵐は差し詰め地獄への入口ってとこか。
ザ…ザ…
「まっ、お似合いか… 」
なんか
疲れたぜ
ドッと…
そんな重みで当て所ない足が止まった時
「芝木さん急げっ」
目を覚まさせる様な呼び掛けに振り向くと、ロン毛は俺と新美の荷物も持っていた。
「………… 」
「イイからそんな奴ほっとけよっ」
「来ないのか?……っ、荷物、置いてく」
急かす八参と迫る砂嵐を見て、ロン毛は迷いを滲ませつつも身体を翻し走り出した。
「…………フゥ」
なんだかな…
手持ち無沙汰から仕事後にだけ吸う巻きタバコを咥える。
シュボッ
「スゥーーーーっフゥーーーーーー~~」
バシャっ
ん?
川のせせらぎとは違う微かな水音に振り返ると、ゴウゴウと水を吸い込んでいる岩穴の手前、川縁にしがみつく腕らしきものを捉えた。
新美っ
ザっザっザっ
いや、違う。
ザっザっザ…
「ハァ……新美は?」
「…はァ、ハぁハぁ…、~っ…分から、ない」
疲労困憊。
自分で這い上がる力も無さげなリュウコウが、答えるのも億劫な程グッタリしつつ視線だけを左右させると、丁度あの2人の背中が洞穴の通路へと消える。
「はぁーー~~あっと、あっち…見えるよな?」
ゆっくりと膝を折った俺がタバコを持った手で上流を差すと、少しだけ首を動かしたリュウコウが目を瞬かせる。
コイツに新美は…
「どうせもう終わりだ。……だから恨むなよ」
『新美ィィイィィッ‼︎ そこまでだァァっ』
「うえぇぇーーーーーーっ何で何で止めるすかぁ~~。殺っちゃえばしし、シロさんも引けなくなるのに~~」
「だからだよアホっ」
「何だよそれ~、しし祝杯出来なくしろとか言ったくせに… 」
いつも通りブツクサとグチり散らかす新美だが、何だかんだと指示には従う。
「と、結果は予想通り。格闘技やヒーローアニメじゃあるまいし、殺意を訓練した人間が本気で戦えばこんなもんだな。さて、この状況でも俺はこれ以上無駄な争いをするつもりが無い…と言ったらどうだ?」
リュウコウを人質に脅して通用するか?
「そんな選択が出来る立場じゃないだろ」
「フッ」
その割に応じるって態度じゃないがな。
一か八かで掛かって来るか?
でも分かるだろ?俺はそんな簡単じゃないと。
「っ…何なんだテメぇ来んじゃねェェっ」
八参の怒声に振り返ると、上機嫌な新美が踊るように2人に近付く。
それにしてももしこの態度が実力に裏打ちされたものだとしたら、俺と新美でやられる可能性は無いにしろ、どちらか相当な手傷を負うなんて事は有り得るか。
それでは報酬を上乗せさせても旨くない。
やはり引かせるのが一番だな。
そう思っていると唐突にスイッチの入った新美がリュウコウに追い打ちをかける。
「はぁ~…で、止めなくても良いのか?あれ」
「………… 」
これだよ。
目の前で仲間が危機に遭い、圧倒的不利になったってのにこの無表情。
それは固まってるって訳でもなく、見て取れる動揺すら微塵も無い冷ややかさ。
これは俺達と同じかそれ以上の敵を前にしたことがあるってことかもな…
となるとやはり2対1でもリスクがデカイ。
「それなら譲歩の意味、分かったよな?」
「………… 」
尚も沈黙を続けるロン毛だったが、数秒置いてからゆっくりと手の武器を腰に収納した。
フゥ、漸く応じる気になったか。
「勿論さっき提示した金額は払うから安心しろ」
そう言うとロン毛は静かに視線を落とし、直ぐにまた戻すとこちらへ歩き出した。
三歩
四歩
「「………… 」」
交差する視線で俺の警戒感に気が付いたロン毛は、両手の平をこちらへと向け鼻から息を吐く。
六歩
七歩
そして距離1.5mで静かに止まり、ゆっくりと右手を差し出した。
一瞬迷う脳裏には、掴み寄せられたあの腕力が過ぎる…が改めて見る俺達の体重差は20kg超。
ロン毛にはこうして掴み合うメリットなど無い。
そう結論付けた俺が右手を差し出し掛けた瞬間
ー『ガシ‼︎ 』ー「ガシィッ‼︎ 』
一歩踏み込んだロン毛は右手で俺の利き手手首を掴み、同時に伸ばした左手で強引に左肩を掴んだ。
この体重差で投げだ?
舐める…
ー~「ぅォッ⁉︎ 」~
凄まじい腕力により浮きかけた身体をなんとか引き戻す。
「~ッ、どう言うつもりだぁ?」
そして体幹に重心が戻ると同時に左腕を奴の首に回し、握られた右手首を外すよう内側から強引に捻り回し左腕とホールド。
『ガシッ』
瞬間奴は首と俺の腕の隙間に手を差し込んでいる。
だがもう遅い、このまま地面に倒れ込み絞め落として終…
『ググ~ッ』ークルッー
ッ⁉︎
そう来るかッ
ほんの僅か、ほんの僅かの隙間でドリルみたく回転する反応は尋常じゃなく、向きを変えた奴と額が触れそうな距離で視線がぶつかり合う。
『プゥッ‼︎ 』
「ンぉ‼︎⁈ 」
唾?いやこの匂いは酒っ
ービリビリビリッ√
「ー~ツぅッ」
だからコイツさっき返事を…いや今はそんなこと考えてる場合じゃない。
刺されないようコイツの両手をっ
視界を奪われた俺は頭突きを警戒し顎を引き、それと同時に回していた腕を即座に放しつつ、奴を離さぬよう両手を肩から肘へと滑らせつつ手首を掴む。
『『グググーー~ッ』』
「「ンッォ~~ァ」」
そして肩から胸を突き合わせての力比べ。
バカがっ、俺はお前より一回りデカい新美にも力なら負けん。
このまま捩じ伏せてやる。
ー「~~っ」ー
『ズザザっ』
っておい、おいおい…
こ、この俺が、押し負けるだと?
ー「クッぅー~… 」ー
『ズザザザァーーー』
あの蹴りが効いて…いやそれにしたってこの細身のどこにこんな力がっ
有り得んぞ、信じられんっっ
『ググっギュグゥ~』
「~クッぅ…新美ィーーーっ」
この体勢…
少しでも力を抜けば、手を放せば、初動は向こうに分がある殺られるっ
新っ美︎ぃぃ…
" ヨシャーーーー『ドカッ』"
" バカ全然別人だ謝れっ "
" え?大丈夫すよきき気絶させちゃえば "
" やめろーーーーっ "
テメぇ…
手首を握り潰す気持ちで腕に力を込めるが、それに反し徐々に仰け反っていく身体。
" タっタっタっ『ガチャバタンっ』ハヒーー~仕事完了っす~ "
"『ブゥゥーーーーーン』お疲れさん、携帯は回収したよな? "
" え?あハイ "
"『ブゥゥーーーーーン』…回収してないだろ?"
" え?エヘヘっ "
"『『キキィィーッツ‼︎ 』』"
瞼の裏に再生される振り回されて来た日々。
早く…
~ー『ブワッ』ー
突如として訪れる無重力感。
来…
ー『『ドダァァンッ‼︎ 』』
ー「ーゴブッふゥー~ッッ」
100 kg近い体が受け身をする間も無く地面を跳ねる。
その衝撃は背中から腹まで突き抜けて、肺の酸素のみならずしょうもない回想まで口から噴き出させた。
「コハっ…ぁ… 」
だが身体はその苦しさを置き反射的に腕を動かして目と胸から首をガード。
そして漸く痛みの引いてきた目で隙間から奴の動きを覗き見ると、案の定既に抜かれている短剣が頭上で振り上がっていた。
こんな苦戦はリビア…いやパキスタン以来。
だがそれでも俺は生き残っている。
潜り抜けて来た。
一瞬でひっくり返してやるぞ。
来いっ
来いよォォっ
だがこっちへと向けられた切っ先はピクリとも動かない。
「なぁ、この仕事は命よりも優先されるのか?」
「な…ゴホっ、なワケあるか。生きる為の、仕事だ」
「なら休戦だ。そんな場合じゃなくなった」
そう言うと刃は視界からあっさりと消え去り、恐る恐るガードを解いた俺は上半身を起こす。
そんな場合じゃない?
『『バッシャァンッ‼︎ 』』
「は?マジかよっ」
またも上がる激しい水音に、驚くロン毛がすぐ様駆け出す。
「シロさんっ」
「あれリュウコウ君だよなっ、……、クソォっ」
そして真夜中に開けた冷蔵庫みたいに光るどこか無機質な川縁で、八参の隣に並んだロン毛は下流へ流されていく水飛沫と俺の後ろを交互に確かめる。
ん?
後ろ?また何か来たのか?
「って、嘘だろ… 」
川の上流側に沿い、更に伸びる暗い洞穴の奥向こうがガラガラと崩れて来ている。
けどこんな大事何で今まで気付かなかったんだ?
この俺が…
「……音が、ない?振動も… 」
「リュウコウさんっ」
「リュウコウ君っ」
その声で川縁の奴らへ視線を戻すと、10mほど下流側へ追走する二人が追っていた水飛沫が無くなっていた。
新美っ
俺も慌て叫ぶ二人の方へと走る。
ザザァー…
「新美ィィーーーーっ、おい二人はっ?」
「さっき、急に消えちまった… 」
呆然とした足取りで下流へと歩む八参が答える。
川に飲まれたのか…
「……、クッ」
すると厳しい表情で振り返るロン毛に合わせ俺も再度振り返ると、すぐそこまで来ている崩落は俺達のいるこの空間にまで達し始め、そしてそれが川の光に照らされると全くの別物だと言うことに気付いた。
何だ?崩れた岩壁が粉々に粉砕されてる?
いや違う。
川が、水と地面まで消えてないか?あれ…
こちらへと渦巻くように迫る見たことの無いそれは、呑み込んだ空間全てを分解風化させている砂塵の如き何か。
破滅の行進。
なのに下流の、目の前の川は普通。
さっきまでと変わらず今現在なんの影響も受けてない。
その余りの奇妙さに背筋が凍る。
「おっおいロン毛、あれは流石にマズイぞっ」
「ウルっセェよ芝木ッ、ンならテメェはサッサと行けやっ」
「八参、荷物を回収する」
「ちょ⁉︎ シロさん」
「退避だッ」
そう言ってロン毛はキレた八参の腕を強引に掴み、置いてある荷物の方へと行った。
ザ…ザ…ザ…
確かにそうだ…
休戦したとは言えどうして俺はロン毛を気にかけた?
まるで頼るかのように…
そんな思考に引きずり込まれた俺の足は、川沿いをフラフラと進む。
ザ…ザ…ザ…
さっき手を合わせ組み改めて解ったが、おそらくアイツにはまだ余力がある。
肉体的にも精神的にも。
まさか日和ったのか?
ザ…ザ…ザ…
「ハッ」
あの新美が気に入るワケだな。
だが生きるってのは時に譲れない自分を貫くしかない。
貫くしか。
顔すら思い出せない人間たち。
様々な街の寂れた路地裏で、幾度となく繰り返してきた命の駆け引き…
ザ…ザ…ザ…
武器を持たない…けど死なない格闘家。
アンデッドリーなんて皮肉混じりに恐れ謗られて来たお前が本当に死んだのか?
こんなアッサリと。
…俺ら、引退時誤ったようだなぁ。
そしてたどり着いたここは三途の川のほとりで、あの迫り来る嵐は差し詰め地獄への入口ってとこか。
ザ…ザ…
「まっ、お似合いか… 」
なんか
疲れたぜ
ドッと…
そんな重みで当て所ない足が止まった時
「芝木さん急げっ」
目を覚まさせる様な呼び掛けに振り向くと、ロン毛は俺と新美の荷物も持っていた。
「………… 」
「イイからそんな奴ほっとけよっ」
「来ないのか?……っ、荷物、置いてく」
急かす八参と迫る砂嵐を見て、ロン毛は迷いを滲ませつつも身体を翻し走り出した。
「…………フゥ」
なんだかな…
手持ち無沙汰から仕事後にだけ吸う巻きタバコを咥える。
シュボッ
「スゥーーーーっフゥーーーーーー~~」
バシャっ
ん?
川のせせらぎとは違う微かな水音に振り返ると、ゴウゴウと水を吸い込んでいる岩穴の手前、川縁にしがみつく腕らしきものを捉えた。
新美っ
ザっザっザっ
いや、違う。
ザっザっザ…
「ハァ……新美は?」
「…はァ、ハぁハぁ…、~っ…分から、ない」
疲労困憊。
自分で這い上がる力も無さげなリュウコウが、答えるのも億劫な程グッタリしつつ視線だけを左右させると、丁度あの2人の背中が洞穴の通路へと消える。
「はぁーー~~あっと、あっち…見えるよな?」
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※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
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