RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi

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▽ 三章 ▽ 其々のカルネアDeath

3-30 シキ折々

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side真黎

・・・機内ビジネスクラス。



「ぁグゥッ、はぁ、ぁ…ゥゥ~っ、は、はぁ、待って……る……だ」

「頑張って、頑張って……下さ、…い」

「はは、も… …うぁ、ぇ… …~ぅ… … ~…  …  …  … 」

襲撃者に切り飛ばされた手首と胸からの出血により、みるみると血の気が失せていく男性は、終始焦点の定まらない目を見開いたまま、私の呼び掛けに応えることなく生き絶えた。


タっタっタっ…
「針と糸の煮沸出来………っ」

縫合道具を滅菌しギャレーから出て来た咲は、男性がこと切れてしまったのを察し足を止めた。
私はご遺体を前に短く黙祷を捧げ、ベタつく両手を洗い流しにギャレーへ。

ジャーーー
「スゥゥーフゥーーッ」

そして気持ちを切り替えてから客室へ…と戻ったつもりだったけど、疎らなお客様の焦燥した息遣いに胸が苦しくなってしまった。

「長谷チーフ、こちらは11人で内5人が負傷。ですが幸い命に関わるほどでは有りません。それと機長達の姿は… 」

やはり機内に残った人達は誰も居ない。
この先どうしたら…

「お疲れ様、咲。とりあえずミールを傷む前に出しましょう。それから… 」

「あのチーフ… 」
「どうかした?」

「…無理、し過ぎないで下さいね。あ、ちょっと動かないで下さい」

そう言って私の側に寄る咲は、パタパタと忙しなく取り出したハンカチで、私の鼻から右目の下に手を伸ばした。

ピッ
「そうそうそうだよ。皆んな身一つの同じ立場なんだから」

聞き慣れた電子音。
その後に続く声に目を向けると、派手目カラフルなメイクの女性とカメラを挟み目が合う。

「Wow…こんな肌の綺麗な人初めて見た。ねぇCAさん、絶対仕事間違えてるよ」
ゴシゴシゴシゴシ
「貴女はさっきの芳か… 」
ゴシゴシゴシ
「あともうちょい… 」
「さ、咲ゴメン、ちょっと痛い。水で… 」
ゴシゴシ
「っし、取れましたっ」

「…、ありがとう」

少しヒリヒリするけれど、この子の屈託のない笑顔にはいつも癒される。

「自己紹介は必要なさそうね。で、貴女は真黎チーフ。ヨロシク」

そう言ってジャーナリストの芳川薗女さんが手を差し出した。
こんな状況とは思えない態度で。

「はい、こちらこそ。それと先程はありがとうございました」
「礼を言いたいのは私の方。機内ここにたどり着けた人は皆んなそう思ってるよ」

そう言って周りに対し声を張るのはきっと、さっきの事も含めた彼女の気遣い。

「それで聞きたいんだけど、もしかして真黎チーフにはアレ、ハッキリと見えてたの?」

サッと握手を終わらせた彼女は、持っているカメラを指差した。

「えぇ、見えました。芳川様は「やめて様とか薗女でお願い」

本当に、街中みたいなのにやり取りに、クスリと笑える。

「では、薗女さんには見えなかったと?」
心霊ソッチ系は専門外だし今日まで信じてなかったし、だからなのか分かんないけど肉眼では見えなかった。初めて味わったよ、身の毛がよだつ思いっての」

ただ、そう言った彼女の言葉の最後には、隠し切れない戸惑いが滲んでいる。

「そうですか」

「もしかして…元々視える人、だったとか?」
「いえ、私もそう言うのはてんで… 」

でも、どうして他の人には見えなかったのだろう?

タっタっタ…
「おいそこ~、早く血を止めたいのは分かるけど、締め過ぎると末端が壊死するぞ。もう少し…そうそう程々にな」

190cm近い大きな身体を屈めるようにして、通路を行き来していた九鬼さんがこちらへと戻って来た。

「うげ、カメラ小僧」
「ちょっと、こんないいオンナに小僧はないでしょ」

すると薗女さんは雰囲気を一転させ、張りのある胸元を強調する様に自信有り気なポーズを取る。

「カっ、お前みたいな小五月蝿いのは小僧でいんだよ」

にべもなく通り過ぎる九鬼さんの背中に、薗女さんは中指を立て舌を出す。


「…ご苦労」

そんなやり取りを静かに断ち切る一言。
九鬼さんの上役と思われる堤さんは、深く倒した背凭れに腰掛けたままそう言うけれど、その表情は労いとは到底かけ離れたものに見えた…

「…いや、俺も……ー~っ… 」

のは気のせいではなく、武人の様な威圧感すら纏う九鬼さんが、叱られた子供みたいに背を丸め萎縮した。

「ホント何者なんだろね?あのオッサン。何聞いてもウルセェしか言わないし」

そう不満気に言いつつも薗女さんの表情は明るい。

何故なら

「本当にありがとうございます。助かりました」

あの状況の中、この19人がここまで避難出来たのは、この人達が居てくれたからこそ。

「ん?あぁあぁ言いってそんなもんは、言っちゃなんだがこの人を守る序でみたいなもんだから」

瞬時に表情を変え、こちらを気遣ってくれるこのお二人が、私達を先導しつつ機内まで守り切ってくれた。

特にこの九鬼さんは、襲い来る襲撃者からあっという間に武器を奪い取ると、私達を守りつつ何人もの襲撃者を跳ね除け機材まで辿り着き、しかも扉を閉めるという難しい局面で…

" ドパンッドパンッドパンッドパンッ "

突然取り出した拳銃で応戦し、皆んなが乗り込むまでの時間を稼いでくれた。

乗員ワタシタチにも報されず、また警乗員でもないと言うのに合法的に銃器を所持しているこの人達は、口振りからしても相当な立場の要人+警護官SP


どんな目的があるしろ、偶然にも彼等が乗り合わせてくれたこの幸運には感謝しかない。
ないのだけれど…

「~~っ… 」

この19人ナカには景織子も、緋芦花ちゃん母娘も含まれていない。

気持ちが悪い…

何でこん…いえ考えない。
考えてはダメ。

そう口を引き結んだ時

「そうだ、無意味なことは考えるな。覆水盆に返らずだ。結果食料に余裕が出来て二週間は充分に保つ。まぁ何もなければの話だが……『コンコンコンっ』にしても言葉は通じるのか?いや怪しいよなぁ……腕をへし折ったヤツはともかくとして、いくら鎧越しとは言えさっきっ放したヤツらが一人も死んでない。さて、どうしたもんか」

外の様子を伺う九鬼さんは、途中から窓を小突き、襲撃者達を睨んだまま確認ヒトリゴトみたく言った。

" 死なない "

数日前なら耳を疑う言葉だけど、こんな場所と今の状況では " そうなのか " と絶望が少し増しただけ。

「そいや洞穴アッコから来たってことはあの5人もやられたか… 」

そうだ、シロさん達も…

思い出した様に言う九鬼さんの言葉にハッとする。


「…………チッ… 」

「なになに?」

九鬼さんがしたのはほんの小さな舌打ちだったけど、薗女さんは好奇心混じりにそれを拾い上げる。

「何でもない、どうしようもないから見るな」
「Duh?見るし」

それに対し九鬼さんは面倒そうに言うけれど、余計と興味をそそられた薗女さんは、カメラを手にし軽快な足取りで前へ。
けど窓を覗き込んだ彼女の雰囲気は一変。
窓の上に添えられた両手の指先を、爪の色が変わるくらいにギュと押し付けた。

彼女のその分かり易いリアクションの高低差は、わざわざ見るなと言った九鬼さんの警告と相まって、私の喉に異物を詰まらせるような不快感をもたらした。







sideシロ

「ハァハァっウハハハハハァハァっ、アイツら泡食って動いたらぶフッ、襲われてやんのブハハハハハっやったぜコノヤローッッ無傷で捲ってやったぜーーーーっ」

「ハァハァっハァハァっ今のところあの化けモンも追って来てないし、すんなり抜けられたのはラッキーだったな。ハァハァっだがこれ、このトンネルは明らかに人工物だよな?ハァハァっそれに最初少し登ってからずっと降ってるがハァハァハァ……大丈夫なのか?敵の増援が…いや大丈夫も何も無いよな、あっちに戻ったところで帰れる訳じゃなし」

浮かれる八参とは対象的な最後尾、4mほど後方の芝木さんが周囲を見ながら言う。

「不安ですよね?計画的に動く性分だと。オレもです。でも今は少しでも先を急ぎましょう」
「そうだな、悪い」

「ハァハァ暗ぇっ、暗ぇし弱がりかよアンタっ」
「何だよ弱がりって」
「弱いヤツが虚勢を張ると強がりなんだから、ハァハァ、強ぇヤツがイモを引きゃ弱がりだろ?俺たちゃ今正に絶体絶命の戦場を無事に突っ切った。サイコーじゃねぇかよ、あぁ?それによ……凄ね?」

「……何が」

抑え切れないテンションの八参に対し、重い雰囲気の芝木さんが渋々答える。

「ココだよココに決まってんだろ?終わってん現実と歳くったせいで忘れちまってたけどよ、こんな冒険夢見たことあんだろーがよ、男なら誰だって」
「夢?そんなのは絵本の中だけにしとけよガキ。俺は必要以上な無茶も危険も望んじゃいない」

しかし八参はそんな態度を一蹴するかの様に、大袈裟に両指を地面に向けた。

「へッ、見たこともねぇバケモンに問答無用の敵。確かにチビリそうに怖ぇけどよ、このバクバク動く心臓はそれだけじゃねぇんだ。そもそも人間なんていつおっ死ぬか分かんねんだからよぉクククっ、こう言うのを待ってたんだよ俺は~、味濃い脳汁がスパークすんやつを~」

そう言われても無言の芝木さんに対し八参は、鼻でせせら笑うと興味を失った。


それからは暫く足音と呼吸音だけが響き、このトンネルに入って約1kmほど進んだ頃、少し拓けた空間にたどり着いた。



「マジか… 」

そう言った芝木さんの声は、目の前に開く真っ暗な五つの穴に吸い込まれた。

「こういう時はアレだろ?舐めた指立てんだろ?…………?……………?」ゴシゴシっ

自信有り気にペロリと指を舐めた八参は、再度繰り返した後指先をズボンに擦りつけオレを見た。

ホントガキみたいだな。
けどこんな場所ではこれくらいで良いか。

「なぁ八参。あの声、お前は聴こえるか?」

「……………んや、………ダメだ、聴こえねぇ」

両耳に手をかざした八参は、各穴毎に向かって目を閉じた。

さて、出来ればあの声が聴こえるまでここで待ちたい所だけど、どうす…


((~ズサ))


((ーズサッズサッ))


共倒れとか、都合良くは行かないか…

「八参っ」
「あぁこれは聴こえたぜ」

急ぎ振り返ったオレ達を見て、何も言わずに芝木さんは身構えた。

体長5mはありそうな猛獣となんて、仮に手負いだとしても戦いたくない。
けど、このまま逃げ切るのは物理的に無理。


やるしかない。








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